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勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
Part10


128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:01:27.24 ID:YtpFI3Ae0
勇者(外ー)
 空、青空、その青空を背景に、こちらへ手をかざす魔王。
勇者「……ッ」
 勇者は魔力を放出し、体を滑空方向へ加速させる。
 魔王の手のひらから放たれる漆黒魔法が、大地に炸裂した。
 爆風を上げ、黒いドームが大地を覆う。
 その余波に、体を乱回転させながらも、寸でのところで攻撃を避けた勇者は、森林地帯に突っ込み地面を掴むことで大地を削りながら体勢を立てなおした。
勇者「……ッ」
 木々の隙間から見える、空中に浮遊する魔王を睨む。
魔王「どうした勇者? その程度か?」
勇者「ッ……極大雷ーー」
 勇者の詠唱の最中、魔力で自分の体を弾いた魔王が、急速落下。
 0.1秒で勇者のいる地点に魔王の体が着弾する。
勇者「ぐっ」
 バックステップで何とか回避した勇者、しかし、魔王の追撃は終わらない。
 勇者の目前に展開する魔法陣。
 そこから放たれる漆黒の稲妻が、勇者に襲いかかる。
 ほぼゼロ距離から放たれたそれを、勇者の一閃が斬り消した。
勇者「!」
 魔王が自身より切り離した影を利用し、一瞬で勇者の後方に移動。
 放たれる魔力を込めた拳が、勇者の背に突き刺さる。
 体を海老ぞらせ、木々を根こそぎ吹き飛ばしながらぶっ飛ぶ勇者。 
 その勇者めがけ、魔王は手をかざす。
魔王「極大暗黒魔法」
 魔王の手から放たれる、漆黒のエネルギーボール。
 それが吹き飛ぶ勇者に向け空間を削りながら迫る。
 ガラスが砕けるような音をまき散らすその魔弾が、勇者に直撃した。
勇者「   」
 勇者を起点に、球が肥大化する。
 瞬く間に直径一キロメートルを覆い尽くしたその漆黒は、その空間にあるすべてのモノを破壊しやがて収束、その場には、巨大なクレーターのみが残った。
魔王「…」

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:03:14.76 ID:YtpFI3Ae0
 クレーターの中央、うずくまるように倒れる勇者を見つめ、魔王は目を細める。
勇者「……くそ」
 勇者は、理力の剣を杖のように地面に突き立てよろりと立ち上がった。
 着弾と同時に回復魔法と防御魔法を連続でかけ続けたが、まったく威力に追いつけなかった。
 しかも詠唱する暇がないため、魔力の使用効率は極端に悪い。
 そんなことはわかりきっていたことではあるが、それでも、この短時間で想定よりも遥かに多くの魔力を消費してしまった。
 もう回復に回す余裕もない。
 少し早いが……やるしかない。
魔王「極大暗黒魔法」
勇者「!」
 勇者は、全力で地面を蹴る。
 着弾する暗黒魔法が再度大地を削り取る。
 巨大化する漆黒のドームが、回避運動に入った勇者に迫った。
勇者「ーー」
 勇者は、魔法に飲み込まれぬよう全力で駆ける。
 ドームの肥大化が、停止する。
 寸でのところで間に合わなかった。
 下半身を失いながらも、しかし勇者は理力の剣を構えた。
魔王「!」(勇者のあの位置取り…)
 理力の剣が、込められた魔力に呼応して光り輝く。
 その銃口の先はー
魔王(やはり気づいていたか)
 魔王がいつも、魔王の間から動かない理由。
 魔王の間を破壊する魔力が備わっているとわかった瞬間、勇者を場外に追いやった理由。
 気づかぬ勇者ではないことはわかっていた。
 魔王の間には、何か破壊されては困るものがある。
 そう結論付けるのも、自然である。
 そしてそれは正解だ。
 しかしこれが策と言うのならばーー想定内である。

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:05:20.17 ID:YtpFI3Ae0
 魔王は、魔王城の前に残した影の前に瞬間移動する。
勇者「!」
魔王(この状況にだけ関していえば、貴様も想定内なのだろう?)  
 魔王が避けられないであろう状況で、勇者の出来うる最大攻撃を放つ。
 それが圧倒的な実力差の中、勇者に残された最後の策
 ただそれは、不意をつければ、の話であろう。
 全力の魔力のぶつかり合いを想定した策ではないはずだ。
勇者「  」
 勇者は引き金を絞る。
 理力の剣より吐き出される雷を纏った極大ビームが魔王へと突き進んだ。
 対し魔王、手をかざし、暗黒の波動で迎え撃つ。
 抵抗を無理やり突き破る蛇のようにうねるその暗黒と、光溢れる光線が激突する。
魔王「!?」
 黒の魔撃は、勇者渾身の魔法攻撃を呆気なく霧散させ、その延長線上の先、勇者を飲み込み、滅却した。
魔王「……」
 魔王の眼前、魔法攻撃により、荒野と化した大地を見つめ、魔王は眉を寄せた。

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:06:58.64 ID:YtpFI3Ae0
側近「お見事です」
 いつの間にか魔王の背後に立つ側近が口開く。
魔王「……いや、違う」
 魔王は、地平線を見つめながら、つぶやくように言った。
側近「どうかなされましたか」
魔王「手応えがなさすぎる」
 狂化していた時の方が、まだ手ごわかったように思う。
 勇者が防戦一方だったのは事実だ。
 そんな中で、余を誘導するのも一苦労であっただろう。
 ゆえに早い段階で、余の誘導も不完全な状態のまま切り札を使った…
 回避不可能の、勇者渾身の最大攻撃。
……それすら…罠?
 そう思わせることが重要だったとしたら?
 あの手ごたえ…
 最大攻撃に見せかけた、…ただ範囲と見た目だけに特化した魔法だった?
魔王「! 側近、今の時刻は?」
側近「は? 今の時刻ですか?」
 側近はそういって空を見上げ、太陽の位置を確認した。
側近「……あ」
 側近は、何かに気が付いたというように、声を上げた。
 それで十分だった。
魔王「勇者め」
 魔王は歯噛みする。
 すなわち、最初から勇者の策のうちだったのだ。
 最初の会話、あれで、こちらの時間間隔を狂わせた。
 現時刻。まだ、全人類の魔力を集める時間ではない。
 つまり、少数の、策を知る者のみの魔力で、全魔力を集めた様に見せかけ、こちらの魔力を削る策略だったのだろう。
 事実、こちらは、盛大に魔力を消費してしまった。
魔王「……やってくれる」
 こちらが策を知ったうえで、それすら利用してきたというわけだ。
 目前、先ほどとは比べ物にならない魔力をほとばしらせ、転移魔法により着地した勇者を見つめ、魔王は顔をゆがめた。

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:14:37.16 ID:YtpFI3Ae0
 勇者のひと蹴りで、大地が爆散する。
 側近の目の前、激突する魔王と勇者。
 その余波を前に、側近の体が宙に浮かび、歪に折れ曲がった。
魔王「っ」
 問答無用かー
 勇者の激突にこらえきれず、魔王の体が浮く。
 そのまま直進、魔王城の外壁を突き破ると、場内を転がった。
 勇者は、弾けるように魔王から離れると、そのまま魔王とは別方向へ床を蹴った。
魔王「!」
 魔王がその方向を妨害するように立ちふさがる。
 勇者の理力の剣の一振りを、魔王は前腕で受け太刀した。
 スパークと、黒い魔力が弾ける。
 強大な魔力の追突により壁や床、天井にヒビが走った。
勇者「……ッ」
魔王「……ッ」
 衝撃に互いに後方へ吹き飛ぶ。
 地面を削りながら停止する二人。
 そして停止と同時に、二人の姿が消える。
 爆散する天井
 壁を、床を、天井を蹴り、互いを錯綜させる二人。
 魔王城を縦横無尽に駆け回り、破壊的な余波をまき散らしながら二人は激突を繰り返す。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:15:50.55 ID:YtpFI3Ae0
 勇者の狙いは明白であった。 魔王など後回しにし、魔王の間に到達することである。
 魔王の間には、破壊されては困る何かがある、それがなんなのかまではわからない。
 しかし、魔王は明らかにその場所を庇うように戦っている。
 その状況こそ、重要だった。
 勇者の銃剣の銃口が、魔王の間へ向けられる。
 庇うようにその場に転移する魔王。
 放たれる雷弾が、魔王に着弾する。
魔王「……ッ」
 雷弾の直撃により吹き飛び壁を貫通し、床を転がる魔王。
 床を腕で撃ち、胴体を起こす。
勇者「!!」
 勇者の周囲を覆うように、無数の黒い槍が切っ先を勇者へ向け、空中に召喚されていた。
 雷撃の閃光で視界が塞がる一瞬を利用して、防御ではなく、攻撃に転じたーー
 槍が、一斉に勇者へ迫る。
 勇者は跳ねるように跳躍すると、体を錐もみさせ、迫る槍を時に躱し、時に剣で撃ち落とし、時に魔法で迎撃した。
 いなしきった勇者の背後、拳を振り上げる魔王。
勇者「!」
 勇者は咄嗟に体を反転させると、剣の腹で拳を受け止めた。
勇者「  」
 下から上へかち上げるように振るわれた拳撃に、勇者の体が浮き上がる
 魔王の拳の着弾点を中心に、まるで透明な風船が膨らむ様に空間がゆがんだ。
魔王「死ね」
 やがて空間がガラスの割れるような音と共に爆ぜると、勇者の体は一瞬にして極超音速まで加速し、魔王城の外へ弾き出された。

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:17:50.27 ID:YtpFI3Ae0
魔王「!」
 勇者とは反対方向に突き進む反撃の雷撃弾が、魔王の胴体に着弾する。
 胴から煙を吐きながら後方に吹き飛んだ魔王は、床を踏み砕いて体を停止させると、忌々しげに上空を睨んだ。
魔王(あの状況で反撃の余裕があるか)
 魔王は、右手を開くと、詠唱を始めた。
 空気の摩擦熱に体を焼かれ、体の原型を失いながら雲を貫き上空へ上る勇者。
 魔力を逆ベクトルに放射する、その結果高度2000メートルにて運動を停止させることができた。
 口から噴き出る血液。
 勇者は回復魔法により体を回復させる。
 ガラスの砕けるような音を、鼓膜がとらえた。
 同時、勇者は回復を早々にきりあげ、銃剣の銃口を下へ構え、引き金を絞った。
 空間を砕きながら迫る黒い球体、魔王の究極暗黒魔法と雷撃弾が激突する。
 球状に混ざり合った魔法同士が次の瞬間に爆裂し、周囲の雲を波紋状に拡散させた。

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:18:55.07 ID:YtpFI3Ae0
勇者「……」
 勇者は左手で右手の前腕を支えるように持ち、右腕でまっすぐ構えた銃剣に全魔力を集中させると、再度引き金を絞った。
 銃剣の剣先から放たれる雷を纏った直径10mの円柱状の光線が、大気を焼き切りながら魔王城へ向け突き進む。
魔王「!」
 対し魔王、右掌を空へ突出し、漆黒の波動を放つ。
 直線状に突き進むビームと、不規則に歪みながら大気を犯すように突き進む波動が、空中で激突した。
勇者・魔王「……ッ」
 激突点を中心に球状に混ざり合う光と闇。 際限なく放たれるビームと波動のエネルギーを前に形状を保てず、勇者と魔王を隔てるように波紋状に拡散してゆく。
 波動を放出し続ける魔王、その足場がひび割れ、やがてクレーター状に窪んだ。
 ビームを放出し続ける勇者、その引き金を絞ったままの腕の皮膚が裂け、血が噴き出した。
 鼻血、吐血、目や耳からも血が噴き出す。大気に放たれた血は瞬く間に蒸発する。
 規格外、特大の魔力を一気に長時間放出することに、体が耐えられないのだ。
 理力の剣に、ヒビが走った。
 勇者は歯を食いしばる。目の前が真っ赤に染り、やがて何も見えなくなった。
 耳は音を失い、触覚もあいまいになる。
 今、確かに感じるのは魔力を放出し続けているという感覚だけだった。
勇者「ぉぉぉォぉおおおおおおおおおオオオおおおおおォおおーーっッ!!!
魔王「……!」
 魔王の膝が折れた。
 魔力が、底を尽きかけていることを悟る。
 前半戦での、浅はかな魔力の消費。
 それに加え、魔王の間を庇いながらの戦闘は、勇者よりもはるかに魔力を消費したのは間違いない。
 いや、それ以前に、左腕を失ったことも大きかった。
 完全にーー読み負けた。
 だがーー
 だがーーっ
 魔王の脳裏を、自分を嘲る魔王達の顔が掠めた。
 こ の ま ま で は 終 わ れ な い
 波動がビームに押し負け、散る。
 大地に着弾した雷光線は、瞬く間に大地を削りながらドーム状に広がり、魔王城を光で覆い尽くした。
抵抗の消滅を感じた勇者は、引き金を絞る指の力を緩めた。
 体が落下する。

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:20:14.65 ID:YtpFI3Ae0
勇者「究極回復魔法」
 落下の過程で勇者の体が光に包まれ、やがて全快した勇者が光から飛び出し、巨大なクレーターの一部に着地する。
勇者「……」
 勇者はあたりを見渡す、そこに魔王の魔力は感じない。
 完全に消滅したか……あるいは……
 勇者の視線の先には、不自然に残った魔王の間があった。
 天井も壁もすべて消滅しているが、床と王座のみが不自然に残ったその場所。
 勇者は歩みを進めると、王座の前に立つ。
勇者「……」
 理力の剣の一振りで破壊される王座。王座の下には階段が地下へと延びていた。
 階段を下りた先は、洞窟となっていた。 巨大なドーム型の空洞である。
 その中央には、紫色に発光する巨大な魔法陣がある。
勇者「……」
 勇者は銃口を魔法陣に向けると、引き金を引いた。
 魔法陣の中央に着弾した雷弾がプラズマフィールドを形成し、地面ごと魔法陣を抉り飛ばした。
 同時、世界を覆っていた圧力のような物が消える。
 おそらくこれが、世界を蝕んでいた魔結界の発生源だったのだろう。 なるほど魔王は身を挺してこれを守っていたわけだ。
 勇者は視線をめぐらせる。右側に、さらに下に降りられる道を発見した。

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:21:04.61 ID:YtpFI3Ae0
 勇者は歩く、その道を下りた先に、渦があった。
 人ひとりを飲み込めるほどの大きさの赤い渦。
 旅の扉と呼ばれるワープ装置だ。
勇者「やはり…か」
 この先、十中八九魔界へと通じていると見てよいだろう。
 魔王は言った、今のこの世界ならこの形態でもに耐えられると。
 おそらく魔界では、より魔王が力を発揮できる環境になっているはずだ。
 そして、12匹の魔王もいる。
 どうする?
 この状況ならば、策はいくつか考えられる。
 分岐点だ。
 自分の残りの魔力はおそらく全力戦闘で3分ほどは持つ。
 この先、あの魔王よりも強いとされる12匹も相手にする可能性もある。
……ギリギリだな
 先の展開によっては、無駄に終わる。
 だが…こんなチャンスは、もうないかもしれない。
勇者「……」
 勇者は、決意を固めると、旅の扉に体を潜らせた。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:22:06.00 ID:YtpFI3Ae0
 旅の扉を潜った先、淀んだ空気と瘴気を前に、勇者は顔をしかめた。
 周囲に目を配ると、どこかの建物の中であることがわかる。
 石造建築の祠かなにかなのだろう。台形にせり上がった祭壇のような場所に立つ勇者は、背後を見、赤い渦を確認しながらそう思考する。
 目の前の階段には、血の道しるべがあった。
 血痕はまだ新しく、おそらくあの魔王のものなのであろう。
 勇者は一歩を踏み出し、階段を下る。
 階段を下りると、左右を石柱の柱が並ぶ、石畳の道が前方に伸びている、その先には開け放たれたままの扉。
 扉の先には、城が見える。
 こちらの世界の魔王城とよく似た作りの城だ。
 祠を出た勇者は、赤い空を背景にそびえたつその城を見上げた。
 あの魔王城の10倍は広そうな城だ。
勇者「……」