Part29
970 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 17:58:41.42 ID:
AnYy5EW8o
【古書、『勇者伝記』より一部抜粋】
魔王と勇者との戦いは熾烈を極めた。
未知なる魔法の応酬が繰り広げられ、瞬きも出来ない程の斬撃が飛び交う。
既に仲間達は地に伏せ、息も絶え絶えの様子。その仲間達を守る為に勇者は一歩も退かじと奮戦す。
数万体もいた魔物達も今や残すは片手の指で足りる程度。全て勇者が葬るものなり。
この時、勇者の持つ伝説の盾は既に砕け散り。
伝説の兜も魔王の強大な魔法により跡形もなく壊れたり。
残すは鎧と剣の二つだけ。その二つも今やひびが入り、風前の灯火。
かようなまでに勇者は死闘を繰り広げ、魔王もこの強さと勢いを止められず、既に手酷い傷を負うものなり。
勇者もまた、これまでに負った手傷は幾百か。血を失い目の前が霞む。しかし、それでもその両の目には溶岩の様な熱い闘志が宿っていた。
諦めぬ者、勇者。どの様な逆境に遇おうとも、どの様な試練が与えられようとも。
この者は決して揺るがぬ。それこそが正に伝説の勇者たる証し。
その目を見て、魔王が気圧される。己の危機を感じ、魔王は最後の賭けに出た。
魔力全てを込めた一撃を食らわそうと詠唱を始める。
これを受け、勇者もまた、最後の賭けに出る。
人々に託された想い、願い、期待。その全てを背負いて剣を構え、魔王に向け渾身の一撃を食らわそうと走り出す。
魔王の最強の魔法が放たれた。
勇者はその一撃を食らいながらも、魔王に向けて剣を振る。
決着が着いた。
伝説の鎧は最後の役目を果たして砕け散り、また伝説の剣も根本から折れたり。
しかして、地上に立っていたのは勇者。
勝者は勇者。偉大なる勇者。女神様より神託を受けし、世界を救った勇者。
かの者こそ、世界で最も祝福を受けし者。最強無比の伝説の勇者なり……。
971 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:00:26.18 ID:
AnYy5EW8o
ここまで
埋まりそうになったら、次スレ立てる
974 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:17:21.72 ID:SOk1tPa1o
>というか、最悪、ノーダメージって可能性もあるからね……
毎回笑うけど今回はもうこの辺で吹いちまった
975 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:27:51.39 ID:COtFeeDTO
トドメのくだりがお通夜ムードじゃないか…
976 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:41:32.31 ID:Wuw0penkO
非情なる世界あり
977 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:49:17.68 ID:KCBINPNwo
勇者パーティーはみんなある意味不憫なことになったな
978 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:52:53.53 ID:47W4t8YdO
そもそももう勝ってたからなあ
979 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:53:34.84 ID:C5OnOLVD0
勇者は仲間との力の差を嘆き
仲間たちは勇者との力の差(勘違い)を嘆き
すべて女神のせいだ
980 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 18:56:55.10 ID:SLH+QD9eO
さすが勇者様だな
981 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 19:11:53.81 ID:+qG+thRPo
女神よりも罪が重いはずの魔老師はなんか憎めない
女神は許せない
982 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/31(木) 19:29:29.44 ID:c700537P0
勇者は救われたな
勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459487077/
9 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:16:03.44 ID:7F9FnNVvo
ー 少しだけ時間を遡って
神界、女神の間 ー
パリィィィンッッ……!!!
女神「封印が……」
大天使「解けましたね」
女神「ええ……。勇者が魔王を倒してくれたようです……。これで私も自由に動けます」
大天使「では、すぐに」
女神「はい。勇者が魔王を倒した事を世界中の人々に知らせましょう……」
女神「今いる全ての天使にこの事を伝えなさい。私も世界中の教会へと御告げを出します」
大天使「はい!」
10 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:16:58.83 ID:7F9FnNVvo
勇者が魔王を倒したというその事実は、女神の御告げと世界中に降臨していた天使によって、瞬く間に伝わった。
町には歓喜の声が上がり、その日はどこもかしこも大々的なお祭り騒ぎとなった。
「勇者様、バンザァァァイ!!!」
「魔王が倒された!!! これで平和な暮らしになるぞっ!!!」
「もう魔物に怯えながら暮らさなくて済むんだ!!!」
「町の防壁も、もう必要ない!!! 大手をふって外を歩けるぞっ!!!」
「自由に外を歩き回れるんだっ!!! 世界中を安全に旅出来るっ!!!」
「勇者様、ありがとうっ!!!」
「この世界を救ってくれてありがとうっ!!!!」
11 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:18:07.46 ID:7F9FnNVvo
皆、仕事も家事も忘れ、全てをほっぽりだして、ひたすら祝いあった。
酒場から祝いの酒樽が幾つも広場へと運び込まれ、飲める者は揃って何度もそこで乾杯した。
楽隊がパレードさながら町中を練り回り、その音楽に合わせて人々は感謝のワルツを踊る。
花火魔法が空に何発も打ち上げられ、吟遊詩人は勇者を讃える歌を即興で何曲も唄った。
踊り子は満面の笑顔で喜びのダンスを披露し、子供たちははしゃぎながらそこら中を走り回った。
あちこちで夢見る子供たちの願い事が聞こえる。
「ボク、大きくなったら絶対に勇者になるんだ!!」
母親は困ったような笑顔で、その必要はないと優しく諭した。
「大丈夫よ。だって、もう魔王はいないんだから。これからは平和な世の中になっていくんだから」
「全部、勇者様のおかげなの。あなたがこの先、魔物にやられる心配をしなくて済む様になったのも全部……」
12 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:19:40.20 ID:7F9FnNVvo
ー 南の国、王宮 ー
国王「祝え! 全ての酒蔵を開けよ! 皆の者に振る舞うのだ!」
国王「今日は記念すべき日だ! 夜が明けるまで歌い、踊り、祝い尽くせ!」
「ははっ!!」
ーーーーーーーーーーーー
王妃「姫……。あなたの結婚相手が決まったわね。今日はその前祝いも兼ねましょうか」スッ (ワイングラスを差し出す)
姫「ええ、お母様。祝福して下さい。世界で最も気高き御方の妻となる私を」スッ
「勇者様に乾杯」カチンッ……
ーーーーーーーーーーーーー
騎士団長「見てるか……。親友。お前の息子が伝説となったぞ」
騎士団長「旅立ちからわずか十日と一日だ。それだけで魔王を倒してしまった……。女神様の加護と祝福を受けたとはいえ、あれだけ強くなっているとは私も知らなかった……」
騎士団長「生きていたら、お前は勇者にどう言うかな……。誉める前に泣きそうな面になってそうだがな……」
騎士団長「私の息子だと言えないのが残念だ。だが、心の中だけではそう誇ってもお前は許してくれるよな……」
騎士団長「お前の息子に。そして、私の息子に乾杯……」スッ (グラスをそっと掲げる)
13 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:21:07.98 ID:7F9FnNVvo
ー 騎士団長の家 ー
幼馴染み「勇者……。本当に魔王を倒しちゃったんだね……」
幼馴染み「嬉しいけど、何か寂しいよ……」
幼馴染み「私の勇者が……。みんなの勇者みたいになっちゃった感じがして……」グスッ
幼馴染み「それに、姫様との結婚もしちゃうんだよね……。わかってる……。元からどうしようもないってわかってたんだけど……」グスッ
幼馴染み「うっ……」ポロポロ……
幼馴染み「こんなおめでたい日に泣いちゃうとかダメだよね……。でも、何か涙がね……自然と……」ポロポロ
幼馴染み「だけど、大丈夫、大丈夫だから……。勇者が帰ってきた時にはちゃんと笑顔でいるから……」ポロポロ
幼馴染み「それで、勇者の事をいっぱいいっぱい誉めてあげるから……。勇者が引くぐらい誉めてあげるから……。だから……」ポロポロ
幼馴染み「今日だけは泣かせて……。それでちゃんと心の整理つけるから……」ポロポロ
幼馴染み「勇者……。本当に好きだったよ……。勇者、勇者……」ポロポロ
14 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:25:05.45 ID:7F9FnNVvo
大勢の人々からの感謝、歓喜、尊敬、憧れ……。
そういったより大きなものに呑まれ、一つの小さな失恋は歴史の影へと消えていく……。
彼女もまたいつか恋をして、それらも過去の良き思い出へと変わる日がきっと来るだろう……。
だが、世界の流れは止まらない。
勇者の名は一分一秒ごとに伝説として深く刻まれ、人々に感謝と畏敬の念を叩き込んでいく。
また、その一方で、大半の人とは真逆の感情を覚える者達もわずかながら存在していた。
焦燥や不安などがそれに該当する。
勇者が魔王を倒すまでがあまりに早すぎたが故の失策。
彼等はまだ、勇者を勇者として正式に認めていない。
言わずと知れた教会本部である。
15 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:26:49.60 ID:7F9FnNVvo
ー 中央国、大聖堂 ー
女「弁明があるのならば、お聞きします。もし、あるのであればの話ですが」
地海竜『ギルルルッ!』ギロッ
天使「…………」フワリ
教皇「っ……」
枢機卿A「わ、私達は勇者の事を認めていた! ただ、公表が遅くなったというだけで!! それだけだ!! 決して勇者を軽く扱った訳では!!」
女「戯れ言を! あなた方が私にどのような取引を持ちかけたのか、それを忘れたとお思いですか!」
女「勇者様の排除をちらつかせ、この世界の平和を取引の道具として用いたではありませんか!」
女「その様なあなた方に、聖職者を名乗る資格はありません! 女神様の名のもと、然るべき処分を受けて頂きます!」
枢機卿A「ぐっ……」
16 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:28:49.52 ID:7F9FnNVvo
枢機卿B「し、神殿騎士団!」
神殿騎士A「…………」ザッ、ザッ
神殿騎士B「…………」
神殿騎士C「…………」
枢機卿B「この女は『聖女』様を騙し、勝手に『奇跡の鐘』を鳴らし、今また、ある事ない事を吐き続ける大罪人だ! 裁判にかけるまでもない! 今すぐ処刑せよ!!」
神殿騎士A「」チャキッ
神殿騎士B「」チャキッ
神殿騎士C「」チャキッ
女「…………」
神殿騎士A「申し訳ないが、失礼する」ガシッ
枢機卿B「!?」
神殿騎士B「枢機卿殿……。動かれない事をお勧めする。私達も不要な殺戮はしたくない」スッ (剣を喉元に)
枢機卿B「な、何故だ!!」
神殿騎士C「あなた方もどうか大人しくお願いします」ガシッ、サッ
枢機卿A「反逆するつもりか!? 放せ! その剣をどかせ!」
17 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:30:21.66 ID:7F9FnNVvo
神殿騎士A「反逆? ご冗談を」
神殿騎士B「天使様が味方についておられる御方のお言葉が正しくないとでも言われるのですか?」
神殿騎士C「女神様も女殿の事をーーいえ、『紅の天使』様の事を認めておられる証拠。正義はこちらにあり。あなた方ではない」
枢機卿B「ぐっ……!」
神殿騎士D「当然、あなた方も……」チャキッ
枢機卿C「……!」
神殿騎士E「大人しくお願いします。聖地を血で汚す事はこちらも本意ではない……」チャキッ
枢機卿D「いつのまに背後に……」
神殿騎士F「団長もそのまま動かないで頂きたい。既に神殿騎士団の三分の二は我等の味方となっております。つまらない事は考えないよう……」チャキッ
神殿騎士団長「クーデターか……。女殿の口先に乗ったか」
神殿騎士F「いいえ、勇者様と『紅の天使』様の活躍を見て、何が悪で何が正義かに目覚めただけの事です。我等は規律を大切にすれど、飼い慣らされた犬ではない」
神殿騎士G「御理解頂けたのなら剣をこちらに……。一時の身の安全だけは保証します」
神殿騎士団長「わかった。投降する……」ガチャッ…… (剣を渡す)
神殿騎士G「教皇猊下もです。あなたと言えど例外ではない。御無礼つかまつります」チャキッ
教皇「…………」
18 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:31:40.92 ID:7F9FnNVvo
女「あなた方の裁きは聖女様と女神様に託します。それまでは身柄を拘束させて頂きます」
女「地下牢獄の件、及び、不透明な金の流れ。その全てを公表し暴かせてもらいますから、身に覚えのある方は覚悟をしておいて下さい」
女「もちろん、あなたもですよ。大司教」
大司教「……私とあなたとで、何が違う。虎の威を借る狐に変わりはない。その立場が逆になっただけではないか」ギリッ
女「違いですか……。そうですね……一言で言うのであれば」
女「信仰の深さが、です」
大司教「下らない事を! 信仰など生きてく上で何の役に立つのか!」
女「役に立たないと言うのであれば、あなたは何故今その様な状況に立たされているのですか? 魔王は何故、勇者様に倒されたのでしょうか?」
大司教「それは……!」
女「それを考えれば答えは出るでしょう……」
女「全員を隔離部屋にお連れして下さい。他にこの件で関わっていた方も含めて全員です。この機に教会に溜まった汚れを吐き出し一掃します」
神殿騎士たち「はっ!」
女「教会を本来あるべき姿へと。皆から慕われ尊敬される教会へと、聖女様共々変えていきましょう。引き続き皆の協力をお願いします」
神殿騎士たち「ははっ!」
19 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:32:54.86 ID:7F9FnNVvo
歴史の流れは大きなうねりとなって、一つの終着地点へと進んでいく。
それは人間のみならず、魔物や竜にも同じ事が言えた。
ー 妖魔の森、北部、暗黒要塞 ー
魔軍師「引き上げる! 魔界へと戻るぞ! 全軍、撤退の準備をせよ!」
魔軍師「魔王様は既に倒れた! 我等は負けたのだ!」
魔軍師「だが、勇者の計らいにより、我等は生還を許された! 敗北を悔しく思うのは当然だが、まず我等は生きて故郷へと帰れる事の幸運を噛み締めよ!!」
魔軍師「他世界で無意味に散るよりは、魔界へと戻り、華々しく散る事を選べ!!」
魔軍師「全軍、整然と帰還する! 魔界へと帰るぞ!!」
「はっ!!」
20 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:34:21.44 ID:7F9FnNVvo
がっくりと項垂れる魔物もいる。
気持ちの整理をつけられず、空へと咆哮する魔物もいる。
故郷へ帰れると、内心で安堵する魔物もいる。
やり場のない怒りを、木や建物にぶつけた魔物もいる。
納得出来ず、軍を飛び出して脱走した者もそれなりにはいたが、しかし、大半は意気消沈とした様子で粛々と撤退の準備を整えていった。
剣聖・聖女・女闘神・真魔王・女大富豪ら、勇者の仲間達五人も妖魔の森の各拠点に散り、それへと見張りに立ち会う。
時には過激な反抗者もいて、彼等は勇者の仲間達の姿を見るやいなや、怒りをあらわにして飛び掛かったが、全て一撃の元に倒された。
また、一部の武闘派が集まって拠点の一つを占拠し、第二の魔王たらんと独立をはかったが、これは魔軍師率いる八大将軍の手により即日陥落され殲滅された。
どさくさに紛れ、魔結晶等の軍事物資を懐に掠めようとした不届き者も多数いたが、これらの大半はすぐさま露見し、例外なく粛清された。
こうした大小の事件、出来事、襲撃、離反、立て籠り、それらを何個か重ねながらも、全体としては魔物達の撤退は全世界から速やかに行われていった。
21 :
◆bXfZj5FIu6 :2016/04/01(金) 22:35:20.91 ID:7F9FnNVvo
また、戦後処理に加えて今後の事も勇者を中心に話し合われた。
勇者は基本的に全ての中核であり、代表者であり、無自覚的にその素質を持っていた。
全ての処理は勇者の決断に委ねられ、勇者もまたその決断を下すだけの器量と才覚と勇気とを有していた。
女神の神託は、意図はともかくとして、その結果は間違っていなかったと言える。
また仲間達も勇者をその様に扱った。彼等は自分達を勇者の手足と考え、良き手足であろうと努めた。
彼等の後押しと信頼がなければ、勇者もまた、この様な責任重い決断を下せなかったであろう事は間違いない。
勇者と竜王との会談が行われたのもその為だった。戦後に関する二つの重要な案件について、勇者は竜王と対談する事となる。