Part13
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:27:07.03 ID:
WzQzbLsqo
ー 食事中 ー
女店主「ところで、あんた、旅してるんなら、その途中とかで聞いた何か面白そうな噂や情報とかないかい? ネタによっては値段をつけるよ」
勇者「生憎、売れる情報は特にはないね」
女店主「そうかい、残念だね。まあいいさ、ならあんた自身の事を聞いてもいいかい? さっき言ってた故郷ってのはどこなんだい?」
勇者「ここから少しいったところにある、『山奥の村』だよ。道は険しいし、きちんとした道になってないしで、ろくに都会との行き来がない田舎だけどね。でも、とてもいいところだった」
女店主「……『山奥の村』……なのかい」
勇者「?」
女店主「あんた……ひょっとして、かなり子供の時にあの村から外に出てきたんじゃない?」
勇者「そうだね。もう十五年も前の話になるから」
女店主「やっぱりか……」ハァ
勇者「……何か、まずかったりするのか?」
女店主「……まあ、どうせわかっちまう事か。それに言っておかないと駄目だしね……」
勇者「……どういう事だよ」
女店主「先に言っておくけど、あんたにとっちゃかなりきつい言葉になると思う。悪い事は言わないけど、『山奥の村』に行くのは諦めなよ」
勇者「え……?」
370 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:28:53.72 ID:
WzQzbLsqo
女店主「もう十年ぐらい昔の事になるんだけどね……」
女店主「その頃から、あの山に奇妙な魔物が色々出没する様になったんだよ……」
女店主「最初はそういう魔物を見たって話が少なかったから、そんなに噂にはならなかったし、特に誰も気にはしなかったんだ」
女店主「だけど、段々と。年数を重ねるごとに少しずつ。その『見た』って目撃談がどんどん増えていってね」
女店主「しかも、どれもここらじゃ見かけない、見た事自体ないって魔物ばかりだったんだよ。それこそ、本や図鑑にも載ってない様な魔物がうじゃうじゃと」
女店主「今じゃあそこの山に行くって人は誰もいないよ。気味悪がって近寄らないし、危険だからね。今じゃあの山は、奇妙な魔物の巣窟と化してるのさ」
勇者「そんな…………」
371 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:31:24.46 ID:
WzQzbLsqo
女店主「何で、あの山がそんな風になっちまったかなんて誰もわかりゃしないんだけどさ……」
女店主「例えば、あの山のどっかに、空間の歪みがあって、そこから魔物が続々とこっちに来てるんじゃないかとか……」
女店主「もしくは魔王の軍勢が、あそこの山を秘密の軍事拠点にしてるんじゃないかとかね……」
女店主「あと、嘘かホントか知りやしないが、竜まで見たって話もあるぐらいだから」
女店主「竜だよ? 国を簡単に滅亡させちまう様な伝説の化け物だよ」
女店主「その竜が一匹、あの山を気に入って自分のねぐらにしたって噂もあるんだ」
女店主「だから、それにつられて強い魔物たちもあの山に住むようになったんじゃないか……って風にも言われてる。強い魔物は、他の魔物を引き付けるからさ……」
女店主「まあ、どんな理由にしろ……」
女店主「もうあの山は駄目なんだよ。人が入れる様な場所じゃなくなってるから」
勇者「じゃあ……あの山奥にあった……村は…………」
372 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:33:06.13 ID:
WzQzbLsqo
女店主「……気の毒だけど」
女店主「あの山が魔物の巣窟みたくなってから、もう何年も経ってるからね……」
女店主「……言いたかないけど、今でも無事とは到底思えない」
女店主「村の人達はとうの昔に逃げたか、もしくは……」
女店主「その先は、言わなくてもわかるだろ……?」
女店主「全員、無事に山から避難出来たんじゃないかって信じるしかないよ……」
勇者「……そんな。……嘘だ」ガタガタ、ガクガク
373 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:34:36.56 ID:
WzQzbLsqo
勇者「王都にいた時も……そんな噂……入って来なかったのに……」
勇者「みんなが……。みんなが……」
勇者「隣のおじさんも……優しかった村長も……」
勇者「それに、大事な仲間たちが……!」
勇者「もうあそこにいないなんて、そんな事……!」
勇者「またあの木の下で会おうって! そう約束したのに……!!」
女店主「……気持ちはわかるけどね」
女店主「でも、事実なんだよ。認めないと……」
女店主「ここから王都まではかなり離れてるし、そもそも魔物たちも年単位でゆるやかに増えていったからね。噂があんたの耳まで届かなかったか、もしくは噂にすらなってなかったって可能性はあるよ」
女店主「あの村は、山奥にあって、元から孤立してた村だったらしいし……。あの山自体、鉄だとか魔石とかが採れるって訳でもなかったし……」
女店主「それに、あの山から魔物は出て来ようとはしないからね……。自分から行かない限りは、被害が出ないんだよ。だから、そんなに目立つ噂にもならなかったろうし……」
女店主「あんたが知らなくても、そんなに不思議じゃないんだ。それに、知ってたとしても……」
女店主「あんたに何か出来た訳じゃないだろ? ……結局、どうしようもない事だったんだよ」
勇者「でもっ!! だけどっ!!」
374 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:35:39.12 ID:
WzQzbLsqo
女店主「やめとくれよ。そんな大きな声を出さないで。他のお客さんもいるんだし」
勇者「ぐっ……!」ウルッ
ザワザワ……
女店主「あー、大丈夫。この人、ちょっと悪酔いしちゃってるみたいでね。それだけだよ。平気だから」
女店主「気にせずみんな飲んどくれ。この人はあたしがなだめとくからさ」
ガヤガヤ……
女店主「……さてと」
勇者「うぅっ……!」グビッ
女店主「やっぱりね……。やけ酒は体に悪いよ」
勇者「違う。そんなはずはない……! あの村がもう無くなってるなんて、そんなはずが……!」
勇者「みんなだって、きっと絶対に生きてるに決まってる……!!」グビッ
女店主「……」ハァ
375 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:37:50.19 ID:
WzQzbLsqo
女店主「何も、生きちゃいないなんて言ってないよ。確かにみんな、どっかで生きてるのかもしんないさ」
女店主「でもさ。村だけはもう無くなってるんだよ。確認した訳じゃないけど、これだけは確かだよ」
女店主「疑ってるのなら、他の人にも聞いてみなよ。この町に住んでる人間なら誰もがそう答えるはずだからさ」
女店主「繰り返すけど、あの山は、もう近付いちゃいけない山になっちまってんだ。今は恐ろしい魔物の巣窟なんだよ」
女店主「あんたの故郷が無くなったから、辛いのはわかるよ。仲の良かった人が、全員亡くなってるかもしれないって知って、かなりショックだったってのもわかるよ」
女店主「でも、そういう事もあるんだよ。そこは認めないと。こんな御時世なんだから、仕方ないんだよ」
勇者「ぅっ……!! うぅぅ……!!」ポロポロ
女店主「……干し肉はキャンセルにしとくけど……構わないよね?」
勇者「ぐっ!」グビッ
女店主「うん……。代わりにしこたま飲んできな。酒は涙を全部流させてくれるからさ」
勇者「ぅぁっ……! うぁぁっ……!!」ポロポロ
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:39:13.26 ID:
WzQzbLsqo
ー 深夜、宿屋 ー
「あーあ、もう……。世話が焼ける人だねえ、ホント。よいしょっと」
商人「ん……? あれ、酒場のおかみさんじゃないか。どうしたんだい?」
女店主「なんか、あんたのとこの客らしいからね。完全に潰れちまったから、ここまで引きずってきたんだよ」
勇者「ぅぅ……」グシュッ
商人「ああ、この人かい。確かにうちのお客さんだね。顔を覚えてるよ。わざわざすまないね」
女店主「いいよ、別に。普段なら店の外に放置しとくとこなんだけど、ちょっと飲み過ぎた理由が理由だったからね。そのままにしとくにゃ可哀想でさ」
商人「なんだい、結婚を前にして女にでも逃げられたのかい?」
女店主「それよかもっと可哀想だね……。店に来た時は目を輝かせてたのにさ……。まったく、嫌な世の中だよ、ホントに」
商人「……なんだか訳ありっぽいね。まあ、聞かなかった事にしとくよ。後はこっちで部屋まで運ぶから安心してくれ」
女店主「ああ、頼んだよ。それじゃあね」
勇者「何で……こんな事に……」ポロポロ
377 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:49:37.58 ID:
WzQzbLsqo
ー 同時刻。異界、炎王の城 ー
炎の魔神「外界より来たりし者よ、滅せよ!!」(全長14メートル)
【異界の四王・炎】
『体力 :789万
攻撃力:438万
防御力:102万
魔力 :247万
素早さ:161万』
「 灼 熱 流 陣 撃 !!」
炎が四方八方に踊りながら流星の様に舞う。それは炎と言うよりも、最早マグマに近かったかもしれない。火山が噴火し、溶岩が雨のように降り注ぐ様に似ていた
逃げようのない全体攻撃。隙間なく、灼熱の炎が襲う
この二人を
魔王「ふっ。この程度で最も攻撃に優れた四王の一人だと言われているとはな。期待外れだ。話にならぬ」
側近「魔王様、ここは私が防ぎます。魔王様はその間に攻撃を」
側近が腰の刀をすらりと抜き床に突き刺す。それと共に固有の結界技が展開された
「 絶 対 不 可 侵 領 域 !!」
側近の周り、半径五メートル。そこに正四角形で展開された闇の鎖が覆う。ありとあらゆる魔法・物理干渉を受け付けない完璧な防御結界
多大な魔力を消費し、使用中は自身が何も行動が出来なくなるが、それはあくまで使用者のみの話である
側近「魔王様、お願い致します」
魔王「うむ」
闇の鎖に阻まれ、次々と落ちては消滅していく灼熱。その炎に彩られた景色の中で、魔王はそっと右手をかざした
その手に、はっきりと目で見える程の膨大で純度の濃い魔力が集約されていき……
「 魔 装 弾 !!」
放たれた。魔法ではなく、魔力そのものを撃ち放つ、魔王オリジナルの技
夜空に光を放つかの様に、その暗黒の魔力は空間を切り裂いていく。そして!
炎の魔神「グあガあアアぁギぁあアアあアあっっ!!!」
ダメージ、631万! ×7撃(total4417万ダメ)
残り体力:789万→0
魔王「他愛ない。拍子抜けだな」
側近「いかにも」
崩れ落ちていく炎の魔神を眺めながら、魔王は不敵な笑みを浮かべた。それは勝者のみが許される笑みであり、そしてこの魔王にはその姿があまりにも似合っていた
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:53:02.83 ID:
WzQzbLsqo
魔王「さて、炎の魔神とやら」スタスタ
炎の魔神「ヴ……あ……」(炎で出来た体が少しずつ崩れ消えていく)
魔王「余は強い者が好きだ。そして、余は今、この異界にて余に従う者を集めている」
魔王「余と比べれば話にならぬが、お前の強さは異界においても、余の軍においても上位に位置するだろう。魔将軍クラスかそれ以上の力は持っていると見た」
魔王「故に、お前に人生を選ばせてやろう。余の軍門に下ると言うならば、その燃え付きようとしている命、拾ってやる。我が魔力を与え、その体を修復してやろうではないか」
魔王「返答を聞くぞ。心して答えよ。どうする?」
炎の魔神「フッ……下らヌッ……」ボロッ……
炎の魔神「既に一度……拾っタ命ダ……。二度も拾う気は……ナい……」ボロッ、ズササッ……
魔王「ほう。それは、どういう意味だ?」
炎の魔神「ククッ……我らハ四王などト……呼ばれテイるガ……」ボロッ、グシャッ……
炎の魔神「元はソの四王全員が……こノ異界の覇権ヲ争って対立してイた四人の王ダった……」ボロッ、ボロッ……
炎の魔神「とコロがある日……我ら全員ガ一人の者にヨって倒さレたのだ……」ボロッ……
炎の魔神「今ではそやツが真の王だト……誰もが認めテイる……」グラッ……
魔王「つまり、この世界の魔王という訳か。そして、お前たちが四天王という事だな」
炎の魔神「ククッ……。その通りダ……。そして……我は四王の中デモ最弱……」ボロッ、ボロッ……
炎の魔神「我に勝ッた程度……大しタ事ではなイ……。他の三王ヲ倒し……まシてや真ノ魔王を倒す事ナど……貴様らニハ絶対不可能ダ……。ククくクッ……」ボロッ、ズサッ……
側近「同じ台詞を他の三王も吐いていたがな」
炎の魔神「!? まさカ……既に他ノ三王全員を……!!」グラッ……
魔王「そう。お前で最後だ。残りは真の魔王一人という事になる。だが、この様子ではどうせそやつも大した腕ではあるまい」
炎の魔神「ア……ガがグアあぁぁ…………」グシャッ……
379 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:56:13.57 ID:
WzQzbLsqo
魔王「……逝ったか。しかし、どいつもこいつも服従よりは死を選ぶとはな。目的は達成出来ぬが、見上げたやつらだと誉めるべきか」
側近「ええ。気骨のある武人ばかりでした」
魔王「だが、手ぶらで帰る訳にもいくまい。せめて、この世界の魔王ぐらいは傘下に置きたいものだな」
側近「はい。さすれば、この異界に住むその他大勢の魔獣たちも大人しく従いましょう」
魔王「うむ。では、行くとするか。確か、中央の巨大な塔に住んでいるとの事だったな。一応、休みを取って、そこに向かうのは明日にしておくか」
側近「はい。まだまだ魔力は残っておりますが、念には念をという事で……。その方が私も良いかと思います」
【魔王の片腕】
『体力 :530万
攻撃力:218万
防御力:681万
魔力 :497万
素早さ:405万』
魔王「では、行くか。飛翔魔法!」フワッ……
【史上最強の魔王】
『体力 :999万
攻撃力:999万
防御力:999万
魔力 :999万
素早さ:999万』
魔王と側近の体が浮かび上がり、彼ら二人は城の窓から暗黒の空の彼方へと飛び去って行った
「明日には、この異界をも制覇してくれようぞ!! 」
その言葉を中空に残して……
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:56:52.23 ID:
WzQzbLsqo
ここまで
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:57:49.69 ID:tox57Puio
乙
驚きのインフレっぷり
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:59:29.21 ID:BgBrjsldo
インフレし過ぎて魔王TUEEEEEEE
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 17:59:59.78 ID:ZJB7Kr4go
勇者YOEEEEEEEE
384 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/08(火) 18:04:57.10 ID:UtX44UCxO
勇者が王道の旅やってるはずなのにすべてが茶番という
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/09(水) 17:21:23.08 ID:
muoF85sfo
ー 翌日。商業で栄える町、酒場 ー
カランカラーン
女店主「あら……また来たんだね、あんた」
勇者「……ああ。昨日は宿まで送ってもらったと聞いたから……。ありがとう」
女店主「なに、構わないよ。それよりも酷い顔してるね。目なんか真っ赤じゃないか」
勇者「鏡を見て自分でもびっくりしたよ……。本当に酷い顔をしてた」
女店主「うん。……でも、目には光が戻ってきてるね。それだけは救いかな。現実は受け入れたのかい?」
勇者「それはまだ何とも……」
女店主「そうかい。まあ、いいさ……。昨日の今日でなかなか受け入れられる事じゃないだろうからね」
勇者「かもね……」
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/09(水) 17:22:28.85 ID:
muoF85sfo
女店主「それで、今日は律儀にお礼に来たのかい。店はまだ開けてないけど、折角だから軽く食べていく? 何か作ってやるよ」
勇者「いや、ありがたいけど……。それより、上等な酒を皮袋でもらえたら助かるかな」
女店主「呆れたね。昨日あれだけ飲んだのに、まだ飲むつもりかい? 二日酔いになってないぐらいだから、酒は強い方なんだろうけど、流石に体を壊すよ」
勇者「そうじゃないんだ。俺の分じゃない。村の人達の分だよ。もしも、本当にみんなが亡くなってる様だったら、せめて墓だけでも作って、そこに供えたいから」
女店主「……あんた。まさか、あの山に登ろうなんて考えてるんじゃないだろうね?」
勇者「色々考えたけど……そうするつもりだよ。やっぱり自分の目で見ないと気が済まないし」
女店主「バカ言ってんじゃないよ。死にに行くようなもんだよ。魔物の巣窟になってるって言っただろ!」
勇者「腕には多少自信がある。どれだけ魔物がいても、一目見るぐらいならきっと出来る」
女店主「それを驕りって言うんだよ! そう言って二度と帰って来なかったやつがどれだけいると思ってんだい! やめな!」
勇者「じゃあ、もし全員が生きていたらどうするんだ!」
女店主「!」
勇者「約束通り、あの木の下で待っていたら! 俺だけが約束を破った事になる! そんな事、俺には出来ない!」
女店主「……アホだね、ホントに」
399 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/09(水) 17:23:29.31 ID:
muoF85sfo
女店主「呆れたよ……。約束と命、どっちが大事なんだい。第一、その幼馴染み達だって、約束を覚えていたとしても山に登るはずがないよ」
女店主「もしも約束を覚えていたなら、きっとこの町にいるはずだから、ここで探しな! それで見つからなかったら、もう諦めなよ! そういう事だったんだよ!」
勇者「それでも、自分の目で一目見るまでは、納得出来ない!!」
女店主「とんだバカだね、あんたは」
勇者「約束を破る訳にもいかない……。例え誰も来なかったとしても、俺は行くから」
女店主「それで、あんたが死んだら、結果的に約束を破る事になるんだよ」
勇者「死なないよ。必ず生きて帰ってくる」
女店主「だったらもう好きにしな。うちは酒場だからね。バカにつける薬は置いてないよ」
勇者「ああ……。それと、もしもの時はきっと馬だけこの町に戻ってくるから、その馬を頼む。これ、登録証だから」スッ
勇者「良い馬だから、大事にしてくれる人に売って欲しい」
女店主「あたしは便利屋かい。少し優しくしてやったからって調子に乗るんじゃないよ! そんなんで手に入れた金なんて誰が使えるもんか!」
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/09(水) 17:24:43.03 ID:
muoF85sfo
女店主「大体ねえ。死ぬ覚悟してまで守る必要のある約束なんてこの世にはないんだよ。とっとと忘れちまいな。それがあんたの為だよ」
勇者「もう意地だよ。それに、ここで約束を破ったら、俺は一生後悔するだろうから」
女店主「約束守って死ぬより、一生後悔して生きる方が賢い生き方ってもんだよ。どうしてそれがわかんないかね」
勇者「……さっき言ってた上等な酒、用意してもらえるかな?」
女店主「死ぬつもりなら代わりに有り金置いてきな。死体が持っててもしょうがないだろ。生きて帰ってきたら返してやるよ」
勇者「有り金は流石に無理だけど……金貨を一枚置いてくよ。だから、馬の事と酒を頼む。戻ってきたらお釣りをもらうから」
女店主「ホント、男ってのはアホな生き物だね! 一度決めたら曲げやしない。ああもう、用意してやるから待ってな。ただし、絶対に戻ってくるんだよ!」ゴソゴソ
勇者「助かるよ、ありがとう」
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/09(水) 17:25:50.59 ID:
muoF85sfo
ー 街道 ー
勇者「……いい人だったな、あのおかみさんは。結局、酒も干し肉も用意してくれたし、本気で心配してくれてた」
馬「」バルルッ
パカラッ、パカラッ、パカラッ
勇者「相棒、もしもの時は、お前だけは必ず逃がすからな。その時は遠慮なく町まで戻ってくれよ。頼んだぞ」
馬「」ブルル
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ
勇者「見えてきた、あそこだ。こうして眺めるのも十五年振りだよな。騎士団長の馬に乗せられて、最後に見た景色そのままだ」
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ
勇者「今だからわかるけど、あの山、相当大きかったんだな。かなり広いし」
勇者「今じゃ誰も登る人がいなくなったって聞いてるけど、道はまだ残ってるだろうか……。もしも残ってなかったら、相棒は連れて行けないからな……」
勇者「藪が繁っててもいいから、道自体は残ってて欲しいんだが……」
馬「」ブルル
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ……