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魔法使い「え、えろ魔道士です…」
Part11


294 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 03:58:41.37 ID:X1nbjFrK0
魔法使い「勇者様…少し甘えてもいいですか?」
勇者「こんなときに何を言っている。こうして背負ってやっている時点で十分お前は俺に甘えているだろうが」
魔法使い「じゃあ、もっと甘えちゃいますね…ぎゅー…」
勇者「んなっ」
魔法使いが俺にしがみつく力を強めた。
当然彼女の上半身は前に寄せられ、俺の背とさらに密着する。
さっきまでは気にならなかった柔らかい感触も流石に気になってきた。
勇者「やめろっ!下ろすぞ!」
魔法使い「私知ってますよ。勇者様はお優しい方なのでそんなこと言っても下ろさないって…」
勇者(さっきまでの魔法使いと明らかに何かが違う!遠慮がちなこいつは何処に行ったんだ?こんなこいつは…師匠の村で寝ぼけてたとき以来だ)
魔法使い「ゆーしゃさまぁ…だいすきです…」

295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 03:59:11.19 ID:X1nbjFrK0
『汝には我の最後の力の一部を与えよう』
魔法使い「!?」
魔法使い「はぅっ…!?あっ…あたま…が…」
勇者「どうしたっ!?」
魔法使い「や…だ…」
勇者「くそっ!何処かにないのか!何処か…少しでも休める場所があればっ!」
ファング「グルルル!」
勇者「なんだ?」
振り向くと後ろからは魔獣の群れがこちらに向かって迫ってきていた。

296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 03:59:53.50 ID:X1nbjFrK0
勇者「ちっ!こんなときにっ!おい!」
魔法使い「は、はぃ」
勇者「走るぞ!落ちるなよ!」
群れから逃げるため全力で走る。
もちろんあてなどない。
適当にまければそれでいい。
一本道を走るだけではいずれ追いつかれると悟りデタラメだが木々を曲がり、ただまくことに専念した。
ファング「ギャルルルル!」
勇者「しつこいっ…」
だがどんなに走っても魔獣は追ってくる。
勇者(このままじゃ追いつかれるぞ!)
曲がる余裕もなくなり雑木林を抜け開けた場所へ出る。

297 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:00:32.35 ID:X1nbjFrK0
勇者「な…」
なんとそこは崖だった。
ファング「グルルル…」
やっと獲物を追い詰めたと言わんばかりに唾で地面を濡らす獣の集団が俺たちに迫る。
勇者(状況は絶望的だが…)
それと同時に俺たちには新たな希望も生まれていた。
崖の下には隠れ里なのか民家や畑などの人が生活している風景が見えた。
勇者(この場から直ぐにあの場所へ行く方法とこの場を切り抜ける方法は一致している)
勇者(幸いこの崖は低めだ。飛び降りた後の衝撃の痛みも回復魔法を使えばなんとかなるかもしれん)

298 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:01:06.02 ID:X1nbjFrK0
ひとまず魔法使いを背から下す。
魔法使い「んっ…はぁ、はぁ…勇者様…私も戦います」
勇者「その必要はない」
魔法使い「え?」
魔法使いを抱き、頭を手で抑えつける。
魔法使い「え?え?勇者様…?」
勇者「頭を引っ込めていろ」
ファング「グラァ!」
勇者「行くぞ!」
魔獣が飛びかかるのと同時に崖から飛び降りる た。
勇者「ぐぅっ!」
魔法使い「きゃあああああ!!!!」
落ちていく中魔法使いを庇いながら後頭部を打たないように横向きに身体を捻る。
5秒後、鈍い音を立てて俺たちは原っぱへ着地した。

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:01:36.99 ID:X1nbjFrK0
勇者「がはっ!」
魔法使い「んっ!」
魔法使い「ゆ、勇者様ぁ…大丈夫ですか?」
勇者「ああ…なんとかな…」
回復魔法を使いながら上の様子を伺う。
ファング「ギャルルル…」
勇者(流石にまだいるか…今にも飛び降りてきそうな勢いだ…キツイが早くこの場から移動しなければ…)
だがしばらくすると俺たちがもう一度立ち上がる前に群れは森の方へ消えて行った。
勇者「…なんだ?」
魔法使い「はぁ…とりあえず…はぁ…助かったみたいです…ね…」
勇者「おいっ!」
勇者「…ついに気を失ったか」
俺は気を失った魔法使いをもう一度背負い直し、里へと降りて行った。

300 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:02:10.50 ID:X1nbjFrK0
…………
ようやく里へたどり着いた俺は辺りを見回した。
そこは街以上に普通の人間と多彩な魔族や亜人種が住む場所のようだった。
勇者(魔王城に近いからか?)
勇者「やっと着いたな…宿は、無さそうだな…何処かに邪魔させてもらうしかないか」

301 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:02:51.82 ID:X1nbjFrK0
「うぬ?見ない顔じゃな…お主一体何処からこの隠れ里に…」
そこに立派な白い髭を蓄えた老人に話しかけられた。
勇者(兎の耳…。兎の亜人種か…)
勇者「俺は勇者だ。そこの崖から飛び降りてきた」
長老「なんと!?勇者様であったか!これは失礼…ワシはこの里の長老です」
長老「ですが勇者様となると…魔王を討伐するためにこの辺りを訪れたのでは?」
勇者「そうだが」
長老「困りましたね。実は今この里の周辺には特殊な結界がはられてまして…外からの魔獣やらを受け付けない代わりに一度入ってしまうとこの里から出られなくなってしまうのです…」
勇者「なんだと!?それは本当か!?どういうことだ!…くっ」
思わず声を荒げるとここまでの戦闘と回復魔法の連続詠唱に疲労した体が悲鳴をあげ、よろめいた。

302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:03:22.62 ID:X1nbjFrK0
長老「とりあえずその怪我ではまともに立ってられますまい。とうぞこちらへ…」
勇者「あ、ああ…すまない…」
長老「ん…?その後ろの少女は…」
勇者「ああ。長老殿と同じ兎の亜人種の者だが…」
長老「…た、大変じゃ!早くこちらへ!」
突如長老は落ち着きを無くし、自宅だと思われる場所へ駆け込んで行った。
俺も後を追ってその民家の中へ入る。
勇者「邪魔する…」
そこで長老が同じく兎の亜人種である女性と男性と話していた。

303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:04:03.14 ID:X1nbjFrK0
長老「あれは…確かじゃろう?」
「ま、間違いないわ…」
「…生きてたんだな!」
勇者「……何の話をしているのか分からんがとりあえず後ろのこいつをベッドに寝かせてやりたいのだが」
「勇者様!何処でその子を?」
「そうだよ!一体今まで何処にいたんだ」
勇者「こいつとは王都で出会った。もしや知り合いの者か?」
母「知り合いもなにも!私たちはその子の親です!」
勇者「何!?それは仰天した」
父「四年前に行方不明になってから何処に行ってしまったのやらと思っていたのですが…」
勇者(確かにこいつは四年前から記憶がないと言ってたが…一体何があったんだ?)

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:04:40.96 ID:X1nbjFrK0
母「私たちの知らない間にこんなに大きくなって…うぅっ…ぐすっ…嬉しいわ…」
勇者「そいつのことで聞きたいことも山々だが…先ずは何故この里から誰も出られないのかを聞きたい」
老人「結界を張っているのはここのすぐ近くの洞窟の中にいる竜神様なのですが、竜神様は四年前に魔王がここを攻めてきてからというもの外界からの悪しき魔族を寄せ付けないためかずっと結界を張り続けたままなのです…」
母「竜神様が結界を張った日、魔法使いは里の外に遊びに行ってたんです…そこからずっと帰って来なくて…」
父「探しに行こうにも里からは出られなかったんです。だから…もうどこかで魔獣にでも襲われたのかと…」
老人「昔は里の声を聞き入れ…里の民と仲良く談笑するような穏やかな竜神様だったのですが四年前から聞く耳を持たず、それどころか暴れまわる始末で…」
勇者「つまり…その竜神をなんとかすればいいんだな?」
老人「まぁ…そうなのですが…」
勇者「洞窟の場所を教えてくれ」
勇者「俺は…必ずや魔王を撃ちとらねばならん身なのだ…」

305 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:05:11.18 ID:X1nbjFrK0
第7章
怒りと怒りと衝突

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:05:42.50 ID:X1nbjFrK0
「…誰だ。オレに何の用だ」
洞窟の中へと入った俺は奥にいた真っ赤な鱗で全身を覆う竜と対峙していた。
勇者「貴様が竜神か。結界を解いて貰いたい。俺は勇者だ。魔王を撃つためにここを出る必要がある」
竜神「その必要はない。魔王はいずれオレの結界を破りまたここを攻めてくるに違いない。きたるそのとき、オレが魔王を叩き潰す!」
竜神「…勇者ということはお前は余所者のようだな。丁度オレと同じような魔力の気配を感じ取っていたところだ。余所者が迷い込んだのは察していたが…オレと同じ魔力の持ち主はお前ではないようだが…」
勇者(…あいつのことか?)
勇者「お前と同じ魔力とは…何のことだ?」

307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:06:15.61 ID:X1nbjFrK0
竜神「憎き魔王の魔力よ!」
竜神はそう言い張ると一度洞窟の一部にヒビが入るほどの圧倒的な怒りの感情を含んだ咆哮を上げた。
勇者「ぐっ…!」
勇者(確かに一気に禍々しい魔力を感じた!こいつは残党か!?)
勇者(だがあいつも同じとはどういうことだ!?あいつも…残党ということか…?)
勇者(まさかっ!まさか本当にそんなことが!なら…俺はあいつも…)
『にゅふふ…スキンシップは…』
『た、い、せ…つ…にゃ…』
勇者(殺さなければならないのか?ねこと同じように…)

308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:06:46.74 ID:X1nbjFrK0
勇者(…何故だろうな。最初はいつでも殺すつもりであいつを連れていたのに)
勇者(今は…)
『え、えろ魔道士です』
『ゆうしゃさまが死んで…わたしも殺されちゃうんじゃないかって…こわかったですよぉ…』
『勇者様ー!もし私が攫われたら助けに来てくださいよぉー!?』
『死んじゃいそうなくらい幸せ…です…』
『勇者様ぁ!嬉しいですぅ!嬉しすぎますよぉ!』
『えへへ。ちょっと着替えてみました。どうですか?似合いますか?』
『大好きですから』
勇者(何故こんなにも辛い)

309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:07:19.08 ID:X1nbjFrK0
勇者(家族とねこに続き…またも魔王に奪われようとしている…魔王は俺からどこまで奪って行くつもりなんだ?)
勇者「許さんぞ…魔王…」
竜神「ほぅ…静寂ながらオレに勝るとも劣らない怒りの力を感じるぞ!」
勇者「竜神よ、俺はこの里から出るぞ」
竜神「いいだろう。その怒り!このオレにぶつけるがいい!その怒りがオレの怒りを超えたとき!結界の解除を認めてやろう!」
竜神「行くぞっ!!!!」
勇者「うおおおお!!!!」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:08:12.25 ID:X1nbjFrK0
…………
『汝には我の最後の力の一部を与えよう』
ゃ……
『汝に与えるは力』
やだ……
『色欲を源とする』
こわぃ……
『力を昇華させよ』
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

311 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:08:47.51 ID:X1nbjFrK0
魔法使い「っんは!」
魔法使い「はぁ…はぁ…はぁ…」
魔法使い「ここ…は…?」
魔法使い(なんでだろう…とても懐かしい気分…)
母「魔法使い!目が覚めたのね!」
魔法使い「きゃっ!」
母「おかえりなさぃ…グスッ…本当に…本当に良かった…あなたが生きててくれて…」
魔法使い「え?え?えーっとぉ…す、すみません…どなた…ですか?」
父「え?」
母「へ?」

312 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:09:18.08 ID:X1nbjFrK0
魔法使い「す、すみません…私たち…どこかでお会いしましたか?」
母「なっ、何言ってるの!?」
父「母さんと父さんのことを忘れたのか!?」
母「そうよ!どこで会ったも何も!あなたは私たちの子で私たちは家族なのよ!?」
母「やっと…やっとまた会えたのに…そんなこと…言わないでよぉ…」
父「魔法使い。頼むからこれ以上母さんを悲しませないでくれ」
魔法使い(え?え?え?え?)
魔法使い(お父さん…?お母さん…?)

313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:09:49.77 ID:X1nbjFrK0
…………
魔法使い「お父さーん!お母さーん!友達と遊んでくるね?」
父「気をつけてな」
母「暗くなる前に帰ってくるのよ?」
友達「今日は森の中を探検するんだぞー!」
魔法使い「楽しそうだね!」
…………

314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:11:02.52 ID:X1nbjFrK0
魔法使い「うぅ…ぐっ…うぁっ…あっ…」
母「魔法使い!?大丈夫!?」
長老「やはり外にいる間に何かあったのじゃな…そのときのショックで記憶を無くしておるのかもしれん…」
母「そんな…」

315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:11:43.51 ID:X1nbjFrK0
…………
友達の母「はぁ…はぁ…良かった…あなた達が無事で…今里が大変なの!魔王が攻めて来たかと思ったら今度は竜神様が急に暴れ出しちゃって…」
友達「え?竜神様が!?」
友達の母「ええ。だから早く逃げるのよ!さ、魔法使いちゃんも早く!急ぎましょう!」
友達「やべーぞやべーぞ!走れ走れ!」
魔法使い「まって!まってぇ!」
魔法使い「あっ…!」
魔法使い「あいたっ!うぅっ…まって!まってよぉ!」
魔法使い「うぇ…うえええええん…」
「そこの童女よ」
魔法使い「え?…だえ…?」
魔法使い「ひっ!」
魔法使い(こ、この女の人…なんだかものすごく…こわいっ…)

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 04:12:18.87 ID:X1nbjFrK0
「汝には我の最後の力の一部を与えよう」
「これで七つの全ての力を振り分けることができる…最後がこのような何の才も感じられぬ普通の子供になるのは不本意だが…まぁよい」
「明日には勇者が城へ攻めてくるのだ。我にはもう時間が残されていない。ゆえにもう力の器も選んでられん…」
魔法使い「あ…あ…」
「恐ることはない。力を受け入れよ」
魔法使い「いや…やだ…」
「汝に与えるは力、色欲を源とする」
「力を昇華させよ」
魔法使い「ひぃっ…ひぃぃ…」
「はぁ!!」
魔法使い「ああああ!!!!あ…が…やぁ…だぁ…」
魔法使い「ごわぃ…ごわ…ぃ…やだ…やだやだやだ…」
魔法使い「こ…わ…」
「……」
魔法使い「ヒュー…ヒュー…」
「ふむ。やはりこのような子供では駄目だったか?まるで魂だけが抜けたような…そんな顔をしているぞ」
「ここでそのままにしてもよいが…この様子では我と勇者との戦いが終わる前に死んでしまいそうだな。それでは意味がない…」
「ここらの魔獣は一度一時的に払っておくか」
「我の力の一部…汝に預けたぞ…ではな…」