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少女「おにぎり食べる?」勇者の剣「食えん」
Part1

少女「おにぎり食べる?」勇者の剣「食えん」
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1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 14:56:39 ID:6tdnyeYU
少女「そっかぁ……」
剣「うむ」
少女「ツルギさんはいつまでそこに埋まってるつもりなの?」
剣「勇者が現れるまでだ」
少女「ワガママだなぁ。なんなら私の家に連れて帰ってあげるのに」
剣「娘がいきなり剣を持ち帰ってきても家族は怪しむだけだろう」
少女「でもお母さんのスープ暖かくて美味しいよ?」
剣「食えん」

2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 14:58:39 ID:6tdnyeYU
少女「そもそもツルギさん何を食べて生きてるの?」
剣「何も食わん」
少女「そもそも生きてるの……?」
剣「それは私にも分からん。魂が宿っているものを生きている、というのなら私も生きているのだろうな」
少女「へー……」
剣「絶対わかっていないだろう」
少女「えへへ」

3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:00:59 ID:6tdnyeYU
…………
少女「んー!んー!」
剣「私は勇者でないと抜けんぞ」
少女「私が勇者になるよ!」
剣「お主は勇者ではない」
少女「どうして勇者かどうかわかるの!」
剣「こう、びびびと来る」
少女「びびび」
剣「びびび」

4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:05:05 ID:6tdnyeYU
少女「勇者ってどんな人なの?」
剣「ユウシャとは"勇ましい者"と書く。そう呼ばれる者は勇敢だったり……うーむ。思い返してみれば個性は様々かもしれん。まぁ総じて言えるのは、ヒーローのようなものだな」
少女「私も強くなれば勇者になれるかな?」
剣「なれるかもしれんな」
少女「よーし!頑張る!私強くなってツルギさん引っこ抜くよ!」
剣「そうだな、頑張ることはいいことだ」

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:06:36 ID:6tdnyeYU
少女「……ほっ!……ほっ!」
剣「何をしているのだ?」
少女「素振り!」
剣「手に持っているのは……?」
少女「そこにあった木の枝!」
剣「そうか、頑張れ」
少女「うん!がんばる!」

6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:10:50 ID:6tdnyeYU
…………
少女「ツルギさん、私これじゃダメだと思うんだ」
剣「お主が素振りを始めてからもう一週間だぞ。やっと気がついたか」
少女「やっぱり修行といえば師匠だよね」
剣「道場などは街にはないのか?」
少女「……あるのかな?帰ったらお父さんに聞いてみる!」
剣「そもそも親御さんは娘が町外れの丘まで毎日出掛けていて怪しんでおらんのか……」
少女「ツルギさんのことはお父さんとお母さんには話してあるから大丈夫だよ」
剣「頭の心配はされなかったか?」

7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:15:51 ID:6tdnyeYU
…………
剣「珍しく凹んでいるな」
少女「道場、あったんだけど男の子だけなんだって……」
剣「それは、仕方ないな。では私が」
ガサゴソ
剣「…………少女。そこの草むらに誰かがいるぞ」
少女「悪い人かな?」
剣「ふむ……私は悪意をある程度感知できるのだが、今は何も感じられん。むしろ……」
少女「ごちゃごちゃ何言ってるかわかんないや、つまり?」
剣「……悪いやつではなさそうだぞ」
少女「そっかぁ。……スゥーッ……だー!れー!だー!」
剣「うるさい」

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:21:24 ID:6tdnyeYU
ガサゴソ……
少年「えっと……その……」
少女「あっ、道場の一番強い人!」
少年「えっ……知ってたんだ……」
少女「道場長さん、私が入るのは断られちゃったけど自慢の息子ですって君の自慢ばっかりだったからね!」
少年「うぇ……恥ずかしいな」
少女「それで、えーっと、何しに来たの?」
少年「その……よかったら、これ」
少女「木の……剣?」
少年「木刀って言うんだよ」
少女「ボクトウ……名前はなんだかあんまりかっこよくないね!でも、その!ありがとう!素振りが捗る!」ブン!ブン!
少年「……はは。元気だなぁ」

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:26:35 ID:6tdnyeYU
少女「あの、本当にありがとうね!ええと……」
少年「少年だよ」
少女「少年くんね!覚えた!私は少女!今度アップルパイ持ってくね!」
少年「ええと、楽しみにしておくよ」
剣「少年とやら」
少年「!?剣が喋った!?」
剣「うむ。その反応が正しい。いきなり喋りかけてすまない」
少女「えー。ツルギさんかわいいのにー」
剣「少女は私が喋ったとき目を輝かせていたな」
少年「ある意味……大物ですね……」

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:30:37 ID:6tdnyeYU
剣「とりあえず、だ。少年。よかったらそこの少女に剣を教えてやってくれないか?お主も少女に何か思うところがあってその木刀を持ってきてやったたのだろう?」
少年「それは……ええと……僕と似てたから」
少女「似てた?」
少年「少女ちゃん、何か目指すものがあって道場に来たんだなって気がして。ぼくも、そうだから」
少女「何かを目指してるの?」
少年「えっと……世界一の、剣士……」カアァ

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:37:03 ID:6tdnyeYU
剣「少年よ、そんなに恥ずかしがることではない。世界一の剣士。立派な夢ではないか。かつて私と共に旅した勇者の中には同じ志を持った者もいたぞ」
少女「うん……うん!素敵な夢だよ!世界一の剣士!かっこいいし!」
少年「……ぼく、こんなこと言ったり笑われると思ってた。でも……笑わないんだね……」
剣「夢は恥ずかしがるものではない。誇るものだ。胸を張って目指すことは何も恥ずかしいことではない。……と、いうことでだ。少年。よかったらそこの少女を世界一の剣士の初めての弟子にしてやってくれ。何、教えるのは基礎だけでも構わんさ」
少年「えぇと……ぼくでよかったら」
少女「ほんと!?えっと、えっと、ありがとう!私も世界一の剣士になる!」
少年「……それじゃあいつか競争することになっちゃうね」
少女「あ……ほんとだ」エヘ

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:42:57 ID:6tdnyeYU
【第2話】
少女「……えいっ!」ピュンッ!
少年「……ん!」パシーン!
少女「……えいっ!」ピュンッ!
少年「……ん!」パシーン
剣「ここで何をやっているのだ」
少女「キャッチボール!」
剣「にしては少女ばかり投げているな」
少女「ぴっちゃーだからね!」
少年「キャッチャーなんで」

13 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:48:39 ID:6tdnyeYU
剣「ほほう、街の野球大会」
少女「いつも思ってたけどツルギさんって目がないのに見えてるよね、どうしてなの?」チラシピラピラ
剣「そういう魔法がかかっているのだ、たぶん」
少年「ツルギさんもよくわかってないんだね……」
剣「しかし少女も少年もピッチャーとキャッチャーとは随分期待されてるんだな」
少年「ぼくは元々運動神経はいいので。剣士になるために動体視力も鍛えてるのでキャッチャーに抜擢されました」
剣「さっきの練習を見る限り少女の投げる球も悪くはなかったが少女はどこから投げる技術を身につけたのだ?」
少女「強くなるためにはこう!色々投げることもあるでしょ!練習した!」
少年「少女ちゃんも運動神経、実は中々ありますよね」
剣「……うむ」

14 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:51:42 ID:6tdnyeYU
少女「やっぱり野球も師匠とかいるのかな!」
少年「今もチームに監督さんとかいるからそれでいいんじゃないかなぁ」
少女「監督って八百屋のおやじさんじゃん!なんか……もっとこう……世界一のピッチャー目指してる人とか……」
少年「世界一を目指している人がそうぽんぽんいたら苦労しないよ」
剣「まぁ心配するな、少女。今のままでも十分良い球だよ。鍛えた成果だな」
少女「今ならツルギさん抜けるかな!?」
剣「それはまだまだ先だな」

15 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 15:57:38 ID:6tdnyeYU
…………
少女「勝ったよツルギさん!!」
剣「ほう、そうか」
少年「ギリギリだったけどね」
少女「勝てたのは私達のバッティングが完璧だったからだね!素振りの成果!」
剣「はっはっは、少年のおかげだな」
少年「少女ちゃんの才能でもありますけど」
少女「えっへん」
剣「少女、そういうときは謙遜するのだ」
少女「えー!?褒められたときは思いっきり喜ぶ方が楽しいよ!」
少年「ははは……ツルギさん、少女ちゃんはこれでいいんですよ、きっと」
剣「確かに、そうかもしれん」

16 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:01:24 ID:6tdnyeYU
少女「ところで今日はこんなものを持ってきてみたんだ」
少年「スコップ?」
少女「引っこ抜かなくても周りを掘ればツルギさん出せないかなって」
少年「ずるくない?」
剣「やってみるがいい」
少女「えーい!」カキィン!
少年「えっ、かたっ」カンカン
剣「伊達に勇者の剣ではない。刺さったときはその地点から半径5m以内の地表、地下に魔法結界が張られるようになっている」
少女「つまり……スコップじゃ無理ってことだね!」
剣「ズルをするような人間は勇者ではないということだな」
少女「ちぇー」

17 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:07:29 ID:6tdnyeYU
少女「魔法ってかっこいいね!」
剣「街には魔法使いなどはいないのか?」
少女「うーん。私達の街にはそんなに魔法はないかなぁ。北の方に行くと魔法がすごい街があって、そっちから魔法道具の商人さんが来たりはするよ!」
少年「うちの街は農作物と工場が主な産業だからねぇ。魔学より科学の方が発達してるんだよね。魔法学校に通いたい人は北の街に引っ越していくし」
少女「魔学の影響を受けているところほど魔物が出やすいらしいから私はこの街嫌いじゃないけどね!」
剣「ふむ……なるほど……通りで魔物の気配を長らく感じないわけだ。しかし随分と遠くまで飛ばされてしまったらしい」
少女「ツルギさんは元々魔物が多いところにいたの?」
剣「というよりは魔界そのものだな」
少女「うへぇ……遠いね……すごい飛んだんだね……」
剣「飛ばされた、と言った方が正しいがな」
少女「さすがの私もここから魔界まではツルギさんは投げられないなぁ」
剣「期待しておらん」

18 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:18:59 ID:6tdnyeYU
【第3話】
〜街にて〜
ガヤガヤ
少年「少女ちゃん、今日も丘に行くの?」
少女「うーん。そうだねぇ……」
ドンッ
ゴロゴロゴロ……
少女「す、すみません!リンゴが!」ヒロイヒロイ
商人「いえいえ、お嬢さん。こちらもごめんよ」ヒロイヒロイ
少女「いえ!私の不注意でした!」
商人「いやいや、こっちも余所見していたのさ。ほら、眼鏡も手伝いな」
眼鏡「……はーい」

19 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:22:48 ID:6tdnyeYU
商人「……ふふっ、これで全部かな。どうもありがとう。そこの少年も手伝ってくれてありがとうね」
眼鏡「…………」クイックイッ
商人「そう袖を引っ張るな。眼鏡も手伝ってくれてありがとな」ナデナデ
眼鏡「……よし」
少女「……商人さんですか?」
商人「ん?あぁ、北の方の街から来た……ってダジャレじゃねぇぜ?これでも私はピチピチのおねーさんだからな、親父ギャグなんて寒いこと……あ、この寒いってのは北とかけてるわけでなくてだな?……って、ん?」
少女「…………魔法を教えてください!!!!」キラキラ
商人「えっ」

20 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:30:43 ID:6tdnyeYU
商人「ははぁん。なるほど。喋る剣を抜く為ねぇ。喋る剣、喋る剣。聞いた記憶があるような、ないような」
眼鏡「……一応、剣だけでなく勇者一行の持つ魔装具は意思を持つという伝承は確かに、ある」
商人「ははぁん、しかし売り物にはできそうにはないな。そんなもの持ち歩くのは危険そうだし、何より……」チラッ
少女「?」
商人「お友だちのようだしね。しかし本当にそいつが勇者の剣なのだとしたらアレの原因はそいつっぽいな」
少女「原因?」
商人「いやね、流石にこんな場所でも……魔力が薄い地域でも魔物ってのは少なからずいるもんなんだ。それがここまでの道中ちっとも会わなくてね。そいつが何かしているのかもしれないな」
少女「は、ははぁ」
少年「少年ちゃんいまいちよくわかってないでしょ」コソコソ

21 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:38:18 ID:6tdnyeYU
商人「しかし、すまないな。北から来たといっても私は魔法をさして使えないんだ。もっぱら剣と銃頼りでね。そん代わりこいつは魔法のエキスパートなんだが……」
眼鏡「…………」眼鏡クイックイッ
商人「まぁ、見ての通り無口なやつなんだ。教えるには向いてないかもしれないな」
少女「大丈夫です弟子にしてください」キラキラ
眼鏡「…………」グッ
商人「あっはっは。よかったな。いいってよ。しかし、その前になんだな。その眼鏡を喋る剣のところに連れていってやってくれねぇか?私は今晩の宿を見つけてくる。夕方には……そうだな、そこの食堂にでもいることにするからさ」
少女「ほんとですか!?わかりました!!」
少年「あやしくない?」コソコソ
少女「いいひとだよ!」コソコソ
眼鏡「…………聞こえてる」眼鏡クイッ
少年「ひぃ」

22 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:49:56 ID:6tdnyeYU
剣「おや、ひさしぶりだな、魔法使いの妹殿……であったか?」
少女「魔法使いって……えっ?勇者一行のメンバーの……妹?」
眼鏡「……そう。……ひさしぶり」
剣「ふむ、それで今日はなんの用だ?姉のことでも聞きに来たか?」
眼鏡「……そう。勇者と魔王の魔界大戦は一年前に、終わった。……らしい。でも、勇者も、魔王も。まだ死んでは、いない」
剣「ふむ。死んでないのに終わった、とは……」
眼鏡「それが、よくわからない。世界からまだ魔物も消えていない。謎ばかり。それで、私はおねえちゃんを探して世界中を回ってる。あなたはどうして、ここに?」
剣「私は魔王によって転移魔法をかけられてな、気がつけばここに刺さっていた」
眼鏡「…………」
剣「すまない、私は勇者の居場所も、お主の姉の居場所もわからん」
…………
少年「少女ちゃん、ぼくたちめちゃくちゃ場違いじゃない?」コソコソ
少女「…………」
少年「ダメだ……少女ちゃんは既に頭の回転を完全に止めている……」コソコソ

23 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 16:58:58 ID:6tdnyeYU
…………
商人「なるほどねぇ。で、魔物については?」
眼鏡「……特に何かをしているわけではないが勇者の剣だからそれなりの魔力などが流れ出してしまっているかもしれない、らしい」
商人「なーるほどねぇ私は伝承なんかにゃ詳しくないが、魔装具ってのは使うべき人間と引き合うんだろ?だったら勇者はここに引き寄せられる可能性もあるわけだろ?少し長居するか」
眼鏡「……そうする」
商人「はっはっは。まぁ何より魔物が出ないと安全だしな。おおそうだ、君達も好きなもの食べていいぞ」
少女「ほんとですか!?えーっと、えっと……」
少年「少女ちゃん、遠慮がないね……」
眼鏡「…………ステーキと、パン。それにコーンスープ」
少年「眼鏡ちゃんは見た目によらず結構がっつり食べるんだね……」
眼鏡「…………」ムッ
少年「にゃんで、ぼくは、ほっぺを、むにゅむにゅ、しゃれてりゅの」ムニュムニュ
商人「はっはっは、そいつは小さいのを気にしてるのひゃ」ムニュ

24 :以下、名無しが深夜にお送りします:2016/02/29(月) 17:05:22 ID:6tdnyeYU
【第4話】
少女「焼おにぎり食べる?」
剣「食えん」
少女「えーっ。初級火炎魔法で焼いてみたんだよ」
剣「食えんのだから仕方あるまい。というか魔法の使い道を間違ってないか」
少女「この宝石のとことか押し込んでみたら食べれたりしないかな?……魔法ってなんかかっこいいからつい使っちゃうんだよね。それに勇者って魔法使うんでしょ?」
剣「汚れるだけからやめろ。それにもったいない。勇者の中には魔法は使えんものもいたがな」