2chまとめサイトモバイル
勇者「お母さんが恋しい」
Part6


128 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:39:25.16 ID:w6WMB1Keo
勇者(せっかくお母さんがくれた体なのに、傷付けられちゃった)
勇者(……お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい)
勇者「あ……ぁ……」
エミルの手は毛布を握りしめ、震えている。涙は枯れていた。
勇者(ぼくとお母さんが親子じゃないなんて、うそだよね……?)
勇者(ぼくはお母さんから生まれたんだよね? そうだよね?)
勇者(ぼく、人間のままだもの)
誰かが部屋の戸を叩いた。
勇者「だ、れ…………?」
メイド長「失礼します」
メイド長「エミル様の世話係に任命されました、メイド長のメル=ルナリアと申します」
メイド長「親しい者からはくっつけてメルナリアと呼ばれておりますわ」

129 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:40:20.37 ID:w6WMB1Keo
勇者「メル……海。海と、月の花。綺麗な名前」
メイド長「ありがとうございます、エミル様」
勇者(どうして、様付けなんだろう)
メイド長(虚ろな目……お可哀想に)
勇者(藍色の髪。蜂蜜みたいな目の色。海上に浮かぶ月みたい)
勇者(この魔族も、魔気を抑えているみたい)
勇者「……かなり高位のドラゴン……二つの種類が混ざってる」
メイド長「! よくお気付きで……」
メイド長「仰る通り、私はゴールドドラゴンとマリンドラゴンのハーフでございます」
勇者「魔力で、わかるんです……」
勇者「なれるんだ……人型……」
メイド長「ええ」

130 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:40:50.46 ID:w6WMB1Keo
メイド長「こちらをどうぞ。魔気避けの強力なアミュレットでございます」
勇者「…………」
勇者「あれ……この服……」
メイド長「ヴェルディウス陛下が、そのお召し物をエミル様にと」
エミルは眠っている間に着替えさせられていた。
勇者(ラウルスさんが売っていた……南西の服とよく似てる)
勇者(偶然かな)

131 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:41:18.93 ID:w6WMB1Keo
メイド長「……ふう」
執事「どうでした? エミル様のご様子は」
メイド長「しばらく男の人は近寄らない方がいいでしょうね」
執事「だそうですよ魔王陛下ー」
魔王「…………」
執事「成果はどうだったんですかー」
魔王「……わずかに魔族化の兆候が見られた程度だった」
魔王は頭を抱えている。

132 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:41:44.55 ID:w6WMB1Keo
魔王「……私は床に就く。お前らも休め」
魔王の姿は回廊の闇へ融け込んだ。
執事「はあ、まったく……一度本気の目になったら止まらないんだから」
執事「そしていつも後悔する」
メイド長「しばらく気苦労が増えそうね」
Now loading……

133 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:42:19.44 ID:w6WMB1Keo
kokomade

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/13(土) 14:43:01.94 ID:lk6M5/63o
乙乙

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/13(土) 14:59:16.60 ID:PhOWv3YW0
otu

137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/13(土) 23:05:06.89 ID:tKXcybSUo
ただただ素晴らしいとしか言い様がない
どうやって書いたんだ?

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/14(日) 02:37:12.85 ID:acDz+xl30
期待してっぞ

140 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:09:30.80 ID:XIR0jn7Ro
勇者父「……ついに代替わりか」
光の大精霊「ええ……」
勇者父「長かったなあ、俺の真の勇者人生も」
光の大精霊「…………」
勇者父「心配すんなよ、俺には生まれ持った光の力だってある」
勇者父「そんなすぐに死にゃあしないさ」
女勇者「シュトラールー! 母さんがご飯できたってー!」
勇者父「娘が呼んでる。じゃあな、美人の大精霊さん」
勇者父「パパって呼んでくれよ〜」
女勇者「い・や!!」
Section 5 味

141 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:10:10.91 ID:XIR0jn7Ro
エミルが死んだと広報されて二日が経った。
平和協会には優秀な情報魔術師が多く所属しているため、情報の伝達は非常に速い。
気功師「……」
気功師は胡坐をかき、床に広げた地図に意識を集中している。
気功師「……勇者エミルは生きておる」
武闘家「本当なんだな、師匠」

142 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:11:22.02 ID:XIR0jn7Ro
国王「あと二ヶ月以上かかると予想された試練をたった二日で乗り越えるとは」
国王「流石稀代の勇者シュトラールの長男だ」
国王「西へ旅立ち、妹の仇を討つがよい」
勇者兄「はっ」
国王「うむ、よい面構えだ」
勇者兄「……ところでよ」
国王「む」

143 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:12:06.18 ID:XIR0jn7Ro
勇者兄「エミルを旅立たせたったぁどういうことなんだよぉ国王陛下サマァ?」
宰相「へ、陛下に剣を向けるなんてとんでもない無礼じゃぞ!!」
法術師「無礼どころじゃないわね。あと、陛下に様は重複してるわ」
魔法使い「ああ、もう……普段は好青年なのに妹のこととなるとこれなんだから」
国王「は、反逆罪で極刑ものであるぞ!!」
勇者兄「やれるもんならやってみろよ。魔王を倒せる人材はいなくなるけどな」
国王「ひっ」
勇者兄「エミルはお前等に殺されたようなもんじゃねえか!!」
武闘家「それくらいにしとけよリヒトさん」
武闘家「平和協会に歯向かったら大陸中を敵に回すことになる」
武闘家「めんどくせえだろそんなん」
勇者兄「ふん」

144 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:12:32.40 ID:XIR0jn7Ro
勇者兄「ちくしょう……エミル……俺が聖域に籠っている間に……」
魔法使い(せっかく久しぶりに会えたのに、妹のことばっかり……)
勇者母「…………」
勇者兄「母さん、行ってくるよ」
勇者母「私、あの子を助けてあげられなかった……」
勇者母「リヒト……あなたまでいなくなったら、私……」
武闘家「エミルは生きてるよ」
勇者兄「なんだと!?」
勇者母「!?」
魔法使い「何ですって!?」
法術師「本当に!?」

145 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:13:57.20 ID:XIR0jn7Ro
武闘家「死んだなんてのは平和協会が流したデマだ」
武闘家「俺の師匠がエミルの居場所を念術で探ってくれた」
武闘家「あいつは魔王城で生きてる」
勇者兄「本当なんだな!!!!」
武闘家「あいつらはエミルを死んだことにしてリヒトさんと世間を怒らせ、」
武闘家「魔属を殲滅しようと思ってるんだろうな」
勇者兄「っ……」
勇者兄「ちくしょう…………俺は奴等の手駒なんかにはなりたくねえ」
勇者兄「いつか打っ潰してやる」
勇者兄「だが面倒なことは後だ! エミルを助けに行くぞ!」

146 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:14:29.43 ID:XIR0jn7Ro
気功・念術は東の大陸から入ってきた技術であり、神秘の力を秘めている。
しかし、魔術や癒しの力である法術が発達しているこの大陸ではほとんど浸透していない。
扱っている者のほとんどは東の大陸からの移民の血を引く者達である。
勇者兄「あいつが旅立ったのは、俺が聖域に入った一ヶ月後……」
勇者兄「俺が父さん並みの早さで試練を突破してさえいればこんなことには……!」
武闘家「試練の突破にかかる期間は平均六ヶ月だっけか」
魔法使い「リヒトは三ヶ月半くらいよね。充分すごいじゃない」
勇者兄「父さんは一週間だ」
魔法使い「え!?」
勇者兄「試練を終えたら母さんと結婚する約束をしていたらしい」
武闘家「周囲に女がいない環境に耐えきれず勢いで終わらせたって聞いたことあるんだが」
勇者兄「……それも真実のような気がする」

147 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:15:06.74 ID:XIR0jn7Ro
気功師「……助けに行くのだな」
武闘家「ああ。あんな奴でも一応ダチだからな」
気功師「お前は私の一番弟子だ。必ず帰ってこい」
武闘家「死ぬつもりはねえよ」
女子1「絶対帰ってきてね!」
女子2「パン焼いて待ってるから!」
女子3「コハク君が帰ってくるまでにはもっともっと美人になってるから!!」
女子4「旅先で女の子作ったら許さないんだから!」
女子5「絶対、エミル君のっ仇をっ討ってきてねっ……ぐすっ」
武闘家「おう」
気功師「こんなに大勢のおなごを誑かしていたとは!」
気功師「お前なんぞ私の弟子に相応しくない! 一生帰ってくるな!!」
武闘家「ひでえ」

148 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:15:38.05 ID:XIR0jn7Ro
勇者兄「……お前も親父の隠し子だったりしないよな?」
武闘家「しねえよ!!」
法術師「エミルちゃんもちょくちょく女の子に人気だったわね」
勇者兄「父さんは意識的に女を口説いてたが、あいつは天然ジゴロだったからな……」
武闘家「ナンパする時あいつ連れてったら便利だったな〜」
勇者兄「ナンパって……お前何歳だよ」
武闘家「もうすぐ十三」
法術師「最近の子って進んでるのね」
勇者兄「エミルを変なことに使うんじゃない」

149 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:16:39.18 ID:XIR0jn7Ro
魔法使い「……真の勇者の不貞って罪にならないのよね」
法術師「強い光の力を持った子供がたくさんいるに越したことはないからね」
魔法使い「…………」
法術師「んもう、まだリヒト君と付き合ってすらないのに心配しちゃってるなんて〜」
魔法使い「なっ」
法術師「アイオったらか〜わいい〜」
魔法使い「や、やめてよ。男二人に聞こえたらどうすんのよ」
法術師「せっかく久々にリヒト君と会えたのに、」
法術師「こっちを見てもらえなくて寂しいんだよね〜うんうん」
魔法使い「やめてよ!! もう!!」
勇者兄「何喧嘩してるんだー行くぞ〜」
法術師「は〜い」
魔法使い「セレナったら……」

150 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:17:43.80 ID:XIR0jn7Ro
大魔導師「リヒトには見えていなかったのであろうか……エミルの魂に眠る黒き何かを」
国王「相当の術師であっても漸く微かに感ぜられる程度のものなのであろう?」
国王「その上、リヒトは盲目的に妹を愛している。気が付かないのも無理はない」
大神官「しかし、国王陛下に剣を向けるとは……」
国王「いざという時は母親を人質に取ればよい」
国王「非人道的なことではあるが、平和のためだ」
協会幹部1「不穏分子を尽く取り除くことで平和は保たれる」
協会幹部2「大陸の平和は、我等平和協会の名の元に」

151 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:18:10.35 ID:XIR0jn7Ro
ーー魔王城
勇者「ぼくが怖くないんですか」
勇者「小さいとはいえ、光の力を持っています」
勇者「魔属にとっては猛毒です」
メイド長「あなたが魔属に危害を加えないことは、よく承知しておりますから」
勇者「…………」
メイド長「こちらへ。髪を整えましょう」
勇者「…………」
メイド長「豊かな髪……いじり甲斐がありますわ」
勇者「……結ったって、可愛くなんてなりません」
勇者「ぼく……男の子みたいだし……」
メイド長「そんなことはございません。可愛らしくしてみせます」
勇者「でも……可愛くなる必要なんて……」
エミルは泣き出した。

152 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:18:38.46 ID:XIR0jn7Ro
勇者「ぼく……もう、お嫁さんにだって……なれないのに……」
メイド長「あ…………」
勇者「こんな綺麗な服着てたって……何の意味もない……」
勇者「ぼくの服……返してください……」
メイド長「…………」
勇者(誰も……恨んだり、憎んだりしたくないのに)
勇者(どんなにいじめられたって、相手を憎んだことはなかったのに)
勇者(男の人が……怖くて仕方がないんだ)
勇者(お母さん、どうしてるかな)
勇者(お父さんは滅多に帰ってこないし、お兄ちゃんもぼくもいなくなって、)
勇者(おうちでひとりぼっち)
勇者(寂しいだろうな)
勇者(おうちに……帰りたい)

153 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:19:10.79 ID:XIR0jn7Ro
ーーーーーー
ーー
勇者母『エミル、おかゆできたわよ』
勇者『ん……』
勇者母『ふーふーしてあげるから、ちゃんと食べるのよ』
勇者『うん』
ーーーーーー
勇者「お母さんのおかゆ……食べたい……」
勇者「調理場……貸して……」

154 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:19:45.66 ID:XIR0jn7Ro
勇者(魔王城で食べるご飯は、おいしい)
勇者(でも、魔族の味付け)
勇者(人間の……お母さんの味が恋しい)
メイド長(大丈夫かしら……あんなにぼうっとしてらっしゃるのに、お料理だなんて)
メイド「きゃっ……人間!?」
調理師「魔王様が飼っておられる女の子だ。害はないらしい」
メイド「あら……そうなの」
調理師「丁重に扱えってよ。魔王様も物好きだよなあ」

155 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/14(日) 16:20:25.42 ID:XIR0jn7Ro
メイド長「お手伝いいたします」
勇者「よかった……知ってる食材、いっぱいある……」
メイド長「魔王陛下がエミル様のためにお取り寄せなさったそうです」
勇者「ぼくの、ため……?」
メイド長「ええ。東の地方まで超特急でドラゴンを飛ばしてまで」
執事「東へ往復させられたドラゴンでーす。あはは……」
勇者「メルナリアと半分同じ……ゴールドドラゴン……竜族最上位……五大魔族の一柱」
勇者「サンダードラゴンより飛ぶのが速い……はず」
メイド長「ええ。彼は純血のゴールドドラゴンです」
メイド長「人型に化けるのも私より得意なので、」
メイド長「人間の集落での買い物にはうってつけというわけです」