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勇者「お母さんが恋しい」
Part5


100 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:46:21.30 ID:9ruHHYBBo
雪魔族「そして、それは我等とて同じこと」
雪魔族「恐るるに足らぬ大きさとはいえ、光の力を持つ勇者……貴様には死んでもらう」
風竜「待てフロスティ!」
雪魔族「止めてくれるなアネモス!」
雪魔族「今は理想ばかり述べる子供であっても、」
雪魔族「いつかは我々に剣を向けるようになるだろう! 所詮人間の勇者なのだ!」
雪魔族は風竜の静止を振り払い、エミルに突進した。

101 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:48:48.02 ID:9ruHHYBBo
勇者「ぼく、ここで死んじゃうんだ」
エミルは茫然と迫りくる攻撃を眺めた。
勇者「お母さん、ごめんね。帰れそうにないや……」
そして一筋の涙を流す。
勇者「……最初からわかってた。王様達が、ぼくを……魔族に殺させようとしてたって」
傷だらけの幼い勇者は、故郷で待つ母を想いながら意識を失った。
雪魔族「!?」
雪魔族は既の所で攻撃を止めた。
雪魔族「こいつは…………!」

102 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:49:36.51 ID:9ruHHYBBo
力無く倒れ行くエミルの身体を受け止めたのは、
魔王「…………」
雪魔族「へ、陛下……!?」
西の最果ての城で待ち構えているはずの、魔王であった。
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103 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:50:04.10 ID:9ruHHYBBo
kokomade

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 20:15:56.31 ID:G9efKJh00
乙乙

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 22:18:54.57 ID:C91smnfg0
otu
matteru

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 22:29:15.51 ID:l9EmUtsDO
otu kitai

108 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:16:35.98 ID:w6WMB1Keo
Section 4 喪失
雪魔族が攻撃を止めたその瞬間、魔王が姿を現した。
魔王「サンダードラゴンの群れを手配した。明日には避難が完了するだろう」
雪魔族「は、ははっ」
娘父(おいおいこりゃ冗談だろう?)
娘父(はは、こりゃまた随分若い魔王様だ)
娘父(父親とよく似てやがる)
魔王「……エミルは殺すなと命じたはずだ」
雪魔族「も、申し訳ございません」
雪魔族は跪いて小刻みに震えている。

109 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:17:02.75 ID:w6WMB1Keo
魔王「こちらも手配が遅れたからな。今回だけは見逃してやろう」
魔王「だが……次は無いぞ」
雪魔族「ひっ」
雪魔族「き、き、肝に銘じ、ます」
雪魔族(魂の奥深くに封印されていたが、わずかに見えた)
雪魔族(あの子供は…………!)

110 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:17:28.28 ID:w6WMB1Keo
隊員Y(な、なんて威圧感だ……)
隊員Z(もうおしまいだ…………!)
娘父(まさか魔王様直々にお出迎えなんてなあ)
娘父(……エミルは確かに人間から処分されて当然の存在だ)
娘父(だが、平和協会はエミルの正体を確信しきることができなかった)
娘父(だから魔族に殺させそうとした)
娘父(しかし……魔王がエミルの正体を知っているとしたら)
娘父(エミルを仲間として引き入れる可能性は充分すぎるほどある……!)

111 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:18:22.30 ID:w6WMB1Keo
魔王「アネモス、ご苦労であった」
魔王「我はこの者を連れて城に帰る。後は任せたぞ」
風竜「はっ」
魔王は瞬間転移魔法<テレポーション>を使用した。

112 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:18:52.06 ID:w6WMB1Keo
魔王「エミル……」
魔王の瞳は憂いに満ちていた。
魔王「もう二度と相見えることはないはずだった」
勇者(誰……?)
勇者(力強い腕に、抱かれている気がする…………)

113 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:19:23.44 ID:w6WMB1Keo
執事「お帰りなさいませ、ヴェルディウス陛下」
メイド長「お帰りなさいませ」
魔王「コバルト、エミルに施されている封印術を解読してくれ」
執事「はい」
コバルトと呼ばれた執事姿の青年が魔法陣を展開すると、
魔王はエミルを魔法陣の中に浮かせた。
執事「魔法解読<ディコード・マジック>」
エミルの胸元から小さな魔法陣が浮き上がり、そして文字の羅列となって流れ出した。
執事「くっ」
しかし、途中でバチバチと光が破裂し、魔法陣は収縮してしまった。

114 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:19:49.13 ID:w6WMB1Keo
執事「封印の後半部分に、真の勇者の物と思われる光の力が纏わりついています」
執事「封印の解除方法を全て解読することは……我々には不可能です」
魔王「読み取れたところまででいい」
執事「それが、その……」
魔王「……」
メイド長「まあ……」
コバルトの言葉を聞き、魔王は眉をひそめ、メイド長は目を丸くした。
魔王「……あの男の考えそうなことだ」

115 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:20:23.61 ID:w6WMB1Keo
『魔物を守る裏切り者ー!』
『すぐ泣く弱虫勇者ー!』
『魔力でっかちー!』
『『『ばーけーもの! ばーけーもの!』』』
『くぉらおまえらあああああ!』
『やっべーリヒトだ! 逃げろ!』
ぼくは、ばけものなんかじゃない……。
勇者「う……」
勇者(ここ、どこ? お城? 豪華な部屋……)
エミルは柔らかい寝台に寝かされていた。
魔王「目を覚ましたか」
勇者「!?」

116 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:21:14.72 ID:w6WMB1Keo
勇者「あ……」
勇者(心臓と闇の力が同化してるのが見える。この魔族は……魔王)
魔王「…………」
勇者「…………」
魔王「………………」
勇者「………………」
魔王「……………………」
勇者「……………………」
魔王(何から話せばいいんだ)
勇者(何でぼく生きてるんだろ)
魔王「……水でも飲むか?」

117 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:28:36.58 ID:w6WMB1Keo
勇者(敵から出された飲み物を飲むなんてぼく一体何やってんだろ)
勇者(でも、生きてるってことは生かされたってことだし、敵意は感じられないし……)
勇者(……寂しそうな目。氷の裂け目みたいな、冷たい青緑)
勇者(髪の毛は不思議な色してるなあ)
勇者(光の当たり具合で灰色の髪に薄く虹色が混じったりしてる)
勇者(遊色効果、っていうんだっけ、こういうの。オパールみたい)
勇者(魔王ってもっと怖い見た目なのかなって思ってたけど、)
勇者(肌が土気色なのと、髪の毛が不思議な色なのと、ツノが生えてるところ以外は)
勇者(ほとんど人間と同じ……)
魔王「……あまりじろじろ見ないでくれ」
勇者「! ごごごめんなさい」

118 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:29:15.44 ID:w6WMB1Keo
魔王「…………」
勇者(怖い、けど……話せばもしかしたら分かり合えるかもしれない)
勇者「えっと……雪の魔物達は……」
魔王「今頃サンダードラゴンの背に乗って移動している。心配する必要はない」
勇者(サンダードラゴン……とっても飛ぶのが速くて、)
勇者(標高の高いところでも平気でいられる、上位の竜)
勇者「そう、ですか……ありがとうございます」
魔王「…………」
勇者(魔王なら濃い魔気を纏ってて当然のはずなのに、体内に収めてるみたいだ)
勇者「……魔気、抑えることって……できるんですか?」
魔王「ああ。多少肩はこるがな……」
勇者(ぼくのためにしてくれてるのかな……)

119 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:29:47.14 ID:w6WMB1Keo
勇者「あ、ぼくの怪我、治してくださったんですか?」
魔王「……ああ」
勇者「えっと……ありがとう、ございます」
勇者「…………どうして助けてくれたんですか?」
勇者「ぼくは、魔族を倒すよう命じられた、勇者、なのに……」
魔王「…………」
魔王「………………落ち着いて聞いてくれ」
魔王「お前は、魔族だ」

120 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:34:46.37 ID:w6WMB1Keo
勇者「え…………」
魔王「エミル、お前は魔族の血を引いている」
勇者「…………」
勇者(ぼくが、まぞく……?)
勇者「うそ……」
勇者「うそでしょ……」
勇者「だって、ぼくは、お父さんも、お母さんも、人間だもの……」
魔王「……父親は人間だが、お前の母親は」
勇者「うそだ!!」
勇者「何かの間違いだ!! 人違いに決まってる!!!!」
勇者「ぼくはお母さんの子だもの!!」

121 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:35:12.64 ID:w6WMB1Keo
魔王は勇者を寝台に押し付けた。
魔王「お前の魔族としての血は封印されている!」
魔王「そして、その封印を解くには……」
ーーーー
執事『それが、その……』
執事『魔族と……情を交わすこと、と』
メイド長『まあ……』
魔王『……あの男の考えそうなことだ』
執事『彼女を人間の元へ帰しましょう。これではエミル様を深く傷つけることになります』

122 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:35:38.63 ID:w6WMB1Keo
魔王『帰したところで何になるというのだ!』
魔王『人間共は再びエミルを処分しようとするだろう』
執事『しかし、この土地には魔気が濃く染みついています』
執事『エミル様の封印を解かない限り、エミル様の体は魔の気に蝕まれてしまうでしょう』
執事『長くは持ちませんよ』
魔王『…………』
魔王はエミルを抱え、その場に背を向けた。
執事『エミル様を何処へお連れするおつもりですか』
魔王『……メルナリア、エミルのために東の空き部屋を整えておいてくれ』
魔王『私は自室へ戻る』
メイド長『承りました』

123 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:36:07.11 ID:w6WMB1Keo
執事『完全に解読できたわけじゃないんですよ!』
魔王『……他にできることもないだろう』
執事『お待ちください魔王陛下!』
執事『陛下ったらー!』
ーーーー
魔王「……お前を守るためにはこうするしかないんだ」
勇者「何するの? い、いや! はな、して」
恐怖のあまり、エミルの体は強張ってしまい自由に動けない。
勇者(お母さん、助けて……お母さん!)
「すまない」と、魔王はエミルの耳元で小さく囁いた。

124 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:37:12.13 ID:w6WMB1Keo
ーーセントラルの町
娘「パパ、お帰りなさい! よかったわ、無事に帰ってきてくれて」
娘父「ああ……」
娘「ねえ、町中が避難避難って騒いでるけどどうしたの? エミルは?」
娘父「…………」
娘「ねえ……エミルは!? 何で一緒じゃないの!? パパ!!」
娘父「……あいつは頑張ったよ。あいつのおかげで死者が一人も出なかった」
娘父「大した勇者だ」

125 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:37:43.49 ID:w6WMB1Keo
ーーブレイズウォリア・平和協会本部
協会幹部1「エミル・スターマイカが魔王に捉われたそうだ」
協会幹部2「……死んだことにしよう。リヒトの怒りを駆り立てるために」
国王「うむ、それがよかろう」
協会幹部3「だがあの魔力は驚異。魔王に利用される可能性がある」
協会幹部3「本当に殺されていることを願いたいものだな」
ーーブレイズウォリア北・聖域の森
勇者兄(試練もこれで残り半分弱か)
法術師「久しぶり、リヒト君」

126 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:38:23.94 ID:w6WMB1Keo
勇者兄「よう、セレナじゃないか。どうしてここに……」
勇者兄「あ、そういや聖職者だったな」
法術師「コネを利用してこっそり様子を見にきちゃった」
聖域は真の勇者・真の勇者候補、
そして彼等の世話をする最低限の聖職者以外立ち入ることは許されていない。
また、試練に集中するため、外界の情報はほとんど遮断される。
勇者兄「飯持ってきてくれたのか? そこ置いといてくれ」
法術師「ええ」
勇者兄「ここで出される食いもんはあっさりしたものばっかりでよ、」
勇者兄「そろそろごっつい物も食べたいぜ」
法術師「……実は、悪い知らせがあるの」

127 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/13(土) 14:38:54.28 ID:w6WMB1Keo
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ーー
勇者(……天井、じゃない。ベッドの天蓋だ)
勇者(さっきとは違う部屋みたい)
勇者(ぼく、泣き疲れて寝ちゃったんだ)
エミルは上体を起こした。
勇者「っ!」
勇者(おなか、チクチクする)
勇者(ぼく、男の人に汚されちゃったんだ)
勇者(本当は、両想いの人と結婚してからすること、されちゃった)