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勇者「お母さんが恋しい」
Part4


76 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:13:12.39 ID:9ruHHYBBo
娘祖父の家
娘祖父「わしの娘の夫ーーこの子の父親バーントが勇者の一族の血を引いておっての」
娘祖父「普段は南の村に住んでおるのじゃが、」
娘祖父「たまに家族でわしの家に泊まりに来てくれるのじゃよ」
勇者「そうなんですか」
娘祖父「お主は父親の小さい頃によく似ておるのう……」
娘祖父「あやつはもう少し面長であったが」
勇者「お父さんの子供の頃を知ってるんですか?」
娘祖父「うむ」
娘祖父「シュトラールは幼い頃から父親に連れられ、旅をしながら修行を積んでおった」
娘祖父「この町にも度々訪れておったよ」
娘祖父「現れる度に女性を口説くのが上手くなっておったのう……」
勇者「…………」

77 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:14:12.05 ID:9ruHHYBBo
勇者「この家には本がいっぱいあるんですね」
娘祖父「町の者からは図書館扱いされておるよ」
娘祖父「奥の部屋にはとても古くて珍しい本もある」
勇者「!」
エミルは目を輝かせた。
娘祖父「普段、奥の部屋は人に見せぬのじゃが、興味があるのなら読んでおゆきなさい」
娘祖父「孫を助けていただいた礼じゃ」
勇者「ありがとう、おじいさん!」
娘父「ただいま。買い出し終わったぞー」
娘母「お父さん、ただいま」
娘「おかえりなさい。丁度今晩ご飯ができたところよ!」
娘父「おい、その子供は……」

78 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:14:40.13 ID:9ruHHYBBo
勇者「こんばんは。ぼくはエミル・スターマイカです」
娘父「……歳はいくつだ」
勇者「12です」
娘父「…………」
娘母「あなた……」
勇者「…………?」
娘父「ブレイズウォリアから勇者が一人旅立ったとは聞いていたが……」
娘「ほら、はやく手を洗って席について! ごはんよ、ご・は・ん!」

79 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:15:19.65 ID:9ruHHYBBo
娘「この頃涼しいわりに湧き水があったかいから助かるわ」
娘「薪を節約できるもの」
勇者「おいしい! どんな香辛料使ったの?」
娘「ココの種と、バジルルの葉っぱの粉末よ」
娘「コンブソウの出汁も取ったわ」
娘「キャロの根からも味がしみ出してるはずよ」
勇者「すごい! 今度ぼくも作ってみよ」
娘「ずいぶん家庭的な勇者様ね」
娘父「……男だったら切り倒してた」
ぼそりと娘の父親が呟いた。
勇者「えっと……お父さんがご迷惑をかけたり……していましたか?」

80 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:15:46.86 ID:9ruHHYBBo
娘父「あの男! 俺の嫁さんに何度も言い寄りやがって!」
娘父「その上あの時は」
娘母「落ち着いて、あなた」
娘父「今度会ったらあの面ブン殴ってやる……」
勇者「お父さんの代わりに謝ります。ごめんなさい」
娘「もー!食事時の空気を悪くしないでよ! ごはんが不味くなっちゃうじゃない!」
娘父「す、すまん」
娘祖父「明日にはみな帰ってしまうのかの?」
娘父「いや、俺は帰れなくなった」
娘「え? 何で!?」

81 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:16:37.81 ID:9ruHHYBBo
娘父「平和協会からの伝令だ。ここから北西の方角の山岳へ戦いに出る」
娘「嘘でしょ!? そんな……」
娘父「仕方ないさ。俺は平和協会の金で育ったんだから」
真の勇者の子供でなくとも、平和協会に申請すれば養育費の援助を受けることができる。
そのため、貧しくとも飢えることはないが、戦士として戦うことが義務付けられる。
バーントが育った家庭は貧しく、平和協会の援助なしでは子供を育てることができなかった。
娘父「ここ数ヶ月、異常気象や災害が多いのは知ってるだろ?」
娘父「この間の地震以来、山岳の魔物達が狂暴になってるらしくてな」
勇者「退治するんですか!?」
娘父「ああ。当然だろ」

82 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:17:09.77 ID:9ruHHYBBo
勇者「でも、地震が原因だとしたら、しばらく様子を見れば元通りになる可能性も……」
娘父「その間に誰かが食い殺されるかもしれない」
娘父「お前は勇者でありながら魔物の肩を持つのか?」
勇者「そういうわけじゃありません!」
勇者「進んで戦っても、かえって犠牲が大きくなるかもしれないんです」
勇者「ぼくはそういった例を旅の中でいくつか見てきました」
勇者「防衛に徹し、攻撃は控えるべきです」
娘父「……お前の言うことが正しかったとしても、協会の命令には逆らえない」
娘父「俺が稼がなかったら、俺の家族は飢え死にするか協会の援助を受けるかの二択になる」
娘父「俺は、娘を戦場にやりたくはないんだ」
勇者「…………」

83 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:18:50.22 ID:9ruHHYBBo
勇者「ぼくも行きます」
勇者「誰も死なずに解決できる方法が見つかるかもしれません」
娘父「……勝手にしろ」
娘父「幸いこういった突発の仕事は給料が前払いだからな」
娘父「俺自身が自ら逃げ出したりしない限り、お前に邪魔されたところで生活には響かない」
娘父(協会は何故こんな子供を旅立たせたんだ)
娘父(……まあ、大体察しはつくんだがな)
娘父(シュトラールは一体何をやっている)

84 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:19:36.73 ID:9ruHHYBBo
夕食後
勇者(二万五千年前の大戦の本がある!)
勇者(この時代の歴史書って、ほとんど残ってないんだよなあ)
勇者(神話レベルになってるし)
ーーーー
二人の勇者は、大精霊からそれぞれ力の結晶を授かり、
大いなる破壊の意思を封印した。
勇者の内一人は東にある故郷へ帰還し、
もう一人の勇者はいずこかへ姿を消した。
時を同じくして、大陸の生命の半分は魔に侵された。
ーーーー

85 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:20:05.26 ID:9ruHHYBBo
勇者「勇者が二人いた……?」
娘祖父「うむ。東へ帰った勇者の子孫は、勇者の一族として今でも現存しておる」
娘祖父「もう一つの力は、一体何処にあるのやら……」
娘祖父「今でも、正しき心を持つ者が受け継いでおると信じたいものじゃ」
勇者(大いなる破壊の意思が封印された直後に魔属が現れた)
勇者(魔属はその時新たに生まれた生命なのか、)
勇者(それとも、元いた生物が魔属に変化したのか……うーん)
勇者(争いの根本的な原因を知りたい)
勇者(人は同じ過ちを繰り返さないために歴史を学ぶ)
勇者(過去を知ることが、より良い未来を作るためには重要なことなんだ)

86 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:20:59.54 ID:9ruHHYBBo
娘「お風呂上がったわよ。入ってきなさい」
勇者「ありがとう、じゃあお借りするよ」
娘「はあ……あなたが男の子だったらなあ」
勇者「あはは。実はそれよく言われるんだ」
娘父「あの時の赤ん坊と再会するとはな」
娘母「ええ……とても良い子に育っているみたいね」
娘父「ああ。余程あいつの嫁さんの教育が良かったのだろう」
娘父「とても優しい子だ……気味が悪いほど」
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87 : ◆Ucv2tEWpDU :2016/02/12(金) 16:21:27.10 ID:9ruHHYBBo
yoru ni saikai shimasu

88 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:23:03.14 ID:9ruHHYBBo
tori misutteta

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 16:50:04.15 ID:hnwgubSSO
otu

90 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:39:42.05 ID:9ruHHYBBo
翌日。
勇者「ぼくは基本的に一人旅を義務付けられています」
勇者「今回の戦いに参加する許可をください」
協会職員「少々お待ちを」
娘父「おい、一人旅を義務付けられてるってどういうことだ」
協会職員「ええと、それは……極秘事項となっております」
娘父(……酷なことを。うちの娘と大して年も変わらんというのに)
協会職員「許可が下りました。討伐隊に加盟します」
勇者「ありがとうございます」
娘父(シュトラール……お前が命がけで護った娘は、世界に殺されようとしている)

91 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:40:09.96 ID:9ruHHYBBo
勇者(狂暴な魔物であっても、魔王の命令を理解する知能のない子は人間を襲う)
勇者(仮に知能が高かったとしても、錯乱すればどうなるかわからない)
勇者(魔物達を説得することも困難かもしれない)
ーー北西の山岳地帯
いくつもの雷鳴が轟いている。
勇者(……寒いなあ。今の季節、この辺りの気候はもう少し温暖なはず)
娘父「風邪引くんじゃねえぞ。足を引っ張られたら困るからな」
勇者「はい」
隊員A「出たぞ! スノウジャガーだ!」
隊員B「スノウアウルまでいるぞ!」

92 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:40:57.51 ID:9ruHHYBBo
勇者(普段は雪原か山奥の標高の高い所に生息している魔物が不自然に多い)
勇者(まるで、元の棲み処から避難してきたかのような……)
ーーーー
娘『この頃涼しいわりに湧き水があったかいから助かるわ』
ーーーー
勇者(! 頻発する地震、温かくなった地下水……)
勇者(これが、噴火の前兆現象だったとしたら……)
勇者「戦っている場合じゃない! 今すぐ遠くへ避難しなきゃみんな死んでしまう!」
娘父「いきなり何を言い出すんだ!?」
勇者「火山が噴火するかもしれません!!」
隊員A「知るか! 俺達の仕事はあいつらの始末だ!」
隊員A「進めー!!」

93 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:41:30.93 ID:9ruHHYBBo
雪魔族「させるものか!」
冷たい突風に討伐隊の隊員達は吹き飛ばされた。
勇者「ま、魔族……!」
雪魔族「その小僧の言う通りだ。もうじきこの山岳地帯はマグマに包まれる」
雪魔族「そうなれば、この子達は焼け死んでしまう。東の山脈へ逃れなければならない」
勇者「寒い気候を好む魔属と避難するために、この辺りの気温を下げていたんですね」
雪魔族「その通りだ。我々の邪魔をするならば消えてもらおう!」
風竜「ガァアアア!!」
雪魔族と共にいる巨大なドラゴンが威嚇を行った。
勇者「みんな逃げて!!」
隊員の半数近くは逃げ出した。
残りは臨戦態勢を保っている。

94 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:42:00.36 ID:9ruHHYBBo
雪魔族「ずいぶん勇敢な人間達だな」
雪魔族「やれ!」
勇者「待って!!」
勇者「みんな生きようとしてるのに、殺し合うなんて間違ってる!!」
勇者「人間も魔属も両方今すぐ避難しなきゃいけないんだ!!!!」
雪魔族「子供の綺麗事を聞いている暇はない!」
隊員C「魔属のために人間の領域が侵されかけているんだぞ!!」
勇者(何で……)
勇者(どうして逃げてくれないの……!?)
隊員A「くっ……突撃しろー!」
隊員達「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」

95 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:42:26.52 ID:9ruHHYBBo
娘父「子供はどうしても発言力が弱いからな」
娘父「真の勇者でもないのに、そんな簡単に人を動かせると思うな」
勇者「!」
隊員L「こいつらが安全な土地へ逃れるまでには、」
隊員L「いくつか人間の集落の近くも通ることになるだろう」
隊員L「こいつらはあまりにも危険なんだよ」
隊員P「はやめに駆除しなければならない。わかってくれ、小さな勇者さん」
勇者「そんな……そんなの、認めない!」
娘父「おい待て!!」
勇者は駆け出した。

96 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:42:52.89 ID:9ruHHYBBo
勇者(高位の魔族がいるから、おそらくスリーピングミストは通用しない)
勇者(一つ一つ潰していかなきゃ)
勇者「バリア! フェイント! バリア! フェイント!!」
勇者は力の及ぶ限り、視界に入った者達を防護壁で包み、気絶させていった。
雪魔族と風竜による遠距離攻撃からあらゆる者達を守るため、
一度張った防護壁を解くこともしようとしない。
雪魔族(奴め、なんという魔法技術だ! 子供とは思えん)
雪魔族「だが」
勇者「!?」

97 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:44:03.72 ID:9ruHHYBBo
エミルの脇腹を氷柱が裂いた。
勇者「あ……ぐ……」
娘父(まずい!)
雪魔族「他者を守ることに集中しすぎたな」
雪魔族「己の防護壁が薄くなっていたぞ」
勇者「くっ……」
雪魔族「これがお前の最期だ」
風竜「待て。魔王陛下の命令を忘れたのか」
風竜「エミル・スターマイカを殺してはならない」
雪魔族「腰抜け魔王の命令なんぞこれ以上守ってはおれぬ!」
雪魔族「私はこの子達を守るために戦う! 例え、魔王の命令に逆らうこととなっても!」
雪魔族「人間なぞ全員蹴散らしてくれるわ!!」

98 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:44:41.99 ID:9ruHHYBBo
勇者「だめ……戦っちゃだめ!!」
雪魔族「あやつ、もうあの傷を治したというのか!?」
娘父「くそっ、数が多すぎる」
バーントは戦いながらエミルの様子を窺っている。
娘父(あいつ、何枚防護壁を貼ってやがるんだ!?)
勇者「お願い……殺さないで!」
勇者「うぐっ……」
エミルは時折流れ弾を受けつつも争いを鎮めようと走り続ける。

99 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 19:45:20.17 ID:9ruHHYBBo
勇者「はあ、はあっ」
娘父「人間と魔物両方の九割方を気絶させやがった……!」
雪魔族「あ、ありえない……」
勇者(もう、これ以上魔法を使う余裕がない……)
魔力は尽きていないが、発動している魔法に対して身体の負担が大きすぎる。
勇者「通り道にある集落に、魔属に近付かず、防衛に徹するようお願いするから……」
勇者「お願い、殺さないで……戦わないで……!」
勇者(あ……意識が……)
雪魔族「……残念だが、お前の理想通りにはならないだろう」
雪魔族「人は己に害を及ぼす存在を許しはしない」