Part35
779 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:30:17.69 ID:FMs7dL8oo
Section 28 未来へ
女勇者「あたしの中から光の力が消えた……」
勇者「……ぼくの中からも光の力が消えた。魔の気もだ」
勇者「光の珠は消失して、破壊神の呪いも解けたんだ」
武闘家「相討ちか」
魔賢者「魔王陛下……リヒトさん……」
法術師「…………っ……」
勇者「…………………………」
猛威を振るっていた人形兵や悪霊達は完全に姿を消した。
780 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:31:00.61 ID:FMs7dL8oo
封印の神殿が消失してから数時間が経過した。
宿屋で、フローライティアは茫然自失としたエミルを優しく抱きしめている。
勇者の一族はただの人間となり、また、
魔属からも魔の気は消失し、もはや魔属ではなくなった。
人間と魔族が融和できない理由は無くなったのである。
勇者(これからは、きっと平和な世界を目指しやすくなる)
勇者(でも、お兄ちゃんも、ヴェルもいない世界で)
勇者(どうやって生きていけばいいの)
法術師「外が騒がしくなったわね。何かあったのかしら」
勇者兄「たっだいまぁ〜!」
魔王「エミル、帰ったぞ!」
勇者「え……?」
781 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:31:59.29 ID:FMs7dL8oo
ーー
ーーーーーー
勇者兄「俺、ずっとおまえのこと嫌いだった」
魔王「奇遇だな。私もだ」
勇者兄「はは、まさか魔王と肩並べて協力し合うことになるなんてな」
魔王「このようなことになるは、シュトラールが現れるまでは思ってもみなかったな」
勇者兄「おまえを倒してエミルを取り戻すことしか考えてなかったのにさ」
魔王「ああ。私もおまえからエミルを守ることしか考えていなかった」
魔王「……だが、おまえを慕うエミルを見て、彼女を独占する気も少しずつ減っていった」
魔王「おまえは正しいと思ったことを貫き通す、真っ直ぐな良い兄貴だ」
勇者兄「俺こそ、エミルにとってどんな兄貴であるべきか、」
勇者兄「おまえからいろいろ教えてもらったよ。悔しいけどな」
勇者兄「……つかれたな」
魔王「……ああ」
魔王「あいつを悲しませてしまうな」
勇者兄「ほんと、それが心残りだよ」
勇者兄「とどめ、刺しに行くか」
勇者父「まあ待てよ」
魔王父「……」
782 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:32:36.61 ID:FMs7dL8oo
疲れ果て、床に座り込んでいた二人の前に現れたのは、
死んだはずの先代真の勇者と先代魔王だった。
勇者兄「父さん!?」
魔王「父、上……?」
勇者兄「ど、うして…………」
勇者父「この世に留まっている霊なら、」
勇者父「悪霊じゃなくても実体化できる程、この空間に破壊神の力が満ちているんだ」
勇者父「ま、ここで息子に死なれちゃ俺まで成仏できなくなりそうだしな」
魔王父「ヴェルディウス……」
魔王「父上……父上……!」
魔王父「我は成仏することができず、ずっとおまえを見守っていたのだ」
魔王父「……すまなかったな。我はおまえの心に癒えぬ傷をつけてしまった」
魔王「……それでも、お会いしとうございました」
勇者父「ほら、光の力よこせよ。とどめを刺してやるくらいの力ならある」
魔王父「おまえはあの娘と幸せになれ」
魔王父「……我が息子よ。我はいつでもおまえの幸福を願っている」
ーーーーーー
ーー
783 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:33:35.84 ID:FMs7dL8oo
勇者「生きて、たんだ……二人とも……」
魔王「父上達が助けてくれた」
魔賢者「リヒトさん!」
勇者兄「おっと」
勇者「ふっ……う……うぅぅぁあぁぁあああ」
魔王「!」
魔王「……」
魔王「エミル、顔を見せてくれ」
勇者「でも、ぼく、今ぐちゃぐちゃ……」
魔王「……感情の区別ができるんだ」
魔王「あの頃のように、肉親としての愛情と、異性としての愛情の二つがはっきり存在しているんだ」
魔王「ああエミル、愛している!」
勇者「ふぐっ」
勇者「……よかったね、ヴェル」
勇者(もう、ヴェルの目から寂しさは感じられない)
勇者兄「エミル〜腹が減った」
勇者「あ! ごめんね、今お料理作ってくるよ!」
784 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:34:04.48 ID:FMs7dL8oo
ーー
ーーーーーーーー
魔王母「ネグル……」
魔王父「オリーヴィア……?」
魔王母「ああ、やっと会えたのね」
彼女の背後には、二組の男女が立っていた。
漸く成仏できた男の魂は、しばらく立ち上がらず懺悔し続けた。
勇者父「やれやれ……俺も親父とお袋に会いに行くとするかな」
785 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:34:53.92 ID:FMs7dL8oo
ーー
ーーーーーーーー
ーーセントラル中央広場
勇者兄「エミルの結婚式だなんて……早過ぎるだろ……ううっ」
勇者「ただの婚約祝いだから! 半ば和平記念兼破壊神討伐祝いみたいなものだし!」
魔王「やはり、正式な婚姻はエミルの故郷の法に従い、」
魔王「エミルが16になってからにしようと思ってな」
勇者母「綺麗よ、エミル」
勇者「ありがとう、お母さん」
狼犬「わふ! わふ!」
勇者(お父さん、見てくれてるかな)
女勇者「良い旦那見つけたわね」
武闘家「よかったな」
少女「おめでとう、エミル君」
娘「処刑騒ぎの時は心底心配したんだから」
女子5「ぐすっ……ぅぅ……幸せになってね……」
村長「めでたいことですな」
村長の孫「……けっ。あの時は悪かったな」
勇者「みんな……ありがとう」
商人「これはお祝いの品だ。良かったら受け取ってほしい」
勇者「わあ、ありがとうラウルスさん!」
法術師「いいなあ……私も早く結婚したいなあ」
騎士「じゃあ、帰国したらすぐにでも式を挙げよう」
786 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:36:02.79 ID:FMs7dL8oo
魔王兄「おまえそれ人間の正装か? 似合ってるじゃねえか!」
魔王「ありがとうございます、兄上」
魔王兄「……おまえ、どうしたんだ? 新しい病気でも患ったか?」
魔王「失敬な……むしろ快気を祝っていただきたい」
執事「いやあ、めでたいですねえ」
魔従妹「……はあ。仕方ないから祝ってあげるわ」
老賢者「このめでたい日までこの体が持ち堪えてくれて嬉しいよ」
老賢者(ネグルオニクス様……どうか安らかな眠りを)
メイド長「ヒルギー!」
青年「ルナリア! ああ、会いたかったよ!」
青年「一日たりとも君のことを忘れた日はなかった!」
魔属は破壊神の呪いから解き放たれ、魔力容量も人間・動物並みとなった。
また、姿形の変化はほとんどないが、魔族の土気色の肌は赤味を帯び人間らしい血色となっていた。
そのため魔族は人類として分類されることとなり、
同じく魔物も動物の一形態として扱われるようになったのである。
ただし、神聖な生物であるゴールドドラゴンだけはその高い魔力を保持している。
787 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:36:43.24 ID:FMs7dL8oo
執事「では真の勇者様、魔王陛下、エミル殿下」
執事「新たな時代に向けてお言葉をお願いいたします」
勇者兄「うっぐすっ」
勇者「ほらハンカチ」
勇者兄「ふぐっ……」
勇者兄「俺は、かつて魔王討伐の象徴であり、人類の希望として戦っていた!」
勇者兄「しかし人魔の戦いは終わりを告げ、俺は光の力を失った」
勇者兄「だが、俺はこれからも人類の希望で在り続けたい」
勇者兄「人間だけじゃない、魔族も人類なんだ!」
勇者兄「最早魔族と人間の区別をつける必要さえ無くなった」
勇者兄「人間だろうが魔族だろうがその中間の奴だろうが構わない」
勇者兄「困った時は俺を頼ってくれ! 以上!」
788 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:37:47.21 ID:FMs7dL8oo
魔王「我は人類滅亡の象徴であっただろう」
魔王「だが我は平和を、この世の安寧を望んでいる」
魔王「誰もが心穏やかに暮らせる世界を実現するための努力は惜しまぬ」
魔王「破壊神という名の脅威により、この大陸の民には甚大な被害がもたらされた」
魔王「亡くした命は取り戻せぬ。心に傷を負った者も多いであろう」
魔王「このような時だからこそ、手と手を取り合い、」
魔王「共に新時代を築こうではないか」
執事「では、エミル殿下」
勇者(緊張するなあ)
勇者「……私は、真の勇者であった父と、魔族の母から生まれた半人半魔です」
勇者「私は人間として育ち、自らの正体を知らされた時は信じられませんでした」
勇者「しかし、今は狭間の存在として生まれたことを誇りに思っています」
789 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:44:24.62 ID:FMs7dL8oo
勇者「まだ、大切な人を奪った魔族を、人間を、許せない人はたくさんいると思います」
勇者「憎しみはそう簡単に消せるものではありません」
勇者「ですが、憎しみに身を任せれば、自らの手で大切なものを更に壊しかねません」
勇者「誰かが嫌いなら、できるだけ距離を取ればいいのです」
勇者「怒りの対象から遠ざかり、穏やかに過ごせば、それ以上何かを失うことはありません」
勇者「でも、どうしても近くにいざるを得ない場合もあるでしょう」
勇者「そして、種族が違っていても、仲良くすることを望んでいる人間と魔族もいます」
勇者「私は、そういった人達のお手伝いができたらいいな、と」
勇者「そう、思います」
勇者「誰かを憎むより、誰かを愛している方が遙かに幸せです」
勇者「私はこの大陸に生きる全ての生命の繁栄と平和を願い、」
勇者「実現に向けて力を尽くします!」
少しずつ拍手の音は重なりを増し、やがて喝采が沸き起こった。
790 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:45:03.17 ID:FMs7dL8oo
勇者「人間と魔族は、それぞれ異なった文化を持っている」
勇者「お互い良いところを学べば、きっと文明が栄えて、豊かな暮らしができる」
勇者「そのために、いっぱい勉強して、より良い世界を作りたいんだ!」
魔王「おまえならできるさ」
魔王「私も手伝おう」
勇者「うん!」
この時代を境に、この大陸の住人の生活は大きく変容した。
新たな時代の到来には混乱が付き物だが、彼等なら乗り越えてゆけるだろう。
輝かしき未来へと……
THE END
791 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:48:22.21 ID:FMs7dL8oo
読んでくださった方々、ありがとうございました
・もし転載する場合は……
安価でミスを指摘したところは修正しておいていただけると助かります
ただ、>>2の「五ヶ月前」は「二ヶ月半前」じゃなく「旅立ちの日」に修正していただけると非常に嬉しいです
あとできれは>>35の『僕も、そう思うよ』を『ぼくも、そう思うよ』に
また、最初の注意書きに
「ショタホモ要素有、注意」
と足しておいていただきたいです
私の意向で改変を加えたことを最初に明記しておくと安全かもしれません……
792 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 20:49:48.16 ID:FMs7dL8oo
>>536に関してですが、ブラコンではなさそうです
男の娘を抱けたのは、五年前(当時十五歳)は性欲が昂りすぎてとにかく捌け口がほしかったためであり、
また、政治に協力していたのも、当時反抗期真っ盛りで性格が捻くれており、
政治家達をぎゃふんを言わせて議会を引っ掻き回すことが楽しかったからです
弟のことは、だめだめ過ぎてほっとけない奴くらいには思っていたかと思います
793 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/10(木) 21:00:21.63 ID:GEoZSR5DO
乙
面白かったよ
番外編早よ!
794 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/10(木) 22:22:26.18 ID:YwdTRYCv0
面白かった!乙!
けど面白かったが故に終わってしまった寂しさもある
795 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/10(木) 22:33:47.23 ID:A8PGwozV0
おつなんだよー
796 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/10(木) 23:24:09.36 ID:FMs7dL8oo
番外編にしようか迷っていた話はほとんど本編に組み込みました
原作から新たに追加した要素はたくさんありますが、
逆に削ったキャラやエピソードもありますし(勇者に横恋慕する少年とかいました)、
いずれ他所に修正版投下するかもしれません。しないかもしれません
場所は未定ですがやるとしたらおそらくpixivかなろうです
エロを省いたのは、エロを書くとエロ以外の部分を書く気力が無くなるからだったんですが、
情事書かないとリアルタイムでの絶望感とか幸福感とか出せなかったので少し後悔してます……
797 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 00:43:53.67 ID:yPEBA1rDO
>>796
> 番外編にしようか迷っていた話はほとんど本編に組み込みました
となると魔族が追放されてた大陸に勇者が連れ去られて修羅編がスタートするんですね?
798 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 10:29:34.68 ID:4x4qz4Vto
やはりハッピーエンドはよい
え、魔法使い? 知らない子ですね
エロはエネルギー消費が激しいからなあ…とはいえ、あったらもっと嬉しかった
なろうだとR15までだから、どっちにしろ読めんじゃないか
>>792
兄さん、しょうもないなww
乙でした!
799 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/11(金) 11:36:09.22 ID:CRdAP0gDO
アイオのその後は自分でも想像できなかったんでエピローグには登場させませんでした
原作だと破壊神関係なく第一部ラストでエミルを殺そうとし、
第二部開始時点で実家に強制送還されてる子だったので
800 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 13:00:27.88 ID:4x4qz4Vto
おおう、マシな扱いになってアレだったか…村長の孫でさえ謝ったというのに
そういえばキャラ名がみんな宝石鉱物金属系なんだなと今さらの突っ込み
801 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 13:59:38.97 ID:jrhCH8kC0
とってもよかった!乙!
802 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 15:08:39.04 ID:GLfINEDgO
いやいやどう見ても魔法使いは魔騎士に一目惚れしてからのって話来るんでしょ!
803 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/11(金) 15:16:38.67 ID:CRdAP0gDO
一目惚れというよりは、喧嘩してる内に段々……って感じかなと
ぼんやりとしか想像できませんが、くっつくとしたらケンカップルになってる気がします
おそらくすぐにはリヒトのことを忘れられないでしょうし
804 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 20:50:32.87 ID:7vjtyig70
乙乙
名作だな