Part32
721 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:08:14.71 ID:IAKLY5uMo
夜
勇者「ベッド狭くてごめんね」
魔王「構わん。こう密着して寝るのも久々だな」
勇者「……ヴェル、今日来てくれてありがとね」
勇者「嬉しかった」
魔王「私にとって一番大切なのはおまえだからな」
勇者「……ありがと。和平が無かったことにならなくてよかった……」
魔王「おまえまで失ったら私はもう生きてはいけぬ」
勇者兄(聞こえてんだよちくしょう!!)
勇者兄(フロルは今……壊れかけの平和協会本部か)
勇者兄(アイオ…………)
勇者兄(複数人余裕で愛せる親父が少し羨ましい)
722 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:08:53.64 ID:IAKLY5uMo
勇者父「なあ、おまえ何で俺と結婚してくれたんだ?」
勇者母「どうしたのよ今更」
勇者父「どうしても気になってさ。酷い女好きの浮気者じゃねえか、俺」
勇者母「そりゃあなた、この町の誰かがあなたと結婚しなきゃ、」
勇者母「あなたこの町に帰ってきてくれないでしょ」
勇者母「あなたが生まれ育ったこの家を廃屋にする気?」
勇者母「……なんてね。そんなの建前よ」
勇者母「あんたがどうしようもない女好きでも、あたし、あんたのこと好きだもの」
勇者母「どうしても他の男に興味沸かなかった。それだけよ」
勇者父「カトレア……」
勇者父「おまえは、俺が生まれて一番初めに愛した女だ」
勇者父「苦労かけたな」
勇者母「なんなのよ、おかしいわよ今日のあんた」
勇者父「……今日で、最後なんだ。来れるの」
勇者母「…………そう」
723 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:09:57.29 ID:IAKLY5uMo
翌朝
勇者兄「急に破壊神の封印が緩まったから、すぐ北に行けってさ」
勇者「そっか。お母さん、行ってくるね!」
魔王「世話になったな」
女勇者「ご飯、おいしかったわ」
勇者父「……じゃあな」
勇者母「…………行ってらっしゃい」
法術師「絶対、絶対帰ってくるからね!」
騎士「気をつけてな」
武闘家「父さん、母さん、師匠、俺も手伝いに行ってくるよ」
魔賢者「では、みなさん……行きましょうか」
魔賢者「瞬間転移<テレポーション>!」
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724 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:10:23.95 ID:IAKLY5uMo
kokomade
725 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/09(水) 07:07:13.38 ID:PTDdMbdlo
勇者母の器が……タイトルに入ってるだけあるな
otu
726 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:46:08.80 ID:/Pc4GdUAo
Section 26 争乱
女勇者「あたしも一行に加われですって?」
協会職員「はい、どうかご協力願いたい」
勇者兄「戦力が増えるのは助かるな」
法術師「そうね……アイオが離脱した以上、もう破壊の意思を追い出す術も使えないし」
法術師「強い光の力を持った勇者が仲間になってくれたら助かるわ」
女勇者「仕方ないわね。母さんにしばらく帰れなさそうって連絡送っといてもらえるかしら?」
勇者父「おお〜心強いなあ」
女勇者「あんたのために協力するわけじゃないんだからね!」
勇者(話し方はきついけど悪い人ではなさそう……)
勇者「お姉ちゃん、よろしくね」
女勇者「お、おねっ…………」
勇者兄(ああ……そういやこの子も妹か……)
727 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:46:52.47 ID:/Pc4GdUAo
協会職員「観測者達の報告によると、もうじき破壊神に干渉できるようになるそうです」
勇者兄「えっそんなに急なのかよ」
協会職員「封印が弱まるのに伴い、地中に埋まっていた封印の神殿も出現しました」
協会職員「しかし、神殿の扉を開けるために必要な暗号が解読できておりません」
勇者兄「破壊神の封印が解けても入れないのか?」
協会職員「おそらく、破壊神の力が利用されるのを防ぐため、外部からの侵入を防ぐ必要があったのでしょう」
協会職員「もうしばし待機してください」
武闘家「ゆっくり休みたいところだな……」
勇者兄「神様相手に戦うんだよな、俺等……」
魔王「怖気づいたか?」
勇者兄「そんなわけねえだろ!」
魔王「ほう、頼もしいものだな。私は正直不安だぞ」
勇者兄「なっ……」
魔王(封印するだけで平和をもたらせたらよいのだがな)
728 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:47:33.15 ID:/Pc4GdUAo
勇者兄「……そういや、他の大陸ってどうなってるんだ? 魔族はいないのか?」
魔王「ああ。他の大陸に生息しているのは主に亜人種だな」
魔王「我等魔族は他の大陸に移住すると、体の強靭さと膨大な魔力容量を失い、」
魔王「姿形こそほぼ変わらないが魔族特有の強さは失われる」
勇者「追放された魔族達は、そっちじゃ悪いことできないんだ」
魔王「できるなら追放処分など行っておらぬ」
魔王「追放先の大陸の住民に面倒を押し付けることになるからな」
魔王「追放された魔族は、優れた身体能力を持つ亜人種に従って生きるしかないのだ」
729 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:50:13.35 ID:/Pc4GdUAo
勇者兄「なあ、フロル……一緒に見回り行かないか」
魔賢者「……ごめんなさい」
勇者兄「あ…………」
勇者兄「……やっぱ、責任感じてんのかな」
勇者兄「はあ……」
武闘家「あんま気にしなくていいと思うんだがなあ」
勇者兄「おまえ……あんなことがあったんだぞ?」
武闘家「タイミングが悪くて破壊者化しちまったとはいえ、」
武闘家「失恋なんて珍しくもなんともない」
武闘家「振った相手のこと気にしてたら誰とも付き合えねえじゃん」
勇者兄「そりゃそうかもしれないけどさ……」
勇者兄「きっと、自分のせいでエミルが魔族だってバレたんだと思ってるんだろう」
格闘家「時間が必要なのかもな」
勇者兄「…………」
730 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:52:16.33 ID:/Pc4GdUAo
魔王「仕事が入った。数時間だけ城に戻る」
魔賢者「お送りいたします。今、陛下は魔力を温存すべきです」
魔王「頼む。エミル、おまえも来い」
勇者「ぼくも?」
魔王「おまえの人間としての戸籍に少々手続きが必要となってな」
勇者「はーい」
勇者兄「……はあ」
法術師「…………」
女勇者「じめじめしてるわね」
731 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:53:26.22 ID:/Pc4GdUAo
勇者(大勢の前でプロポーズされるとは……嬉しかったけどね)
魔賢者「…………」
勇者「フロル、この前のこと、気にしなくていいからね」
勇者「フロルは何も悪くないんだから」
勇者「アイオさん、どっちかというとぼくのことを憎み続けてたし……」
勇者「誰も悪くない。ただ、ちょっと歯車が噛み合わなかっただけ」
魔賢者「……お気遣いありがとうございます、殿下」
魔賢者「しかし、私のせいで、殿下が危険な目に……」
勇者「ぼくが種族を偽っていたことは事実だもん」
勇者「そんなぼくでも助けようとしてくれる人がたくさんいるってわかって嬉しかったよ」
魔賢者「…………」
魔王「自分を責めるな。悪い結果にはならなかったのだからな」
魔王「……エミル、この書類に署名を」
勇者「はい」
勇者「……あのね、アイオさんに殺されそうになった時、母上の腕輪が護ってくれたんだ」
魔王「! ……そうか」
勇者「きっと、見守ってくれてるんだよね」
魔王「ああ」
魔王父『この娘がこの城に訪れてから随分経ったな……』
魔王父『我もオリーヴィアとの間に娘が欲しかったが、叶わなかった』
魔王父『あの男の子供だと思うと少々憎たらしいが、』
魔王父『この娘は本当にオリーヴィアとよく似ている』
魔王父『誰かを殺さなくて良かったと思ったのはこれが初めてだ』
魔王父『……死んで以来独り言が増えたな』
732 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:54:42.12 ID:/Pc4GdUAo
勇者「アイオさん、破壊神に憎悪を利用されて、好きな人まで殺しそうになったんだ」
勇者「もしぼくが破壊の意思に取り憑かれて兄上を殺しちゃったりしたら、耐えられない」
勇者「ううん、兄上じゃなくても、もし誰かの命を奪ってしまったら……」
魔王「…………」
勇者「今、操られて誰かを殺してしまって苦しんでいる人が大陸中に溢れているんだ」
勇者「ぼくは、そのことがとても悲しい」
勇者「命は何よりも大切なものなんだ」
魔王「……私が破壊神を倒してみせる。おまえは安心して待っているといい」
勇者「お手伝いくらいするよ」
魔王父『命は大切、か……』
魔王父『オリーヴィアも同じようなことを何度も言っていた』
魔王父『もし我がヴェルディウスを誰かに殺されたら……とても許すことはできぬ』
魔王父『この娘は他人の立場に立って考えることができる。彼女もそうであった』
魔王父『我は、生前……そのようなことを考えたこともなかったな』
調理師「うわあああ! 人間の悪霊だああああ!!」
コック「ひいいいいいいい!!」
魔王「嘆かわしいことに、この城には数多の血が染みついている」
魔王「地縛霊の百体や千体出るだろうな」
733 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:55:23.34 ID:/Pc4GdUAo
勇者父「まだ解読できねえのか?」
協会職員「ええ……申し訳ございません。あなたに発見していただいたというのに」
勇者「ただいまー、どうしたの?」
勇者(あれ? お父さんまた老けたような)
勇者父「おまえこれ読めるか?」
勇者「ああ、大陸最北端の超古代文字だよ。パズルみたいになってるね……」
勇者「文法は北の古語とほとんど一緒だし、辞典があれば解けるかも」
魔王「辞典なら我が城の図書室にあるぞ」
協会職員「な……んですと……」
勇者父「おぉ、流石お父さんとオリーヴィアの娘だな!」
勇者「フロル、もう魔力切れだよね? ぼく取ってくるよ」
勇者父「お父さんは優秀な娘を持ったもんだなあ……」
女勇者「……ふん」
魔王父『…………』
魔王父『今までは城から離れることはできなかったというのに』
魔王父『何故だか共にここまで飛ぶことができてしまった』
734 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:56:06.01 ID:/Pc4GdUAo
勇者「せめて普通の文章になってたらな……謎かけみたいになってるから難しい」
勇者「むむ……」
魔王「詰まったか? 見せてみろ」
勇者「ここ辞典引いてもわからなくて」
魔王「ああ、この動詞は不規則だからな」
魔王「……熟語も複雑な物が使われているな」
勇者「詳しいんだね」
魔王「この言語でないとコードを組みづらい術があってな。少々かじっている」
勇者兄「次元が違う……ちょっと寂しい」
勇者父「まああいつらは母親が同じだからなあ」
勇者父「おまえだってエミルと似てるところあるだろ」
勇者兄「……例えば?」
勇者父「すぐ泣くところとか、真っ直ぐなところとか」
女勇者「あら、あたしはそのあたり似てないわね」
女勇者「はあ……あたしの異母妹に魔王の異父妹がいるなんて信じられないわ」
女勇者「流石稀代の女好きシュトラールね」
勇者父「……おまえのきついところは誰に似たんだ? 直さないと嫁の貰い手に困るぞ」
女勇者「大きなお世話よ」
勇者父「うう」
勇者兄「そりゃ父親がこれじゃあ捻くれもするだろ……」
735 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:56:32.34 ID:/Pc4GdUAo
勇者「…………解けたー!」
勇者「この結果を基に扉の前で術を発動すれば神殿の中に入れるはずだよ」
勇者父「よくやった!!」
勇者父「よーしよーしいい子だぞ〜!!」
勇者「えへへ。兄上がいてくれたから解けたんだよ」
魔王「……」
勇者父「おまえも頭撫でてやろうか?」
魔王「い、いらぬ」
魔王父『我が息子に近付くな』
勇者父「ご褒美に小遣いやるから二人で喫茶店でも行ってこいよ」
勇者「え、でも……」
勇者父「街中の監視も必要だろ? 丁度昼飯時だし行ってこい行ってこい」
勇者「ん……じゃあ行ってくるよ。ありがとう、お父さん」
魔王「騒ぎにならぬ協会に許可を取って人間に擬態せねばな」
736 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 11:57:23.57 ID:/Pc4GdUAo
勇者「このお店の紅茶おいしいね」
魔王「この味ははじめてだな……茶葉を買って城に持ち帰りたい」
魔王「……流石にこの地方は冷えるな」
勇者「そだね。野外でお茶飲むのにはちょっと寒すぎるかも」
勇者「現地の人は平気そうだけど」
女性1「ねえねえ、あの人かっこよくない?」
女性2「あんなに綺麗な男の人がいるなんて……」
勇者「…………」
勇者「ヴェル!! 顔隠して!! ローブ被って!!」
魔王「ど、どうした」
勇者「ヴェルはね、魔族の基準では身長低くても、」
勇者「人間の価値観だったら高身長の美形なの!!!!」
勇者「だから、あんまり人目についたら……その……」
魔王(……妬いてるのか)
魔王「……おまえは可愛いな」
勇者「えっ!? あ、う……うぅ…………」
勇者(……もうすぐ世界を壊そうとしている神様と戦うだなんて、信じられないな)
737 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 12:02:42.22 ID:/Pc4GdUAo
魔王「なあエミル」
魔王「この戦いを終えたら、婚姻の義を行わないか」
勇者「婚姻の義って……つまり、結婚式?」
魔王「ああ」
勇者「で、でも、ぼくまだ年齢が……」
魔王「魔族の婚姻に年齢制限はない」
勇者「ん……花嫁さんかあ。思ってたより早いけど……兄上がやりたいならいいよ」
738 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/09(水) 12:03:36.87 ID:/Pc4GdUAo
勇者父「なあライカ」
女勇者「何よ」
勇者父「好きな男とか、いないのか」
女勇者「いないわよ! 悪かったわね!!」
勇者父「怒るこたないだろ……」
女勇者「勇者業なんてやってるおかげで誰も寄ってこないのよ」
女勇者「そこらへんの男よりも腕が立っちゃうもの、あたし」
勇者父「そうかぁ」
勇者父「まあ世界は広い。おまえを好きになってくれる男はきっといるって」
女勇者「馬鹿にしにきたの?」
勇者父「はあ、父親が娘と話したがるのは別におかしいことじゃないだろ?」
女勇者「鬱陶しいわ。あんたが父親であることがあたしの人生の最大の汚点なのよ」
女勇者「話しかけないでちょうだい」
勇者父「ふぅ、辛辣ぅ」