Part31
704 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:51:40.63 ID:IAKLY5uMo
大魔導師「しかし、ライカ・ディアマンテは先日真の勇者の最低条件に達したばかり」
大魔導師「破壊神との闘いにはやはりリヒト・スターマイカの方が適任だと思われます」
大神官「されど魔族の人間生活幇助を行った人間も同じく極刑となります」
大神官「勇者といえど、国を欺くことは重罪でございます」
国王「ぐぬ……」
協会代表「……法は秩序を守るための物。遵守せねば規律が乱れる」
大魔導師「今は非常事態でございます」
大魔導師「法のために自ら更なる危機に陥るのも馬鹿らしくはありませぬか」
国王「しかしこのような時だからこそ、」
国王「人間と偽っていた半魔の存在は民の不安を煽りかねない」
大神官「うむ、和平決裂の原因となりかねませぬ」
大神官「しかしながら、リヒト達を失うのは致命的であることも確かに明らかですな……」
国王「どうするべきなのだ……」
705 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:52:33.83 ID:IAKLY5uMo
武闘家「……これでよし」
勇者兄「今おまえ何かやったのか?」
武闘家「封じられているのは魔術と法術だけだ。俺の術は好き放題使える」
武闘家「俺等の会話が他人に認識されないよう催眠術をかけた」
勇者父「おまえ器用だな」
勇者「……ぼくが魔族だってこと、知らなかったことにすれば釈放してもらえるよ」
勇者兄「何言ってんだよ!」
勇者兄「言っただろ、これからは絶対守るって!」
勇者兄「法律に背くことになろうが関係ない、俺はおまえを絶対に見捨てはしないからな!」
魔賢者「殿下を見捨てて生き延びることなどできません!」
勇者「お兄ちゃん……」
勇者兄「……やっぱこの牢打っ壊して」
勇者「待って! 今下手に動けば和平の交渉が決裂しちゃうかもしれない!」
勇者「しばらく待とうよ」
勇者兄「ちくしょう……」
706 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:53:03.93 ID:IAKLY5uMo
魔王「エミルが投獄されたとはどういうことだ!」
ヴェルディウスは机を叩いた。
魔王「……今すぐ連れ戻しに行ってやる」
執事「お待ちください」
執事「魔王陛下がいきなりエミル様を助けに行ったら大変なことになりますよ」
魔王「くっ……」
メイド長「エミル様……」
707 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:54:33.46 ID:IAKLY5uMo
兵士「……リヒト様達は無罪となりました」
勇者兄「エミルは? エミルはどうなるんだ!?」
兵士「エミル様は……人間の国及び平和協会、あなた方を欺いて人間として生活し、」
兵士「勇者を騙った罪で極刑となりました」
勇者兄「なんだと!?」
勇者兄「ふっざけんな!!!!」
勇者「…………!」
兵士「刑を速やかに執行するため、夕刻まであなた方を引き続き拘束させていただきます」
法術師「そんな……!」
勇者父「おいそりゃねえだろ!」
勇者父「エミルを人間の姿に変えたのは俺なんだ!」
勇者父「エミルに罪はない。殺すなら俺を殺せ!!」
協会代表「先代魔王を倒した稀代の勇者・シュトラールを処刑しては、」
協会代表「大陸の民が嘆き、協会の運営に支障をきたします故」
勇者父「んなこたどうでもいい! エミルは助けてくれ! 俺の娘なんだ!」
勇者兄「……エミルが殺されそうになって俺が黙ってるとでも思ったのか?」
協会幹部1「母親がどうなっても構わないと言うのか」
勇者兄「きたねえぞ!!」
協会幹部2「『おまえ達はエミルが魔族であるとは知らなかった』良いな」
勇者兄「ちくしょう……ちくしょう!!」
協会代表「……エミル・スターマイカを特別拘束室へ移送しろ」
708 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:55:20.58 ID:IAKLY5uMo
執事「大使を通して交渉を行ったのですが」
執事「『人間の法に則って極刑を処するだけだ。内政干渉は許されない』と」
執事「下手をすればまた戦争になります」
魔王「おのれ……」
武闘家「執行まであと数時間ある」
武闘家「隙を見てエミルを助け出すぞ」
武闘家「カトレアさんも助け出せば良い」
勇者兄「……ああ」
709 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:56:15.31 ID:IAKLY5uMo
兵士1「真の勇者一行が逃げ出したぞー!」
兵士2「探せぇ!」
勇者兄(執行される寸前、エミルにかけられている拘束術が緩まるはず)
勇者兄(その瞬間に絶対に助け出す!)
法術師「これ以上仲間を失ってたまるもんですか!」
武闘家「おまえは俺達を見なかったことにな〜る〜見なかったことにな〜る〜」
兵士3「ふぁ……」
女勇者「あら楽しそうね。私も手伝ってあげるわ」
勇者兄「お、おまえ……」
女勇者「……ほとんど会ったことがないとはいえ、」
女勇者「きょうだいが死ぬのは寝覚めが悪いもの」
710 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:56:56.51 ID:IAKLY5uMo
ーーエミル達の家
勇者父「カトレア!」
勇者母「あなた!」
協会兵1「何!?」
協会兵2「ひっ!!」
勇者父「おまえら俺の嫁さん拘束しやがって!」
勇者父「逃げるぞ!!」
大神官「何やら騒がしいな……」
協会幹部1「極刑は厳粛に行われなければならぬというのに」
神官(エミルさんの魔力容量が大きかったのは、やはり最上級魔族から生まれたから)
神官(でも、彼女の優しさは本物のはず)
神官(それなのに私は、恐れをなして彼女を一人にしてしまった……)
勇者(このまま殺されるなんて……絶対嫌だ!)
勇者(信じよう。助かるって)
711 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:57:23.11 ID:IAKLY5uMo
協会代表(法は遵守しなければならないもの)
協会代表(だが、世界のために特例を出すこともある)
協会代表(世界の破滅を防ぐため、リヒト達は無罪としたが……)
協会代表(これで正しかったのか……?)
協会幹部1「もちろん、エミル・スターマイカの死刑は内密にしてあるだろうな」
協会幹部2「ああ。世間が何と言うか想像もつかぬからな」
協会代表(……私は、その世間の反応を知りたくてたまらなかった)
協会代表(『心優しき勇者エミルは半魔であったため処刑される』)
協会代表(そう民に伝わったら、民がどう思うか……)
協会兵「報告があります!」
712 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:57:56.47 ID:IAKLY5uMo
村長「あの心優しき子が極刑とは……なんと嘆かわしい……」
少女「そんな……エミル君……」
少女「半魔だろうが関係ない……エミル君はエミル君」
少女「まるで魔族のように迫害されていた私を助けてくれたもの……!」
娘「エミル……」
娘父「ついに来ちまったか、この時が」
村娘1「嘘でしょ……」
村娘2「魔族と仲良くしようって呼びかけておいてエミル君殺すっておかしくない?」
村娘3「矛盾してるにもほどがあるわ!」
村娘4「魔族だったなんて……でも、これから魔族と協力する時代になるはずよね?」
商人「あの子が……」
713 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 17:59:34.96 ID:IAKLY5uMo
協会兵「どこからかエミル・スターマイカの処刑に関する情報が漏洩してしまい、」
協会兵「大陸中……特に大陸横断線東部からの苦情が殺到しております!」
大陸横断線……東のブレイズウォリアから魔王城のある西にかけて広がる地区。
協会幹部1「何だと!?」
協会兵「一部では暴動も起きております!」
協会幹部2「そんな馬鹿な」
協会兵「エミル・スターマイカは、魔属を殺しはしなかったものの、」
協会兵「道中で多くの人々を救っており、その功績を評価している民が非常に多く、」
協会兵「また、魔族と和平を結んだことも相俟った結果だと思われます」
協会幹部2「あ、ありえぬ……」
協会代表「ふむ……」
協会代表(こやつらに黙って情報魔術師に大陸中へ情報を流させたが)
協会代表(このような結果になるとはな)
714 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:00:28.49 ID:IAKLY5uMo
ーー極刑の時刻
大神官「魔導封じの術は施してあるな」
僧侶1「はい」
エミルは特別拘束室から野外の斬首の間へ移送された。
大神官「……エミル・スターマイカ。前へ進め」
勇者「……」
勇者(やっぱりぼくは生きてちゃいけない存在なんじゃ)
勇者(……なんてね。そんなこともう思わないよ)
勇者(ぼくのことを大切に思ってくれる人だってたくさんいるんだから)
神官(! 何者かが潜んでいる)
女勇者「術が緩まったわ、今よ!」
勇者兄「エミルを放せ!!」
僧侶1「うぐっ!」
僧侶2「ぐはっ!」
勇者「お兄ちゃん!」
神官「……!」
大神官「な、なんだと!?」
大神官「法術者達、拘束術を!」
魔王「ーーさせるか!!」
勇者「兄上!?」
勇者兄「は、来ると思ってたぜ」
魔王「エミルのいない世界で和平を実現させても何の意味もないからな」
715 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:01:15.65 ID:IAKLY5uMo
魔王「ほう。この空間では魔術の発動が封じられているようだな」
魔王(無理に破れば爆発が起きる)
魔王「……真の勇者、エミルを連れて逃げろ」
勇者兄「おまえが俺にそんなことを言うなんてな」
勇者兄「行くぞエミル!」
勇者「うん!」
魔賢者「殿下をお守りいたします!」
大魔導師「おお、なんと……魔王が来るとは……」
大神官「なんということだ……!」
勇者兄「城から出ればテレポーションを使える!」
勇者「!」
勇者「大勢……すごくたくさんの人がこの城に押し寄せてきてるよ!」
716 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:02:09.87 ID:IAKLY5uMo
エミルを解放しろー!
この国は和平を台無しにする気かー!
エミルを散々利用しておいて処刑するってどういうことだ平和協会!!
平和協会がある限り平和にならねえ!! 本部打っ壊しちまえ!!
女子5「魔族とか関係ない! エミル君を返して!!」
ガイアドラゴンまで俺達に加勢してくれてるぞ!?
勇者父「おお、すごいことになってんな」
勇者母「ああ、エミル……」
国王「……国民がこう言っておる」
国王「我等の頭が固すぎたようだ」
協会代表「……新たな時代を築こうという時に、愚かな決定を下してしまった」
協会代表「鎮まれ!」
協会代表「今までの法ではエミル・スターマイカは間違いなく極刑であり、」
協会代表「そのことを知っていながら黙っていた者も同罪であった」
協会代表「だが、時に、古い法律は新たな時代の幕開けを妨げる」
国王「……エミル・スターマイカを無罪とする」
717 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:03:51.32 ID:IAKLY5uMo
国王「エミル……今まですまなかったな」
勇者「王様……」
国王「おまえを死なせるために無理な命令を下し、そして極刑に処そうとした」
国王「おまえの働きを軽視しておったよ」
国王「これほどおまえが民から愛されておるとは……」
国王「もはや、わしは王の器ではなくなった」
国王「頭の凝り固まった老人が引退する時が来たようだ」
国王「わしは王位を王子に譲るが、邪魔なだけの古い法を廃止し、」
国王「魔族と友好関係を築けるような新たな法を作らせることを約束しよう」
協会代表「うむ……新たな条約の制定に伴い、」
協会代表「大陸法の内容の改正が必要だ」
武闘家「ってことは、助かったんだな」
法術師「はあ……」
武闘家「まったく、年をくったお偉いさんは頭の切り替えが遅くて困るぜ」
718 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:04:30.57 ID:IAKLY5uMo
魔王「エミル!」
勇者「ヴェル!」
魔王「……和平の更なる証として、我はこの人間の血を引く少女を后として迎え入れる」
勇者「あわわ」
魔王「よいな」
国王「な、なんと」
魔賢者「ああ、よかった……本当によかったです……」
女勇者「あたしを村に帰してもらえないかしら」
勇者父「まあまあ、パパの故郷見てけよ」
女勇者「興味ないわ。あんたのこと父親だと思ったことないもの」
勇者母「あなた、この子……」
勇者父「あっ……」
719 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:05:41.96 ID:IAKLY5uMo
勇者「おかーさーん!」
勇者母「エミル! ああエミル!!」
勇者「……ぼくのこと、まだお母さんの子だって思ってくれてるの?」
勇者母「当り前じゃない!」
勇者母「この人のことだからどんな女の人と子供こしらえてきてもおかしくないもの」
女勇者「……魔族と子供作ってたなんて、あんたほんと見境ないのね」
勇者父「いやあの、相手を選んではいるぞ? 一応……」
勇者兄「あ、えっと、ライカだっけ?」
勇者兄「助けてくれてありがとな」
女勇者「ふん」
協会兵「ら、ライカ様!」
女勇者「何よ」
協会兵「その、先程の暴動で怪我をした協会兵がおりまして」
協会兵「一晩だけでいいので、防衛に手を貸していただきたいのです」
女勇者「ちょっと、帰れないじゃない……母さんが心配してるってのに」
720 :
◆qj/KwVcV5s :2016/03/08(火) 18:06:34.02 ID:IAKLY5uMo
勇者母「あなた……魔王だったのね」
魔王「……」
勇者母「エミルを助けてくださったんだもの。感謝してるわ」
勇者母「今晩はぜひうちに泊まっていってくださいな」
魔王「!?」
勇者兄「母さん、正気か?」
勇者兄「……まあいいか」
魔王「……美味い」
勇者「ね? お母さんのお料理おいしいでしょ?」
魔王「ああ。エミルの味とよく似ている」
勇者母「喜んでもらえたようでよかったわぁ」
勇者兄「……」
女勇者(……何であたしも一緒にご飯食べてんのかしら)
勇者父(この状況でも普段通りでいられるカトレアはすごい。ほんとすごい)
勇者父(……美味いなあ。ほんと美味いなあ)
勇者(お父さん……泣いてる?)