Part3
50 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:41:06.43 ID:QbloZM1ro
翌日
少女(お父さんとお母さんにわかるように、扉に手紙を貼っておこう)
【病気を治してもらいにマリンの町へ向かいます、心配しないでね】
勇者(昨晩は暗くて気が付かなかったけど、この辺りはライラックが咲き乱れてるんだ)
勇者(綺麗だな……)
勇者「丸一日歩くことになるけど、がんばってね」
少女「うん!」
少女(病気になって以来、両親以外の人から優しくしてもらえるなんて初めてだわ)
勇者(人間でも、害があると思われたらあっさり迫害されてしまうんだ)
勇者(……この子だけじゃない。病気になった人が差別されるなんてよくあること)
勇者(どうしてそんな簡単に忌み嫌うことができるのだろう)
勇者(好きで病気になったわけじゃないのに。踏んだり蹴ったりだ)
51 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:41:45.62 ID:QbloZM1ro
平原
少女「うっ……」
勇者「この辺りで休もうか」
少女「けほっけほっ……ごめんなさい、足を引っ張ってしまって」
勇者「気にしないで。ゆっくり行こう」
勇者「あ、馬車だ! 待ってください!」
御者「へい」
勇者「マリンの町まで乗せてほしいんです」
御者「500Gかかるけどいいか……!? 何だいその子の肌は!」
御者「悪いけどお断りだよ!」
馬車は行ってしまった。
勇者「あう……」
少女「…………」
52 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:42:15.08 ID:QbloZM1ro
勇者「病院まで行けたら、もう大丈夫だから」
少女「ごめんなさい、もう歩けないわ」
勇者「じゃあ、ぼくの背に乗りなよ」
少女「え、でも」
勇者「こう見えて、ぼく力持ちなんだよ!」
エミルは軽々とリラを背負った。
少女(すごい……私と大して背も変わらないのに)
少女(優しくて、強くて、暖かい……私の勇者様)
53 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:42:41.70 ID:QbloZM1ro
ーー港町の門
勇者「よかったね、日の入りまでに着いたよ」
少女「でも……この見た目じゃ、町の人達に怖がられてしまうわ」
勇者「えっと……あ! ぼくのマント貸してあげる」
勇者「さっきもこれ被っておけばよかったね、気が付かなくてごめんね」
少女「いいえ……あり、がとう」
54 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:43:09.07 ID:QbloZM1ro
医者「!? かなり病気が進行しているじゃないか!」
医者「何故ご両親がもっと早くここまで連れてきてくれなかったんだい」
医者「珍しい病気だが、今からでも手遅れではない」
少女「ほんとですか!?」
医者「だがね……入院費込みで、治療費が最低でも15万Gほどかかってしまう」
医者「君達に払えるかい……?」
少女「そんな……!」
少女「そんな大金、うちにはないわ……」
勇者「ぼくが20万G置いていきます。どうかリラを助けてあげてください」
医者「な、なんと」
55 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:43:38.22 ID:QbloZM1ro
少女「どうして……」
少女「どうして出会ったばかりの私にそこまでしてくれるの……?」
勇者「困ってる人を見捨てるなんて、ぼくにはできないから」
勇者(誰かが困っていたら、それが人であっても、動物であっても、)
勇者(……魔属であっても、ぼくは……助けたいと思う)
少女「ごめんなさい、ありがとう、ありがとう…………」
翌日
少女「あなたと出会えなかったら、私……一人で寂しく死んでいたわ」
リラはエミルの頬にキスをした。
56 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:44:14.59 ID:QbloZM1ro
少女「生きて帰ってきてね」
勇者「……うん」
少女「また会える日が来るのを、私、ずっと待ってるから」
少女「その頃には、病気を治して元気になってるわ!」
勇者「うん」
少女「約束よ!」
勇者「……うん。約束する」
勇者(この約束を守れる可能性は、ほとんどないだろうけど)
57 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:44:57.41 ID:QbloZM1ro
勇者(……リラにぼくは女の子だって伝えそびれちゃったな)
勇者(ぼく、男の子からは全然モテないのに、女の子からはモテるんだよなあ)
勇者(男の子の格好してるせいかなあ)
勇者(縛ってる髪の毛、解いちゃおうかな)
勇者(……うっとうしい。無理だ)
勇者(もう男の子からモテる必要もないし、いっそバッサリしちゃおうかな)
勇者(でも、切っちゃったらお母さん怒るだろうなあ)
ーーーー
勇者母『エミル、はやく素敵なお婿さんを連れてきてね』
58 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:45:51.22 ID:QbloZM1ro
勇者『えーなんでー?』
勇者母『真の勇者の子供でも、女の子は結婚しちゃえば戦いの義務が免除されるのよ』
勇者母『素敵な恋愛をして、幸せな結婚をして、可愛い孫の顔をお母さんに見せてね!』
勇者『うん!』
勇者母『そのために、お洒落よ! 髪を伸ばして、可愛いお洋服を着て……』
勇者『女の子らしい服なんてぼくには似合わないよー』
ーーーー
勇者「まさか、結婚できる年齢になる前に旅立つことになるなんてね」
勇者「お母さん……」
Now loading……
59 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:46:17.24 ID:QbloZM1ro
kokomade
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/11(木) 20:05:33.43 ID:J4nLqLLCo
見てるぞ
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/11(木) 20:44:52.23 ID:JB+wFgP6o
悲しいような楽しいような
この何とも言えない感じ…いいぞ!
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/11(木) 21:54:05.19 ID:R/oeqHYq0
乙乙
64 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:01:16.14 ID:9ruHHYBBo
国王「この頃、地震や火山の噴火、豪雨などの異常気象が多いのう」
国王「ところで、勇者エミルの様子はどうだ」
宰相「順調に魔王城のある西へ向かっているそうでございます」
宰相「しかし、相変わらず魔属を一体も殺さずに事件を解決しているとかで……」
国王「勇者らしくない勇者もいたものだ」
65 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:01:42.36 ID:9ruHHYBBo
Section 3 邂逅
勇者(旅立ってからもう二ヶ月半かあ)
勇者(一人旅もだいぶ慣れたな)
勇者(……オリヴァの実、食べ尽くしちゃった)
協会職員「よくぞセントラルの町へいらっしゃいました、勇者様」
協会職員「こちらが支給金です」
勇者「いらないよ。自力でお金を稼ぐ方法をいくつか身に着けたもん」
勇者「それに、どうせお小遣い程度しかくれないんでしょ」
協会職員「ええ。戦わない勇者にお給料を出すなんてもったいないですから」
勇者(ゆっくり進もうにも、監視があるしなあ)
勇者(逃げたりしたらお母さんが国から何されるかわからないし、)
勇者(このまま旅を続けるしか……ないんだろうな)
66 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:02:18.91 ID:9ruHHYBBo
勇者(ぼくのことを優しい勇者だって褒めてくれる人もいるけど)
勇者(腰抜けだって非難する人の方が多い)
勇者(この旅で、人間と魔族が仲良くなれる方法でも見つかったら嬉しいけど)
勇者(そんな簡単に見つかるわけ、ないもんな)
勇者(勇者が魔王城に向かっていたら、たくさんの刺客に襲われるのが普通なのに)
勇者(ぼくのところには全く魔族が襲いに来ない)
勇者(それは、魔王の命令なのか、ぼくが一体も魔物を殺していないせいなのか、)
勇者(わざわざ殺す必要もないと判断されるほど、重要視されていないからなのかはわからない)
67 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:02:58.53 ID:9ruHHYBBo
勇者(やっぱり、大して光の力を持っていない勇者なんて……)
ーーーー
ーー
七年前
国王『お前は本当にシュトラール・スターマイカの子供なのか?』
大魔導師『魔力検査・遺伝子検査共にシュトラールの実子で間違いないとの結果が出ております』
勇者兄『こんだけ似てるんだから疑いの余地ねえだろうがぁぁあああ』
勇者『お兄ちゃん落ち着いて!!』
ーーーーーー
勇者(それでも、ぼくはお父さんの子供なんだ)
勇者(自信持たなくっちゃ)
68 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:05:36.69 ID:9ruHHYBBo
勇者(大陸の中央の国なだけあって、いろんな商品が並んでるなあ)
勇者(大陸中の物が集まってくるもんね)
勇者(あ、あのワンピースきれいだな)
白地の布に、木や花を模った刺繍が施されている。
勇者(あんな服着てみたいな……)
勇者(そんなことより、食料買い込んで装備を整えないと)
69 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:08:01.81 ID:9ruHHYBBo
商人「君、この服が気になるのかい?」
勇者「は、はい」
商人「この服は大陸南西部のシルヴァ地方の民族衣装でね」
商人「僕もシルヴァのとある村出身なんだがね、まあ良いところだよ」
商人「美しい森が広がっていてね、滅多に争いの起こらない平和な土地さ」
勇者「へえー……」
商人「……君、お母さんの名前は?」
勇者「? カトレアだけど……」
商人「そうか……」
勇者「どうかしましたか?」
70 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:08:38.30 ID:9ruHHYBBo
商人「いいや……君と似た女性を知っていたというだけだよ」
商人「姿形は似ていないが、雰囲気がよく似ているんだ。オーラとでも言うべきかな」
商人「僕の初恋の人だったんだがねえ、二十年程前に魔王に攫われてしまったんだ」
商人「綺麗な人だったからねえ……そして優しかった」
勇者「そうなんですか……」
商人「おっとすまない、話が長くなってしまったね。僕の悪い癖だ」
商人「お詫びにこれをあげよう」
勇者「髪留め?」
71 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:09:25.50 ID:9ruHHYBBo
商人「オリヴァの枝を彫ってデザインされたものだ。お洒落だろう?」
商人「紐よりは楽に髪の毛を結えるはずだよ」
勇者「わあ、ありがとう!」
商人(! なんて彼女に似た笑い方をするんだ)
勇者「ぼく、魔王城に向かっているんです。攫われた女の人の名前を教えてください」
勇者「もしかしたら、その女の人のことについて調べられるかも」
商人「こんなに小さいのに……彼女の名はエリヤ。エリヤ・ヒューレーだ」
勇者「エリヤ・ヒューレーさん……はい、覚えました!」
勇者「あ、ぼくはエミルっていいます。あなたの名前は?」
商人「……僕はラウルスだよ」
商人(ああ、君は今でも生きているのかい? それとも……)
72 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:09:51.70 ID:9ruHHYBBo
勇者(まだお昼なのに曇ってるせいで妙に暗いなあ)
勇者(早めに宿屋で休んじゃおうかな)
娘「きゃああ! 何するのよ!」
チンピラ1「騒ぐなって〜ちょっと付き合ってくれるだけでいいんだからよお〜」
チンピラ2「お前ほんとガキが好きだよなぁ。こんなちんちくりんのどこがいいんだよ」
チンピラ1「ガキなのがいいんじゃねえか〜こいつは顔も綺麗だしよ」
娘「気持ち悪い! 近寄らないで!」
娘「パパが来たらアンタたちなんて肉片になっちゃうんだから!」
チンピラ1「そのパパは今どこにいるんだ? ん?」
娘「それは…………」
勇者「何してるんですか」
チンピラ1「あ゛?」
73 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:10:18.86 ID:9ruHHYBBo
勇者「彼女、嫌がってますよ」
チンピラ2「何だ? このガキ」
勇者「その子を解放してあげてください」
チンピラ1「ガキはすっこんでろ!」
チンピラ1はエミルに殴り掛かった。
エミルはチンピラ1の攻撃を軽くかわし、
チンピラ1のバランスが崩れたところで足元を蹴った。
チンピラ1「がはっ」
チンピラ2「おるぁあ!」
チンピラ2は鋭く拳を打ち出したが、エミルはその勢いを利用し、チンピラ2の腕を手前に引いた。
二人のチンピラはあっけなく地に伏した。
74 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:10:48.16 ID:9ruHHYBBo
娘「うそ……」
勇者「ぼくはエミル。勇者です。乱暴は許しませんよ」
チンピラ2「勇者だと? ……こいつスターマイカ家の顔付きだぜ」
チンピラ1「まさか……シュトラールのガキか!?」
チンピラ2「よく見たら奴そっくりだ! シュトラールのガキが現れた!」
町人A「なんだって!?」
町人B「女は全員避難しろ!! 微笑みかけられただけで妊娠するぞ!」
チンピラ達だけでなく、周囲にいた女性は襲われていた娘以外全員逃げ去った。
男達も警戒してエミルの様子を窺っている。
勇者「今まで通った村や町でも似たようなことはあったけどこれはひどい」
勇者(お父さん…………)
75 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/12(金) 16:11:39.30 ID:9ruHHYBBo
娘「あの……」
勇者「大丈夫? あ、妊娠しないから安心して。ぼく女の子だし」
勇者「あ、君……光の力を持ってるんだね。それじゃあ親戚だ」
娘「ええ……ほとんど役に立たないくらい、ほんの少ししかないけれど」
娘(この子、本当にシュトラールの子供なのかしら)
娘(光の力、私よりちょっと多いくらいしかないわ)
娘「私はミモザ。助けてくれてありがとう、エミル」
娘祖父「おお……孫を助けてくださったのですな」
娘祖父「今晩はうちに泊まってゆきなされ」