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勇者「お母さんが恋しい」
Part29


660 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:11:20.50 ID:1cPqm476o
歌唱者「ここは……」
執事「アリア……僕がわかるかい」
歌唱者「コバルト……? 私、一体……」
歌唱者「あ……ああ……」
歌唱者「私、人を殺したのね……たくさん……血にまみれて……」
歌唱者「い、や……いや…………そんな……」
執事「落ち着いて。……君は悪くない。君を操っていた者がやったことだ」
歌唱者「うぅ……う…………」

661 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:12:13.19 ID:1cPqm476o
歌唱者「思い出したわ……私が、破壊神と契約を交わした時のことを」
歌唱者「私は、復讐なんて望んでなかった。そんなことを考える余裕もなかった」
歌唱者「殺される瞬間だったもの」
執事「……」
歌唱者「コバルト、私、私…………」
執事「…………」
歌唱者「私、ただ、あなたに会いたかった。あれでお別れだなんて嫌だった」
歌唱者「また会いたい。そう願った瞬間、私の中に破壊の意思が入ってきて……」
歌唱者「気が付いたら、殺された人達の怨念に侵蝕されていたの」
勇者「じゃあ、やっぱり、アリアさんの中に入っていたのは……」
歌唱者「殺された村のみんなや、竜達の憎しみ……」
歌唱者「破壊神は、私の歌と、みんなの苦しみを利用して…………」
歌唱者「いや……あ……」
執事「もう大丈夫だ。君は自分を取り戻したんだから」
歌唱者「…………」

662 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:12:44.40 ID:1cPqm476o
法術師「……イリスちゃんは……」
法術師「イリスちゃんは、今どうなっているの?」
歌唱者「……私の中で眠っています」
歌唱者「この体、彼女に返します」
武闘家「じゃあ、お前は成仏するのか?」
歌唱者「いいえ。彼女の魂は私のもの。イリスは、私の生まれ変わりなんです」
歌唱者「私は破壊神の呪縛から解き放たれました」
歌唱者「破壊神から力を供給されることもありません」
歌唱者「もうじき、私は彼女の中で永遠の眠りにつきます」
歌唱者「……みなさん、ご迷惑をおかけしました」
歌唱者「ごめんなさい……ごめんなさい…………」
執事「……少し、アリアと二人で外を歩いてきていいですか」

663 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:13:58.63 ID:1cPqm476o
執事「……行こうか、僕達の故郷へ」
歌唱者「え?」
執事「僕の背に乗って。一瞬で着くよ。ちょっと、息苦しいかもしれないけど」
ーー北の大山脈
白い満月が夜を明るく照らしている。
背後にそびえる雪に覆われた山々が、さらに闇を輝かせていた。
歌唱者「もう、何もないのね……。建物の跡が、少し残っているだけ」
歌唱者「でも、自然はそのままだわ」
涼しい風が、柔らかく草を撫でている。
執事「君のことを思い出さなかった日は無かったよ」
執事「君のような犠牲者が出ないような世界を創ることだけを考えてきた」
歌唱者「……」
執事「……君の歌が好きだった。君の笑顔が好きだった。今でも大好きだ」
執事「君が好きだ」
歌唱者「…………!」

664 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:14:41.29 ID:1cPqm476o
執事「……そう、伝えられなかったのが心残りだった」
執事「こんな形だけれど、正直会えて嬉しいんだ」
歌唱者「……私も、あなたのこと、好きだった」
歌唱者「あなたと語らうことが、あなたの背に乗って一緒に風を感じることが、」
歌唱者「大好きだった」
執事「もう一度、聞きたいな。君の歌を」
短い草が茂った丘の上で、二人は肩を並べて座っている。
執事(ずっとこの時が続いてくれたらな……なんて)
少女の歌声は澄んだ空気に響いてゆき、やがて小さくなっていった。
歌唱者「生命の輝きを……ひかり、の……結晶…………」
歌唱者「…………」
少女は少年の肩に頭を乗せ、眠りについた。
執事「……おやすみ、アリア」

665 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:15:32.30 ID:1cPqm476o
翌朝
幼女「おはよーおねえちゃん!」
法術師「イリスちゃん!? もう大丈夫なの!?」
幼女「イリスげんきだよ?」
幼女「いつのまにねてたのかなあ……かいぎおわったんだよね?」
法術師「ああ……」
執事「…………」
勇者「大丈夫?」
執事「いやあ、ちょっと寝不足なだけですよ」
幼女「あ、おにいちゃん! やくそく!」
執事「……」
幼女「イリスのおうたきいて!」
執事「……ああ、そうだったね」
執事「宿の中で歌っちゃだめだから、外に出てから聞かせてもらおうかな」

666 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:16:50.94 ID:1cPqm476o
ーー大陸南部の小さな村
幼女「ぱぱー! ままー!」
幼女母「ああイリス! よかったわ……」
幼女父「ありがとうございます! ありがとうございます!」
法術師「イリスちゃん、元気でね……」
幼女「うん! おねえちゃんにかってもらったかみどめだいじにするね!」
法術師「うっううっ……いつかまた会いに来るからね」
幼女「ぜったいきてね!」
幼女「おにいちゃん! おにいちゃんもあいにきてね!」
執事「僕、も?」
幼女「またおうたきいてほしいの!」
幼女「いっぱいいっぱいれんしゅうして、もっとじょうずになるから!」
執事「……ああ、楽しみにしているよ」
執事「また、暇を見つけて会いに来るから」
幼女「うん! やくそくだよ!」
執事「君の歌には、みんなを元気にする力がある」
執事(彼女とは違った歌声)
執事(でも、耳を傾ける者に喜びを与えていることには変わりない)
幼女「またね〜!」

667 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:17:59.03 ID:1cPqm476o
勇者「……アリアさんだった時の記憶、全く無いんだね」
執事「これでよかったんです」
執事「操られていたとはいえ、彼女は生命を殺め、罪悪感に苛まれていました」
執事「そんな記憶、忘れた方が幸せなんです」
執事「前世の行いで来世が苦しむ必要なんてありません」
執事「あの子には、未来を見て生きていてほしいんです」
勇者父「げほっ……」
勇者父(……もうそろそろ限界か)
Now loading......

668 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 20:19:23.42 ID:1cPqm476o
kokomade
gensaku demo dai2bu ha ero syousetsu janakute warito kenzen deshita

669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/06(日) 20:33:17.26 ID:nVoBkWOzO
otsu

670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/06(日) 20:45:49.08 ID:4Pks2OsDo
otu!
maou titi ha korekara dou narunndaro...

671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/07(月) 02:46:14.17 ID:qIMXMcap0
otu

672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/07(月) 16:52:55.97 ID:Uvizwi8Bo
魔王父は悪霊となってしまうのか…?
otu

673 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:34:16.97 ID:fXmH/9koo
勇者兄「北北西の町の協会支部の立て直しが終わるまで防衛手伝えってさ」
勇者兄「あと、フロルにはこのまま仲間に加わっていてほしいそうだ」
魔賢者「え……」
魔法使い「……!?」
勇者兄「魔族が無害であることを証明するため、人間に協力したという実績を作るためだってさ」
勇者兄「だから擬態を解いて、魔気だけ抑えておいてほしいんだ」
勇者兄「しばらくつらいかもしれないけど、よろしくお願い……したい」
魔賢者「は、はい、頑張ります!」
勇者兄「よし、引き続きよろしくな!」
魔法使い(もうコバルトと魔王城に帰るのかと思っていたのに……)
Section 24 嫉妬

674 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:35:31.30 ID:fXmH/9koo
勇者兄「罪の無い人に罪を犯させる破壊神……許せねえ」
勇者「そうだね」
勇者兄「日を増すごとに人形も幽霊も強くなってるな」
勇者「小さめの町とはいえ、ずっとバリア維持するのも疲れるね……」
勇者兄「ここ数日、ずっと人身変化を維持しながらバリア張ってるんだろ?」
勇者兄「もうそろそろ魔王城に行って休んだらどうだ」
勇者「お、お兄ちゃんが自ら魔王城に行くことを勧めるなんて……」
勇者兄「あのなあ! 俺は妹にとって何が一番いいことなのか考えただけ!」
勇者兄「……俺、エミルに自分の信念を押し付けてばっかで、」
勇者兄「お前の気持ちを大事にできてなかったからな」
勇者兄「あいつ……魔王の方が、ずっとエミルの心を大切にしてるって気が付いて、」
勇者兄「兄としてどうあるべきなのか考え直したんだよ!」
勇者「お兄ちゃん……!」
勇者「嬉しいからもうしばらくここにいるよ」

675 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:36:19.38 ID:fXmH/9koo
町人1「あの魔族、本当に何もしてこないのう……」
町人2「それどころか協会の指示通りに俺達を守ってくれてるぞ」
町人3「美人さんだしな……」
魔賢者「あ、こ、こんにちは……」
町人4「魔族ってのは、リンゴの実は食べるのかい?」
魔賢者「ええ」
町人4「じゃあやるよ。先日助けてもらったお礼だ」
魔賢者「あ、ありがとうございます!」
武闘家「少しずつだけど受け入れてもらえつつあるな」
魔賢者「はい、安心いたしました」
魔賢者「こんなによくしていただけるなんて思ってもみませんでしたもの」
武闘家(最初は町の人達から怖がられていたが、)
武闘家(フロルさんの純朴な人柄が伝わったのか警戒を解かれつつある)
武闘家(良いことではあるんだが)
魔法使い「…………」

676 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:37:15.42 ID:fXmH/9koo
勇者「マフィンもらっちゃった。一緒に食べよ」
勇者兄「お、さんきゅ」
勇者「お父さんも……ってあれ、木によしかかってお昼寝しちゃってる」
勇者「疲れてるのかなあ」
勇者兄「エミルのが負担でかいってのに」
勇者「お父さんにはお父さんの苦労があるんだよ」
勇者兄(昨晩ハッスルしたとかじゃないよなあ……)
勇者兄「お、フロル! おまえもこれ食べないか」
魔賢者「よ、よろしいのですか? では、いただきます」
魔賢者「お二人はとても仲が良いのですね」
勇者兄「まあな。フロルには、兄弟いるのか?」
魔賢者「故郷に、小さな弟や妹がおります」
勇者兄「故郷……どんなところなんだ?」
魔賢者「城下町近くの、小さな村です」
勇者兄「エミルと同じ知恵の一族って奴ではないのか?」
魔賢者「私、その……平民出身なんです」
勇者「フロルはね、魔貴族出身の賢者達と同じくらいの実力持ってるんだよ!」
勇者兄「実力で出世したって感じか? すごいんだな!」
魔賢者「い、いえ……そんな……ありがとうございます」

677 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:37:53.86 ID:fXmH/9koo
魔賢者「これ、おいしいですね……」
魔賢者「確か、エミル殿下の本にこのようなお菓子の作り方が載っていませんでしたっけ」
勇者「あ、書いたよ」
勇者兄「エミルの本?」
勇者「魔王城にいる時にね、お料理の本書いて出版したらかなり売れちゃって」
勇者兄「えっすごいな」
魔賢者「私達平民の魔族に大好評なんですよ」
勇者「おかげで税金使わなくてもお買い物できるから気が楽だよ」
勇者「魔族のお金だからこっちでは使えないんだけどね」
魔法使い「あいつら……どうしてあんなに仲良く……」
魔法使い「………………」

678 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:39:15.53 ID:fXmH/9koo
ーー夜 野外
魔賢者「夜の警備、大変ですね」
勇者兄「ああ。……散歩か? 今休憩だろそっち」
魔賢者「一人で警備をするの、寂しくはありませんか……?」
勇者兄「そ、それもそうだが」
勇者兄(心配して来てくれたのかな……嬉しいな)
勇者兄「魔族なのに人間の町で過ごすってのも、大変だろ」
勇者兄「俺、魔王城に泊まった時さ、魔族達から怖がられて……気疲れ半端なかったんだ」
魔賢者「だいぶ、慣れましたから」
勇者兄「そっか……そりゃよかった」
勇者兄「……魔族ってのも、人間と大して変わらねえんだな」
勇者兄「そりゃそうか。元は同じ人間だったんだもんな」

679 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:39:47.86 ID:fXmH/9koo
勇者兄「……俺、小さい頃からずっと魔属は敵だって教えられてて、」
勇者兄「魔属は倒すべき敵だとしか認識してなかった」
魔賢者「…………」
勇者兄「でも、妹が魔族だったって判明してさ」
勇者兄「自分の価値観がいかに残酷なものだったのか、その時漸くわかって」
勇者兄「頭が真っ白になった」
勇者兄「今までの人生がひっくり返ったような感じがしたよ」
勇者兄「……俺は駄目な兄貴だった」
勇者兄「魔物と仲良くしてるあいつの気持ちを量ってやれてなかった」
勇者兄「そういえば、旅の途中で、魔族の女の子に恋をしてる男に出会ったんだ」
勇者兄「あの時はそいつの気持ちなんて全くわからなかったけど、」
勇者兄「今なら少しわかる気がする」
魔賢者「リヒトさん……」
勇者兄「あ、あはは、何語ってんだろうな俺」
勇者兄「聞き流してくれ」
勇者兄「……星、綺麗だな」
魔賢者「ええ」

680 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/07(月) 19:40:22.90 ID:fXmH/9koo
ーー宿
勇者兄「ただいまー」
魔賢者「……」
武闘家(二人で帰ってきただと……)
法術師「あ、あら、外でたまたま一緒になったのかしら」
勇者兄「ま、まあな」
魔法使い「…………!」
武闘家(これはまずい。これはまずい。どうにかして気を紛らわせないと)
勇者(ぼくが下手に介入しても悪化するだけだし寝たふりするしかない……)
勇者(恋って難しい)
勇者父「すこー……」
武闘家(失恋なんて別に珍しいことじゃない。人はそれを乗り越えて強くなるもんだ)
武闘家(しかし今はタイミングが悪すぎる)
武闘家(ここ数日気分を変えられそうな話題を振ったりはしてたが……)
法術師「もう夜も更けてるわ。みんな、もう寝ましょう」
法術師(……明日、フロルさんと話をしましょう)
法術師(人の恋路を邪魔したくはないけれど、私は……アイオの友達だもの)