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勇者「お母さんが恋しい」
Part27


618 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:32:10.70 ID:XOJN1vVPo
魔王『き、君は、きょうだい、いる?』
幼竜『……殺された。人間に』
魔王『あ…………』
魔王『ごめん…………』
幼竜『………………』
魔王『……人間に、襲われたの?』
幼竜『……』
魔王『そっか…………』
魔王『……黄金の一族の、族長の証、持ってるんだね』
幼竜『じいさまが、これを持って……ここまで逃げろ、って……』
魔王『そっか…………』

619 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:33:12.38 ID:XOJN1vVPo
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数日後、ゴールドドラゴンの族長の群れが壊滅したとの知らせが魔王城に入った。
幼竜(じいさまも、父さんも……死んでしまったんだ)
幼竜(おかしいな……悲しいはずなのに、実感がわかない)
幼竜(北に帰ったら、みんな元通り暮らしているんじゃないだろうか)
幼竜(そんな気さえ感じる)
魔王『歩けるようになったんだね、よかった』
幼竜『……先日は王太子殿下とは露知らず、ご無礼を働いたことを』
魔王『い、いや、普通に喋ってほしいんだ』
幼竜『……そう』
魔王『えっと……』
幼竜『君に、本当に妹なんているのかい』
幼竜『ネグルオニクス陛下に姫君がいるなんて聞かなかったけど』

620 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:34:13.89 ID:XOJN1vVPo
魔王『その……妹は、母上と、父上じゃない、別の男の人との子供で……』
魔王『すごく遠くにいて、もう二度と会えないんだ』
幼竜『……そう』
魔王『……君は、これからどうするの?』
幼竜『…………人間を、潰す』
魔王『!』
幼竜『あいつら、人間でありながら人間を……ハルモニアのみんなを襲った!』
幼竜『僕達は人間を守るために戦った』
幼竜『あの連中は……竜も人も皆殺しにしたんだ……』
魔王『に、人間を守るために戦ったって、どういうこと?』
幼竜『馬鹿にするかい?』
幼竜『五大魔族の一柱、ゴールドドラゴンの……それも族長の群れが、人間のために壊滅したなんて』
魔王『馬鹿になんてしないよ!』
魔王『君の話、聞かせてほしいんだ……』

621 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:35:06.62 ID:XOJN1vVPo
魔王『人間の集落と親交が……そんなことが……』
幼竜『君は、人間が好きなのかい』
魔王『好きっていうか……争いをなくしたいんだ』
魔王『それが母上の願いだったし、ぼくの妹は、人間として暮らしているから』
魔王『妹が、安心して過ごせる世界を創りたいんだ』
幼竜『…………そんなこと、できるのかい』
魔王『すっごく難しいことだとは思うけど、やりたいんだ!』
幼竜『…………』
魔王『ぼくはもうじき魔王となる』
魔王『でも、王位を継いでも、ぼくだけじゃみんなの常識を変えることはできない』
魔王『仲間が欲しいんだ』
魔王『……友達になってほしい』

622 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:37:02.15 ID:XOJN1vVPo
幼竜『…………』
幼竜『僕はもう何もかもを失った』
幼竜『これからこの世界がどうなったって知ったことじゃない』
魔王『放っておけば、同じような争いがまた起きる!』
魔王『このままじゃだめなんだ!』
幼竜『……悪いけど、お断りだね』
幼竜『あの連中がのうのうと生きている世界なんて、許せるはずがない』
魔王『…………』
幼竜『君はまだお父上も妹君も生きているじゃないか』
幼竜『大切な人の命を奪われたわけでもない君に、僕の気持ちがわかるはずがない』
幼竜(所詮、一番安全なこの城でぬくぬく育ったお坊ちゃんの夢物語)

623 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 18:39:56.57 ID:XOJN1vVPo
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幼竜(時折、あの夜の地獄のような風景が脳裏をよぎる。その度に憎悪が沸き溢れる)
幼竜(……虚しい)
魔王『あ……怪我、もうすっかりいいの?』
幼竜『うん。……助けてもらったことには感謝するよ』
幼竜(命を救ってもらったのに、何の恩返しもしないのはな……・)
幼竜『君に協力するつもりはない、けど……友達くらいなら……』
魔王『ほんと?』
魔王『ぼく、友達なんて、できたことなくって……嬉しいな……』
幼竜『え……?』
幼竜(友達ができたことないなんて……大丈夫なのかな、この王太子)
魔王『じゃあ、これからは一緒にこの城で勉強して、一緒に修行を受けようよ!』
幼竜『同年代の話し相手くらいなら普通にいるだろう?』
魔王『……』
幼竜(とても魔王の器とは思えないな……)

624 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 18:40:51.57 ID:XOJN1vVPo
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魔王『すごいね、頭良いんだね!』
幼竜『君ほどじゃないよ』
教官『この調子ならば、将来は優秀な魔術師となることも夢ではございませぬ』
魔王『剣の扱いも、すぐ覚えたんですよ!』
教官『ふむ……有望ですね。いずれは師団長か、それ以上か……』
幼竜『…………』
魔王『まだ、人間に復讐したいって、思ってる?』
幼竜『……』
魔王『仲が良かった人間も、いっぱいいたんでしょ?』
幼竜『…………』
魔王『一部から酷いことをされても、その種族全体を憎むのは、間違ってると思うんだ』
幼竜『……ハルモニアの村が特殊だっただけだ』
幼竜『人間の大多数は僕達魔属を敵だと思ってる』
魔王『そうじゃない人間だって、ごくわずかだけど存在してるんだ!』
魔王『ぼくの妹は、自分が魔族だって知らないけど、魔物と仲が良くて……』
幼竜『憎しみは、正論や綺麗事でどうにかできる感情じゃないんだ……!』
魔王『…………』

625 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 18:41:25.95 ID:XOJN1vVPo
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魔王『……』
幼竜『ふっらふらじゃないか』
魔王『…………』
幼竜『あれ、首、虫にでも刺されたのかい』
魔王『あ、う、うん……』
魔王『…………うっ……』
幼竜『!? どうしたんだい、その手首……』
幼竜(何かで縛られた跡が痛々しく残っている……)
魔王『見ないで』
幼竜『君は陛下の部屋に行っていたはずだろう? 何があったんだい』
魔王『……何でもない』
幼竜『血のにおい……どこか怪我をしたんじゃ』
魔王『ぼくの血じゃない』
幼竜『待って!』
魔王『触らないで!』
幼竜『っ……』

626 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 18:42:16.92 ID:XOJN1vVPo
魔王『ご、ごめん……君のこと、いやってわけじゃなくて……』
魔王『今は、駄目なんだ……』
幼竜『…………』
魔王『今は、放っておいて……お願い……』
幼竜『で、でも……』
魔王『…………』
幼竜『……傷ついてる友達を放っておけるわけないじゃないか!』
魔王『…………ぼくのこと、嫌いにならない?』
魔王『……今日も父上はぼくのことを思い出してくださらなかった。それだけだよ』
魔王『ああ、でも、今日は、いつもよりちょっと痛かったな……』
幼竜『…………?』
魔王『父上は、時々時間が巻き戻ってしまわれるんだ』
幼竜『……』
魔王『争いさえなければ、父上はあんなに大きな怪我を負うことはなかったし、』
魔王『心を壊してしまうこともなかったんだ!!』
魔王『母上だって、もっと長生きしたはずなんだ!!』
幼竜『…………!』
魔王『人間と仲が良かったら、父上と母上は幸せになれたはずなのに!』
魔王『全部全部歴史が悪いんだ! 戦争を繰り返す歴史が!!』
魔王『ちくしょう! ちくしょう! ああああああ!!』

627 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 18:51:16.78 ID:XOJN1vVPo
幼竜(知らなかった。彼は彼で、苦しみを背負っていたんだ)
幼竜(決して、甘やかされて育ったお坊ちゃんの理想論では、なかったんだ)
幼竜(もし、争いのない世界が実現できたら)
幼竜(もう、アリアのような犠牲が生まれない、)
幼竜(誰もが笑顔で生きられる理想郷を実現できたとしたら……)
幼竜(来世でなら、きっと幸せになれるだろうか)
執事『第885代魔王ヴェルディウス陛下、即位おめでとう』
魔王『……ああ』
執事(味方はいない。0から始めるんだ)
金竜『コバルト、生きていたのか!』
金竜『空の一族の協力を得られた。人間共に報復するぞ』
執事『お待ちください伯父上』
執事『お話があります』
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628 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 18:51:57.76 ID:XOJN1vVPo
kokomade

629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/05(土) 21:12:17.17 ID:v2MhY8dRo


630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/05(土) 21:39:21.90 ID:y727auez0
乙乙

631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/06(日) 12:16:05.33 ID:2CtgOVwwO


632 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 14:52:42.76 ID:1cPqm476o
Section 22 不穏
勇者兄「イリスの両親が見つかったって連絡があった」
勇者兄「大陸の南の方にある、小さな村に住んでいるらしい」
勇者兄「イリスを心配しているそうだ」
法術師「なんとかして、イリスちゃんを取り戻さなきゃ」
勇者兄「体を乗っとられていても、あの子自身には何の罪もない」
武闘家「とりあえずは探し回るしかなさそうだな……」
勇者兄「そういや、お前の師匠の人探しの秘術使えないのか?」
武闘家「よく知ってる相手じゃないと探せねえんだよあれ」
勇者父「眠い……」

633 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 14:53:43.05 ID:1cPqm476o
魔賢者「こ、この度、皆さんに同行することとなった、賢者のフローライティアです」
魔賢者「皆さんとは、先日、一度美の都で顔を合わせております……」
執事「テレポーション・連絡要員として陛下が派遣してくださいました」
執事「僕もいつ魔王城に用事ができるかわかりませんし、」
執事「城とすぐ連絡を取れないと困りますからね」
魔賢者「と、得意な魔術は情報魔術です。よろしくお願いします」
勇者兄「お、俺はリヒト。よろしく頼む」
魔賢者「は、はい!」
勇者兄(可愛いな……)
魔法使い(リヒト、あんなに魔属を嫌っていたのに……)
武闘家(嫌な予感がする)

634 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 14:54:47.51 ID:1cPqm476o
勇者兄「名前、長いよな」
魔賢者「ご、ごめんなさい」
勇者兄「いやいやいや責めてるわけじゃなくてさ。愛称あったら呼びやすくていいなって」
魔賢者「よく、フロルと呼ばれております」
勇者(お兄ちゃんの様子が……)
勇者父(お?)
勇者兄「そっか、フロルか。俺のことは呼び捨てで構わないからな」
魔法使い「ちょ、ちょっと! 破壊者探し真剣にやりなさいよ!」
勇者兄「新しい仲間と親しんでおくのも重要な仕事の一つだろ」
魔法使い「…………」
魔賢者「あ、あの、私のことは空気だと思ってくださって大丈夫ですから……」

635 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 14:55:17.55 ID:1cPqm476o
武闘家「そもそもなあ」
法術師「うん?」
武闘家「アイオさんはリヒトさんの好みからはかけ離れている」
法術師「何でわかるの?」
武闘家「リヒトさんを見てればわかる」
武闘家「あの人の好みは『ちょっとおどおどしてるが根が頑張り屋のうぶい子』だ」
武闘家「きつめの女よりは保護欲掻き立ててくる女の子が好きなんだろうな」
法術師「うーん、確かにそんな感じはするけど……突然こんな話するなんてどうしたの」
武闘家「リヒトさんがついに……って感じがバリバリするんだよ」
法術師「そこはかとなーく感じてはいたけど……やっぱり?」

636 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 14:56:04.00 ID:1cPqm476o
法術師「私としては、アイオを応援したいんだけど……」
法術師「小さい頃からずっとそうしてきたし、」
法術師「あの子がリヒト君に振り向いてほしくて頑張ってたの、よく手伝ったから……」
武闘家「見事に全部空回りしてたけどな」
法術師「うぅ……」
法術師「この頃は、旅が終わるまで恋愛は自粛しようって、普通に過ごしていたのだけど」
法術師「その隙にいきなり現れた女の子に取られたら……」
武闘家「確実に破壊者化しそうだな」
法術師「なんとかリヒト君を振り向かせなくちゃ」
武闘家「だが俺はアイオさんを応援する気はない」
法術師「えーなんでー?」
武闘家「想い人の妹に嫉妬するような女は正直好かねえ」
法術師「た、確かに焼きもちを焼いちゃう子ではあるけど……」
武闘家「ガキの頃は、他人に見えないところでエミルをいじめてたりもしたんだ」
法術師「えっ……」
武闘家「リヒトさんとはくっつかない方向で破壊者化を防ぎたい」
法術師「で、でも……私は……」

637 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/06(日) 14:57:51.16 ID:1cPqm476o
魔法使い「人数多いと宿代かさむわね……」
勇者兄「金なら平和協会から充分支給されてるんだから問題ないだろ」
宿主「八名様ですか……」
宿主「すみません、一部屋空いてはいるのですが、ベッドが二台足りません」
魔法使い「……どうすんの?」
勇者父「あ、じゃあ俺娘の家に行くわ。この村に住んでるんだ」
勇者兄「えっ……あ、そう……」
勇者兄(俺には一体何人きょうだいがいるのだろうか……)
勇者「ぼく城に帰るよ。パルルの魔気解放したいし、たまには帰りたいから」
勇者「長時間この姿保つのも大変なんだ」
勇者「フロル、情報交換用のパスコード教えて」
勇者「最近、簡単な遠隔会話くらいならできるようになってきたんだ」
魔賢者「は、はい」
勇者「よし、じゃあ何かあったらすぐ連絡してね」
勇者兄「お前は情報魔術使えないのか?」
魔法使い「私の専門とは系統が違いすぎるのよ。悪かったわね使えなくて」
勇者兄「別に責めてはないだろ」
勇者(アイオさんがピリピリしてて怖い……)
狼犬「くぅーん……」