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勇者「お母さんが恋しい」
Part26


599 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:48:44.30 ID:tszzSwKgo
魔王「……………………」
執事「陛下、しっかり」
執事「いやあ、場を和ませるネタをいくつか考えてたんですけど必要ありませんでしたね!」
魔王「お前も……一体何を考えて……」
執事「あんまり空気が堅くなるよりは、ゆる〜くした方が親しみやすいかなって……」
魔王兄「あ、もう一つ」
魔王兄「おまえんとこのメイドのカメリアちゃんによろしく言っといてくれ! じゃあな!」
魔王「…………………………………………」
武闘家「嵐のようだったな」
執事「えー、気を取り直しまして」
執事「族長の皆さん、宝珠の提示を」
知恵族長「人間の言う、青の宝珠だ」
力族長「赤の宝珠よ。綺麗でしょぉん?」
地底族長「銅の宝珠だ。正しき心の持ち主に使っていただきたいものだな」
空族長「うむ。緑の宝珠だ」
金竜頭領「…………」
力族長「あぁ、あんた族長じゃなかったわねえ」
執事「そして、金の宝珠は……」
執事「亡くなった族長の孫である、このわたくしめが管理しております」

600 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:49:46.40 ID:tszzSwKgo
協会北幹部「で、では、お主は……あの群れの生き残りか!?」
協会元帥「…………!」
執事「……ええ。わたくしの群れの竜は、五年前の襲撃によりほとんどが殺されました」
勇者「!?」
執事「我が祖父は、わたくしが生き延びられるよう、わたくしにこの珠を託しました」
執事「そして、珠の力無しに戦った祖父と、後継者であった我が父は……討たれました」
協会北幹部「…………」
執事「以来、我がゴールドドラゴンの族長は空席となっておりますが」
執事「金の宝珠はここにあります」
協会元帥(あの、時の……幼竜だと……いうのか……)
執事「人間が魔属に大切なものを奪われ、憎んでいるのと同様、」
執事「我々も多くのものを失っています」
執事「しかしまあ、だからといってより多くの血を流しても大地が穢れるだけです」
執事「わたくし自身争いを好まない質でしてね。是非とも和平を結んでいただきたい」

601 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:50:16.06 ID:tszzSwKgo
国王α「信じても……よいのではないだろうか」
協会代表「魔族の少年に心を動かされるとは、な……」
大神官「我等を騙そうとしている魔力の波動は感じられませぬ」
国王λ「世界の危機だ。いつまでもいがみ合っていては、共倒れになるだけであろう」
国王「和平に意義のある者はおるか」
協会南幹部「不安ではあるが……迷っている暇はないだろう」
協会南幹部「世界崩壊の危機はすぐ目の前に迫っている」
国王「ーー我等人類は、魔族と和平を築くことを誓おう」

602 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:51:49.30 ID:tszzSwKgo
勇者「よかったね! 和平を締結できたなんて歴史上はじめてだよ!」
魔王「…………」
勇者「元気出してヴェル」
魔王「………………」
協会元帥「お主、私が憎くはないのか」
元帥は兜を取った。
協会元帥「私は五年前、お主の群れと……あの村を襲い、」
協会元帥「ゴールドドラゴンの族長を討った功績により元帥の地位を手に入れた」
執事「……ええ、忘れませんよ。その右目の傷」
勇者「あ……」
執事「憎いに決まっているじゃありませんか」
執事「あなたは僕の目の前で、彼女を……アリアを殺しました」
執事「そして、家族を奪いました」
執事「復讐を願った時だってもちろんありましたよ」

603 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:53:00.09 ID:tszzSwKgo
執事「『憎しみは新たな憎しみの連鎖を生むだけ。復讐なんて無意味だ』」
執事「そんな綺麗事で、憎しみを消せるほど心は単純にできていません」
協会元帥「…………ならば、私を」
執事「僕だってギリギリのところで抑えているんです」
執事「刺激しないでいただきたい」
協会元帥「っ……」
幼女「おにいちゃーん!」
執事「イリス」
幼女「イリスね、いいこにしてまってた……」
協会元帥「…………」
幼女「あ……」
幼女「みぎめ……」
執事「? どうしたんだい」
幼女「この人、知ってル……」
幼女「平和協会……右目ノ傷……」
白い揺らめきがイリスを包み、彼女の姿を変化させた。
執事「き、みは……」
歌唱者「見つけた……私を殺した人!」

604 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:54:16.79 ID:tszzSwKgo
勇者「破壊の波動!?」
法術師「嘘でしょ……」
狼犬「がるるるるる……」
勇者兄「なんだこのピリピリする馬鹿でかい波動は!!」
魔王「人間をただちに避難させよ!」
イリスの姿は十五歳ほどの少女に成長しており、顔付きも変化していた。
黒髪を侵食するように、少しずつ明るい金が揺らめきを増している。
法術師「嘘……嘘よ……」
協会元帥「な……」
歌唱者「ーー響け 滅びの唄 純然たる破滅の意思よ」
少女の歌声が響き、石造りの壁や天井にひびが入った。ところどころが崩れ落ちている。
術者達は主人を守るため、咄嗟に防御魔術を発動した。
歌唱者「ーー憎き者に苦しみを」
協会元帥「ぐっ……」
少女は、細い刀を元帥の腹に突き刺した。
歌唱者「すぐには殺さないわ。殺されたみんなの痛み、竜達の痛み、味わってもらうわよ」
法術師「だめえ!!」

605 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:55:07.09 ID:tszzSwKgo
歌唱者「邪魔をするなら、あなたも殺すわ」
法術師「きゃあっ!」
執事「ア……リ、ア……?」
執事「アリア……なのかい……?」
歌唱者「え……」
歌唱者「コバルト…………?」
歌唱者「あなた生きていたのね!」
執事「……!」
勇者兄「何が起きてるんだ」
歌唱者「私が殺された後、あなたまで殺されてしまったんじゃないかって……」
歌唱者「よかった……また会えるって信じてたわ」
歌唱者「あなたの魂をずっと探していたのよ!」
歌唱者「さあ、一緒に復讐の旅に出ましょう!」
歌唱者「憎き平和協会を……みんなの仇を討つのよ!」
執事「……アリア」

606 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:55:46.51 ID:tszzSwKgo
協会元帥「はっ……あ……」
法術師(ち、治療を!)
執事「僕は、復讐なんて望んでいない」
執事「殺したいほどこの男は憎いさ。でも、これからは新たな時代を築かなきゃいけない」
執事「築いていきたいんだ」
歌唱者「…………」
歌唱者「どう……して……」
執事「君は、破壊神に操られているんだ!」
勇者兄「おい、今の内に例の術使えないのか」
魔法使い「無理よ、とてもセレナと連携をとれる状態じゃないわ」
魔法使い「……仮にできたとしても、あの子の力が強すぎて効かないでしょうね」

607 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 19:57:43.03 ID:tszzSwKgo
歌唱者「どうしてそんなことを言うの!?」
歌唱者「……そうよ、私は破壊神のしもべ。復讐のため、死の間際に契約を交わしたわ」
執事「…………」
歌唱者「そうね、あなたは優しいもの」
歌唱者「私が一人で復讐を遂げてあげるわ。その後はずっと一緒にいてくれるよね?」
執事「待って! アリア!」
歌唱者「私は許さない。私達を殺した人間を」
歌唱者「う……もう時間が……」
歌唱者「少しの間だけ、またさよならよ……コバルト」
そう言い残すと、少女は姿を消した。

608 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 20:00:00.63 ID:tszzSwKgo
勇者(何もできなかった……)
勇者(なんて鋭い、恨みの力…………)
武闘家「……おっそろしい」
誰も強大な破壊の力に手を出せなかった。
執事「は、はは。ありえない。彼女にまた会えただなんて」
勇者「コバルトさん……」
執事「…………北の大山脈に住んでいた頃、僕には好きな女の子がいました」
執事「でも、彼女は僕の目の前で人間に殺されました」
勇者「……」
執事「そりゃあもう、憎みましたよ、人間を。その男を」
勇者「でも、人間全てを憎んでるわけじゃ、ないんでしょ?」
勇者「普段のコバルトさんは、とてもそんな風には……」
執事「……その女の子も、人間だったんですよ」
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609 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/04(金) 20:00:27.45 ID:tszzSwKgo
kokomade

610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/05(土) 02:59:12.91 ID:cq/Va0Pjo

ああ...魔族じゃなかったのか...

611 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:15:41.55 ID:XOJN1vVPo
Section 21 理想郷
勇者「平和協会の人間が人間を襲った……?」
執事「今にも建物が崩れそうですね……場所を移しましょう」
魔王「……立てるか」
執事「すみません、腰が抜けてしまいました」
魔王「肩を貸そう」
法術師「そんな……イリスちゃんが……」
魔法使い「セレナ……」
勇者「すっかり気配が消えてる……魔力の探知もできないや」
勇者兄「何者なんだ、一体」

612 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:16:33.29 ID:XOJN1vVPo
執事「……北の大山脈に、小規模ですが古くから続くハルモニアという村がありました」
執事「その村は、僕達ゴールドドラゴンを神の使いとして崇めていました」
執事「僕が属していた群れとも親交がありましてね。仲良くしてもらっていましたよ」
勇者「人間と魔族が、仲良く……」
執事「その村に、アリアという少女が住んでいました」
執事「彼女は、村に伝わる不思議な歌の力を継承していました」
執事「綺麗な歌声でしたよ……聴く者全ての心を浄化する、癒しの力がありました」
執事「僕と彼女は仲が良くて、よく彼女を僕の背に乗せて空を散歩したものでした」
執事「しかし、魔族を崇拝する村を、他の人間達がよく思うはずがなかった」
勇者「……」
執事「また、ゴールドドラゴンはいくつかの群れに分かれて生息しているのですが、」
執事「僕の群れは族長の群れ。討伐に成功すれば魔族の戦力を大きく削ることができる」
執事「五年程前、僕の群れと彼女の村は平和協会から襲撃を受けました」

613 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:18:56.89 ID:XOJN1vVPo
執事「僕達の飛翔能力と魔力容量であれば、人間の軍隊から逃げるだけなら容易いことでした」
執事「しかし、僕達はハルモニアの村を見捨てることができなかった」
執事「僕達は彼等を守るために戦いましたが、結果はほぼ相討ちでした」
執事「両親も、兄弟も、殺されました」
執事「生き残ったのは、僕と、放浪癖のあったメルナリアの父親を含むごく数名だけです」
執事「そして、その戦いの中で……アリアも、僕の目の前で斬り殺されました」
執事「先程の平和協会の男に」
勇者「…………」
執事「仲間達から逃げるよう促された僕は、傷を負いつつもどうにか飛び続け、」
執事「魔王城に流れ着き、以来陛下の下で働いているというわけです」
勇者「そんなことが……」
執事「……本当は、彼女は復讐を望むような子ではないんです」
執事「風を愛し、生命を慈しみ、動物の死に涙を流す、とても優しい子でした」

614 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:20:13.87 ID:XOJN1vVPo
執事「彼女が、武器を持つはずがない……!」
執事「一体どうして…………」
法術師「…………」
法術師「……イリスちゃんは、その子に……いえ、破壊神に操られているのかしら」
法術師「殺されたアリアさんの魂がイリスちゃんの中に入り、」
法術師「時折アリアさんが目覚め、破壊活動を行っていた……」
魔法使い「他の破壊者も、長時間操られることはないみたいだし、」
魔法使い「あまり長い間は戦えないのかもしれないわね」
武闘家「不安定なんだろうな」
勇者兄「北に向かってたってのは」
執事「僕等を襲った平和協会北支部に向かっていたか、」
執事「……もしかしたら、故郷に帰ろうとしていたのかもしれません」
執事「彼女を探しましょう。あまり遠くへは飛べなかったはずです」
法術師「そうね。今頃イリスちゃんの姿に戻ってまた迷子になってるかもしれないわ」
執事「…………陛下」
魔王「……破壊者の少女を探しに行け。命令だ」
執事「!」
魔王「城のことはメルナリアに任せておけばよい」
執事「ありがとうございます」

615 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:20:56.60 ID:XOJN1vVPo
勇者「そういえば、メルナリアって何でメイド長やってるの?」
勇者「種族的にも年齢的にもしっくりきてなかったんだけど……」
魔王「ああ、あいつなら高位の役職の見習いくらいにはなれたのだが」
魔王「地位が高ければ高いほど、権力がある分責任が重くなり、自由もなくなるからな」
魔王「あいつは自ら地位を得ることを放棄した」
魔王「だから名目上メイドということにしておき、私の元で働いていたのだが、」
魔王「メルナリアは若いながら小間使い達からの人望を得ていた」
魔王「そのため、先代のメイド長がメルナリアを後任にすべく仕事を教えていたのだが、」
魔王「急に先代のメイド長が田舎に帰ることになってな」
魔王「だからあの年齢でメイドを取り仕切ることとなったのだ」
勇者「ああ、なるべくしてなったんだ」
魔王「他者を惹き付ける能力はコバルトと共通している」
魔王(……羨ましい)

616 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:21:38.28 ID:XOJN1vVPo
勇者兄「そんなことがあったのに、よく人間嫌いにならなかったな」
執事「ヴェルディウス陛下との出会いがありましたからね」
執事「もう、五年か…………」
ーー
ーーーーーー
ある夜、一体の幼竜が魔王城に逃げ込んだ。
魔王『なんて酷い怪我を……』
魔王『すぐに治療師を!』
幼竜『…………』
魔王『大丈夫かい?』
体だけでなく心にも深い傷を負っているのか、酷く虚しい目をしていた。
他者からの呼びかけに応じる余裕もないようだ。
幼竜は、エネルギーの消耗の少ない人型へと姿を変え、力尽きるように気を失った

617 : ◆qj/KwVcV5s :2016/03/05(土) 17:31:39.64 ID:XOJN1vVPo
幼竜(ここは……)
魔王『……よかった、気が付いたんだね』
魔王『えっと、君、ゴールドドラゴン……だよね……』
幼竜(綺麗な女の子……。でも、男物の服……)
幼竜『…………』
魔王『何が、あったの』
幼竜『…………』
魔王『……そ、その……名前、なんて、いうの?』
魔王『ぼくは、ヴェルディウス』
幼竜『…………コバルト』
魔王『……えっと、き、きれいな名前だね?』
幼竜『……?』
魔王『コバルトブルーは、とても綺麗な色だから……』
幼竜『………………』
魔王『へ、変なこと言っちゃったかな……』
魔王『妹が、初めて会った人には、』
魔王『とりあえず名前を褒めるようにしてるって、言っていたから……』
幼竜『…………君、男?』
魔王『………………うん』