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勇者「お母さんが恋しい」
Part20


477 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:48:26.53 ID:sOi7JawAo

勇者(お兄ちゃんは着実にこっちに向かっている)
勇者「ねえ、兄上」
勇者「ぎゅうってして」
魔王「……」
勇者「頭撫でて」
魔王「……眠れないのか」
勇者「ん…………」
魔王(不安なのだろう。当然だ)
勇者「ヴェル……」

478 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:48:55.85 ID:sOi7JawAo
翌日
魔王「……真の勇者を倒せば、エミルは俺を恨むだろうな」
執事「手加減すれば陛下が死んじゃいますしね」
執事「どちらにしろ悲しませることになるでしょう」
魔王「だが闘わぬ道はなかろう」
執事「……真の勇者は、魔族となったエミル様を自分の妹とわからず、」
執事「殺してしまう可能性も否めません」
魔王「どのような結果になったとしても、エミルは守り通せ。いいな」
執事「はい」

479 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:49:28.92 ID:sOi7JawAo
勇者兄「もうじき魔王の領地だな……食料は充分あるか?」
法術師「ええ。亜空間携帯袋にたっぷり入ってるわ」
武闘家「盗賊か雑魚敵としか戦ってこなかったおかげで実戦経験が乏しいな」
勇者兄「だが退くわけにもいかない」
魔法使い「ここまで襲われなかったんだし、本当に魔王と闘う必要なんてあるのかしら」
勇者兄「俺達を油断させようとしているのかもしれない」
勇者兄「何より、エミルは絶対に取り戻さなければならない」
勇者兄「…………行くぞ」
ーー
ーーーーーー
数週間後
魔団長「陛下、真の勇者が間近まで近付いているとの報告が入りました」
魔王「城にいる者は全員北へ避難させよ」
魔王「軍は城下町の警護にあたれ」
魔王「賢者、魔術師は町にシールドを張れ」
魔王「真の勇者が通るべき道は、この魔王城に繋がる大通りだけだ」
魔王「絶対に犠牲者を出すな」

480 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:49:58.96 ID:sOi7JawAo
勇者「ぼくも城に残ります」
魔王「ならぬ」
勇者「お兄ちゃんと話をさせて!」
魔王「危険だ」
勇者「お願い! おねがーー」
魔王「……しばらく眠っていてくれ。すまないな、お前の思いを無碍にしてしまって」
魔王「メルナリア、エミルを北の離宮へ」
メイド長「……はい」
執事「いいんですか、これで」
魔王「彼女を守るためだ」
勇者兄「俺は……エミルを助ける!」
魔王「私は……エミルを守ってみせる」

481 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:50:33.34 ID:sOi7JawAo
勇者(やめ……て……)
勇者(たたかわな……いで…………)
リヒト達が城下町の門に訪れると、大街道の両端に青い障壁が伸びた。
勇者兄「真っ直ぐ来いってか」
リヒトは、焔の様な橙色の瞳で黒くそびえ立つ魔王城を見据えた。
勇者兄「……全員、覚悟はできているな」
法術師「ええ」
魔法使い「まあね」
武闘家「一応な」
法術師「みんな、生きて帰りましょうね」

482 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:50:59.40 ID:sOi7JawAo
魔王「お前は逃げないのか」
執事「お供しますとも」
執事「じゃなきゃ、あなたが負けた時誰が真の勇者を足止めするんですか」
魔王「……ふん」
執事「ちなみに、陛下が戦闘不能になったら僕が雷撃で離宮に合図を送り、」
執事「賢者がテレポーションでエミル様を遠くへお送りする手筈となっております」
魔王「…………いつもすまないな」
執事「今更水臭いね。親友じゃないか」
勇者兄「魔王ヴェルディウス……!」
魔王「来たか、真の勇者リヒト・スターマイカ」
勇者兄「エミルを返せ!」
魔王「彼女は我が眷属となった」
魔王「二度と貴様の元には行かせぬ」
勇者兄「なら力づくで取り戻すまでだ!」

483 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:51:40.20 ID:sOi7JawAo
魔王「人間がエミルに何をした?」
勇者兄「…………」
魔王「孤独な旅へ追いやり、命を奪おうとした」
魔王「人間の元へ帰ったところでエミルは幸せになどなれはしない!」
勇者兄「ああ、俺が聖域なんて安全地帯で腑抜けている間に、」
勇者兄「エミルが散々な目に遭わされていたことは事実だ」
勇者兄「だが俺は真の勇者として目覚めた! クソうるさい世間なんて変えてみせる!」
魔王「ふん。大言壮語もほどほどにするがよい」
魔王「言ったはずだ、貴様がエミルを守りきれなかったら我が迎えに行くとな」
勇者兄「はっ、やっぱりお前あん時の男か!」
勇者兄「決着をつける時が来たようだな!」

484 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:53:12.64 ID:sOi7JawAo
魔王「コバルト、手を出すな。我一人で充分だ」
執事「はいはい」
勇者兄「みんな、俺一人でやらせてくれ」
魔法使い「ちょっと本気!?」
勇者兄「俺の兄としてのプライドをかけた闘いなんだ」
魔法使い「で、でも」
法術師「アイオ」
魔法使い「…………」
勇者兄「ーーいくぜ、光焔の砕破<シャインスパーク・クラッシュ>!」
魔王「闇氷の障壁<ダークアイス・ウォール>!」

485 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:53:50.45 ID:sOi7JawAo
勇者兄(……胸が熱い)
勇者兄(光の珠が激しく振動している)
魔王「光の珠と闇の珠が最も力を発揮するのは共に在る時だというのは本当だったようだな」
勇者兄「そう……敵を倒すため、俺の光の力は闇を前にして最高に輝きを増す!」
魔王「どれほど輝こうと目晦ましにもならぬわ!」
魔王「我が闇で覆い尽くしてやる」
魔王は体に闇を纏った。
勇者兄「はっ、闇は光に叶わねえって相場が決まってんだよ」
真の勇者も同じく光を纏い、光の聖剣で魔王に斬りかかった。
魔術を交えた激しい剣戟が繰り広げられる。

486 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:54:39.36 ID:sOi7JawAo
武闘家「一撃一撃が大振りだな、魔王」
勇者兄「はっ、剣に振られてるぜ!」
魔王「くっ!」
リヒトの鋭い剣捌きに魔王の黒き大剣が弾き飛ばされた。
執事「あーあ、言わんこっちゃない」
勇者兄「残念だったな!」
魔王「甘いな。ーー出でよ、我が愛剣・氷柱の孤独【ソリトゥス・スティーリアエ】」
魔王の手元に新たな剣が現れ、リヒトの攻撃を跳ね返した。
勇者兄「なっ!?」
執事「最初からあれ使えばよかったのに」
魔王「驕るな愚か者!」
勇者兄「はっ、くっ!!」
勇者兄(スピードが上がりやがった!)

487 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:55:07.24 ID:sOi7JawAo
魔法使い「リヒト! ああもう見てらんないわ!」
執事「おっと」
アイオ達の目の前に小さな雷撃が落とされた。
執事「邪魔はさせませんよ」
魔法使い「くっ……」
魔王「エミルの兄は我だけで充分だ!」
勇者兄「そんなにっ、兄妹ごっこっ、したいのかよっ!」
魔王「『ごっこ』? ふん、エミルは我が同腹の妹だ!」
勇者兄「な、何言ってやがる!?」

488 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:55:33.35 ID:sOi7JawAo
勇者「う……」
勇者「! お兄ちゃんとヴェルは……」
メイド長「現在、闘っておられます」
勇者「止めなくちゃ!」
メイド長「エミル様、お待ちください!」
勇者(光の力は魔属にとって猛毒)
勇者(同様に、闇の力で傷を負わされた人間も無事ではいられない)
勇者「お願い、二人とも……まだ無事でいて!」
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489 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 14:57:18.86 ID:sOi7JawAo
光と闇が拮抗し、激しく衝撃音を立てている。
勇者兄「うぉぉおおおおおお!!」
魔王「ぐっ…………!」
勇者「兄上! お兄ちゃん!」
魔王「エミル!?」
勇者兄「エミル……だと……!?」
勇者「よかった、間に合った……」
法術師「エミル……ちゃん……?」
魔法使い「あれ、どう見ても魔族じゃない」
武闘家「…………」

490 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 14:57:44.54 ID:sOi7JawAo
メイド長「エミル様ーっ! ひっ、真の勇者……」
狼犬「くぅ〜ん」
勇者兄(顔も、髪の色も、声色も違う)
勇者兄(でも、変質してはいるが確かにあの魔力はエミルの物)
勇者兄(何より、あれは……エミルの瞳だ)
勇者兄「嘘……だろ……」
魔王「何故此処に来た」
勇者「だって」
勇者「皆で考えれば、もしかしたら血を流さずに済む方法が見つかるかもしれないもの」
勇者「ぼくは、誰にも傷ついてほしくない!」
魔王「エミル……」
勇者兄「……魔王! エミルを人間に戻せ!!」
勇者兄「よくも俺の妹を魔族なんかに……!」
魔王「まだわからぬのか! エミルは元より魔族として生まれついた」
魔王「人間の姿こそ偽りのものだ!」

491 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 14:58:44.50 ID:sOi7JawAo
勇者兄「ふざけるな!!!!」
勇者「やめて! 闘わないで!!」
勇者「いやああああああああああ!!!!!!!!」
その瞬間、凄まじい衝撃波が弾けた。

492 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 14:59:15.41 ID:sOi7JawAo
魔王「う……」
勇者「はぁ…………」
勇者「っ…………」
勇者(力が暴発するなんて……)
魔王「え、み……る……」
勇者「兄上! ごめんね! 大丈夫!?」
エミルは真っ先に魔王の元へ駆け寄った。
勇者兄「えみ、る……」
執事「はは、魔力の衝撃で一時的に体が麻痺しているだけです」
執事「おそらく全員ダメージがあるわけではありません」
地面に這いつくばったままでコバルトが言った。
魔王「……傷はない」
勇者「はあ、よかった……」

493 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 14:59:45.35 ID:sOi7JawAo
勇者兄「エミル、なあ、そいつに洗脳されてるだけなんだよな……?」
リヒトはどうにか立ち上がりながらエミルに語りかけた。
勇者「……ごめんね、お兄ちゃん。ぼくは正気だよ」
法術師「嘘……」
魔法使い(やっぱり、あいつ化け物じゃない!)
武闘家「体中ピリピリする」
勇者兄「くっ……」
勇者兄「魔王……ブッ倒す……!」
勇者「待って!」
エミルはヴェルディウスを庇うように両手を広げ、リヒトの前に立ちはだかった。
勇者兄「そこをどけエミル!」
勇者「お兄ちゃん。お兄ちゃんにとって、魔属は殺して当然の敵。そうでしょ?」
魔王「エミル、逃げろ……!」
メイド長「危険です! 早くこちらへ」
勇者「ぼく、魔族なんだよ。ぼくのこと、殺せる?」
勇者兄「っーーーー」

494 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 15:00:15.71 ID:sOi7JawAo
勇者兄「……ちくしょう」
手から剣が滑り落ち、リヒトは両膝を着いてうなだれた。
勇者「……お兄ちゃん、ぼくのこと、心配してここまで来てくれたんだよね」
勇者「ありがとうね」
勇者兄「…………」
勇者「ぼく、お兄ちゃんとお母さんが違ってたんだ」
勇者「ぼくの本当のお母さんは、先代の魔王の后。今の魔王のお母さんだったの」
勇者兄「…………」
勇者「だから、本当に……半分は、魔王と同じ血が流れてるんだ」
勇者兄「ぁ……あ……」
勇者兄「俺は……俺は……どうしたら……」
勇者兄「っぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」
勇者父「おまえら何やってんの?」
勇者兄「あああ!? あ?」
勇者「え?」
魔王「っーー」
魔法使い「は!?」
法術師「あらまあ!」
狼犬「わふ?」
魔王父(死ね)
執事「わお」
メイド長「!?」

495 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 15:00:59.12 ID:sOi7JawAo
武闘家(気配近付いてたのに誰も気づかなかったのかよ)
勇者「お……父……さん?」
勇者父「平和協会の支部が襲撃を受けて魔王討伐どころじゃないってのにーー」
勇者父「あ、そうかそうか! 魔族の領地にいておまえらには情報入らなかったのか!」
勇者父「それなら仕方ないよなあ!」
  「「「「「「「「……………………」」」」」」」」
勇者父「おっエミル! 久しぶりだなあ! おまえ魔族に戻ったのか〜」
勇者「…………」
勇者父「はっ……ってことは! おまえ早いなぁ〜流石お父さんの子だ!」
勇者父「したんだろ? セックス」
勇者「……え?」
勇者父「だから、魔族の彼氏とラブラブセッ」
勇者「わあああああああああああ!!!!!!!!!!」
勇者兄「は?」