Part2
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:09:33.52 ID:
Xi7uubKoo
神官「尤も、近年は平和協会も彼の動向を把握しきれていないそうですが……」
勇者「そうなの?」
神官「12年前の魔王との闘い以来、各地を巡って人々を助けてはいるそうですが」
神官「神出鬼没なのだそうです」
勇者「そういえば瞬間転移魔法覚えたって言ってた気がする」
勇者「自分しか転移できないみたいだけど」
神官「ええっ!? あの魔法のアルゴリズムは解明されていないはず」
神官「今現在瞬間転移魔法を扱える人間はいないのですよ」
神官「使えるのは相当高位の魔族のみだと言われています」
勇者「んー……お父さんのことだから、魔王と闘った時とかに術を盗んだりしたのかも」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:10:02.99 ID:
Xi7uubKoo
勇者(昔は、今よりも魔族と人間の争いが激しかった)
勇者(当時の魔王、ネグルオニクスは、とても残酷だったらしい)
勇者(12年前……ぼくが生まれた頃の闘いで、お父さんは魔王に大きな傷を負わせた)
勇者(それ以来、魔族の軍勢が攻めてくることはなくなった)
勇者(数年前に代替わりしたそうだけど、状況はほとんど変わっていない)
勇者(今でも小さな争いはあるけど、人間の方から攻め入ることがほとんど)
勇者(下級の魔物が人間を襲うのは、肉食獣が人間を襲うのと同じようなものだし、)
勇者(魔王自ら戦いを起こすような様子はない)
勇者「今の魔王って、どんな魔族なんだろうね」
勇者「平和主義者だったらいいなあ……」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:10:28.69 ID:
Xi7uubKoo
宰相「陛下、あれでよろしかったのですか」
宰相「次期真の勇者の覚醒前に、魔王が沈黙を保っている現状で下手に刺激を加えては」
国王「問題ない。万が一向こうから攻め入られることがあったとしても、」
国王「老いているとはいえ真の勇者は存命しておる」
国王「何を目的に大陸中を飛び回っておるのかは不明だが、いざという時は奴が動くだろう」
宰相「し、しかし……」
国王「あやつは不穏分子。しかしながら、人の形をしている以上処刑もできぬ」
国王「魔族に殺してもらうのが最良だ」
国王「相手が魔王であれば更に良い」
国王「エミルが魔王に殺された時、兄のリヒトは魔王を深く憎むであろう」
国王「憎しみは人の強さを引き出す」
国王「リヒトの魔王討伐を成功させる足がかりとなるだろう」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:11:18.68 ID:
Xi7uubKoo
勇者「村でもらったオリヴァの実でスープ作ったんだよ!」
神官「あら……おいしそうな香り」
勇者「実は具になるし、種は砕いたらすっごくおいしい香辛料になるんだよ」
勇者「あと、お漬物にしたら長持ちするんだー」
ーーーーーー
ーー
神官(エミルさんと旅立って一週間)
神官(エミルさんは一向に魔物と戦わない)
神官(三年前の出来事と同様、剣を抜くことなく、争いを鎮めている)
神官(魔法を使って、時には自分の体を張って……)
勇者「魔王がいい人だったとしても戦わなきゃいけないのかなー」
勇者「……それが勇者の宿命だもんね」
勇者「理想を描くだけじゃ何にもならないって、いつもお兄ちゃんが言ってた」
勇者「でも、ぼくは…………」
Now loading……
26 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/10(水) 19:11:52.14 ID:
Xi7uubKoo
kokomade
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 21:25:59.86 ID:Iwona2V/0
おつ
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 22:43:54.09 ID:/BVZx/uOo
乙
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/11(木) 13:58:35.82 ID:01gk/huDO
乙乙
30 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:44:10.35 ID:QbloZM1ro
ーー魔王城
執事「魔王陛下、人間側に動きがありました」
執事「次期真の勇者リヒトが覚醒する前に、その妹エミルを送り出したようです」
魔王「……愚かな人間共め」
魔王「沈黙の時も終わりが近いな」
魔王「やはり、彼奴では荷が重かったかーーーー」
31 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:44:52.69 ID:QbloZM1ro
Section 2 旅路
勇者「旅立ってからもうすぐ一ヶ月かあ。あっという間だね」
神官「ええ」
勇者「……ごめんね」
勇者「ぼくが魔物を殺さないせいで、協会からの援助金がちょっとしか入らなくて」
神官「お気になさらないでください。最低限生きていける額はあります」
大陸中に平和協会の支部が点在しており、
勇者とその仲間は協会から支援金を受け取ることで旅を続けることができる。
勇者(食費でほとんど消えてしまう金額しかもらえないなんて)
勇者(これじゃ、馬車にも乗れるかどうか……)
勇者「あ! あの掲示板見て!」
32 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:45:18.47 ID:QbloZM1ro
勇者「この先の谷間の道を塞いでる魔物を退治できたら80万Gだって!」
勇者「ぼく達がこれから通る道だし、やってみようよ」
神官「でもエミルさん、あなたは……」
勇者「……退治はしないよ。ちょっと遠くへ行ってもらうだけ」
勇者「話せばきっとわかってくれるから」
神官「…………」
神官「エミルさん、あなたが殺さなかった魔物が、いつか人を襲うとは考えないのですか?」
神官「目の前の人と魔物を助けても、あなたの知らないところで誰かが犠牲になるかもしれません」
勇者「………………」
33 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:45:45.46 ID:QbloZM1ro
勇者「神官さんの言う通りかもしれない」
勇者「でも、肉食の動物は、人間から怖がられることはあっても忌み嫌われたりはしてない」
勇者「魔族ならともかく、魔物を目の敵にする理由がぼくにはわからないんだ」
神官「それは……魔属の持つ気が我々には有害ですから」
魔属は魔のオーラを纏っており、それは魔の気や魔気と呼ばれている。
人間や動物が魔気に長時間当てられると身体に異常をきたし、最悪の場合死に至るのである。
魔属同士であっても、相性によっては相手の魔気が有害となる場合がある。
34 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:48:14.22 ID:QbloZM1ro
勇者「でも、それはわざとじゃないし、お守りや魔法で防ぐ方法だってあるし……」
神官「貧しい者は魔気避けのタリスマンを買うことが困難でしょう」
神官「魔法を使用しても、長時間魔気を防ぐには相当な魔力と精神力が必要となります」
神官「身を守るために敵の命を奪うのはやむを得ないことなのです」
勇者「…………」
神官「あなたは綺麗事で誰かを犠牲にするおつもりですか」
神官「……ご自分の手を汚すのが怖いだけなのではないですか!」
勇者「そんなわけじゃ……」
神官「ならば、勇者として魔物を退治なさい」
勇者「……………………」
神官(ここでエミルさんを勇者として成長させないと)
神官(現実をお教えしなければ、この子はいつまで経っても甘ったれた子供のまま……)
35 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:48:47.28 ID:QbloZM1ro
勇者(同じような説教は、小さい頃から何度もされてる)
勇者(それに対して、ぼくはずっと答えを出せないまま)
勇者(みんな仲良く生きていけたらいいなって)
勇者(平和な世界を、創る方法はないのかなって……)
勇者(そんなぼくの価値観をわかってくれた人もいない)
『ぼくも、そう思うよ』
『魔族と人間の仲が良かったなら、きっと、今頃ーー』
勇者(ううん、一人だけいたはずなんだ)
勇者(名前も顔も、思い出せないけど……)
36 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:54:47.24 ID:QbloZM1ro
勇者「あれは……レオトルス! 図鑑で見たことあるよ!」
神官「あんなに恐ろしい魔獣の群れがこんなところにいるなんて」
レオトルスーー獅子に近い体型を持つ、雷属性の魔物である。
魔物の中でも上位とされ、知能は高い方である。
通常は荒野や山奥に生息し、人間の街道沿いに姿を現すことは滅多にない。
勇者「すっごく怒ってる……」
勇者「人間に敵意を剥きだしにしてるよ」
神官「いくらなんでも危険すぎです!」
神官「歴戦の戦士と、勇者の一族の者を大勢呼ばなければ」
勇者「……なんとか、してみせるから。ここでバリアを張って待ってて」
37 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:55:13.89 ID:QbloZM1ro
勇者「どうして君達はこんなところにいるの!?」
レオトルス「ガアァ!」
一体のレオトルスが勇者に襲いかかった。
勇者「んっ!」
神官「エミルさん!」
勇者「大丈夫だよ! そこにいて!」
勇者「こんな異常事態には、何か必ず原因があるはずなんだ……!」
勇者「教えて! 君達がここへ来た理由を!」
怒り狂った雷獣達がエミルの言葉に耳を貸す様子はない。
38 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 17:55:41.30 ID:QbloZM1ro
100体近くの雷獣が代わる代わるエミルに襲いかかる。
神官(あれほどの攻撃を防護壁で防ぎ続けることができるなんて……)
神官(あの子は一体どれほどの魔力を持っているというの!?)
勇者(これじゃ埒が明かない……!)
勇者「ーーリベレイトマジック」
神官(あの子の魔力が膨れ上がった……今まで力の半分以上を隠していたというの……?)
勇者「ごめんね、一回寝てね!」
勇者「スリーピングミスト!」
優しい霧が辺りを満たした。
怒り狂った雷獣達は次々と微睡み、地に伏し始めた。
神官「嘘でしょう……?」
神官「凶暴な魔物達を……こんなに簡単に……一気に眠らせるだなんて……」
神官(こんなの……人間の魔力容量じゃないわ……)
神官(大魔導師クラスを軽く超えてるじゃない……!)
39 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 18:00:14.78 ID:QbloZM1ro
勇者「君が、この群れのリーダーなんだね」
一体だけ、最も体が大きいレオトルスは微睡みながらも意識を保っていた。
勇者「そっか。やっぱり、元の棲み処を人間に襲われたんだね」
勇者「魔王の命令で、人間を襲うのを控えていたのに……」
勇者(この子達の心は、魔王への不満と、人間への怒りで満たされている)
勇者「ここはだめだよ。近い内に、君達を討伐しに大人の人がいっぱい来るから」
エミルは感覚を研ぎ澄まし、魔力で辺りを探索した。
勇者「ずっと南西の方の荒野……今は人間も上位の魔物の群れもいないみたい」
勇者「君達が住むのに適してると思うよ。そこへお行き」
40 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 18:00:40.74 ID:QbloZM1ro
勇者「ユダスさん! 倒さなくっても、なんとかなったよ!」
勇者「人間の方から危害を加えなければ、あの子達は人間を襲わないんだって」
エミルが戻ると、神官は腰を抜かしていた。
勇者「これでこの辺りは平和になったし、当分お金には困らないよ!」
神官「ひっ…………」
勇者「ユダスさん……?」
神官「来ないで」
勇者「え……」
神官「化け物」
勇者「! ……」
41 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 18:01:08.37 ID:QbloZM1ro
勇者「ごめんなさい。びっくりしたよね」
勇者「今までありがとうございました」
勇者「これからは、ぼく一人で旅を続けます」
神官「…………」
勇者「……さようなら」
42 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 18:01:34.35 ID:QbloZM1ro
勇者は一度町へ戻り、半分だけ報酬を受け取った。
勇者「もう半分は、ぼくと一緒に来てた神官さんに渡してください」
町長「いいのかね……君の手柄だろう」
勇者「はい。神官さんがいなかったら、ぼくはここまで来るのにもっと苦労してました」
勇者(……大丈夫。ぼくはもう宿の泊まり方も、馬車の借り方も知ってる)
勇者(ユダスさんが教えてくれたから)
勇者(一人でだってやっていけるよね)
43 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 18:05:18.91 ID:QbloZM1ro
Now loading......
44 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:38:25.42 ID:QbloZM1ro
勇者(今まで旅をしてきて、わかったことがある)
勇者(魔王の命令を理解することができるくらい知能が高い魔物は、)
勇者(自衛のためを除いて、人間を攻撃することは禁じられている)
勇者(人間から争いを起こした方が危険なんだ)
勇者(でも、そんな命令を下す魔王を良く思わない魔属はたくさんいる)
勇者(いつまでこの状況が続くのかはわからない)
小さな勇者は、谷間の道へと歩を進めた。
たった、独りで。
勇者(お母さん、どうしてるかな)
勇者(会いたいよ…………)
45 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:38:52.83 ID:QbloZM1ro
谷間の道を抜けると、一件の小屋があった。
エミルは古びた戸を叩いた。
勇者「誰かいますか?」
少女「……はい」
扉を開けずに少女が答えた。
勇者「ここで泊めていただきたいんです」
少女「……ごめんなさい。ここはだめなんです。げほっ……」
勇者「どうしてですか?」
少女「こほっ……わたしが、病気だか、ら……うっ」
少女「がはっごほっ」
勇者(助けなくちゃ!)
勇者「ごめんなさい、開けます!」
46 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:39:21.78 ID:QbloZM1ro
少女「だめ、移っちゃう……」
勇者「!」
勇者(体中に青い斑点……)
勇者「大丈夫。これ、移らない病気だよ。本に載ってた」
少女「えっ……」
勇者「ちゃんと町のお医者さんに診てもらって、お薬をもらえば治る病気なんだ」
勇者(それなのに、ここまで悪化するまで放っておくなんて……)
47 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:39:50.89 ID:QbloZM1ro
勇者「ここに一人で住んでるの?」
少女「うん……」
少女「私はこの先の村で生まれ育ったのだけど、」
少女「呪いだとか、伝染性の奇病かもしれないとかで、みんな私を怖がるようになったの」
勇者「そんな……」
少女「お父さんとお母さんが、たまにこの家の外に食べ物を置いていってくれるの」
少女「それでなんとか生きてこられたのだけど……」
少女「このまま一人で死んじゃうのかなって、寂しくて……」
少女は泣き出した。
勇者「……大丈夫だよ。君はぼくが町まで連れていく。絶対死なせたりなんてしないから」
勇者(武芸者や術師じゃなければ、少しの間くらい誰かと一緒にいても問題ないはずだし)
勇者(人助けをしなきゃ勇者じゃないもん)
48 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/11(木) 19:40:23.21 ID:QbloZM1ro
勇者(となると、ここの近くの村には行きづらいな)
勇者(この子と足場の悪い谷間の道を戻るのは無理だろうし、もっと西の大きな港町に向かおう)
勇者「ぼくはエミル。君、名前は?」
少女「……リラ」
勇者「リラ、綺麗な名前だね」
少女「っ!」
少女は頬を赤らめた。
少女(エミル君、か……)
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/11(木) 19:40:29.16 ID:R/oeqHYq0
クズ率が高いな