Part19
457 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:56:00.30 ID:+mXE6E/Co
ーー遙か南の地・力の一族本家
魔王兄「ーーってことがあってな」
勇者「えっそれほんとですか」
魔王「ヴォルケイトス!!」
魔王兄「マジなんだよ」
勇者「ふっふふっあははははははは!」
勇者「あ、兄上!」
魔王兄「よう! 三年ぶり」
魔王「……一体何をやっている」
勇者「ねえねえ、小さい頃メイドさん達から女装させられそうになって逃げ回ったってほんと?」
魔王「っ…………」
魔王兄「『ぼくはおとこなのに』ってぷるぷる震えててな! ははははは!!」
勇者「やばい! かわいい! くっふふふふふふ」
魔王「エミルに……何を吹き込んでいる……」
魔王兄「昔話に花を咲かせてるだけだぜ? がぁははは!」
458 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:56:27.40 ID:+mXE6E/Co
魔王「……出でよ! フリージング・メテオ!」
魔王兄「おいおい怒んなよ! ヴォルカニック・ウォール!」
勇者「喧嘩しなくても」
魔王「エミル、今すぐその男から離れろ」
魔王「そやつの活火山の悪質さはシュトラールに匹敵する」
魔王「我が氷の息吹で死火山にしてくれるわ!」
魔王兄「参ったなこりゃ! はは!」
魔王兄「漸くお前に恋人ができたって聞いたからちょっとちょっかいかけただけじゃねえか」
魔王「黙れ変態色魔」
魔王兄「いやーまさかこんなちみっこい娘っ子と婚約するなんてなあ」
魔王「……ブリザード・サイク」
勇者「待って! 何もされてないから! 談笑してただけだから!! 暴力反対!!」
459 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:56:55.08 ID:+mXE6E/Co
勇者「突然連れてこられた時はびっくりしたんだけど」
勇者「別に危害を加えられたわけじゃないし」
勇者「話してみたら楽しかったから、」
勇者「早く帰してもらわなきゃと思いつつ話に夢中になっちゃって」
勇者「ごめんなさい」
魔王「…………」
魔王兄「流石に弟の嫁候補に噴火しねえよ! がははは!」
魔王「……何故エミルを連れ去る必要があった」
魔王兄「あ? なんとなく誘拐しただけだ。面白そうだったからな! ははは!」
魔王「きまぐれもほどほどにしろ! ……帰るぞ、エミル」
勇者「お茶おいしかったです。ごちそうさまでした」
魔王兄「また来いよ」
勇者「はい、兄上の兄上!」
魔王「やめておけ!!!!」
力族長「あら陛下いらっしゃってたの? 一晩いかがかしらぁ」
勇者「だ、だめー!」
力族長「かわいいわねぇ、婚約者ごと食べちゃおうかしら」
勇者「ひぃっ」
460 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:57:23.51 ID:+mXE6E/Co
魔王兄「お袋、誘っても無駄だぜ」
魔王兄「そいつ親兄弟にしか勃たねえんだよ」
力族長「あらぁ」
勇者「え、そうなの?」
魔王「っぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛」
魔王兄「世の中にはいいオンナが山ほどいるってのに可哀想な奴だよなあ」
魔王兄「五歳下の妹しか抱けるオンナがいないんだぜ」
力族長「不憫ねぇ……。オリーヴィア妃亡き今、」
力族長「あたくしを本当の母上だと思ってくださって構いませんのよ?」
魔王「 や め ろ ! ! 」
魔王「私はエミルさえいれば充分だ! 他の女を抱く必要なんぞ存在せん!!」
魔王兄「お前が『私』っつってても女っぽいだけだぞ」
魔王「ぅ゛……」
勇者「そ、そんなことないよ、大人っぽくてかっこいいよ」
魔王「……………………」
461 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:57:50.76 ID:+mXE6E/Co
魔王「表に出ろ、絶対零度の氷山が貴様の棺となる」
魔王兄「お、この頃骨のある奴と戦ってなくて退屈してたんだ」
魔王兄「仕方ねえからどれほど腕を上げたか確かめてやるぜ」
魔王「我が凍てつく波動よ、穢れ果てた色情魔を滅せよ! ブリザード・サイクロン!」
魔王兄「相変わらずチビだな! 紅蓮の炎<ローリング・フレイム>!」
魔王「漁色家は失せろ! 不滅の氷山<インディストラクティブル・アイスバーグ>!」
魔王兄「よく噛まずに言えるなそれ! 溶岩の針<ラーヴァ・ニードル>!」
勇者「あぁ……喧嘩はやめてってば……」
力族長「仲良いわねぇ」
勇者「え?」
魔王「くっ、雹の大嵐<ヘイル・テンペスト>!」
魔王兄「おおっと! ただの物理殴打!!」
魔王「ぐはっ」
勇者「あっ兄上が負けた」
462 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:58:23.03 ID:+mXE6E/Co
ーー
ーーーーーー
魔王「……この魔王が色情狂に敗れるとは……恥だ……」
勇者「ねえ兄上、さっきの話ほんとなの?」
魔王「……どの話だ」
勇者「その……親兄弟にしか……って……」
魔王「…………」
魔王「……確かに俺は身内に執着するあまり二親等以内の者にしか欲情できなくなったが」
魔王「問題でもあるのか……!?」
勇者「あ、いや、引いてるわけじゃないよ!?」
勇者(さっきのこと気にして一人称変わっちゃってる……)
勇者「ぼく、ヴェルが他の人のこと好きになっちゃったりとかしたらどうしようって、」
勇者「たまに不安になっちゃうんだけど、それなら心配する必要ないかなって」
魔王「……」
勇者「逆に安心できるなって思ったんだ」
魔王「……そうか」
魔王(体術を極めねば真の勇者に負けてしまうな……)
463 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:58:53.00 ID:+mXE6E/Co
勇者「そういえば、さっき何処行ってたの?」
魔王「……知恵の一族の本家跡地だ」
魔王「魔属が生まれた原因についての有益な情報を得られる書物でも焼け残ってないかと思ってな」
魔王「興味があるのだろう?」
勇者「うん!」
魔王「残念ながら核心的な情報を得ることはできなかったが、」
魔王「魔物と動物の生態に関する古い書物と、」
魔王「ちょっとした魔法具を拾ってきた」
勇者「……? 綺麗なネックレス……」
円形の透明な石は、玉から尾が出たような二つの形に分かれた。
それぞれに紐がくくられている。
魔王「魔力を注いでみろ」
勇者「ん……」
勇者「あ、緑色になった。兄上のも、兄上の目とおんなじ白緑になったね」
魔王「これを交換し、互いに身に着けていれば、」
魔王「相手が何処にいるのか瞬時に知ることができる」
魔王「もし何かあった時のために、な」
魔王「……渡す前に誘拐されるとは思っていなかったがな」
勇者「わあ、ありがとう!」
勇者「ヴェルの石、パライバトルマリンみたい……綺麗……」
魔王「お前の魔力が注がれたこの石は……エメラルドそのものだな」
464 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 17:59:33.53 ID:+mXE6E/Co
ーー大陸南西・シルヴァ地方
森長老「よくぞいらっしゃいました、真の勇者様」
勇者父「『元』だけどな」
森長老「このような平和な森に勇者様が訪れるとは珍しい」
勇者父「この辺は魔物の気性も穏やかだしな」
森長老「どのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか」
勇者父「この土地には、人や魔物の心を穏やかにする力がある。そうだろ?」
勇者父「その力の結晶を少々分けていただきたくてな」
森長老「……こちらへ」
465 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 18:00:06.19 ID:+mXE6E/Co
ーー洞窟
暗闇の中、黄緑色の鉱物があちらこちらで輝いている。
森長老「二十年ほど前、我が村は魔王の襲撃を受け、多くの犠牲者が出ました」
森長老「わずかな生存者と近隣の村の協力によりどうにか再興し、」
森長老「どうにか元の平和を取り戻すことができましたが」
森長老「それも、この石の輝きが皆の心を癒してくれたからです」
森長老「この石の名はオリヴィン、宝石としてはペリドットと呼ばれておりますな」
勇者父「ほぉう、こりゃ綺麗だ」
勇者父「じゃ、このでかいのを一つもらってくか。金はいくらだ」
森長老「お金など要りませぬ」
勇者父「いいのか? あの村の財源だろ、これ」
森長老「あの恐ろしい魔王を倒してくださった勇者様には返しきれぬ恩があります故」
勇者父「そうかい、ありがとさん」
466 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 18:01:05.57 ID:+mXE6E/Co
森長老「魔王に連れ去られてしまった美しい娘がおったのですが」
森長老「彼女も、この石のような瞳を持っておりました」
勇者父「……エリヤ・ヒューレー、だろ?」
森長老「な、なんと」
森長老「彼女を助けてくださったのですか!?」
勇者父「……守りきってやれなかった。風の噂じゃもう死んじまったらしい」
森長老「……そうでございましたか」
勇者父「でも、彼女の遺志は継ぐつもりだ」
勇者父「きっと、次世代の奴等も彼女の願いを叶えるため奮闘してくれるだろう」
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467 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 18:01:36.01 ID:+mXE6E/Co
おまけ
勇者「ねえねえ、ヴェルの昔のこと教えて!」
執事「そうですね……数十代ぶりに女性の魔王が誕生したって噂が流れたりしてましたね」
勇者「ふふっ……」
執事「いやあ、初対面の男性から突然求婚された時は面白かったですよ」
執事「陛下は男性ですよって伝えた時の相手の顔ったらもう」
勇者「さぞ残念そうな顔したんだろうね!」
執事「そりゃあもう、この世の終わりだって表情でしたよ」
勇者「っははははは」
魔王「貴様等何の話をしている」
勇者「あっごめん何でもない!」
魔王「……コバルト、あまり余計なことを言うと解雇するぞ」
執事「すみません! 慎みますから!」
魔王「鍛錬に付き合え」
執事「打たれ弱いですもんね陛下。今行きますよ」
執事「…………僕がいなかったら今頃権力持ってなかったくせに」
468 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/25(木) 18:05:40.89 ID:+mXE6E/Co
kokomade
ヴェルディウスは物理防御力低そう
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/25(木) 19:31:29.79 ID:Isn9LwMs0
otuotu
470 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/25(木) 22:03:37.25 ID:jVmP2rwCo
otu!
yuusya ani to yuusya no saikai ha dounaru kotoyara...
471 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/25(木) 23:20:55.02 ID:aESO4CmWO
otsu
472 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/26(金) 12:24:46.05 ID:Mln0ujY2o
魔王様かわいい(真顔)
otu
473 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:44:54.04 ID:sOi7JawAo
魔王母『ネグルオニクスは憎いわ』
魔王母『でも、もし争いのない世界だったら……って、よく思うの』
魔王母『エミル……自ら産んでおいて、』
魔王母『私はあなたの体を作り替えることでしかあなたを守ることができない』
魔王母『お母さんの身勝手さと無力さをどうか許して……』
Section 16 対決
474 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:45:21.75 ID:sOi7JawAo
勇者(平和協会の命令がある限り、お兄ちゃんは魔王と闘わざるをえない)
勇者(そして、ヴェルはお兄ちゃんを迎え撃つつもりでいる)
勇者(ぼくはどっちも死んでほしくない)
勇者(二人とも大切な人だもの)
勇者(ぼくには何ができるだろう)
狼犬「わんわん!」
勇者「パルル……ぼく、どうすればいいのかな」
勇者「お兄ちゃんは、魔族になったぼくのこと、妹だって思ってくれるのかな」
475 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:47:27.79 ID:sOi7JawAo
魔王「荒野で真の勇者と闘うことも考えたのだがな」
魔王「やはり、謁見の間の特殊防壁内で闘った場合が最も犠牲が出る可能性は低いだろう」
執事「勇者と闘うための設備が整ってますもんね」
執事「しかし、本当に【闇王の剣】で闘うおつもりですか?」
魔王「ああ」
執事「無理に代々魔王に受け継がれている魔剣を使わなくても、」
執事「その……体格に合った剣を使われた方がいいと思いますよ」
魔王「……闇王の剣は闇の力の伝導率があらゆる武具の中で最も高い」
魔王「この剣を使いこなせてこそ一人前の魔王だ」
執事「でも、代々受け継がれているとはいっても、開発されたのたったの数百代前ですし」
執事「陛下用の新しい闇の剣でもこしらえておけばよかったですね」
魔王「…………」
執事「いえ、あの」
執事「決して陛下の体格では闇王の剣をまともに振るえないと言っているわけでは」
魔王「俺より低身長の者にどうこう言われたくはない!!」
執事「僕達竜族は成長がゆっくりですからね」
執事「十五年後くらいには陛下より長身になってる自信がありますよ」
魔王「…………」
執事「……そろそろ一人称戻したらどうです?」
魔王「ほっといてくれ」
476 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/27(土) 12:48:00.85 ID:sOi7JawAo
勇者「そういえば、真の勇者が死んだら光の珠は光の大精霊様に回収されるけど」
勇者「闇の珠はどうなるの?」
メイド長「所有者が生前に後継者と認めていた人物の元へ自動的に受け継がれます」
メイド長「また、後継者を指定していなかった場合、」
メイド長「最も近しい血縁者が新たな魔王となりますわ」
勇者「なるほど」
メイド長「陛下はまだ後継者を指定しておられないはずですので」
メイド長「陛下が敗れた場合はおそらくヴォルケイトス様が魔王となられるでしょうね」
執事「彼は政治に無関心ですからね〜……揉めるでしょうね」
メイド長「ヴェルディウス陛下が負けるはずありませんもの」
メイド長「心配には及びませんわ」
執事「本当にそう思うかい?」
メイド長「……不安ですわ」
勇者「……」
メイド長「だ、大丈夫です! コバルトもおりますしきっと真の勇者を…………あっ」
勇者「…………どっちも助かる方法、ないのかな……」