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勇者「お母さんが恋しい」
Part15


366 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:03:10.59 ID:cNZ2jHh3o
だいぶエミルと馴染みもできてきた。
エミルに好きな人はいるのかと聞いた時、とても緊張した。
他に好きな人がいるって、答えられたらと思うととても怖くなった。
勇者『ぼくの、好きな人はね…………』
でも、エミルはぼくのことが好きなようだった。
すごく安心すると同時に、胸が高鳴った。
魔王『ぼくも、君のこと……』
恥ずかしくて全部は言えなかった。でも、伝わったみたいだった。
ぼくはエミルに重ねられた手を握り返した。
魔王族にとって、近親婚は珍しいことじゃない。
もしエミルがこっちに来てくれるのなら、結婚したいなって……そう思った。

367 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:03:42.87 ID:cNZ2jHh3o
魔王『今度、母上が縫っている服をぼくがエミルに届けましょう』
魔王『きっと喜んでくれます』
魔王母『ヴェル……ごめんね、もういいのよ』
魔王『母……上……?』
魔王母『私が間違っていたわ……』
魔王母『あなたも私の大切な子供なのに……ごめんね、ごめんね』
母上はぼくを抱きしめた。泣いているみたいだった。
魔王母『もうこんな危険なことはやめて……』
やっと母上がぼくを見てくれるようになったけれど、あんまり嬉しくはなかった。
母上のためとかじゃなく、もうぼくはただただ純粋にエミルに会いたかった。
数日後の夕刻、時間が空いたのでエミルに別れを告げに行った。

368 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:04:16.18 ID:cNZ2jHh3o
しとしとと雨が降っていた。
妹はぼくを見つけると、笑顔で駆け寄ってきた。
勇者『水の日に来るなんて珍しいね!』
魔王『……………………』
勇者『……どうしたの? またお父さんとお母さんが喧嘩してたの?』
言葉が喉に引っかかってなかなか出てこなかった。
魔王『……今日で、最後なんだ。ここに来るの』
やっとの思いでそう吐き出すと、妹は酷く悲しい表情をした。
目頭が熱くなったけど、どうにか涙をこらえた。
ぼくは、エミルが人間の……一人の女の子として幸せになるための、障害でしかないから。
地下の書庫にあった禁書に記されていた、記憶消去の術を発動しようと思った。
ぼくに関する記憶だけを、対象者の脳から消す秘術を。
でも、あの術は対象が目を閉じていないと発動できない。
勇者『やだ……やめて…………』
エミルはなかなか目を閉じてくれなかった。

369 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:05:02.03 ID:cNZ2jHh3o
魔王『……スリーピング』
エミルに眠りの術をかけ、倒れかけた体を抱きかかえた。
魔王『…………ごめんね』
エミルを横抱きにして、彼女の家の方向へ向かうと、リヒトが現れた。
時間的に、夕方になっても帰ってこないエミルを迎えに行こうとしていたのだろう。
勇者兄『おい! 何やってんだよ!』
魔王『…………』
魔王『……目が覚めたら、この子はもうぼくのことを憶えていない』
勇者兄『は……? 何言って』
魔王『この子を何としても守って』
勇者兄『お前に言われるまでもねえよ』
魔王『……でも、もし君がエミルを守りきれなかったら、その時は』
魔王『その時は……ぼくがエミルを迎えに行く』
エミルをリヒトに渡し、ぼくはその場を去った。

370 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:06:03.59 ID:cNZ2jHh3o
押し潰されそうな虚しさを抱えて城に帰ると、父上が激怒していた。
魔王父『この頃不自然に姿を消すようになったと思ったら人間の町へ行っていたのか!』
魔王父『魔族の王子がなんたる行為を!!』
城下町に出向いているのだと誤魔化していたが、最後の最後で見破られてしまった。
殺されてしまうのではと感じたくらい、怒りに満ちた父上は恐ろしかった。
真の勇者に負わされた光の傷で、まともに動ける体ではなくなっているはずなのに、
父上はぼくを拷問部屋まで引きずっていこうとした。
ぼくには抵抗する気力も残されていなかった。
ここで死んでしまうならそれでもいいと思った。
魔王母『やめて!!』
母上も、長年抱えた悲しみが元でお体を壊し、走る体力なんてないはずだったのに、
止めに入ってくれた。
魔王母『……私が悪いのです……私が、娘の心配ばかりしていたから……』
魔王母『私のために、この子があの子のところまで……あなたに秘密で…………』
母上がそう言うと、父上は放心してしまって、何処かへ行ってしまった。

371 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:06:55.21 ID:cNZ2jHh3o
間もなく母上は亡くなった。
ごく僅かな期間だけだったけれど、エミルだけじゃなく、ぼくの心配もしてくださった。
魔王母『お願いヴェルディウス……この世から争いを無くして』
それが母上の最期の言葉だった。
最期まで、母上の橄欖の実色の瞳が父上をとらえるはなかった。
人間と魔族、どちらが悪いとかじゃない。
争いそのものがなければ、きっと父上と母上は幸せになることができていただろう。
そして……両方の血を引くエミルは、人間の姿をしていても、
何かの拍子で人間からも魔族からも迫害されてしまうかもしれない。

372 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:07:24.40 ID:cNZ2jHh3o
ーーーーーー
勇者『ヴェルは、将来の夢なあに?』
魔王『将来の、夢……?』
魔王『……わからない。ぼくは、一体どうしたいんだろう……』
ーーーーーー
魔王『エミル……ぼくの夢が決まったよ』
ぼくは……君が幸せに暮らせる世界を創る。
そのために、ぼくは魔王となる。
Now loading......

373 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:08:46.18 ID:cNZ2jHh3o
zenhan kokomade
kouhan ha mata tomorrow ka day after tomorrow ni yaretara iina

374 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:13:06.16 ID:cNZ2jHh3o
Emilという名前にエメラルドの意味はありませんが、作中では響きの似た名前を付けたorもじったということで
本来は「努力すること」、「優れていること」、もしくは「ライバル」という意味の名前らしいです

375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/21(日) 21:36:17.53 ID:1GCi6G2KO
D'accord.

376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/21(日) 22:25:06.18 ID:cXHR1W7s0
otuotu

377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/21(日) 22:30:50.24 ID:uguWbLkvo
otsu

378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/22(月) 16:04:18.51 ID:+od1yVK1o
aa...setunai
otu

379 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 20:55:43.63 ID:Yk8qxWZZo
以下のエピソードには同性愛要素が含まれます。
見た目女の子だからセーフ or BL平気 or 客観的に読み流せる 方のみお読みください。
それ以外の方は11レス飛ばしてください。
専ブラ使ってるとレス数わかりやすいですね。
……しかし、このエピソードを読まないと話がわかりづらくなる可能性があるので、
投下後に簡潔に説明書きをします。
結論だけわかればおkな方も飛ばし、最後の2レス(説明含めて3レス)お読みください。

380 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 20:56:26.66 ID:Yk8qxWZZo
魔王(……エミルは、私を見捨てずにいてくれるだろうか)
魔王(壊れたまま治らない、この私を…………)
ーー
ーーーーーー
母上の死後、父上の心と体は更に弱まり、滅多に寝台を降りることはなくなった。
家臣達は王位継承の準備をしなければと忙しそうだった。
重臣『おなごの様に細いヴェルディウス様に王位継承はさせられませぬ』
重臣『陛下、どうかヴォルケイトス殿下をお世継ぎに』
魔王父『ならぬと言っている』
重臣『殿下からもどうか』
   『知るかよ。俺は王位なんて継がねえぞ』
ある時、父上の私室から、父上と鼻筋のよく似た魔王族の男が現れた。
   『あ? お前もしかしてヴェルディウス?』
   『噂通り女そのものじゃねえか! ははっ!』
失礼な奴だと思う前に、その男の正体が気になった。
魔王族には違いないが、ぼくはその男を見たことがなかった。

381 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 20:57:39.42 ID:Yk8qxWZZo
    『知ってるぞ? 『魔性の美少年』って呼ばれてんだろ?』
    『ま、お世継ぎとして精々がんばれよ』
彼はぼくを嗤って去っていった。
魔王『今のは……』
老執事『ヴォルケイトス様でございます。殿下の異母兄にあたるお方です』
魔王『えっ……』
信じられなかった。
父上には一人も妾はいないはずだし、兄がいるだなんて聞いたこともなかった。
だけど、その名には聞き覚えがあった。
家臣達がぼくに隠れてこそこそ何かを話していた時に、たまに聞こえていた名だ。
魔王『でも、父上が母上以外の女性と子を成すはずが……』
老執事『……少々事情がございまして』
城の者は皆母上は死んだものと思っていたが、父上は断固として他の女性を娶らなかった。
でも、世継ぎがいないのは非常にまずいこと。
重臣達が拒否する父上を無理矢理受胎の魔法陣に押し込み、
后候補だった力の一族の女性との子供を作ったそうだ。
かなり大がかりな作業だったらしい。

382 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 20:58:22.22 ID:Yk8qxWZZo
人間として生きていた母上が見つかり、ぼくが生まれたことで用済みとなった彼等は、
力の一族の本家がある南の地で暮らすようになった。
しかし、ぼくがあまりにもひ弱なので、
ヴォルケイトスを後継者として支持する者が非常に多いという状態になっていた。
……ぼくには幼少時より「魔性の美少年」などという不名誉な二つ名があった。
同年代の女の子から好かれるには身長が足りなかったが、
そこらの女の子よりも遙かに女の子らしい容姿だったため、
妙な趣味に目覚めそうになる男性が後を絶たなかったのである。
真に遺憾であるがそのようなことはどうでもいい。
ぼくは王位を継承し、どうすれば平和な世を築けるのかを考えなければならない。
父上と同じく、高位の魔族のほとんどは人間を害虫だと考えている。
厳しい戦いになるだろう。

383 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 20:59:19.18 ID:Yk8qxWZZo
魔王父『オリーヴィア……』
魔王父『オリーヴィア……そこに……いるのか……?』
父上は母上の死を受け入れることができず、
しばしばぼくを母上だと認識するようになった。
魔王『父上……何をなさるのですか!?』
ある時、寝台の中へ引きずり込まれてしまった。
キスなんてエミルともしたことなかったのに。
でも、ぼくはそこまで壊れてしまった父上が心配でたまらなくて、
父上の私室に通うのをやめる気にはなれなかった。
まともに会話ができる日もあったから。
父上の胸には、大きな白い傷が刻まれていた。癒えることのない光の傷だった。
悍ましい行為が繰り返されていく内に、ぼくは肉親への情と性愛の区別が付かなくなっていった。
魔王(おかしいな……ぼくは、エミルに対して二つの心を持っているはずだった)
魔王(妹として大切に思う気持ちと、異性として愛する気持ちを)
魔王(その二つが混ざって……もうどっちがどっちだかわからない……)
エミルへの気持ちが穢れてしまったような気がして、妙な罪悪感に駆られた。

384 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 20:59:51.03 ID:Yk8qxWZZo
母上が亡くなってから一年程経った。
ついに戴冠式が行われることとなった。
父上から闇の力を受け継ぐことは父上の死を意味していたから、
貴魔族達が随分揉めていたがようやくこの日が訪れた。
しかし、ぼくはまだ十二歳になったばかり。
闇の珠と心臓を融合させたとはいえ、実権を握ることができるはずがなかった。
父上の腹違いの弟である叔父上がぼくの摂政を務めることとなった。
母上をいやらしい目で見ていたから、ぼくはこの男が大嫌いだった。
魔政客『人間を襲うなですと? ははは、御冗談を』
その上叔父上は人間嫌いだ。敵以外の何者でもない。
はやく大人になって邪魔者を排除したくてたまらない。
魔従妹『男のくせに私より可愛いとかなんなのよ!!』
娘もうるさかった。ぼくだって好きでこんな細いわけじゃない。
鍛えても鍛えてもなかなか筋肉がつかないんだ。

385 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 21:05:01.12 ID:Yk8qxWZZo
父上も母上も亡くなり、エミルは大陸の反対側でぼくのことを忘れて生きている。
孤独感に襲われる日々が始まると思っていた。
魔王兄『あーかったるかった。式典とか堅っ苦しいのマジめんどくせぇ』
魔王(あ……)
魔王『あに、うえ』
魔王兄『は? 兄と呼ばれる義理なんてねえぞ』
魔王『もう、帰ってしまわれるのですか……?』
魔王兄『ったりめーだろ、好きで来てたわけじゃねえし』
魔王『…………』
魔王兄『な、なんだよ』
魔王兄(こいつ……ほんとに男か? 女が男物の服着てるようにしか見えねえ)
魔王『その……お願いがあります』

386 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 21:05:26.99 ID:Yk8qxWZZo
魔王『今でも兄上を魔王にしたがっている者は多くおります』
魔王『兄上が傍についていてくだされば、少しは静かになると思うのです』
魔王『だから……』
魔王兄『助けてやる理由がねえな』
魔王『……父上とぼくを憎んでおられるのですか』
魔王兄『いいやまったく』
魔王兄『自由に過ごせねえ魔王の座になんて何の興味もねえ』
魔王兄『俺は自由に生きてえ。それだけだ。じゃあな』
魔王『ぁ……っ…………』
魔王『う……ぅ……』
魔王兄『いや泣くとかお前そりゃねえだろ』
魔王『だっ、て……』

387 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 21:06:12.13 ID:Yk8qxWZZo
魔王兄(こいつ……魔性の美少年とか言われてるだけあるな)
魔王兄(なんかこう…………クるものがある)
魔王『兄上…………!』
魔王兄『ったく、仕方ねえな。少しの間だけだぞ』
魔王『本当ですか!? ありがとうございます!』
小うるさかった兄上派の家臣達も、兄上にぼくの意見を代弁してもらったら大人しくなった。
助けてもらう代償……かどうかはわからないが、ぼくは兄上に体を捧げた。
魔王兄『……俺は女にしか興味ないはずなんだがな』
魔王兄『お前、ほんと何者だよ……男に生まれて損したな』
家族への愛情と恋愛感情の区別がつかなくなっていたから、抱かれることは苦でなかった。
魔王兄『……まあ、孕まねえ分気軽に犯せていいんだがな』
王侯貴族が女性の代わりに容姿の整った少年を性欲処理に使用するのは珍しいことじゃない。
ただ、妹の笑顔を思い出しては罪悪感を覚えた。
もうあの子には会えないというのに。

388 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/22(月) 21:07:21.11 ID:Yk8qxWZZo
魔王『……どうしたら兄上のような逞しい体を手に入れることができるのでしょう』
兄上は力の一族の血を濃く引いているだけあって、背が高く筋骨隆々だった。
魔王兄『お前、あんまり飯食ってねえだろ』
魔王『!』
魔王兄『食わねえとどんだけ鍛えても筋肉つかねえだろ』
魔王『そ、それもそうですね』
魔王兄『まあ、お前が男らしい体になったら抱けなくなるだろうがな』
細い体は劣等感の原因だったが、兄上に見捨てられたくなかった。
兄上に捨てられてしまうくらいなら、一生女の様な容姿のままでいいと思った。
ぼくにはもう傍にいる肉親が兄上しかいないのだから。