Part14
340 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:32:11.88 ID:glNkhPwEo
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魔王父「息子と我とでは何が違ったというのだ」
魔王父「ヴェルディウスは奇跡を起こした」
魔王父「幼い頃に想い合っていた少女を迎えに行き、」
魔王父「蘇らぬはずの記憶を蘇らせ、再び愛し合っている」
魔王父「何故だ……息子にできて、何故我にできなかった…………」
老賢者「…………」
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老賢者『やあ、オリーヴィア。可愛い我が孫娘よ』
魔王母『お爺様……』
341 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:33:55.23 ID:glNkhPwEo
魔王母『私は……もう、何を憎めばいいのかわからないのです』
魔王母『私の生みの両親を……一族の者達を奪ったのは人間』
魔王母『でも、私の育ての両親と、村のみんなを殺したのは紛れもなくあの魔王』
魔王母『憎むことそのものに疲れ果ててしまいました』
魔王母『疲れたのです……何もかも……』
老賢者『争いは怒りと憎しみ、そして悲しみを生むもの』
老賢者『誰かを憎んでも、何の解決にもならないことにはもう気が付いているだろう?』
魔王母『…………』
老賢者『しかし、愛する者を奪われた以上憎しみは沸き溢れてしまうもの』
老賢者『お前は長い争いの歴史の被害者なのだよ』
老賢者『私とて、最初に人魔の争いを起こした者が何者なのか知ることは叶わなかった』
老賢者『愛しなさい、今愛せるものを』
老賢者『憎しみは憎しみの連鎖を生むが、愛もまた愛の連鎖を生むだろうて』
魔王母『今、愛せるもの……』
魔王母『ヴェル…………』
342 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:37:06.10 ID:glNkhPwEo
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魔王父(ヴェルディウスが十一になった頃、彼女は病で亡くなった)
魔王父(彼女の死後、我は一年程生きていたはずなのだが……)
魔王父(その時期の記憶は断片的にしか残っておらぬ)
魔王父(酷く心を壊してしまっていたらしい)
魔王父(微かな記憶……だが、我が更に罪を重ねてしまったことは事実だった)
魔王父(あの世に逝ったオリーヴィアに顔向けできないほどの罪を犯した)
魔王父「我は……このまま永遠にこの世を彷徨うのか……?」
魔王父「ヴェルディウスにあって我に無かったもの……それは一体……」
老賢者「その答えがわかった時が、きっとオリーヴィアと再会する時なのでしょう」
343 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:37:55.76 ID:glNkhPwEo
勇者「そっか、この服、お母さんが……」
エミルは熱くなってゆく胸を押さえた。
再会することなく死に別れてしまった母を想い、涙を流す。
魔王「もしあの時お前が人間を憎んでいると答えていたら、」
魔王「私は母上の遺言を破ってでも人間を攻撃することを考えていた」
勇者「!」
魔王「……母上は最期に、人間と魔族の争いを鎮めるよう私に言い遺したんだ」
魔王「だがお前は憎まなかった」
勇者「…………」
勇者「そういえば、先代魔王の死因は……」
魔王「シュトラールとの闘いの傷に因るものだ」
魔王「魔属が負った深い光の傷は癒えることがない」
魔王「傷を負って七年程、闇の珠の力でどうにか持ち堪えていたが」
魔王「私に力を譲ることで命が尽きた」
344 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:38:27.06 ID:glNkhPwEo
勇者「じゃあ、ぼくのお父さんは、ヴェルのお父さんの仇……」
魔王「憎んではいない。シュトラールがいなければ母上は男女の愛を知ることなく死に、」
魔王「お前も生まれることはなかったのだから」
勇者「ヴェル……」
魔王(……尤も、シュトラールも寿命が近付いているはずなのだがな)
魔王(死ぬ前にエミルと再会できればいいのだが)
老賢者「おお、これはこれは……」
魔王「……曾爺様」
勇者「ひいおじいさま?」
勇者(前お城に来てた優しそうなおじいさんだ)
魔王「知恵の一族の大賢者だ。母上の祖父にあたる」
345 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:39:50.42 ID:glNkhPwEo
老賢者「無事封印が解けたようで安心したよ」
老賢者「これでいつでも心置きなくあの世に逝ける」
魔王「曾爺様……御冗談を」
勇者「…………」
老賢者(オリーヴィアとよく似た娘だ)
老賢者(エミル……煌めく翠玉の瞳……輝かしき平和の色)
老賢者(ヴェルディウス……儚き翡翠の瞳……安寧たる平和の色)
老賢者(この二人なら、きっと新たな時代を築けるだろうて)
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346 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:40:28.35 ID:glNkhPwEo
kokomade
347 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/20(土) 15:45:10.09 ID:hLA/OpVXo
siawase ni natte hosiine
otu
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/20(土) 16:35:17.49 ID:Qt89SyMX0
otu
utudana
349 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 17:51:52.98 ID:glNkhPwEo
majime na hanashi no hazu nanoni
roukenja ga Jimang de saisei sarete waraeteshimau......tsurai
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/20(土) 18:49:20.45 ID:0z+M+SGmO
読みかえしてみれば、ほのかにサンホラの香りがするな
354 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:55:07.73 ID:cNZ2jHh3o
エミルはくだけた口調でメルナリアやコバルトと話すようになっていた。
勇者「コバルトさん」
執事「はい」
勇者「ヴェルって、この頃はたまに笑ってくれるようになったけど」
執事「相変わらず仏頂面ですね、基本的に」
勇者「喜んでもらえること、何かできないかな」
執事「それなら、とっておきの秘策がありますよ」
勇者「ほんと?」
Section 11 渇愛
355 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:55:37.55 ID:cNZ2jHh3o
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父上は母上ばかり見てる。
母上は、もう会えない人達のことばかり考えてる。
誰もぼくを見てくれない。
ぼくは母上に捨てられた。
母上がいなくなってから一年くらい経った頃、父上が母上を連れて帰ってきた。
でも、母上は父上じゃない男の名と、誰かの名前を呟いてばかりだった。
ぼくは父上と母上に褒めてもらいたくて、必死に勉学と稽古をこなした。
教師『おお、わずか齢十にしてテレポーションを習得なさるとは』
教師『さらに、コードを改良して発動速度を速めたとは……流石でございます』
356 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:56:10.98 ID:cNZ2jHh3o
父上も母上も褒めてくれた。
でも、その言葉に感情がこもっているとはとても思えなかった。
すごいことをしたはずなのに、どうして喜んでもらえなかったのだろう。
魔王父『まだわからぬのか!』
魔王父『人間なぞゴミ未満。この大地から排除すべき害虫なのだぞ!』
魔王母『そんなことないわ!』
魔王母『あなたには一生わからないでしょうね!』
魔王母『人間の優しさが! 命の温もりが!!』
両親は気が付けば喧嘩をしていた。
ぼくは二人に仲良くしてほしかった。
ぼくは、偉大な魔属の王である父上を尊敬していたし、
とても綺麗な母上のことも大好きだった。
357 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:56:43.04 ID:cNZ2jHh3o
どれだけがんばっても、二人は振り向いてくれなかった。
その上に、
家臣1『陛下、ヴェルディウス殿下は魔術の才能こそあれ、魔王の器ではございませぬ』
家臣2『お体も小さく、剣を振るう力も足りず、』
家臣3『人間を葬る魔王となるには御心の冷酷さも足りませぬ』
家臣4『知恵の一族の血を濃く受け継ぎ過ぎておられるのです』
家臣5『ヴェルディウス殿下は賢者として育て、やはり後継者はーー』
ぼくには魔王となるための能力が足りなかった。
魔王父『……ならぬ。次期魔王はヴェルディウスだ』
それでも父上はぼくにこだわっていた。
母上との間に生まれたぼくに、どうしても王位を継がせたかったらしい。
……ぼくは、自分が立派な魔王になれるとはとても思えなかった。
母上がいつも『命は大切だ』と言っていたから、
その命を闇へ葬る魔王となることは、到底無理だと思った。
358 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:57:47.33 ID:cNZ2jHh3o
魔王父『人間の姿をしていても、お前は魔族だ』
魔王父『あの村に住み続け、他の男と結ばれていたとしても、生まれる子は半魔』
魔王父『さすればお前は人間から迫害されていたであろう』
魔王父『何故そこまで考えが及ばぬのだ! 所詮人間は敵だ!!』
魔王母『何を言おうと私はあなたを憎み続けるでしょう』
魔王母『そのようなこと……私があなたを許し人間を嫌う理由になんてならないもの』
魔子『ねえお父さま、お母さま。わたし、今度海へ行きたいわ』
魔男『よし、今度休暇を願い出て旅行にでも行くか!』
魔女『あら、いいわね。せっかくですし南の海に行きましょう』
魔子『わあい!』
仲の良い親子を見る度、胸が苦しくなった。
359 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:58:18.78 ID:cNZ2jHh3o
魔王母『エメラルドの瞳……エミル……』
魔王母『今、あなたはどのくらい大きくなったかしら……』
すぐ隣にぼくがいても、母上はその子のことばかり。
魔王母『東の果ての地……ブレイズウォリア……』
窓からいつも東を見ていた。
魔王母『きっとそこまで逃げ切って、元気に……成長してくれているはず……』
どうしてこっちを見てくれないの?
魔王母『あなたは半分人間だから、魔の血を封印すれば、』
魔王母『きっと生まれる子も人間の子……』
エミル……その名前だけでは、男の子か女の子かわからない。
でも、母上がいつも可愛らしい洋服を縫っていたから、
きっとその子は女の子なのだろう。
魔王母『人間として、幸せに生きて…………』
魔王母(……でも、もし魔族の男の人と愛し合うことがあったら…………)
魔王『母上……その子の様子を見てきたら、ぼくを褒めてくださいますか……?』
360 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:59:01.92 ID:cNZ2jHh3o
ぼくの魔力容量なら、なんとかテレポーションで大陸を横断することができた。
東の果ての地、ブレイズウォリア。
ぼくは人間に化け、その子を探すことにした。
時間がかかるだろうと思っていたけれど、案外あっさり見つけることができた。
町のすぐそばの森の中から聞こえてくる笛の音を追うと、
驚くことに、その子は動物や魔物と一緒に遊んでいたんだ。
勇者『きみ、だあれ?』
綺麗なエメラルドの瞳を輝かせていたから、すぐにぼくの妹だとわかった。
ぼくは人見知りが激しいから、緊張して胸が苦しくなったけど、
その子のことを、とても可愛いなって思った。
その子は、母上と身にまとう雰囲気がよく似ていた。
361 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:59:28.58 ID:cNZ2jHh3o
勇者『えみるはねえ、エミル・スターマイカ!』
勇者『エミルは、お母さんがつけてくれた名前なんだって!』
エミルは、育てのお母さんを本当のお母さんだと思っていたし、
自分の名前はそのお母さんがくれたものだのだと思い込んでいた。
……ぼくらのお母さんが名付けたんだなんて、とても言える雰囲気ではなかった。
勇者『いっしょにあそぼうよ!』
こっそり様子を見るだけのつもりだったのに、一緒に遊ぶことになってしまった。
勇者『ヴェルってふしぎな子だね!』
勇者『魔物さんたちが逃げ出さないもの』
そりゃ魔族だから……だなんて言い出せなかった。
ーーーーーー
ーー
362 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 20:59:55.44 ID:cNZ2jHh3o
魔王『……夕方だし、もう帰るよ』
勇者『また来てくれる? 来てくれるよね?』
魔王『えっと…………』
勇者『んー…………』
魔王『…………会いたいの? ぼくに……』
勇者『うん』
魔王『……じゃあ、来週のこの日に、また来るよ』
勇者『やったあ! 来てね! 待ってるからね!』
つぶらな瞳に見つめられたら、断れなかった。
ぼくを求めてくれたことが、ぼくは嬉しかったのかもしれない。
363 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:00:43.44 ID:cNZ2jHh3o
大陸の端から端まで往復すると、流石に魔力が空になった。
魔王『……母上』
魔王『エミル・スターマイカの様子を見て参りました』
魔王母『……!?』
魔王『彼女は……元気に育っているようです』
魔王母『ヴェルディウス……何を言っているの!?』
魔王母『あの子は……本当に元気なのね…………?』
魔王『はい』
ぼくがそう答えると、母上はぼくを抱きしめてくれた。
嬉しかった。
それから、午前までで稽古が終わる月の日には、ぼくはあの子に会いに行くようになった。
364 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:02:10.09 ID:cNZ2jHh3o
エミルは、リヒトとかいうぼくと同い年の男を兄と呼んだ。
ぼくの胸に、黒くもやっとした感情が沸き溢れた。
ぼく以外の男を兄と呼び慕っていることが非常に気に食わなかった。
リヒトとはよく喧嘩になった。
会う度に、妹への感情は強くなっていった。
兄だと名乗り、一緒に暮らしたいと思った。
母上はあれほどエミルを心配しているのに、エミルはそんなことを露知らず、
カトレアというリヒトの母親を愛している。
ぼくは悲しくなった。
365 :
◆qj/KwVcV5s :2016/02/21(日) 21:02:44.04 ID:cNZ2jHh3o
妹に会いに来るのは何度目だろうか。
テレポーションによる長距離移動にも少しずつ慣れてきた。
エミルが坂から転げ落ちそうになったから、
助けようとしたらぼくまで一緒に落ちてしまった。
エミルが怪我をしていないかすごく心配になったけど、彼女は笑い出した。
勇者『今のすごかったねえ! ごろごろ〜〜って!』
面白かったらしい。草が生い茂っていて、大きな石も無かったことが幸いした。
魔王『……大丈夫? どこも痛くない?』
勇者『ゆうしゃの子だから丈夫なんだあ。このくらい大丈夫だよ!』
勇者『ヴェルこそおけがなあい?』
妹の笑顔を見て、胸が痛くなった。
初めて会った時もドキッとしたけど、その時とはなんだかちょっと違っていた気がする。