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勇者「お母さんが恋しい」
Part13


315 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:34:40.20 ID:08qEORKno
魔王「母上がまだ幼かった頃、知恵の一族の本家は人間からの襲撃を受けた」
魔王「襲ってきた人間達の中には、勇者の一族の者も多く含まれていたそうだ」
勇者「…………」
魔王「その際、知恵の一族の者達は、父上の許婚である母上を守るため」
魔王「母上の記憶を封じ、人間に変化(へんげ)させた」
魔王「……母上は人間に保護され、人間として育てられたんだ」
魔王「母上を深く愛していた父上は、死に物狂いで母上を探した」
魔王「しかし……」
執事「陛下ー公務の時間ですよー」
魔王「……続きはまた今度な」

316 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:35:17.33 ID:08qEORKno
勇者(本当のお母さん、オリーヴィア……)
勇者(どんな人だったんだろう)
勇者(ヴェルがとっても優しいから、きっと、優しい人だったんだろうな……)
勇者(カトレアお母さんは、一体どんな気持ちでぼくを育てたのだろう)
勇者(血の繋がらない、このぼくを……)
勇者(会いたい。両方の、お母さんに)

317 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:35:58.01 ID:08qEORKno
臣下「四天王を設けないとは本気なのですか陛下」
臣下「少しでも真の勇者一行を疲弊させるべきでございます」
魔王「戦うのは我だけでよい」
勇者「四天王? お父さんから聞いたことあるような」
執事「魔王を守護する戦士達のことですね」
執事「知恵の一族が繁栄していた先々代の頃までは、」
執事「五大魔族から一人ずつ選んで五芒星とすることも多かったそうです」
執事「真の勇者と戦わせるかどうかはともかく、」
執事「選ぶだけ選んでおくのも楽しいかもしれませんよ」
執事(人手増やしたいし)
執事「黄金の一族代表は僕として、空の一族代表は疾風のフォーコン、」
執事「地底の一族代表は柔靭のテール=ベーリーオルクス、」
執事「そしてやはり力の一族代表は豪炎のヴォ」
魔王「っ……」
執事「あ゛っ、失礼いたしました。この話はなかったことにしましょう」
勇者(ヴォ……?)

318 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:36:31.37 ID:08qEORKno
臣下「ところで陛下、そちらのご令嬢は」
魔王「我が后となる者だ」
勇者「は、はじめまして」
勇者(兄妹なのにいいのかなあ……)
臣下「見たところ知恵の一族の血を引く者の様ですが……」
魔王「ああ。その通りだが」
臣下「陛下御自身知恵の一族の血を濃く引いておられます」
臣下「他の五大魔族の女性と子を成すべきでは……」
魔王族はあらゆる魔族のサラブレッドであり、
ここ数千年は五大魔族の血をバランスよく受け継いだ者が優秀な魔王族とされている。
魔王「我はエミル以外の女性を娶るつもりはない」
臣下「は、はあ……」
臣下(妙なところが先代によく似ておられる……)
臣下(先代も、生きているかどうかすらわからなかった許嫁一筋だった)
臣下(どんなに薦めても妾一人抱かれなかったな……)

319 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:37:07.59 ID:08qEORKno
調理師「おやまあ嬢ちゃん魔族だったのかい」
調理師「それも知恵の一族ねえ、そりゃ陛下が大事になさるわけだ」
コック「貴重な知恵の一族なら多少人間の血を引いてたって大事にされ……るでしょう」
コック「プライドの高い貴魔族さん方はちょっとうるさいかもしれませんがねえ」
調理師「あ、やっべ敬語」
勇者「今まで通りに話してほしいです」
勇者「敬語だと、その……距離感離れちゃう感じがして寂しいから」
調理師「おう、そうかい良かった良かった」
勇者(先代の魔王妃が人間と作った子供だっていうのに)
勇者(今のところ待遇は悪くない)
勇者(それだけ、知恵の一族が魔族にとって重要な血筋だってことなのかな)

320 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:37:47.57 ID:08qEORKno
ーーエミル達の家
勇者母「エミル……」
勇者父『頼む! 一生のお願い!! もう二度と浮気しないから!!』
勇者父『この子を……エミルを育ててくれ!!』
勇者母(あの人が突然あの子を連れてきた時は、驚いたけれど)
勇者母(母親恋しさに泣いているあの子を見たら、もう放っておけなかった)
勇者『お母さん、あったかあい』
勇者母(誰が産んだ子であれ、あの子は)
勇者母(あの子は、私の子…………!)
Now loading......

321 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:42:13.22 ID:08qEORKno
kokomade
ヴェルディウスの目の色が青緑だったり白緑だったりしてますが、
これはアイスグリーンの定義が「氷山の裂け目に見える緑とも青ともいえない色」(福田邦夫、色の名前507、主婦の友社より)で、
和名が白緑色であるためです

322 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 18:43:27.07 ID:08qEORKno
あ、書き溜めに追いついたのでこれからはゆっくりやります

323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/19(金) 19:40:35.53 ID:t5HObplpo

因みに今で全体の中でどのくらいの所なんだ?

324 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/19(金) 20:07:28.80 ID:08qEORKno
あまり深く考えずその場のノリで書き進めてるから自分自信にもわからんです(プロット立ててすらない
番外編にするか本編に組み込むか迷ってるエピソードも含めれば第一部の後半あたりかと
どんなに長引いたとしても3月中には終了します

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/20(土) 03:21:55.49 ID:RFUaQRWwO


327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/20(土) 09:24:07.93 ID:Vb4gGx5Do
sikisai heno kodawari ga sugoine.
suteki.

328 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:23:53.89 ID:glNkhPwEo
   『ネグルのためにお菓子を焼いてきたのよ!』
   『今度お城に来る時には、もっとおいしいのを作ってくるわ!』
オリーヴィア……。
   『嫌! 来ないで!!』
   『お父さんとお母さんを返して!!』
我は最期までお前を理解することができなかった。
   『……あなたのことだけは、思い出すつもりはないわ』
   『シュトラールさん……エミル……』
オリーヴィア…………!
   『………………』
愛して……いたのに…………。
Section 11 集諦

329 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:24:24.00 ID:glNkhPwEo
賢者クリスタロスは、知恵の一族の末裔が魔王の婚約者となったという知らせを聞き、
魔王城に訪れていた。
老賢者「……私も死期が近付いてきたようですな」
老賢者「お久しゅうございます、ネグルオニクス様」
知恵の一族の中には、寿命が近付くと同時に霊体との会話が可能となる者がいる。
魔王父「……クリスタロス」
魔王父「…………我はあの世には行けなかった」
魔王父「オリーヴィアと再会することは叶わぬようだ」
魔王父「教えてくれ……これは……罰なのか?」
先代魔王ネグルオニクスの魂は、死してなお魔王城に留まり続けていた。

330 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:24:53.76 ID:glNkhPwEo
我等は許婚同士だった。
親同士が決めた婚約であったが、幼いながら互いに想い合っていた。
魔王母『ネグルのためにお菓子を焼いてきたのよ!』
魔王母『おいしい? ねえ、おいしい?』
魔王父『……ああ』
魔王母『今度お城に来る時には、もっとおいしいのを作ってくるわ!』
彼女の笑顔が何よりも好きだった。
知恵の一族らしい細い体を、優しい心を、護りたかった。

331 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:25:47.41 ID:glNkhPwEo
しかし、彼女が再び焼き菓子を携えてくることはなかった。
魔王父『知恵の一族が……奇襲を受けただと……?』
屋敷の焼け跡に残されていたのは、多くの人間共と、知恵の一族の亡骸だった。
彼女の両親も斬り殺されていた。
彼女の遺体は見つからなかった。
魔王父『……オリーヴィアは生きている。探せ!』
何年経っても、彼女は見つからなかった。
臣下『殿下……これだけ捜索してもオリーヴィア様の魔力は探知できませぬ』
臣下『もう諦めて、他の女性を……』
魔王父『ならぬ』
魔王父『見つかるまで探し続けるのだ!』
我は彼女が生きていると信じ、いくつもの人間の集落を焼き払い、彼女を探し続けた。

332 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:26:13.41 ID:glNkhPwEo
勇者父『この村には可愛い女の子がいっぱいいるんだぞ!』
勇者父『残虐な魔族の王子め、成敗してやる!!』
魔王父『なんだ貴様は』
勇者父『俺はシュトラール・スターマイカ』
勇者父『大陸中……いや、世界中の女の子は俺の嫁!』
魔王父『は?』
勇者父『この世界の女の子を守るために俺は戦う! ちなみに次期真の勇者候補だ!』
奴とは若き日から因縁があった。幾度剣を交えたであろうか。
我とは対照的に気の多い男のようであった。奴の何もかもが気に食わぬ。
ーー
ーーーーーー

333 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:26:39.07 ID:glNkhPwEo
魔王「母上はいつもお前の身を案じていた」
魔王「お前が見に纏っているその服は……母上がお前を想いながら縫ったものだ」
勇者「……!」
魔王「お前の部屋は母上が生前使っていた部屋だ」
魔王「収納庫を開けば、もっとサイズの小さいものから、」
魔王「お前が大人になっても着られるものまで数着見つけられるだろう」
勇者(いつもメルナリアさんが服を持ってきてくれてたから知らなかった……)
勇者(お母さんが縫ってくれた服……)
勇者(! シルヴァ地方の民族衣装とよく似たこの服……)
勇者(そして、お母さんは人間として育った……)
勇者「もしかして、エリヤ・ヒューレーさんって……」
魔王「その名を知っているのか!?」
魔王「それは……母上が人間として生きていた頃の名だ」
ーーーーーー
ーー

334 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:27:14.99 ID:glNkhPwEo
魔王に即位した後、漸く彼女が見つかった。
人間の姿となっていたが、間違いなくオリーヴィアであった。
魔王父『探したぞ……オリーヴィア』
魔王母『ま、魔族……!?』
男性『エリヤ、逃げなさい!』
女性『さあはやく!!』
オリーヴィアのすぐそばにいた中年の夫婦を斬り捨てた。
彼女の育ての両親だったらしく、彼女は何やら叫んでいた。
人間なぞ虫けら以下の存在であるというのに。
魔王母『お父さん!? お母さん!!』
魔王母『いやあああああ!!!!!!!!』
彼女は魔族であった頃の記憶を封じられていたらしい。
ならば、記憶の封印を解けば正気に返るであろう。そう思った。
彼女の本当の肉親は、人間共に殺されたのだから。

335 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:27:44.62 ID:glNkhPwEo
すぐに彼女を城に連れ帰り、封印解除の条件を部下に調べさせた。
魔術師『許婚である陛下の接吻により封印は解かれるでしょう』
魔法陣に捕らわれた彼女は、酷く怯えた表情をしていた。
だが、ただ怯えていただけではなかった。
その目には鋭い敵意が込められていた。
魔王母『嫌! 来ないで!!』
抵抗する彼女に無理矢理口付けると、すぐに封印は解かれた。
魔王母『私はオリーヴィアじゃない……』
魔王母『私はエリヤよ!』
魔王父(まだ錯乱しているようだが、しばらく経てば落ち着くであろう)
魔王母『嘘……こんなの……悪い夢に決まって…………』

336 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:28:27.84 ID:glNkhPwEo
彼女の封印を解いてから数日。
魔王母『本当のお父様とお母様のこと』
魔王母『人間から襲撃を受けた日のこと』
魔王母『封印されていたほとんどの記憶を取り戻したわ』
魔王母『……でも』
魔王母『……あなたのことだけは、思い出すつもりはないわ』
魔王母『このまま思い出せなくていい…………』
もう全ての封印が解けているはずだった。
なのに、彼女は我との記憶だけは思い出さなかった。
魔王父『…………!』

337 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:29:53.02 ID:glNkhPwEo
魔王母『あなたは目の前でお父さんとお母さんを殺したんですもの!!』
魔王母『あなたは命の大切さをちっともわかっていない!』
魔王母『……私、彼等に育てられて……あの村で育って幸せだったわ!』
魔王母『お父さんとお母さん、村のみんなを殺したあなたを』
魔王母『私は一生許しはしない』
魔王父『だが人間に襲われなければ、お前は本当の両親と暮らすことができたのだぞ!』
魔王父『憎むべきは人間であろう!!』
魔王母『彼等が知恵の一族を襲ったわけではなかったもの!!』
何故彼女は人間でなくこの我を……愛し合っていたはずの我を憎んだのだろうか。

338 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:31:05.78 ID:glNkhPwEo
やがて息子ヴェルディウスが生まれたが、彼女の気持ちが変わることはなかった。
魔王『ははうえ?』
魔王『ははうえ、どこへいかれるのですか?』
魔王母『ヴェルディウス……ごめんなさい』
ヴェルディウスが齢四つに達した頃、彼女はいずこかへ姿を消した。
そして、あろうことか
魔王母『シュトラールさん!』
勇者父『エリヤ……君は俺が護る』
彼女は再び人の姿となり、真の勇者として目覚めたあの憎き男と逃亡していた。
誰よりも愛している女を、誰よりも気に食わぬ男に奪われていた。
魔王父『奴等め、今度は何処へ逃げおった……!』
何度か逃げられたが、彼女が姿を消して一年程経った頃に尻尾を掴んだ。
だが、
魔王父『産んだというのか……その男との子を…………!』

339 : ◆qj/KwVcV5s :2016/02/20(土) 15:31:38.79 ID:glNkhPwEo
我と奴は互いに深い傷を負った。
魔王父『……だが、その赤子を殺す力くらいは……残っておる』
勇者父『やめ……ろ……!』
魔王母『……………………』
魔王母『……私、あなたの所へ行きます』
魔王母『だから、この子を……助けて……』
オリーヴィアはシュトラールに赤子を託し、我の元へ帰ってきた。
……体だけは。
魔王母『シュトラールさん……エミル……』
心は……遠いままであった。
どれほど愛しても、振り向いてくれることはなく…………。
やがて、彼女は無気力となっていった。
魔王母『………………』
虚ろな瞳で、会えもせぬ娘のために服を縫うことしかしなくなった。