Part1
勇者「お母さんが恋しい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455097999/
1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:53:19.23 ID:
Xi7uubKoo
勇者「ぼく、ここで死んじゃうんだ」
勇者「お母さん、ごめんね。帰れそうにないや……」
勇者「……最初からわかってた。王様達が、ぼくを……魔族に殺させようとしてたって」
傷だらけの幼い勇者は、故郷で待つ母を想いながら意識を失った。
※朝チュンレベルだが後に凌辱要素有、Rー15
※ショタホモ要素有、注意
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:54:08.84 ID:
Xi7uubKoo
Section 1 旅立ち
ーー旅立ちの日、ブレイズウォリア城・謁見の間
国王「勇者エミル・スターマイカよ。お前が旅立つことが決定された」
勇者「え?」
国王「お前の兄である次期真の勇者・リヒトが試練を終えるまであと五ヶ月はかかる」
国王「その間に少しでも魔属の戦力を削ぎ落すのだ」
一般的に、魔に属するものを一纏めに魔属と呼び、
その内知能の高い者は魔族、動物程度の知能の者は魔物と呼ばれることが多い。
勇者「え? え?」
勇者の一族の中でも最も勇者に相応しい者が、聖域で行われる試練を終えることで真の勇者となる。
真の勇者として認められると、光の大精霊により光の力の結晶である光の珠を与えられる。
真の勇者としての役目を終えるか、もしくは次期真の勇者が試練を終えると、
光の珠は一度大精霊に返還され、次世代へ受け継がれるのである。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:54:36.82 ID:
Xi7uubKoo
勇者「でも王様、ぼくはまだ12歳で……」
勇者「光の力だって、ほんの少ししか受け継ぐことができませんでした」
勇者の血を引く者は生まれつき魔を滅する光の力を持っている。
光の力は魔属にとっては猛毒。勇者は攻撃に光の力を上乗せすることで魔属を葬る。
更に、通常であれば真の勇者の子供は生まれながらにして強い光の力を持つ。
勇者エミルとその兄リヒトの父親は真の勇者であるが、何故だかエミルの持つ光の力は微弱であった。
勇者「その上弱虫なぼくが旅立っても……」
国王「お前には強大な魔力があるではないか。兄の負担を軽減しようとは思わぬのか」
勇者「…………」
光の力をあまり受け継げなかったこととは対照的に、
エミルには異常なほど大きな魔力容量があった。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:55:20.60 ID:
Xi7uubKoo
国王「その力があれば一人でもやっていけるであろう」
勇者「そんな」
神官「陛下、恐れながら……こんな小さな子に一人旅だなんて残酷すぎますわ」
神官「処世術も知らないでしょう」
国王「ならば神官ユダス、お主が勇者に同行するがよい」
国王「ただし、同行を許すのはこれより二ヶ月のみとする」
国王「他の同行者は認めぬ」
勇者「…………」
国王「お前の旅立ちは平和協会の決定なのだよ。逆らうことは許されぬ」
平和協会ーー大陸中の治安を司る組織であり、大陸内部の人間の国や近辺の島国はすべて加盟している。
真の勇者の子供には平和協会から養育費が強制的に給付され、戦う人生を義務付けられる。
例え、本人が戦いを好まない性格であっても。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:55:50.31 ID:
Xi7uubKoo
勇者母「ごめんね、あなたの養育費を全て返すから旅立ちを取り消してほしいって頼んだのだけれど」
勇者母「返却できる制度は存在しないから、って……取り合ってもらえなかった」
勇者「お母さんがぼくを守るために協会といつも喧嘩してたことは知ってるよ」
勇者「今まで育ててくれてありがとうね」
勇者母「……あなたは、お父さんとお母さんの子供だから、絶対に大丈夫」
勇者母「この家に……お母さんのところに、帰ってきてね」
勇者「うん」
勇者「……行ってくるね!」
勇者母「ああ……世界は、あんなに優しい子になんて残酷なことを強いるのでしょう」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:56:35.87 ID:
Xi7uubKoo
勇者母(エミルは、幼い頃からお料理とお勉強が好きで、平和を愛する子でした)
勇者母(一般的な道徳観念を魔属にも適用してしまうほど、心根の優しい子)
勇者母(この旅でも、きっと一匹も魔物を殺さないでしょう)
勇者母(そんな勇者が、世界にどう思われることか……)
勇者母(神様、どうかあの子にご加護を……)
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:58:03.48 ID:
Xi7uubKoo
武闘家「わりぃな、一緒に行ってやれなくて」
勇者「王様の命令だもん。仕方ないよ。見送りありがとうね」
神官「ご友人ですか?」
勇者「うん。幼馴染のコハク君。遠い親戚なんだ」
コハクと呼ばれた少年は、わずかであるが勇者の一族の血を引いている。
真の勇者とその実子は直系と呼ばれ、その他の勇者の一族の者は傍系と呼ばれる。
真の勇者の実子であっても、本人が真の勇者に選ばれなければ、次の代からは傍系となる。
直系から離れるほど、持って生まれる光の力は小さくなる傾向がある。
武闘家「俺、多分お前のにーちゃんと一緒に旅立つから」
勇者「そうなの!? お兄ちゃんのこと、よろしくね」
勇者と神官は村を出た。
武闘家(あいつ本人には何の罪もないってのにな)
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 18:59:51.23 ID:
Xi7uubKoo
神官(なんて綺麗な緑色の瞳……まるで、日に照らされた木の葉のよう)
神官「魔物を殺したことがないのですか?」
勇者「うん。大抵懐かれちゃうから、あんまり襲われたことないし」
勇者「誰かが魔物に襲われてる時も、防護魔法で凌げば剣を抜かずに済むし……」
勇者「本当に命が平等なら、魔物だってそんな簡単に殺しちゃだめなはずなんだ」
勇者「こんなこと言ったら怒られちゃうし、誰もわかってくれないけど……」
神官「あなたは……」
神官は勇者を抱きしめた。
神官「戦いになんて、向いていないのでしょうね」
勇者(ぼくは幸せだったな。今までいろいろあったけど、)
勇者(お母さんやお父さん、お兄ちゃんにいっぱい可愛がってもらえて)
勇者(もう、二度と会えないのかな……)
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:02:42.72 ID:
Xi7uubKoo
勇者「既に気が立ってる魔物にはどうしても攻撃されちゃうけどね」
勇者「でも最後には仲良くなれるんだよ」
神官(魔物に懐かれるだなんて……不思議な子)
神官(それにしても、あまりにも不自然だわ。この子を一人で旅立させようとするなんて)
神官(もっと強い光の力を受け継ぐ者は何人もいる上に、)
神官(我が国には、優秀な戦士や魔術師が大勢いる)
神官(平和協会は、どんな理由があってこの子を旅立たせたのでしょう……)
勇者「あ、村が見えたよ! 今日はあそこで泊まろうよ」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:03:08.58 ID:
Xi7uubKoo
村長「おお、よくぞいらした勇者様」
勇者「こんにちは!」
村長「しばらく見ない間に大きくなられましたのう」
勇者「えへへ、まだまだちっちゃいけどね」
村長の孫「誰か来たと思ったら泣き虫勇者さんじゃねえか」
勇者「あ、えっと……こんにちは」
神官「……」
村長の孫「何でお前が旅してんだ? リヒトさんはどうした」
村長「これこれ、エミル様に助けていただいた恩があるというのになんという態度じゃ」
村長の孫「けっ」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:03:34.50 ID:
Xi7uubKoo
神官「この村に訪れたことがあるのですか?」
勇者「うん。三年くらい前かな」
勇者「お兄ちゃんと、お父さんと一緒にね」
勇者「この辺りで採れる木の実がどうしても欲しくって、連れてきてもらったんだ」
ーー三年前
村長の孫「あっちの洞窟にモンスターが出るらしいぜ!」
子分1「それほんとっすか!?」
村長の孫「ちょっと肝試しに行ってみないか?」
村長の孫「この辺は平和すぎて全然モンスターなんて出ないしさ」
村長の孫「魔物がどんな生き物なのか気になるだろ」
子分2「退治できたら親分はこの村のヒーローですぜ!」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:04:01.24 ID:
Xi7uubKoo
勇者「だめだよ、危ないよ」
村長の孫「あ? 誰だてめえ」
子分1「真の勇者様の子供ですぜ」
勇者「洞窟の方から感じる魔力、ちょっと大きいよ」
勇者「子供だけで行っちゃだめ、大人でも危ないよ」
村長の孫「勇者の子供だろうがなんだろうが俺に口答えする奴は許さねえぞ」
村長の孫「俺はこの村の村長の孫なんだぞ!」
子分1・2「「そうだそうだー」」
勇者「あうう……」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:04:30.96 ID:
Xi7uubKoo
村長の孫「ついてくるなよ!」
勇者「だって……心配だから……」
村長の孫「年下のチビなんかに心配される筋合いねえっつーの! 失せろ!!」
勇者「うぅっ……ぐすっ……」
子分1「泣き出しやがりましたぜこいつ」
子分2「勇者の一族のくせに泣き虫ー!」
村長の孫「泣き虫勇者ー! 父親譲りの黒髪は飾り物かぁあ?」
勇者「ふええぇぇぇええええええん」
子分1「こんな奴勇者の血を引いてるかも怪しいですぜ!」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:04:59.99 ID:
Xi7uubKoo
子分2「やっとついてこなくなりましたねーあいつ」
村長の孫「出てこい化け物! この俺様が退治してやるぜ!」
?「ガルルル……」
子分1「こ、こいつ……」
?「ギァアアアアア!!!!」
村長の孫「ド、ドラゴンだと……!?」
子分2「や、やばいですぜ親分……ににににににげないと」
村長の孫「つっても子供じゃねえか! 臆するな! こいつ怪我してるし!」
ドラゴンの背には矢が刺さっている。
村長の孫「お前なんてヒノキの棒で充分だ!」ブンッ
ドラゴンはヒノキの棒を噛み砕いた。
村長の孫「ひっ」
村長の孫は腰を抜かしてしまった。
そのドラゴンは子供だが、尾を含め全長2メートルはある。
ドラゴンは右腕を振り上げた。
勇者「だめー!」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:05:26.71 ID:
Xi7uubKoo
ドラゴンの鋭い爪が引き裂いたのは、村長の孫ではなく、勇者の背だった。
村長の孫「あ……ぁ……」
勇者「っ……」
勇者「ガイアドラゴンさん、落ちついて……びっくりさせちゃってごめんね」
勇者「……そっか、お母さんとはぐれちゃったところを、人間に襲われたんだね」
勇者「怪我、治してあげる」
ドラゴン「きゅぅ……」
勇者「だいじょうぶ、だよ……ここから、西の方に、君とよく似た魔力があるよ」
勇者「ほら、あっち……お母さんも君のこと探してる。わかるでしょ?」
勇者「もう飛べるよ。元気でね」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:05:52.98 ID:
Xi7uubKoo
勇者「は、ぁ……」
子分2「た、助かった……」
子分1「こいつ、血が……大人を呼ばなきゃ」
村長の孫「お、お前……」
勇者「大丈夫? 怪我、してない……?」
村長の孫「何で魔物と話ができるんだよ……?」
勇者「え……」
村長の孫「化け物!!」
勇者「…………」
勇者兄「エミル!! そこにいるのか!?」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:06:20.30 ID:
Xi7uubKoo
勇者兄「目を離した隙に勝手にどっか行くのやめろっつってんだろ!!」
勇者兄「ドラゴンの子供が飛んでくのを見たぞ!」
勇者兄「お前また魔物を助けただろ! 殺せって何度言えば……」
勇者「おに……ちゃ…………」
勇者兄「なんて酷い怪我してんだよ……!」
勇者には自分の傷を治す集中力が残されていなかった。
勇者兄「今止血してやるからな!」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:06:50.12 ID:
Xi7uubKoo
ーー村長の家
エミルは寝息を立てて眠っている。
勇者兄「俺のエミルがあぁ……傷痕が残っちまったら兄ちゃん悲しいぞ……」
勇者父「残らないよう丁寧に魔法かけといたから安心しろ」
勇者父「あとお前も剣の修行ばっかやってないで魔法の勉強しろよな」
勇者兄「へーい……」
村長「孫がご迷惑をかけてしまったようで……」
村長「なんとお礼を申し上げればいいのやら…………」
勇者父「気にしないでくれ村長。こいつは勇者の務めを果たしただけなんだからよ」
勇者(ばけ、もの……)
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:07:43.61 ID:
Xi7uubKoo
ーーーーーー
ーー
村長「あの時の恩は返しても返しきれませぬ」
村長「この村の食を存分に楽しんでいきなされ」
勇者「うん!」
村長「勇者様は料理を嗜んでおられましたな。保存の利く食材を用意いたしましょう」
村長「オリヴァの実も持っていきなされ」
勇者「ほんと? やったあ!」
村長の孫「じーちゃん! そんな奴歓迎する必要なんてないぜ!」
村長の孫「魔物を殺せない勇者なんて勇者じゃねえ!」
村長の孫「魔物の意思がわかる化け物だしよ!!」
村長「お前はまだそんなことを言うのか! しばらく黙っとれ!」
勇者「いいんだよ、村長さん」
勇者「ほんとは、勇者は……魔物を、魔族を倒さなきゃいけない存在なんだから」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:08:38.55 ID:
Xi7uubKoo
翌日
勇者「ありがとうございました」
村長「よかったらまた来てくだされ」
村長「その頃までには、孫をもう少し教育しておきますゆえ……」
勇者「えっと、気にしなくていいからね! ぼく、全然平気だから」
神官「お世話になりました」
神官(この子といると、不思議と魔物から襲われないわ)
神官(一体どうして……)
勇者「お父さん、元気かなあ」
勇者「たまにふらっと帰ってくるんだけど、普段は行方不明でさ」
勇者「これからたまたま会えたりしたら嬉しいなって思うんだ」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/10(水) 19:09:05.88 ID:
Xi7uubKoo
勇者「あ、でもユダスさんはお父さんに近づいちゃだめだよ!」
勇者「すっごい女好きでさ、女の人が近付いたら危ないんだって」
神官「彼は、勇者としての素質は随一だったのに、その……」
神官「下半身が自由奔放であったのが玉に傷だと聞き及んでおります。」
勇者「そうそう。ぼくにはあちこちにお母さん違いの兄弟がいるんだって」
勇者「旅の途中で兄弟に会っちゃったりして……うーん心配だなあ」
勇者「今も兄弟増やしてるのかも……」
神官「一応、あなたが生まれて以降は自粛しておられる……という話を」
神官「平和協会の方から聞いたことがあります」
勇者「ほんとだといいなあ」