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盗賊「コインの表と裏」
Part4


61 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:28:39.71 ID:IVe03aaio
僧侶「………はぁ、はぁ」
魔法使い「対峙するだけで……この、圧迫感……」
盗賊「智将なんて、足元にも及ばないだろうな……」
魔王「当然だ。本来、我が個として存在するだけで事足りるのだ」
「貴様ら人類全てと相対したとしても、我一個が貴様らを大きく上回っておる」
勇者「なら、重い腰を上げてさっさと僕らを殺しにくれば良かったじゃないか?」
魔王「馬鹿を言うでない。眷属を増やし、貴様ら人類と戦の真似事をしてやるくらいには我は飽いておる」
「神々の信託を受けた勇者一行。貴様らですら我の掌の上だーーーこの世界、我が生きるには、まるでつまらぬ」
勇者「………」
魔王「とはいえ自害もつまらん。ならば、この世界で遊び尽くしてやるだけの事よ」
「故に、貴様らは我を楽しませる道化よ。くくく、ほれ、何時まで我に言葉を走らせる?」
ゆるり、と魔王は立ち上がりーーーその黒い腕を、こちらへ向けて。

62 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:29:06.86 ID:IVe03aaio
魔王「勇者と、その仲間たちよ。全身全霊を以て我を楽しませろ」
「それが出来たならーーー我もまた、朽ちる気にもなるかもしれんぞ」
ドス黒い魔力の波動を感じて、僧侶が杖を掲げる。
魔法使いがそれに合わせて、魔導書を開き詠唱を重ねて行く。
僧侶「ーーー大対魔防御魔法!」
魔法使い「大攻撃倍加魔法!」
勇者「行くぞ……魔王! お前を倒して、世界を平和にする!」
魔王「くっくっくーーーーさあ、我を愉悦へと誘え!」
放たれる漆黒の魔導弾。それは魔法耐性を上げられた身でも、致命になりかねない一撃。
それを盗賊はひらり、と身を交わし戦況の分析に入るーーー弱点は、あるのか。
勇者は加護を受けた聖剣で、強引に魔導弾を弾き魔王の懐へと入る。
勇者「ぜあああああああああああああっ!」
魔王「ほう、思ったより素早い。だが、倍加を以てしても足りぬな」
ぎぃん、と魔王の手前で聖剣は止まるーーーどうやら、障壁が張られているらしい。
勇者は舌打ちをしながら、何度も障壁へと剣撃を重ねて行く。

63 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:29:34.58 ID:IVe03aaio
魔王「ふむ……もたぬ、か。その聖剣、やはり厄介よのーーーくっくっく」
障壁が徐々に崩壊して行く。勇者の一太刀毎に罅が広がって行く。
魔法使い「ーーー勇者様、更に倍加魔法をっ!」
僧侶「聖域魔法! これで、魔王の防御力は落ちます!」
勇者への攻撃力の倍加魔法。これで勇者の一撃は更に倍。
加えて僧侶の聖域の展開。闇属性にあたる魔王の防御力はがくんと下がるーーー。
盗賊はじっと戦況を読んでいた。戦闘に参加すれば、たちまち殺されてしまうだろう。
だが、自分の役目は戦況を読み弱点を探る事ーーー未だ、魔王に弱点は見えない。
刹那、勇者の斬撃が障壁を破るーーーバリバリ、と障壁に込められていた魔力が空気中に胡散する。
魔王「ほう! 中々やるではないか……くっくっく、女ども、貴様らが邪魔だな!」
勇者「ーーーーぐあっ!」
障壁を破り、肩で息を始めた勇者を拳一つで吹き飛ばす。防御はしたものの、勇者は壁へと叩きつけられる形になった。
じろり、と魔王は魔法使いと僧侶を睨みーーー二人の眼前へとあっという間に移動する。
僧侶「空間、移動ーーーくっ、大対物理防御魔法!」
僧侶の顔が青ざめる。歩を進めずに一瞬のうちに二人の眼前に現れた魔王にはどうやら空間移動の能力があるらしい。
驚きつつも、僧侶は物理防御を上げる魔法を唱えるが、魔王の狙いは先ずは魔法使い。
魔王「先ずは一匹……ふんっ!」
魔法使い「きゃああああああっ!」
物理防御魔法の恩恵を以てしても、魔法使いの防御力は後衛である事に変わりはない。
勇者同様に壁に打ち付けられ、魔法使いは血を吐いて動けなくなった。

64 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:30:13.29 ID:IVe03aaio
盗賊「…………くっ」
盗賊は柱に隠れつつ、隙を伺うしかなかった。やはり、弱点はないのか。
僧侶「魔法使いさん! 大回復魔法!」
魔王「良い判断とは言えないぞーーー我を前に、目を逸らしても良いのか?」
僧侶へと漆黒の腕が振るわれる。
しかし、それを阻止せんと勇者が立ちふさがる。
勇者「させない……! 僧侶、魔法使いの回復を続けて!!」
僧侶「はい!」
魔王は邪悪な微笑を浮かべて、ちらりと盗賊を見たーーーやはり気づかれていたか。
魔王「鼠よ。我の隙を伺っているのか? くく、一匹だけどうやらレベルの低いものが居る様だな」
勇者「…………僕の仲間を、馬鹿にするんじゃないよ」
勇者が剣を振るう。その言葉が、どれほど辛いか。
魔王「本心か? そうではないだろう、勇者……貴様は、あの鼠を疎ましく思っているのだろう?」
勇者「そんな事、ないさーー謀るか、魔王!」
魔王が笑う。盗賊は二人の言葉を一切聞かず、弱点を探す事に徹する。
手には真紅の刃を持つダガーがあったーーーこれなら、一度限りだが致命を負わせられると思っていた。

65 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:30:53.76 ID:IVe03aaio
以前、智将が武器と使用していたであろう真紅のダガー。
街の鍛冶屋で正しい鑑定を受け、このダガーが強力な呪いを帯びた逸品だと知った。
耐久力はやはり脆く、一度限りの使用。刺せば一度、呪いが発動するーーーが、その効果事態は鍛冶屋でも教会の人間でも分からない。
盗賊「やってやるさ……隙を、見せろ魔王……」
効果がわからなくても、呪いである以上はきっと魔王に致命の一撃を叩きこめる。
勇者や僧侶、魔法使いもこのダガーについては知らない。使用後にどんな副作用があるか、分からないからだった。
盗賊「………今となっては、副作用を期待してしまうな」
ふぅ、と心を落ち着けて勇者と魔王の戦いを見る。
僧侶は魔法使いを丹念に回復し、魔法使いも徐々に意識が取り戻しつつある。
勇者「うおおおおおおおお!」
魔王「ぬぅ……やる、ではないかああああ!」
徐々に魔王が勇者に押され始めている。
剣撃に押され、魔王は防御に徹している。
魔王「くっくっく、図に乗るなよ屑めがーーーー極大消滅魔法!」
魔王の両手から更にドス黒い瘴気が溢れ出る。
それは闇より出る全てを飲み込む、瘴気の波。触れればたちまち消滅する闇の坩堝。

66 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:31:44.19 ID:IVe03aaio
魔王「闇に呑まれよ!!!!!」
勇者「くっーーーーらあああああああ!!!」
勇者が聖剣を振るい、闇を切り裂く。それだけで、闇の瘴気は振るわれる。
それには意外だったのか、魔王は驚いた表情でーーー始めて、後ろに後ずさる。
盗賊(ーーーーー此処だ!)
完全なる魔王の死角。背後に弱点があった。
それは勇者の振るった聖剣による剣撃に払われた消滅魔法の余波が、魔王の黒衣を剥ぎとった。
禍々しい肢体が黒衣の下にはあった。血管の浮き出た、赤黒い身体の背中には瘴気を取り込む為か、呼吸口の様なものがあった。

67 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:32:15.02 ID:IVe03aaio
曰く、魔王は瘴気を吸い上げ魔力を高める。
魔族は瘴気なしでは生きられない。瘴気とは魔力濃度が高まる程、発生しやすくなる。
故に聖職者などの浄化なしでは魔力は危険性の高い物質ーーー故に、魔王は魔力を統べる瘴気の王。
盗賊(つまり魔王は永続的に強くなる。魔力により瘴気を生み出し、それを更に吸い上げて、魔力を生産する)
放置すれば限界などなしに力をつける化物。だが、その特性故に背中の呼吸口は圧倒的な弱点だ。
盗賊「ーーーーーーしっ」
魔王ほどではないが、目にも留まらぬ速度で盗賊が動いた。
魔王の死角から死角、あっという間に背後に近づき勇者から退いた隙を突くべく、真紅のダガーを突き立てる。
魔王「……………通ると、思ったのか鼠」
が、しかし。
盗賊「なっ………ぐあああああああ!?」
魔王の腕が”増えた”ーー否、はじめから存在していた。
黒衣の下には更に一対の腕が存在していた。腹を守る様に、腕組の形で存在していたのだ。
魔王はその一対の片腕で盗賊の身体を掴み、締め付ける。
勇者「盗賊! 離せ、魔王!」
魔王「くっくっく、ならば力づくでそうさせてみるが良いぞ」
魔王は勇者を前に二本の腕で戦い、もう二本の腕で盗賊を手玉に取る。

68 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:32:45.91 ID:IVe03aaio
魔王「我の弱点に気づいたのは褒めてやろう。最も、貴様のその陳腐な武器では致命にはなり得ぬがな……」
盗賊「あ、ああああ、あああああああ!」
ぎりぎり、と全身の骨が軋む音が聞こえる。
人間一人をつかむ程の片手で握りしめられ、盗賊は為す術もなかった。
勇者もまた、全面の二本の腕に苦しめられていた。
魔王「取るに足らん。如何に優れた武器とは言え、聖剣や魔法以外で我を傷つける事は出来ぬ。」
「しかし貴様の観察力、確かに極上のものである様だな。褒めてやろう、鼠ーーーむ、勇者よ、剣撃を緩めるでないぞ」
勇者は叫びながら、斬撃を繰り返す。
いとも簡単に魔王は二本の腕で否しながら、背後の盗賊へと語りかける。
盗賊「あ、ああ……み、みんな……背中、の呼吸口が……弱点……だ!」
魔王「おお、美しいかな。偽りの友情か? 涙ぐましいな鼠よ。我は貴様が、実に気に入っている」
「こうして弱点を”敢えて”晒し、貴様の様な鼠に活躍の場を与えたのも……道化として気に入っているからだ」
盗賊「何を言って、んだよ……化物!」
辛うじて動く、左手のダガーで盗賊は魔王の腕を突き刺す。全くダメージは通っていない様だった。
魔王はぴくりともせず、勇者の鮮烈な攻めを防御している。

69 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:33:12.64 ID:IVe03aaio
魔王「鼠よ、身の丈に合わぬ志を抱いた者よ。中々に我を楽しませたぞーーー貴様が、一番優れた道化だったのかもしれんな」
ゆるやかに、盗賊の眼前にもう片方の魔王の手が迫る。
勇者「やめろ、魔王! こっちに全力を注げ、魔王!!!!」
魔王「その審美眼、鼠には勿体無い。ひとつ、要らぬだろうよ」
ずぶり、と魔王の凶爪が盗賊の右目を抉った。
盗賊「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
僧侶「盗賊、いやああああ!!」
勇者「くっ……魔王!!!!」
魔王「くっくっく! 良い悲鳴じゃないか! くっくっく、はっはっはっは!!」
ぐしゃり、と抉りとった目玉を潰して魔王は笑う。
盗賊を投げ飛ばし、四本の腕が勇者へと向き合う事となる。
勇者「僕はお前を許さないぞーーーーお前なんて、死んでしまえばいい!」
魔王「死ねぬ。我は不滅。我は永遠。我こそが魔王なり!」
魔王が吠える。

70 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:34:01.65 ID:IVe03aaio
燃える。爛れる。痺れる。熱い。熱い。熱い。
右目が失くなった。吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ身体中の骨がバラバラになりそうだった。
それ以上に右目の喪失感と、激痛が盗賊の意識を引き千切ろうとしていた。
僧侶「直ぐに、回復魔法をかけます! 大回復魔法……っ!」
魔法使い「う、ん……ごめん、意識飛んでた……って、盗賊さん!?」
魔法使いは回復魔法を受けて、目覚めた様だった。
漸く回復した魔法使いの次に、と僧侶は盗賊への回復に移ろうとする。
盗賊「ま、て……僧侶、俺は……良い……!」
かざされた僧侶の手を掴んで、意識を朦朧とさせながら首を振った。
僧侶「で、ですが!」
盗賊「し、死ぬ様な怪我じゃない。それに、もう眼は……魔王に、潰された……修復はできない……」
魔法使い「………」
盗賊「元から、俺は……戦力としては、お前ら……にも、及ばない……!」
「俺の役割は……弱点を、魔王の……弱点を探る事だった! なら、もう役目は終えている!」
この怪我は死には至らない。だが然し、これ以上の戦闘は何も期待出来なかった。
真紅のダガーも魔王には恐らく効かない。それに僧侶の魔力も無尽蔵ではない。

71 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:34:29.50 ID:IVe03aaio
盗賊「だ、だから……俺は捨て置け! 勇者と、魔王を……討ってくれ!」
僧侶「………で、でも」
盗賊「少しでも、俺に引け目があるならーーーー世界を平和に、してくれ」
僧侶「!」
魔法使い「行こう、僧侶さん」
二人は観念した様に立ち上がり、今なお交戦を続ける勇者の下へと駆ける。
僧侶「………ごめん、なさい」
盗賊「ーーーー」
僧侶の謝罪の言葉に笑顔で応えておく。
激痛に苛まれながらも、意識を飛ばさない様に盗賊は三人の戦いを見据える。
盗賊(………結局、大した助けにはなれなかったか)
真紅のダガーを見つめ、自嘲気味に笑う。
盗賊(だがそれでいい。魔王を倒したのはあの三人だ。俺は日陰の人間……俺は、称えられるには相応しくないほどに人殺しだ)

72 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:34:56.26 ID:IVe03aaio
魔王「ーーーーーちっ、猪口才」
勇者「はああああああ!」
勇者が前に出る。戦線に加わった僧侶と魔法使いの補助は勇者を魔王に近づけた。
魔王が如何に強大とは言え、やはり多勢に無勢に見える。
だがしかし、それは勇者が居るからこその無勢ーーー勇者だけは、魔王も片手間には殺せない。
僧侶「大回復魔法、聖域魔法、大魔力倍加魔法!」
魔法使い「大攻撃倍加魔法ーーー極大炎熱魔法!!!」
魔王「ぐおおおおおおおおお!!??」
あの魔王が叫び声を上げている。
勇者「はあ、はあーーー極大雷撃魔法!」
徐々に押され始める魔王。
三人の呼吸はぴったりと合わさり、やはり盗賊の目に狂いはなかった。
むしろ、盗賊が負傷した辺りからどうにも三人の動きはよくなっていた。
盗賊(それが……俺がやられた、怒りの所為なら良いが)
どこか卑屈だった。だが、例え何が原因だとしてもあの魔王を倒せるなら良かった。
盗賊(勇者、お前が倒せ。そして僧侶と魔法使いを幸せにしろ……それが、俺への謝罪になる)
閃光が奔る。闇が呑まれる。勇者は確実に一歩、また一歩と魔王の力を削いで行く。

73 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:35:26.84 ID:IVe03aaio
魔王「はあ、はあ……く、くくく、くっくっく! やるではないか塵どもめが」
三人から間合いを取り、魔王は傷ついた身体を撫でる。
これ程までに追い詰められたのは久方ぶりだと、そんな表情を浮かべていた。
魔王「これほどの力……神々も中々の勇者を生み出したものよ」
勇者「……」
魔王「互いに殆ど互角。後ろに控える女二人の分、我が競り負けておるか……」
「くっくっく、実に愉快ーーーこの時を、どれ程待ち望んでいたか」
勇者「これからお前は、僕たちに倒される。それがそんなに、嬉しいのか?」
魔王「貴様らの絶望を想うと、愉快にも程があるからだ」
勇者「負けない、とでも思っているのか?」
魔王「くっくっくーーーー時に勇者よ、後ろの二人は貴様の女か?」
僧侶と魔法使いは、険しい顔で魔王を睨む。
この問いに一体、何の意味があると言うのか。
魔王「我は貴様らを見ていた。遠見の水晶球と言うな、エルフが作った逸品よ」
魔法使いが、ギリと歯ぎしりする。

74 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:36:00.01 ID:IVe03aaio
魔王「うむ、滑稽だったぞ。勇者……貴様、正しく節操の無い男だ」
「まるで肉欲の塊。くっく! それに溺れる聖職者と、我が魔族の恥さらし!」
勇者「黙れ! この期に及んで、そんな言葉で僕たちを誑かすか!」
僧侶「……私は、勇者様を愛しております」
魔法使い「私も、魔族である事に後ろめたさなんて感じていない!」
魔王「咎めてはおらぬのだ。よくやったと言っておる」
「滑稽と言ったのは貴様らの”パーティ”だーーーほれ、あの鼠よ」
盗賊「………?」
朦朧とする意識の中、盗賊は唐突に魔王に指を刺され訝しむ。
魔王「あの鼠、そこの聖職者を好いておるな」
盗賊「……過去の、話だな」
僧侶「………」
勇者「………」
魔法使い「だから、なんなのよ」
にやり、と魔王の顔が歪む。

75 : ◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:36:32.45 ID:IVe03aaio
魔王「おお、勇者よ。人のモノを取り上げるのは快感であったか?」
勇者「くっ……」
魔王「略奪する事こそが悦び。そう思える程に、快楽だったのではないか?」
「貴様、見せびらかす様にその雌犬の嬌声をひけらかしていたのう……!」
僧侶「なっ……!」
僧侶の顔に朱が交じる。そんな所まで監視されていたとなれば、必然か。
それに伴い、魔法使いの顔も紅くなる。見られていた事に、気づいたのだろう。
魔王「あの鼠を蔑ろに、剰え愛人として恥さらしを迎えるーーーくっく、鼠よ、さぞ辛かっただろう」
魔王が、盗賊に振り向き笑う。
魔王「そしてどうだ。あの鼠は完全に戦力外。貴様ら三人で我と対峙しているではないか」
「勇者、先程も申したな……あの鼠を疎ましく思っているのだろう、と」
勇者「彼は……大切な、仲間だ……!」
魔王「あれ程の仕打ちをしておいてか! これは滑稽! この魔王ですら肌が粟立つわ!」
勇者「黙れェ!!!」
魔王「それほど言うならーーーーくっく、鼠を守ってみせよ」
魔王が盗賊へと四本の手を向ける。
渦巻く瘴気、齎される絶対の”死”ーーー今の盗賊に、それを避ける術はない。