Part3
41 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:30:16.10 ID:ZdmxBY5ao
宿屋の近く、水辺へと二人で座り込んで溜息をついた。
二人が好き合っているのが、薄々は気づいていたがーーこうも、明確に誇示されると堪える。
魔法使い「変なの……なんで、わざとバラすみたいにやるんだろ」
盗賊「まあな。好き合っている、とも宣言もしていない割に……俺達を不眠症に仕立てあげようと、してるな」
魔法使い「実はね、今日だけじゃないんだよ」
盗賊「………」
魔法使い「盗賊さんは、夜中に……いないから、知らないかもだけど。最近は、毎日の様にあんな感じ」
「あの村での、後くらいからかな。最初は男部屋に僧侶さんが、行ってた……」
だとすれば、自分は彼らがまぐわった場所で睡眠をとっていたという訳か。
そう考えると気分が非常に悪くなる。
42 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:30:44.82 ID:ZdmxBY5ao
魔法使い「でも、最近ちょっと酷くて……勇者様、女部屋でもするようになってさ」
「僧侶さん、頑張って声殺すんだけど、まあ無理じゃない? それでもうなんか、辛くてさ」
今日こそ男部屋だったが、最近は女部屋で情事に移る事が多いのだろう。
その度に魔法使いは寝た振りを続けて来たのだろう。
魔法使い「だからさ、半分は盗賊さんを待ってたんだけど。もう半分はあの声が嫌だから、逃げて来ちゃった」
盗賊「………そうか」
脳裏に浮かぶ僧侶の凛とした姿。それは今はもう、淫靡に堕ちてしまったのか。
諦めた、とは言え一度は惚れた女性のそういった姿形は見たくなった。
愛し合っているならば健全な事だーーーだが、それでも彼女を穢された気がしてしまった。
盗賊「お前、辛いだろ」
魔法使い「盗賊さんこそ、辛いでしょ」
辛くない、と言えば嘘になるが。しかしもう諦めたのだ。魔法使いよりはダメージは少ないだろう。
魔法使い「はあ……なんだか今日は、月が綺麗に見えないね」
盗賊「そうだな。あんなに、綺麗だったのにな」
青白く照らす月はーー何処かやはり、不愉快な顔をしていた。
43 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:31:22.25 ID:ZdmxBY5ao
それから毎晩、盗賊の帰りを待つ魔法使いと夜風に当っては二人が寝入った頃にベッドに帰る日々が続いた。
勇者が女部屋へ行く時は魔法使いはそれとなく、僧侶に事前に聞いて外出していた。
そんな旅が続けば……崩壊する事は、自明の理か。
盗賊「勇者、話がある」
勇者「………なに?」
馬車を停めて、僧侶と魔法使いが川で水浴びをしている間に勇者を離れに誘う。
どうにも智将での一件以来、勇者は少し荒んだ様に思える。
言葉の端々に棘が見え、それを隠す気にもない様に見受けられた。
盗賊「少しは、魔法使いの身にもなってやれ」
勇者「なんの事かな……はっきり、言えば」
盗賊「アイツは、お前が好きだった。だけど別にお前が、僧侶とつがいになろうがそれは勝手だ」
勇者「……」
盗賊「勝手だけど……見せびらかす様に、僧侶とまぐわるのはやめろ」
勇者「聞き耳を立てる方が悪いとは、思わないかい。僕らに外で犬みたいに、まぐわれと?」
盗賊「耳栓でもつけて、寝ろってか? そもそも僧侶は嫌がっていないのか」
勇者「僧侶が気になるの?」
盗賊「別に。とにかく、魔法使いの事も考えてやれ」
勇者「ふふ……分かったよ」
本当に分かったのだろうか。勇者は少し、苦笑しながら頷いていた。
しかしこれ以上、追求しても雰囲気が悪くなるだけかーー盗賊はこれ以上、何も言えない。
44 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:31:59.13 ID:ZdmxBY5ao
その日の晩の事だった。
最後の街にて、四人は確りと魔王城への対策を練っていた。
勇者「ーーーー以上、こういう風に攻めたいと思う」
簡潔に言えば勇者が先行し、残る三人は補助に回るという作戦だった。
確かに勇者の最近の成長は目覚ましく、一人で充分ではないかと思う時もある程だ。
魔法においては魔法使いを超え、回復においても僧侶を超えていた。
元より疾さを除けば盗賊など足元にも及ばない。
僧侶「……いよいよ、ですね」
魔法使い「ん、そうだね」
盗賊「……」
もうすぐ、この旅が終わる。長い様で、短いこの旅路が。
思い返せば多くの事があった。それは思い返すには時間が足りない程に。
勇者「明日、早朝に出発する。此処から1日も経たずに魔王城には到着するはずだ」
盗賊「この街が最後の補給地点か」
ちらり、と僧侶を見る。相変わらず凛とした表情だーーだが、淀んだ瞳になった。
聖職者の瞳をしていない。だが、それが愛に堕ちた者の末路なら何も言えやしない。
45 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:32:25.94 ID:ZdmxBY5ao
僧侶「……では、確りと準備をして明日を迎えましょう」
言うや否や、僧侶は自室へと向かう。勇者はその後を追い、何やら耳元で囁く。
少し驚いた様に、僧侶は勇者へと振り返るーーそして、思いつめた様に盗賊を見て。
魔法使い「……」
盗賊「どうかしたか、僧侶」
僧侶「……いえ、別に」
勇者「はい、じゃあ解散。今日は早く寝ようね」
……よく言う。盗賊は内心、怒りにも似た溜息をつきながらベッドへと向かう。
46 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:33:19.36 ID:ZdmxBY5ao
ーーーその晩、やはり勇者は起き上がり外へと出た。
盗賊は行ったか、と溜息をつきながら彼もまた外出の準備をする。
魔王信仰者にバレてはいないだろうが、この宿屋を見張るくらいはせねばなるまい、と。
軽く身支度を済ませて、扉へ向かう。恐らく、魔法使いも外に居る事だろうし、二人で見張りをするのも良いだろう。
僧侶「……どこか、行くのですか?」
扉に手を掛けようとすると、逆に扉は一人でに開いてーー居るはずのない人間が、顔を出した。
47 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:33:54.00 ID:ZdmxBY5ao
盗賊「……見張り。ていうか、なんで此処にいるんだ。勇者は……?」
僧侶「まあ、良いじゃないですか」
盗賊「……」
何か、はぐらかされた気がするがーーとん、と胸を僧侶に押されて、少し後退する。
僧侶「最近、盗賊は私を避けますね。何か、したでしょうか」
盗賊「……そんなつもり、ないんだけどな」
もう一度、とん、と押される。少し後退する。
僧侶「……勇者様と、私の事が原因ですか?」
盗賊「……」
何も言えず、また押されて少し後退するーーーベッドへとぶつかり、腰を降ろしてしまった。
僧侶が盗賊を見下げている。その瞳はあの日に感じた射抜く様な、凛としたものとは真反対のモノだった。
48 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:34:24.37 ID:ZdmxBY5ao
僧侶「最後の夜くらい、私に、優しくしてくださいませんか」
盗賊「……お前は、勇者と好き合っているじゃないか」
僧侶「あの人は、私が支えなければならないのです。だけど、私は貴方に嫌われたく……ないのです」
盗賊「嫌ったり、していない。だけど、お前の今の言葉は唯の淫婦にも等しいこと理解しているか?」
僧侶は涙ぐみながらも、こくりと頷いた。
沸々と怒りが湧く。この人をこんな風にしたのは、あの男だから。
僧侶「勇者様を嫌わないで。あの人にも、あの人だけの苦悩がある。あの人の分まで、私が謝ります」
「この身を捧げろ、と言うのなら……貴方になら、抱かれても良いです」
聞いていられないーー自分が惚れたのは、あの日の月の様に綺麗な、僧侶だ。
49 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:34:53.06 ID:ZdmxBY5ao
「ーーーーーぁ、め」
隣室から、叫び声が聞こえた。
「ーーーーん、ぁ」
まさか、と立ち上がろうとするが僧侶は盗賊の肩を強く抑える。
盗賊「……お前、そこまで堕ちたか」
僧侶「貴方に此処で抱かれる様に言われました。今日は、勇者様は……あの子、と……」
盗賊「お前は、それでいいのか」
僧侶「……勇者様が、そう仰るなら」
盗賊「ーーーーーはは、狂ってるじゃないか」
愛は人を狂わせるのか。それとも元からこの人は、狂っていたのだろうか。
それに隣室から聞こえる喘ぎは、決して嫌悪の声ではない。
結局、女は愛に忠実かーーー魔法使いもまた、愛される事を望んだと言うのか。
50 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:35:20.20 ID:ZdmxBY5ao
盗賊「悪いが、俺は惚れた女しか……抱かないんでね」
僧侶「……私は、違うと」
盗賊「確かに惚れていたけど。今の僧侶には失望したよ」
僧侶「……そう、ですか」
盗賊「俺の知ってる僧侶は、もっと崇高だったーーーあの日、俺を救ってくれたのは、お前なのにな」
僧侶の手を振り払い、外へ出る。隣室の二人の邪魔をするつもりもない。
これで良いのだろう。四人のうち、能力に劣る自分だけが孤立したとしても大して魔王討伐の妨げにはなるまい。
世界平和などというものをガラにもなく目指していた。その実現のみが、勇者パーティの目的だ。
故に、個人的感情で輪を乱したりはしない。そう、使命を放棄したりはしない。
51 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:35:46.80 ID:ZdmxBY5ao
数時間、外の風に当って呆けていた。
途中、魔法使いが外へ出て来て、申し訳がちに「ごめん」とだけ呟いた様だった。
盗賊は特に反応する事もなくーー情事の終わりを感じて、自室へと戻った。
勇者が明け方、盗賊の隣のベッドへと潜る頃まで、彼は眠れなかった。
盗賊(……旅が終われば、どこに行こうか)
寝息を立て始めた勇者の隣、盗賊は思案に耽る。
今となってはこのパーティへの信頼感というのは皆無に等しかった。
既に勇者を愛する二人と、孤立した便利屋の自分だけ。
盗賊(魔王は……きっと、勇者なら倒せる……)
ならば、魔王を倒した後はどうする。
この三人とこれから先にも付き合い続ける気にはどうもなれなかった。
52 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:36:15.21 ID:ZdmxBY5ao
盗賊(俺は僧侶に救われた。勇者の為にこの手も汚した。魔法使いも大事な仲間だった)
だけど、盗賊の心は今、濃霧に包まれた様な感覚に染められていた。
盗賊(………早く、魔王を倒そう)
全てが終われば、一人旅に出よう。
魔王を倒した後も、きっと平和を乱す者はいるはずだから。
盗賊(まるで俺が勇者みたいだな)
神の信託はなぜ自分を選んでくれなかったのだろうか。
もし、自分が”勇者”ならば、などと考えてしまう。
本当にそうだったならーーー誰もが、笑顔でいられた気がしていた。
53 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:36:52.18 ID:ZdmxBY5ao
翌朝、起きれば盗賊を除いた三人が談笑していた。
盗賊が挨拶を交わすと、普段通りに三人とも挨拶を交わす。
まるで昨日の出来事はなかったかのように。
勇者「よく眠れたかい?」
盗賊「お前のお陰で、よく眠れたよ」
勇者の背後で、二人が顔を曇らせた。
その表情が昨日の出来事が現実であった事を裏付ける。
勇者「……魔法使いは、受け入れてくれたよ。これでみんな、幸せでしょ」
ぼそり、と盗賊の耳元で勇者が囁く。
54 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:37:21.68 ID:ZdmxBY5ao
盗賊「……ああ、そうだな」
愛人だとしても、魔法使いはきっと受け入れたのだろう。
あの謝罪の言葉は、きっと後ろめたさからの言葉だったのだろうーーーだけども。
盗賊「俺はお前らと、魔王を倒す事だけが……望み、だ」
勇者の眼を見て、言い切った。
そこに一切の偽りはなかった。昨日、全てを置いてきた。
勇者「そう。じゃあ、行こうかーーー魔王を倒しに」
盗賊は頷き、僧侶と魔法使いの二人を見る。
二人は申し訳無さそうにこちらを見ていたが、盗賊が笑いかけると安堵した表情になった。
あの二人が幸せなら、それで良いと思った。
勇者の言うとおり、”みんな幸せ”だと感じていた。
55 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:37:57.94 ID:ZdmxBY5ao
魔王城は不穏な雰囲気に満ち溢れていた。
一歩進むごとに、心臓にナイフを突きつけられている感覚が増していく。
盗賊「……っ」
僧侶「なんという、瘴気……」
魔法使い「いよいよ、なんだね」
雰囲気とは裏腹に、拍子抜けする程に玉座までの道程はすんなりと進めた。
現れる魔物も、自分達が強くなりすぎているのかと思う程に手応えを感じなかった。
勇者「大丈夫、確実に僕たちは強くなっているーーー今、決着の時だよ」
玉座へと通じる大扉の前で、勇者は振り返り三人へと笑いかける。
56 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:38:23.58 ID:ZdmxBY5ao
勇者「あの村での智将……彼は側近だったんだろう。それ以上の魔物は、いないとは思っていた」
「だけど、此処まですんなり来れたんだ。やっぱり僕らは強くなっているんだ」
僧侶「はい。だから……」
魔法使い「絶対、勝てるよね」
勇者「勿論。みんな、今まで有難う。此処まで来れたのは、みんなのお陰だ」
盗賊「………」
勇者「僧侶、魔法使い、盗賊……この戦いが終わったら、どうするんだい」
僧侶「私は……勇者様、と……」
躊躇いがちに、僧侶は頬を染めて言った。
魔法使い「わ、私も……出来たら、そうね……里には、帰りたくないかな……」
魔法使いもまた、躊躇いがちに頬を染めて言った。
57 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:38:51.23 ID:ZdmxBY5ao
盗賊「俺は旅に出ると思う。お前らの雄姿でも言い伝えながら、魔族の残党でも狩るさ」
偽りなく、盗賊も言った。
勇者「そうか。僕は王宮に迎えられようと思う。魔王を倒せば、次は人間同士の争いになるだろうし」
「魔王を倒せば、王は僕を王位を譲ると言うだろう。そうなると……僧侶は、王妃様だね」
僧侶「……はい」
魔法使い「わ、私は側室でも良いし」
勇者「うん。魔法使いは魔族の中でも平和的な、エルフとの架け橋になって欲しい……僕を、支えてくれ」
魔法使い「うん!」
盗賊「独り身には辛い話だな……」
勇者「まあまあ。盗賊も……また、僕の力になってよね」
盗賊「………ああ、たまには顔を出してやるさ」
勇者「じゃあーーーみんな、行こうか」
勇者が屈託ない笑顔を浮かべて、大扉を開く。
その笑顔の邪気のなさが、盗賊の心に迷いを孕ませる。
お前は一体、善人なのか悪人なのかーーー分からないな、と。
58 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/16(木) 00:39:40.73 ID:ZdmxBY5ao
ここまで
次から魔王戦
これだけで長くなりすぎたチーン
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/07/16(木) 05:19:32.78 ID:a26iykTPo
一番屈折してるのは勇者に見えるなあ
乙乙
60 :
◆XtcNe7Sqt5l9 :2015/07/20(月) 02:28:05.89 ID:IVe03aaio
魔王「ようこそ、勇者諸君」
どんよりとした空気の重さに、思わず盗賊は膝をついた。
圧倒的な瘴気はまるで、泥沼の中を泳ぐ様な感覚を与える。
勇者「お前が……魔王か……」
人類の敵。永久の破滅、絶望を望むもの。
その者は玉座で威風堂々に構えていた。
魔王「然り。我が魔王なり。ふむ、我らが配下は手傷も負わせられなかったと見える」
勇者「当然。お前の側近以下の者に、僕たちが手こずるとでも?」
魔王「くくく、確かにな。智将ほどの魔物はおらぬ故……退屈、させてしまったようだ」
仰々しい黒衣に身を纏った、鬼のような形相の魔王は笑う。
一度笑うだけで、空気が振動してーーーこうして、全員の心臓を震わせている。