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勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
Part32


168 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/18(木)22:29:34 ID:jOx

戦士「すごい光と衝撃だったけど、案外無事なもんだね」
魔法使い「戦士が壁を作ってくれてなかったらヤバかったよ」
僧侶「でも。まだ生きてますね、私たち」
戦士「……それと。さすがはうちの勇者だ。やるときはきっちりやってくれる」
勇者「……ふぅ」
猫「ま、魔王さまは……!?」
魔法使い「大丈夫だよ、ほら」
魔王「ぐっ……」
勇者「よかった。きちんと生きてるな。会話は……」
魔王「……なんのつもりだ? なぜ余を殺そうとしない?」
勇者「べつに俺は、お前を殺しに来たんじゃない」
魔王「だったらなにを」
勇者「決まってるだろ。魔王、お前と話をしにきたんだよ」

169 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:30:25 ID:jOx

空白  


170 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:31:26 ID:jOx
◆数週間後
魔法使い「うわあ。すごい量……」
戦士「そうかい? 旅をしてるときも、これぐらい食べてたじゃん」
魔法使い「旅をしてるときと同じだから、言ったんだけどね」
戦士「……ん? それって今日の新聞?」
魔法使い「ううん、けっこう前のだよ」
魔法使い「ほら、最近のって勇者が魔王をたおしたことについてしか触れてないでしょ」
戦士「論壇であるはずの新聞が、ただの情報媒体になっちゃってるもんね」
戦士「でも、新聞なんか読んでどうするの?」
魔法使い「魔術の勉強をするかたわらで、知識人の意見にも目を通してるんだ」
魔法使い「探してみると、魔族について触れてる論文ってけっこうあるんだよ」
戦士「そういえば、魔法使いは学校に戻るんだって?」
魔法使い「うん。学校が一番勉強に適してるし」
魔法使い「今は植物の活性化や、土地に恵みを与える魔術について勉強中」

171 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:32:48 ID:jOx
魔法使い「戦士こそ、最近はなにしてるの?」
戦士「鍛えてる」
魔法使い「……つい最近まで、病院にお世話になってたって聞いたけど?」
戦士「いやいや。国がそれはもう、手厚い待遇でむかえてくれてね」
戦士「賢者クラスの癒し手を寄越してくれたんだ」
魔法使い「じゃあなんで病院に?」
戦士「好みのナースがいたから、ほんのすこし足を運んでただけだよ」
魔法使い「……なんていうか、平和だね」
戦士「ホントにね。ちょっと前までは、わりとハードな旅をしてたっていうのに」
魔法使い「なんだか夢を見てたみたい」
戦士「夢といえば。魔法使いは、将来的にやりたいことってある?」
魔法使い「うーん、いろいろ考えてるけど。まだ『これだ!』っていうのは……」

172 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:33:42 ID:jOx
魔法使い「その点、勇者ってすごいよね」
魔法使い「喫茶店を開くために、ずっと前から貯金してたっていうんだもん」
戦士「そういえば、旅のときも無駄遣いはしなかったもんなあ」
魔法使い「この歳になっても、フラフラして夢も決められない私とは大ちがい」
戦士「べつによくない?」
魔法使い「よくは……ないと思うけど」
戦士「子どものころに『夢を持て』って、大人に言われた経験あるでしょ」
魔法使い「あるあるだよ」
戦士「でもさ、この年齢になったって知らないことのほうが多いんだよ」
戦士「子どもなんて、言うまでもないでしょ?」
魔法使い「まあ、そうだけど」

173 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:35:13 ID:jOx
戦士「生きてく中で、いろんなことを知って、ようやく見れるもの」
戦士「そういうのが夢だって、ボクは思うけどね」
魔法使い「あー……なるほど」
魔法使い「あれかな? 寝てるときまで見ちゃうような、そんな感じの?」
戦士「そうそう。まさに『夢を見る』ってヤツさ」
魔法使い「なんだか恋みたいだね」
戦士「そうっ! まさにそれっ!」
魔法使い「ど、どうしたの急に?」
戦士「いや、恋って聞いてしっくりきたんだ」
戦士「夢に好きな人が出たあとってさ、ついつい考えるんだよ」
戦士「彼女の夢にも、ボクが出ることはあるのかなって」
魔法使い「……ちょっとなに言ってるのかわかんない」
魔法使い「ていうか。戦士って夢とかあるの?」
戦士「あるよ」

174 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:36:39 ID:jOx
魔法使い「へえ。なになに?」
戦士「愛する女性を生涯まもりぬく。それがボクの夢だ」
魔法使い「わーお」
戦士「鍛えているのはそのためなんだ。あっ、もちろん剣の腕も磨いてるよ」
魔法使い「そこまで戦士にさせるなんて、罪な女だね」
戦士「ああ、まったくだ」
魔法使い「じゃあ戦士の恋が実るように、私も祈っておくね」
戦士「……それ、本気で言ってる?」
魔法使い「もちろん。私、恋話って大好きだし」
戦士「……うーん。まずは腕をみがくより、男を磨くほうが先かなあ」
魔法使い「んー?」

175 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:38:11 ID:jOx

魔王「よく、ここまで来れたな」
姫「今はごたごたしてるから」
姫「王位継承が完全に承認されれば、ここを訪れることは極めて困難になると思う」
魔王「そうか。で、あの騎士はそなたの部下か?」
女騎士「……」
姫「ええ。ここに来られたのは、彼女のおかげでもあるから」
魔王「脂汗まみれだが、まあいいか。
   ……余と同じだな、信頼できるものが側にいるというのは」
猫「にゃん?」
姫「はじめまして。あなたが勇者のお友達の猫さんね?」
猫「まあ、そんなところだにゃん」

176 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:39:00 ID:jOx
姫(この猫さんは謎の光に包まれた状態で、女騎士さんが偽物の城から発見した)
姫(目を覚ました猫さんは、魔王城へ連れて行けと言った)
姫(そこで心の会話ができる私の出番)
姫(話し合って猫さんの本音を知った私は、彼女を魔法陣で転移するように頼んだ)
姫(その場にいた足の速いグレムリンも、猫さんの希望で一緒に転移した)
姫(それから。これは魔法使いから聞いた話)
姫(魔王との戦いが終わったあと、勇者と猫さんはこんな会話をしたらしい)

177 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:39:49 ID:jOx
猫『……色々とすまなかった、にゃん』
勇者『だから、もういいって』
猫『ふーん、じゃあこれ以上は謝らにゃいからな』
勇者『やっぱりもう少し反省しろ』
猫『あと、一つだけ訂正しておくことがあるにゃん』
勇者『なんだよ?』
猫『俺様の飼い主は魔王さまであって、お前はちがう』
勇者『じゃあ、俺はなんだ?』
猫『友達』
勇者『……』
僧侶『勇者様。ほっぺが緩んでます』

178 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:45:31 ID:jOx
姫「なんだか不思議な気分」
魔王「なにがだ?」
姫「こんなふうにあなたと会話してることが」
魔王「余も似たような気持ちだ」
魔王「いまだにこの世にとどまったまま、そなたと話している。真に不思議だ」
姫「勇者も似たようなことを話していたわ」
魔王「……魔王である余が、勇者に感謝する日が来るとはな」
姫「ひとつ聞いてもいい?」
魔王「構わん」
姫「どうして勇者をたおすって選択肢を捨てることができたの?」
姫「あれほど彼にこだわっていたのに」

179 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:47:13 ID:jOx
魔王「……命懸けの闘いの向こうに存在するのは、ある種の理解だ」
姫「理解?」
魔王「一つ一つの挙動や発せられる声。戦略や判断力。思考や人格」
魔王「そういったものは闘いの場において、どうしてもにじみ出てしまう」
姫「つまり、戦いの中で勇者という人間が理解できたということ?」
魔王「おぼろげで酷く曖昧だがな」
魔王「そうではなくとも、勇者たちはこのような場所を魔族に提供してくれた」
姫「……そうね」
姫(旅の最中に魔法使いが、魔法陣の練習に失敗したことがあった)
姫(その失敗の結果、勇者たちは見知らぬ土地に転送された)
姫(見知らぬ土地ーー第五世界であるフロンティア)
姫(魔王城は軍によって陥落)
姫(城の主である魔王も勇者によってたおされたーー世間ではそういうことになっている)
姫(しかし実際は、この第五世界に避難していた)

180 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)22:50:12 ID:jOx
姫「命を懸けて戦うことでようやく見えてくるもの、か」
魔王「戦わなくとも、理解しあえるべきなのだろうがな」
姫「……私にはその感覚は、わかりたくてもわからないわ」
姫「戦うってことをしたことがないから」
魔王「そなたも闘っていたのではないか?」
姫「私が?」
魔王「自分と戦い、考えた結果が、余への直談判という行動に結びついたのでは?」
姫「……そうかも。私もすこしは変われたのかも」
魔王「変わったと思うぞ」
姫「本当?」
魔王「余がさらったときは、そなたは泣き叫んでいたからな」
姫「……それは、仕方がないでしょう」

181 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)23:10:13 ID:jOx
姫「そもそも。誘拐したことに関しては、私はあなたを許す気はありません」
魔王「……すまなかった」
姫「……そうよ、あなたが私を誘拐したせいよ」
姫「あなたのせいで、私は世界を知りたいって思ってしまったの」
魔王「…‥」
姫「……うん。あなたが目指したとおりには、できないけど」
姫「私は私なりに、人間と魔族が共存する世界を目指してみようと思うの」
魔王「……厳しい道のりになるぞ」
姫「同じことをちがう人からも言われたわ」
姫「……そうね。私がやろうとしていることは、間違いなく困難なこと」
姫「このドキドキも、半分は不安のせいなんだと思う」
魔王「もう半分は?」
姫「もちろん、未来への期待」

182 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)23:11:55 ID:jOx
姫「ドキドキって、なんだかすごく生きてるって感じがするの」
魔王「ドキドキ……わかるような。わからないような」
姫「できれば、あなたにはわかってほしい……って、そろそろ時間ね」
魔王「もう行くのか?」
姫「ええ、やることは山ほどあるから。それから……」
魔王「……む?」
姫「ありがとう」
魔王「……なんというか。そなたが余に礼を言うのは、非常に奇妙な気がするのだが」
姫「ええ。私もそう思う。でも、それでも言いたくなったの」
魔王「……そうか」
姫「また会いましょうーー魔王」
魔王「ああ、いつかまたこの世界でーー姫」

183 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)23:24:11 ID:jOx

勇者「うぅ……」
僧侶「なにをそんなにしょげてるんですか?」
勇者「……だって、さっきの見たでしょ?」
僧侶「勇者様の身振り手振り満載の会話のことですか?」
勇者「うん」
僧侶「そうですね。ジェスチャーが激しすぎて、意味不明になっていましたね」
僧侶「神父様の顔、完全に引きつってました」
勇者「うん……」
僧侶「ですが、以前に比べれば成長したと思います」
勇者「いい意味で?」
僧侶「それは私のセリフです。とらないでください」
勇者「はい」

184 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)23:49:31 ID:jOx
僧侶「それより。これから『柔らかい街』へ向かわれるんですよね?」
勇者「はい」
勇者「しばらくはあの街に滞在するつもり」
勇者「世間では魔王はたおされたってことになってるし」
勇者「それに、ゴブリンたちにも挨拶してないままだし」
勇者(魔王をたおしてから数週間)
勇者(報告書の製作やら命令違反の始末書作成やら、その他諸々)
勇者(とにかく忙殺されていた俺は、三日前にようやく仕事から解放された)
勇者(もちろんその間には、パーティーとかもあったんだけど)
勇者(で、僧侶とは教会でさっき偶然会って、今は話している最中)
僧侶「私もついていってよろしいでしょうか?」
勇者「……」

185 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)23:50:47 ID:jOx
勇者(なぜか不思議なことに。この瞬間、俺は魔王と戦ったときのことを思い出した)
勇者(俺と魔王の戦いがはじまる直前)
勇者(俺たちは言葉を交わさなくても、なにを考えているのかわかってしまった)
勇者(あれだって言ってみれば、ひとつのコミュニケーションなんだよな)
勇者(奇妙な話だけど、あの瞬間、俺たちは確かに互いにわかりあっていたんだ)
勇者(そう。意思疎通の手段は、考えりゃいろいろと見つけられるわけだ)
勇者(だから俺は、あえて無言で僧侶に答えてみた)
勇者「……」
僧侶「その顔は、ついていってもいいと受け取ってよろしいですか?」
勇者「まあ……」
僧侶「……はっきりしてください」

186 :名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)23:56:49 ID:jOx
勇者(だけど俺は、今回の旅で言葉の大切さを知った)
勇者(言葉を相手にきちんと伝えることの大切さを学んだ)
勇者(だったら、やっぱり今は口に出して伝えるべきなんだと思う)
勇者「俺と一緒に旅をしてください」
僧侶「こちらこそ。よろしくおねがいします、勇者様」
勇者(一瞬、僧侶はなんで俺についていきたいんだろう、という疑問がよぎった)
勇者(でも今すぐに聞く必要はないだろう)
勇者(というか俺は、僧侶について知らないことばかりなんだよな)
勇者(まあ、少しずつ彼女のことは知っていこうと思う)
勇者(そう。ようやく俺の時間ははじまったんだから)

187 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/18(木)23:58:31 ID:jOx
ここまで読んでくれた人ありがとうございました
これにてこの話はおしまい

188 :ツートンカラー兵長◆7q/GDl3lOnB. :2014/12/19(金)00:03:30 ID:9CP
長編乙です、最近読んだSSの中ではすごい読みやすかった

190 :名無しさん@おーぷん :2014/12/19(金)00:05:33 ID:Vxf
映画化決定(AA略)

191 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/19(金)00:07:47 ID:Pyh
改めて
これほど長い話を読んでくれた人ありがとうございます
またちがうss書くんでそのときはよろしくおねがいします
いろいろと書きたい事はあるけど、あとはブログの方で

192 :名無しさん@おーぷん :2014/12/19(金)00:10:28 ID:IlE
最初読み始めた時はギャグ系かと思ったら熱い超王道物で良い意味で裏切られたわ
>>1乙

193 :名無しさん@おーぷん :2014/12/19(金)00:22:57 ID:0n3
キャラがとにかくよかった
台詞もSSとは思えんほど印象的なのが多くて楽しかった
文章も上手い
最高だったからな>>1

194 :名無しさん@おーぷん :2014/12/19(金)00:25:12 ID:p5G
乙!!

195 :名無しさん@おーぷん :2014/12/19(金)00:27:58 ID:i9A
>>1乙でした!
その後を色々と想像できる良いENDで良かった

196 :名無しさん@おーぷん :2014/12/19(金)02:12:45 ID:gIE
すげー面白かった
久々にSS系をお気に入りに入れて更新追ってたわ
お疲れさまでした