勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part31
146 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:21:02 ID:
jOx
魔王が拳を振り抜く。
風さえ砕く必殺の拳。
それをぎりぎりでかわして、勇者は剣を振りおろした。
その剣が魔王へ届くことはなかった。
見えざる手につかまれたかのように、空中で阻まれた剣は、それ以上動く気配すら見せない。
勇者(……魔力か?)
魔法使い「準備できたっ!」
魔法使いの声を合図に、勇者と戦士は後退する。
天井にまで届きそうな氷のトゲが、地響きのような音を立てて、魔王の足もとから生えてくる。
魔王は飛ぶようにしてこれを回避する。
だがそのときには、勇者と戦士は次の攻撃に移っていた。
147 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:22:38 ID:
jOx
首筋を刺すような痛みが走るーー僧侶の術だ。
この攻撃には、筋力と魔力の強化が必須だった。
勇者と戦士は突起の根元へ、力まかせに刀身をぶつける。
氷のトゲが勢いよく、魔王へ向かってかたむいていく。
戦士「よし、直撃ーー」
巨大な氷塊がいきなり燃えあがった。
大質量の氷が瞬く間に蒸発して、濃煙が勇者たちに覆いかぶさってくる。
勇者(いったいなにが……)
全身に青い炎をまといつかせた魔王が、低い唸り声とともに白煙から姿を現した。
直後、それは起きた。
空間の波がうねりながら勇者たちに迫ってくる。
二人して衝撃波をくらった。
床に叩きつけられ、肺が押しつぶされたかのように息がつまる。
148 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:24:06 ID:
jOx
魔法使いが火弾で魔王を牽制している間に、なんとか体勢を立て直す。
勇者(なんとかしないと……!)
下手な攻撃は、魔王の前では意味をなさない。
しかも全員、魔力も体力も尽きかけた状態。
なにか一つの失敗で、簡単に命を落としてしまうという状況。
魔王「ーーーー」
魔王が突然からだをのけぞらせた。
強烈な閃光が目の前でほとばしり、耳をつんざくような轟音が響きわたる。
四人を襲ったのは、さっき勇者がくらった雷撃だった。
痺れと激痛、そして鋭い閃光。
勇者「……ぐっ!」
だが、勇者の膝が崩れ落ちることはなかった。
149 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:25:25 ID:
jOx
勇者「あっ……」
勇者はなぜ自分が立っていられたのか理解した。
電撃を浴びて焼け焦げたはずの肌が、じょじょに治癒していく。
僧侶「はぁはぁ……」
僧侶は魔王の攻撃を浴びながら、懸命に勇者たちに癒しの術を施していたのだ。
魔王「なーーぜ……なぜ、キサ、またちは……」
魔王がすさまじい勢いで、僧侶へと突進していく。
魔王は、癒しの術を使用できる僧侶を真っ先に仕留めるべきだと判断したのだ。
勇者(まにあわない……!)
気づいたときには、勇者は叫んでいた。
勇者「俺の腕に糸をーー僧侶っ!」
150 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:27:23 ID:
jOx
僧侶が勇者へ向かって手を伸ばす。
腕に糸がまきつく感覚。
同時に歯を食いしばって、全身を苛む痺れを無視して僧侶を引き寄せる。
衝撃。たおれそうになるのをなんとか踏みこらえた。
僧侶のからだは勇者の腕にすっぽりと収まっていた。
勇者「大丈夫?」
僧侶「……『夜の街』のときとはちがって、今度はきちんと呼んでくれましたね」
勇者「……そのことか。たしかに、そうかも」
僧侶「成長しましたね」
勇者「いい意味で、でしょ?」
僧侶「はい。ありがとうございます、勇者様」
軽口を叩いていられるような状況でないにも関わらず、なぜか口は動いていた。
151 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:28:35 ID:
jOx
もう魔王はそこまで迫っていた。
僧侶「勇者様」
勇者「わかってる」
腕に絡みついていた糸から、僧侶は勇者に魔術を施す。
全身の血がめぐり、死滅しかけた細胞の一つ一つが息を吹き返していくのがわかる。
もう一度歯を食いしばって、勇者は地面を蹴った。
全魔力をしぼり出してそのすべてを剣へ与える。
魔王の拳が迫ってくる。避けようという発想は、なぜか出てこなかった。
本能に身をゆだね、勇者は剣を振るった。
魔王「ーーーー」
魔王の口から声にならない声がこぼれる。
魔王の腕に刻まれたのは、まぎれもない傷創だった。
152 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:30:51 ID:
jOx
魔法使い「ついでに!」
戦士「もういっちょ!」
戦士と魔法使いが同時に、特大の火球を魔王へと飛ばす。
直撃。巨大な炎塊が魔王を飲みこむ。
魔王「……まだ……だ……!」
魔王が腕を横なぎにはらうだけで、一瞬で炎がかき消える。
やはり、この程度の攻撃では魔王をたおすには至らない。
致命傷となる一撃を与えないかぎり、魔王を戦闘不能にすることは不可能。
勇者(魔王はまったく消耗していないわけじゃない)
先ほどのかみなりの一撃。
あれに全員がたえられたのは、なにも治癒の施しがあったからだけではない。
いかに魔王といえども、魔力には限界がある。
153 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:34:00 ID:
jOx
つまり。このまま時間をかせいで増援が来るのを待つ、という手も存在するのだ。
もっとも魔王以上に勇者たちは体力も魔力も消耗しているが。
魔王「……おわ、らせ……る…………」
魔王の声が空気をふるわせた瞬間、勇者は自分のからだが鉛でもまとったように重くなるのを感じた。
視界が霧に覆われていく。
以前、猫が自分たちをたおすために最後に披露した魔術と似ていた。
勇者(いや、猫の術に比べればまだ動ける)
霧の濃度も猫のものと比較すると、そこまで高くはない。
すくなくとも、勇者には全員の姿を視認することが可能だった。
だがそれは、魔王の術が猫のそれに劣っているという意味ではない。
この広大な空間を埋めつくす霧。それを一人で発生させたのだ。
勇者(どっちにしても、このままじゃ……)
戦闘において、動きが数秒遅れること。
それがどれほど戦況を危機的なものに変貌させるか、この場にいた全員が理解していた。
まして自分たちが今対峙している存在はーー
154 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:36:48 ID:
jOx
魔王が勇者へと近づいてくる。
状況を打開する手段を勇者は必死に模索する。
この状況を一変させる画期的な手段を。少しでも時間をかせぐ方法を。
勇者(ない。思いつけない。このままじゃ俺たちは……)
魔王の足音が近づいてくるたびに、激しくなっていく鼓動が思考を妨害する。
魔法使い「ーーまだだよ!」
氷壁が魔王の進行を邪魔するように立ちふさがった。
今の術で魔力を使い切ったのだろう。魔法使いは床にひざをついてしまっていた。
だが、彼女は顔をあげて勇者へ向かって叫ぶ。
魔法使い「勇者っ! そんな顔しちゃダメでしょっ!」
勇者「魔法使い……」
155 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:40:01 ID:
jOx
魔法使い「ここであきらめたら、今までの旅、全部意味なくなっちゃうんだよっ!?」
僧侶「そうです。勇者様はすぐに顔に出るんですから」
戦士「まったくだ。どうせ顔に出すなら、ハッピーのほうがいいに決まってる」
勇者「……みんなの言うとおりだ」
まだ戦士も魔法使いも僧侶も、全員あきらめていないというのに。
どうして自分だけがあきらめられる。
魔王によって氷壁が一瞬で崩壊する。自分へと向かってくる魔王を見すえる。
「待つにゃん!」
ーーそのとき、なんの前触れもなく勇者の耳に聞きなれた声が届いた。
勇者「……え?」
その声は魔王の動きさえも止めた。
156 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:42:51 ID:
jOx
霧の中でこちらに向かってくるシルエットには見覚えがあった。
猫「待てっ! 待つんだにゃん!」
勇者「猫、なんでお前が……」
低くうなる声で気づいた。
魔王の口から漏れ出ている火の粉に。そして、その火の対象が自分ではないことに。
からだが勝手に動いていた。
炎の奔流が飲みこむよりも先に、勇者は猫の眼前へとすべりこむ。
勇者と猫を救ったのは、戦士の魔術で精製された巨大な壁だった。
隙をついて、猫を抱えて壁から抜け出す。
勇者「助かった」
戦士「キミってヤツは……自分を殺そうとしたヤツを命懸けで助けるなんてね」
157 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:45:11 ID:
jOx
戦士「すこしの間なら、今のボクと僧侶ちゃんでも時間をかせげる」
戦士「そのかせいだ時間の中で、どうにか次の手を考えられるかい?」
勇者「うん」
戦士「じゃあ、頼んだよ」
勇者(戦士が魔王へ向かって走り出す。この間に俺はーー)
勇者「……なんでお前が生きてる?」
猫の姿は最後に見たときとまるで変わっていなかった。
いや、ちがいがないわけではない。
以前は二つかけられていた首輪のうち、一つがなくなっていた。
勇者「いや、それより。なんで魔王はお前を攻撃した?」
猫「……おそらく暴走してる」
勇者「暴走? そういえば……」
勇者(前に戦ったときは、むやみに魔力を消費するような戦い方はしなかった)
勇者(だけど今回は、魔力に頼って避けられる攻撃も避けなかったりしている)
猫「俺様がここに来たのは、この城の結界が弱くなったってわかったからにゃん」
158 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:52:33 ID:
jOx
猫「魔王さまが、結界に回していた魔力を取りこんだのはすぐにわかった」
猫「もともと弱っていたところに、膨大な魔力による負荷を受けて魔王さまは暴走して……」
勇者「で、お前に攻撃したってわけか」
猫「たぶん」
勇者「聞きたいことは山ほどある」
勇者「けど、今はこの状況をどうにかしないとけない」
勇者「……お前の背中にくくりつけられてるの、『勇者の剣』だよな?」
猫「そうにゃん」
勇者「その剣をもってきたのは、俺に魔王の暴走をとめさせるため。そうだな?」
猫「……たのむ」
勇者「……」
猫「……なんでもするから……魔王さまの暴走をとめてくれにゃん」
勇者「……二回も殺そうとしたヤツに助けを求めるなっつーの」
159 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:53:45 ID:
jOx
猫「……」
勇者「だけど、俺はお前の飼い主だからな。聞いてやるよ、お前の頼み」
猫「……勇者」
勇者「ていうか、どっちにしても魔王はとめなきゃいけない。でも、いいんだな?」
猫「え?」
勇者「お前のやることは、お前の仲間を裏切る行為だ。わかってんのか?」
猫「……そのとおりかもしれない」
猫「でも魔王さまを犠牲にして得られる平和なんて、俺様はいらない」
猫「こうやって考えてるのは、きっと俺様だけじゃない」
勇者「……わかったよ」
勇者は再び『勇者の剣』を握った。
160 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:55:36 ID:
jOx
戦士「……そろそろ限界なんだけど、勇者」
勇者「時間稼ぎ、ありがとう。あとは俺にまかせてほしい」
戦士「できるのかい?」
勇者「大丈夫」
戦士「じゃあ、あとは好きにやってくれ」
勇者「了解」
深く息を吸う。
改めてわかった。自分の魔力はとっくに底を尽きている。
魔王「ーーゆう……しゃーーきさ、まを……」
それでも負ける気はしなかった。
驕りでもなければ勘違いでもない。ごく自然にそう思う。
魔王「たお……して、へいーーわを……」
猫の言うとおり魔王は暴走しているのだろう。
しかし。そうだとしても、彼は勇者を殺そうとするだろう。
自分の肉体に染みついた魔王の本能のままに。
魂に刻まれた使命を果たすために。
161 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)07:13:28 ID:
jOx
空間を覆っていた霧が晴れていく。
勇者「これで最後だ」
『勇者の剣』は魔力であれば、誰のものでも吸収できるーーそれがたとえ、魔王のものであっても。
この旅の中で知ったことの一つだった。
膨大な魔力を宿した『勇者の剣』が光を帯びる。
魔王と勇者は同時に床を蹴った。
162 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/18(木)07:24:02 ID:
jOx
残りすこしだけつづく
今日でこのssは終わります
163 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)12:10:30 ID:8jO
うおおおおおいよいよ終わるのか
164 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)12:40:16 ID:USJ
やばい、鳥肌たちまくり!
1、乙!最後までがんばれ!!
165 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)13:25:58 ID:pvt
かなり乙!