勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part30
121 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)18:34:51 ID:
skC
サキュ「……術の維持もできなくなってるし、自分の脇腹も削っちゃったのね」
魔法使い「あなただって。もう、満足に動けないでしょ」
魔法使い「私にかけた術も、だいぶ消えかかってる、よ……っ」
サキュ「なめないでくれる? あなたとちがってタフなの、あたしは」
サキュ「ボロボロのあなたぐらいなら、今の私でも……」
魔法使い「……っ」
戦士「ボクの仲間を傷つけるのは、そこらへんにしてくれない?」
魔法使い「……戦士?」
サキュ「まさか、このタイミングで仲間が来るなんてね」
戦士「動かないでね。キミの背中をこれ以上、痛々しいものにしたくはない」
サキュ「ていうか、あなたがここにいるってことは……」
戦士「あのトカゲくんなら、今ごろ床とキスでもしてるんじゃない?」
サキュ「そう。あいつ、負けたんだ」
122 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)18:37:23 ID:
skC
魔法使い「戦士、待って。どうしても話しておきたいことがあるの、この人と」
戦士「……わかった、でも手短に頼むよ。傷の手当てもしたいし」
魔法使い「ありがと。……『夜の街』で私に質問したこと、覚えてる?」
サキュ「……さあね? ていうか理解してるの、今の自分の状況?」
魔法使い「私が話したいから、いいの」
魔法使い「『どうしてあなたは私たちと戦っているの?』……だったよね、質問は」
魔法使い「……正直、あのときは答えが浮かばなかった。今でも、わかんないままだけど」
サキュ「結局答えられないじゃない」
魔法使い「うん。ねえ、あなたはどうして私と戦ったの?」
サキュ「生き残るために決まってるでしょ」
サキュ「現状じゃ、戦い続けなきゃあたしらは自分の居場所すらまもれないし」
魔法使い「……やっぱり、あなたは戦わないとダメだって、そう思ってるんだよね?」
サキュ「あたしらがこうして血だらけになってるのは、なんでだっけ?」
魔法使い「……そうだね。でも、ちがうかもしれない」
123 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)18:40:07 ID:
skC
サキュ「ちがわない。人間と魔族が真実の意味でわかりあうのは不可能」
魔法使い「それはあなたが出した答え。私はまだ、自分の答えを見つけてないから」
サキュ「あなたもあたしと同じ結論になる。いずれはね」
魔法使い「でも、その結論を塗り替える答えが出るかもしれないよ」
サキュ「……あなただって、これまで魔物と戦ってきたでしょ?」
サキュ「どうしてそんなふうに考えられるの?」
魔法使い「だってこの世界で生きてたら、知ってることも知らないことも、どんどん増えてくんだもん」
魔法使い「一度出した答えがずっと正しいままでいてくれるなんて、私には思えない」
サキュ「…………」
サキュ「……あたし、自分の生き方を後悔したことって、一度もないの」
サキュ「でも、あなたのこと、羨ましいって思っちゃった」
サキュ「マントの下は『ファッションモンスター』なのにね」
魔法使い「なにそれ?」
サキュ「あなたの服装はモンスター級に素敵ってこと」
魔法使い「じゃあ服選びの秘訣、いつかあなたに教えてあげるね」
124 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)19:07:57 ID:
skC
◆
戦士「あのサキュバス、本当にあのままでよかったの?」
魔法使い「戦士も見逃したじゃん」
戦士「あの状態で動けるとは思えなかったからね」
魔法使い「……戦士はリザードマンと戦ったんだよね? どうしたの?」
戦士「べつに。拳で語りあっただけだよ」
魔法使い「……そっか」
戦士「まっ、ボクの圧勝だったね」
魔法使い「さすがだね。
……んっ、もうおろして。だいぶ目の調子も戻ってきたし」
戦士「よっ、と。……まだすこしフラフラしてるね」
魔法使い「……え? 誰!?」
戦士「なにを言い出すんだよ、ボクだよ」
魔法使い「……顔がすごいことになってて、誰だかわかんないよぉ」
125 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)19:10:49 ID:
skC
戦士「……あとで僧侶ちゃんと合流したら治してもらうよ」
魔法使い「……戦士」
戦士「なに?」
魔法使い「助けてに来てくれて……ありがと。戦士が来てくれて、嬉しかった」
戦士「魔法使いにはずっと助けられていたんだ。礼はいらないよ」
魔法使い「借りを返す、みたいな?」
戦士「借り? そんなんじゃないよ」
戦士「仲間を助けるのに理由なんていらないでしょ」
魔法使い「……戦士」
戦士「おや? 顔が赤いね。ひょっとしてボクに惚れちゃった?」
魔法使い「……ズボンのチャック、全開だよ」
戦士「……」
126 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/14(日)19:13:08 ID:
skC
つづく
更新はあと最低一回、多くて二回になる予定
128 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)20:19:53 ID:jZR
パーティーメンバー全員が頭使って工夫して戦ってるのが素晴らしい
129 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/14(日)21:45:45 ID:LO6
乙!
でもサキュ姐さん凄かったな
130 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/15(月)00:18:32 ID:VWL
開いてるチャック見ただけで顔赤くするとかウブすぎだろww
134 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/18(木)05:52:08 ID:
jOx
◆
リザード「よお。死にそうじゃねえか」
サキュ「そっちこそ。なにその歩き方? おじいちゃんみたい」
リザード「見事に負けたようだな」
サキュ「本当なら勝ってたの、あたしは」
サキュ「……あの姫さまもそうだし、あの魔術師もそう。……意味わかんない」
サキュ「ほんと、意味わかんない。なんであたし……っ」
リザード「なに泣いてんだよ」
サキュ「だって……! あたしたち……負けたのよ。人間にっ……!」
リザード「おう、負けたな。でも、よかったじゃねえか」
サキュ「…………なにが?」
リザード「その傷。テメエが人間だったら死んでたぞ」
サキュ「…………人間だったら、か」
リザード「おう」
サキュ「……うん。あたし、魔族でよかった」
135 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)05:53:43 ID:
jOx
◆
はっきりとした手応えがあった。
勇者が振りあげた剣は、魔王の腕に深い傷を刻んだ。
だが、それでたじろぐ魔族の長ではなかった。今まさに傷を負った腕で、勇者を殴りつけてくる。
見切れない速度ではなかった。
勇者は魔王の巨腕をかいくぐって、みぞおちに拳を叩きこむ。
魔王の動きがわずかに止まったのを見逃さず、今度は剣で斬りつける。
刀身に魔力をこめた一撃は、魔王の肩に容赦なく食いこんだ。
魔王「……ぐっ」
魔王が膝から崩れ落ちる。
勇者(どうなってる?)
戦いが始まってから、魔王はいまだに勇者に一撃も与えていない。
以前対峙したときは、何十人という護衛兵の力を借りてようやく互角だったというのに。
しかも勇者の手に握られているのは、『勇者の剣』ですらない。
136 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)05:55:47 ID:
jOx
勇者(前回俺は、魔王に『勇者の剣』の一撃を与えている)
対魔王用の剣の一撃が、今も魔王を蝕んでいるとしたら。
勇者(いや、そうじゃなくても。この城……)
魔王をはじめとする、魔族たちの隠れ蓑である城。
その城を人間たちの目からあざむき、覆い隠すだけの結界魔術だ。
結界の維持にどれだけの魔力が必要か、魔術に明るくない勇者でも想像に難くなかった。
そして、その結界は誰によって維持されているのか。
勇者(魔王はあの城の襲撃以降、一度も俺の前に姿を現さなかった。それは……)
勇者「魔王、お前は……」
魔王が勇者の言葉を遮るように、自身の腕を床へと振り下ろす。
魔王「口を開くな。魔王と勇者の闘いに言葉は不要だ」
文字通り、空気が変わった。
充満する空気が重く澱んだ魔力をはらんで、勇者へとのしかかってくる。
137 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:00:10 ID:
jOx
勇者(まさか、この城本体から魔力を引き出している?)
これ以上の様子見は危険だと判断して、勇者は魔王に飛びかかろうとした。
だが、本能が床を蹴ろうとした足を押しとどめた。
魔王の肉体が別のなにかへと変貌を遂げはじめた。
古い樹皮のように皮膚が剥がれ落ちて、魔王の全身を赤黒い肉が覆っていく。
肉を食い破る音が、背中から巨大な翼を引きずり出す。
魔王が吼えた。
命そのものを絞り出すような、そんな声だった。
そして。不吉な赤い光を灯した瞳が、勇者をとらえた。
勇者「ぁ……」
無意識に吸いこんだ息が、喉の奥で短く鳴った。
足もとから這いあがってくるのは、まぎれもない恐怖だった。
圧倒的な魔力と殺意。
指一つ動かせない。自分はこの存在の前に敗北するという確信。
138 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:03:42 ID:
jOx
唸りをあげた暴風が、床をえぐりながら勇者に向かって殺到してくる。
恐怖によって凍りついたからだは、恐怖によって動いた。
直撃してれば、勇者のからだは原型をとどめぬまでに切り刻まれていただろう。
次の攻撃に備えて構える。しかし、敵の攻撃はすでに始まっていた。
炎の雨が降り注いだ。
広大な空間が一瞬の間に炎の色に満たされる。
全力で走る。逃げる以外、どうしようもなかった。
勇者「ーーぁ」
魔王が勇者の行く手を遮るように構えていた。
いつの間に目の前にーーと考える時間すら与えず、魔王の腕は勇者をなぎはらった。
あまりの力に抗うこともできず、壁に叩きつけられる。
139 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:05:12 ID:
jOx
背中の痛みをこらえて、勇者は跳ね起きる。
わずかな時間でも動きを止めれば、その瞬間に自分の命は終わる。
だが魔王はその場に佇んだまま、追撃してこない。
勇者(魔力の使いすぎで動けないのか?)
圧倒的な力を前に、勇者は予測と願望の区別さえできなくなっていた。
耳もとで空気の弾ける音が、聞こえた気がした。
目の前で真っ白な光りが弾ける。
突如、全身の細胞を焼かれるような痛みが勇者を襲った。
からだが締めあげられるように痺れて、視界が黒と白に明滅する。
勇者(か、みなり……?)
魔王はかみなりさえ手懐けるというのか。
足もとが沈む。
鈍い音がした。自分が床に投げ出される音だった。
140 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:07:43 ID:
jOx
勇者と魔王の間には歴然たる力の差があった。
なのに、勇者は立ち上がっていた。
魔王「なーーぜ……」
視界はかすんでぼやけたまま。
呼吸のたび、細胞が息絶えるかのように苦痛が押し寄せてくる。
自分のからだがどうなっているのか、それを確かめる余力さえない。
こんな状態でなぜ立ち上がれるのか、自分でも不思議に思う。
勇者としての使命がそうさせるのか。
勇者「ちがう……!」
勇者としての使命。そんなものはどうでもいい。
勇者「……魔王」
肺に力を入れて、無理やり声を絞り出す。
141 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:09:31 ID:
jOx
勇者「……俺、将来は喫茶店をやるつもりなんだよ」
自分でもなぜこんなことを口走っているのか、理解できなかった。
勇者「ちょっと前までは、知る人ぞ知るって感じの店がいいなって思った」
勇者「今はちがうけど」
勇者「……朝が一番お客さんで賑わうんだ」
勇者「それで、昼から夕方にかけては緩やかに時間が過ぎる……そういう店だ」
勇者「ゴブリンみたいに誰でも受け入れる広い懐をもったマスターになる」
勇者「で、姉さんみたいな、優しくて俺を引っぱってくれるお嫁さんをもらう」
勇者「……そうだな、店ができたらあの二人は絶対に呼ばなくちゃな」
勇者「それから戦士も、魔法使いも、僧侶も」
勇者「姫様や騎士、魔物使いも呼んだら来てくれるかな……」
勇者「ああ、そうだ。俺にはあるんだよ……やりたいことが」
勇者ではなく、一人の人間として。
142 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:13:56 ID:
jOx
魔王は、勇者が語り終わるのを待っていたわけではない。それはわかっていた。
魔王の周囲の空間が、歪んで見えるのがその証拠。
その巨体から滲み出た魔力は、黒煙に代わると、蛇のように魔王の周囲でのたくりまわる。
ともすれば、手から滑り落ちてしまいそうになる剣を握りなおす。
勇者が刀身に魔力をこめようとしたときだった。
魔王「ーーーー」
すべてを喰らいつくす禍々しい魔力の群れが、勇者へと襲いかかった。
世界そのものが揺れたかのような衝撃、そして轟音。
巻き起こった突風のせいで、目を開けていることさえ困難だった。
だが、勇者はまだ生きていた。
勇者「なんで……」
いつの間にか、目の前には巨大な氷壁がそびえ立っていた。
143 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:16:44 ID:
jOx
魔法使い「なんで、じゃない」
勇者「え?」
僧侶「こんなところで召天したらゆるしませんよ。勇者様」
戦士「ホントだよ、ボクにやられる前に死ぬ気だったのかい?」
戦士が勇者の背中を叩いた。
振り返ればボロボロの状態の三人がいた。
そう、ボロボロだった。戦士も、魔法使いも、僧侶も。
それでも三人は自分のもとへ駆けつけてくれた。
勇者「みんな……!」
魔法使い「転移の術で、とっさに私のところへ移動できたからよかったけどね」
戦士「だけど、この壁も魔王相手にはもたない。僧侶ちゃん、勇者に癒しの術を」
魔法使い「回復の時間は私と戦士で稼ぐから!」
144 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:17:44 ID:
jOx
僧侶「時間がないので普段よりだいぶ荒っぽくなりますが、悪しからず」
勇者「わかっ……んぎっ!?」
勇者(普段の回復が『チクッ』となら、今回は『グサッ』って感じの痛みだった)
僧侶「それから、これを飲んでください」
勇者「これって、魔法使いが作ったドリンクじゃ……」
僧侶「いいから飲むっ」
勇者「んぐっ!?」
僧侶「いちおう改良してあるようです。私も飲みました」
僧侶「魔力回復と体力回復の効果はたしかにあるかと」
勇者(相変わらず味は最悪だったが、すでに回復の効果は出始めていた)
僧侶「さあ、行きますよ」
勇者「了解」
145 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/18(木)06:19:16 ID:
jOx
氷壁の影から僧侶とともに飛び出す。
勇者(なんて威力だ……)
先ほど魔王がはなった一撃。
直撃した巨大な壁は、塵一つ残らず消滅してしまったらしい。
状況は依然厳しいまま。増援が来る可能性も限りなく低い。
癒しの術を使ったとは言え、満身創痍であることに変わりはない。
しかし。ついさっきまで自分を支配していた恐怖を、今はまったく感じない。
魔法使い「みんなっ!」
魔法使いは立てた人差し指を、そのまま横にたおした。
それは以前、僧侶と二人で決めたハンドサインの一つだった。
ーー今では全員、ハンドサインの内容を把握している。
戦士「勇者!」
戦士も魔法使いの意図を汲み取ったのだろう。二人で魔王へと駆け出す。