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勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
Part28


79 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:56:30 ID:hxg

リザード(なんでだ? どうしてこんなことになっている!?)
 時間の感覚は、すでに消え失せかけていた。
リザード「いいかげんくだばれっ!」
戦士「そっちこそしつこいんだよっ!」
 拳をぶつけ、罵詈雑言を浴びせる。殴ったら殴り返すだけの泥沼の殴り合い。
 斧はとっくに手放している。
 戦士とリザードマンの戦いは、もはや戦いの体すら成していなかった。
リザード「死ねこの筋肉マンっ!」
戦士「うるせえトカゲ野郎っ!」
 最初は誰が見たって、リザードマンが優勢だったはず。
 いつからこんな殴り合いに変わり果てた?
戦士「はぁはぁ……そろそろ、いいかげん終わらせたいね」
リザード「ああ……同感だ。もう飽き飽きだ、こんな殴り合い」
 お互いに体力の限界はすぐそこまで来ている。
 次の一撃で決着がつく、間違いなく。

80 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)04:00:33 ID:hxg
 リザードマンと戦士が地面を蹴ったのは、まったく同じタイミングだった。
 戦士は一切迷わず、リザードマンの顔面目がけて拳を振り抜いた。
戦士「……っ!」
リザード「誰が受け止めねえって言った?」
 ここに来て、はじめてリザードマンは戦士の拳を受けとめた。
 完全に敵の拳をとらえた。これで逃げることも、避けることもできないーー
戦士「わかってたよ、キミがそうするってことはね」
 直後。衝撃とともに鈍い音が頭蓋の中で響きわたり、視界が明滅する。
リザードマン(あごを……蹴られたのか……!?)
 からだが意識とは無関係に、背中から地面に沈んでいく。
リザード「く、くそっ……この俺が……」
戦士「はぁはぁ……キミさ、ボクに言ったよな?」
戦士「『テメエもテメエの仲間も俺たちには勝てねえんだよ』って」
 青アザだらけの腫れ上がった顔で、戦士は不敵に笑ってみせた。
 リザードマンは口を開く気力さえ湧かず、戦士の次の言葉を待った。
戦士「これが……これが、勝負の結果だ。みんなも今ごろ……がんばってる……!」
戦士「ーーボクたちをなめんなよ」

81 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/12(金)04:01:47 ID:hxg
つづく

82 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)09:29:45 ID:qmt
戦士勝ったあああ!!!!

83 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)10:07:17 ID:PhP
戦士が汗だくになってたり一人で行動してたりしてたのにこんな秘密があったとか意外だわ

84 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)18:37:52 ID:tdC
戦士の身体ヤバそうだな

85 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/12(金)20:57:51 ID:hxg
リザード「なんでだ。なんでこの俺が……」
戦士「……ボクにもたおしたいヤツがいる」
戦士「そいつに勝つまでは絶対に負けない……そう決めてるんだ」
リザード「理由になってねえ。そんなんで俺が負けるかよ」
戦士「それでも、立ってるのはボクだ」
 厳然たる実力差があったはずだ。
 埋められないはずの力の差。それをこの人間は埋めたというのか。
 気力と意地だけで。
リザード「もういい、殺せ」
戦士「悪いけど、キミを殺すだけの余裕はない」
リザード「後悔するぞ」
戦士「……キミは血を流すことに無上の喜びを感じるようだけど」
戦士「汗を流すのも、なかなか気持ちいいと思うよ」
リザード「……意味わかんねえ」

86 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)20:59:07 ID:hxg
戦士「……そうだ。キミとお別れする前にひとつ聞いておきたい」
リザード「ホント、口が減らねえヤツだな」
戦士「なんでキミ、トカゲのくせにしっぽないの? 」
リザード「……魔王さまと戦ったとき、しっぽを掴まれてぶん投げられた」
リザード「そんとき、自慢のしっぽは俺にとって邪魔なだけのものになった。だから引きちぎった」
戦士「キミ、やっぱり馬鹿だね」
リザード「うるせえ。いいかげん、どっか行け」
戦士「どっちへ行けばいい?」
リザード「あっちだ」
戦士「ありがとう。また会おう」
 あとはあっさりしたものだった。
 戦士はそれだけ言うと、リザードマンの指さした方向へと去っていった。
リザード「あの野郎。なんの躊躇もなく、俺の言葉を信じやがった……」
リザード「ああ……くそっ。たおしてえヤツが、また増えちまった」

87 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)23:10:58 ID:hxg

 
 巨大な風の渦を側転して避けて、僧侶はまっすぐ敵へと駆け出す。
  
 だが、僧侶の行く手を阻むように目の前でまばゆい光が弾ける。
 突き上げるような衝撃をともなって、石造りの床がせり上がってくる。
僧侶「……っ」
 これもなんとか躱したが、すでに敵は次の攻撃に移っていた。
?「これならどうでしょう?」
 ローブを身に纏った敵の手のひらに光の球が浮かびあがる。見たことがない術だった。
 自分に向かって飛んできた光球を避け、僧侶は光球が着弾した床を確認する。
 威力、大きさ、速度。 
 どれをとっても大した術ではない、おそらく牽制用のそれだ。
?「意外と勇猛果敢ですね」
 ローブは自分に接近してくる僧侶に向かって、光球を連続で放つ。
 僧侶は一切の躊躇も見せずにローブへと突っこんでくる。
 直撃。光の弾丸は僧侶の肩に当たり、弾けた。
?「ほう……?」
 だが僧侶の表情に苦痛の色はまるでない。
 それどころか、わずかたりとも速度を緩めず、ローブに向かって突進してくる。
 人間ではおおよそありえない跳躍力で、僧侶はローブへと躍りかかる。

88 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)23:13:39 ID:hxg
?「なんと人間離れした跳躍力。しかし」
 僧侶の左手に握られたナイフがローブを引き裂くーー
 次の瞬間、僧侶の目の前で巨大な火柱があがり、彼女をのみこんだ。
?「前もって、複数の魔法陣を用意してあいてよかったですね」
 ほとんど身動きのとれない跳躍の瞬間を狙ったのだ。
 間違いなく火柱は彼女に直撃したはずだった。
僧侶「わざわざ教えていただき、ありがとうございます」
?「ーーっ?」
 静かな声に、空気を裂く音が重なった。
 間一髪だった。ローブは真横からのナイフを、かろうじて避けることに成功した。
僧侶「これも避けますか」
 素早く飛び退いて、ローブは僧侶から距離をとる。
?「滞空中に攻撃を避けるなんて。あなた、背中に羽でもついてるんですか?」
僧侶「ついてると思うんですか?」
?「冗談です」
僧侶「あなたの冗談、つまらないですね」 

89 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)23:16:45 ID:hxg
 ローブは僧侶の全身を観察する。
 よく見るまでもなく、尼僧服の裾が焼け焦げている。
 つまり。僧侶は火柱を完全に避けたわけではない。
 しかし一方で、わずかに覗く僧侶の肌には火傷のあとが見当たらない。
?「やはり、あなたはたいへん優秀な方だ」
 おそらく攻撃するのと並行して、自分の治癒を行ったのだ。
 しかも癒しの術の効果スピードは、並の術者のそれとは比べものにならない。
 ローブは思考をめぐらす。
 癒しの術の効果速度。
 人間離れした跳躍力。
 自分の魔術をあえて受けて、強引に攻撃に出るという行動。
 滞空時に自分の攻撃を避けた手段。
?「……なるほど。あなたの術のタネ、だいたいわかってきましたよ」
 ローブの言葉が終わると同時に、僧侶は地面を蹴る。
 やはり彼女の攻撃には、躊躇が全く感じられない。

90 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)23:42:47 ID:hxg
 ローブが攻撃を避けるため、飛び退こうとしたときだった。
 なにかが腕に絡みつくのをはっきりと感じた。遅れて、僧侶に引き寄せられる。
僧侶「今度は逃がしません」
 
 ぎりぎりで上半身をそらし、ローブはその凶刃を避けた。
 だが鈍く光るナイフは、ローブ本人のかわりにフードを切り裂いていた。
僧侶「……に、んげん?」
 フードから現れた顔は、まぎれもなく人間のそれだった。
?「へえ。あなたでもそんな顔をするのですね」
?「ですが。私は人間ではありません。これを見ればわかるでしょう」
 ローブが持ち上げた唇の端からこぼれたのは、人間には絶対に備わっていない牙だった。
僧侶「ヴァンパイア……」
?=ヴァンパイア「その顔を見るかぎり、ヴァンパイアを見るのは初めてのようですね」
 ヴァンパイア。第四世界の住人。人の血を食らう生物。
 人間か魔物か、その区別すらされていない神秘の存在。
 エルフの亜種という学者もいれば、奇病にかかった人間と力説する者までいる。

91 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)00:19:01 ID:xjk
僧侶ちゃん意外と肉体派なのか

92 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)00:48:45 ID:rUt
続きはよ

93 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)00:49:39 ID:Ont
僧侶「ヴァンパイアだろうと、あなたが敵であることに変わりはありません」
 僧侶が勢いよく腕を引く。
 ヴァンパイアは、その勢いのまま引き寄せられてしまう。   
僧侶「……!」 
 肉の裂ける音が僧侶の鼓膜を叩いた。
 彼女のナイフは、ヴァンパイアの腹部に突き刺さっていた。
ヴァンパ「なにを驚いているのです?」
ヴァンパ「あなたのナイフは、きちんと私に刺さりましたよ」
 これまで培ってきた経験と本能が、僧侶を敵から飛び退かせた。
ヴァンパ「もったいない。追撃のチャンスだったのに」
僧侶「……聞いたことがあります」
僧侶「ヴァンパイアは、血を流せば流すほど強くなる、と」
ヴァンパ「……おっしゃるとおりです」
 突如、僧侶の顔が赤く染まった。
 なんの前触れもなく、彼女の目の前で、天井にまで届きそうな火柱が上がったのだ。
 

94 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)00:51:58 ID:Ont
 反射的に僧侶は飛びしさったが、それでもギリギリのタイミングだった。
 ヴァンパイアが火柱をものともせず、勢いよく僧侶に飛びこんでくる。
 敵の爪は、爪というにはあまりにも長く鋭い。
 
 とっさに僧侶は腕を振りあげ、地面を蹴る。
 天井に吸いこまれるような跳躍が、僧侶を爪の一撃から救った。
ヴァンパ「術のタネがわかっていれば、対処は容易い」
 鋭い風の刃が僧侶の頭上を通過した。
 不意に僧侶の体勢が空中で崩れ、そのまま地面へと落下していく。
僧侶「……くっ!」
ヴァンパ「ほう、よくあの高さから着地できましたね」
僧侶「……わかったようですね、私の術の仕掛けが」
ヴァンパ「ええ。あなたの術のタネ、それは糸です」
ヴァンパ「回復時には注射針のように、糸から癒しの術を施す」
ヴァンパ「あなたの術の効果がすぐに現れるのは、直接体内に魔力を流しこんでいるからです」

95 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)01:06:57 ID:Ont
ヴァンパ「それから。攻撃に転用する際は、その糸で私の腕を縛りつけた」
ヴァンパ「どのような糸を使用しているかは、さすがにわかりません」
ヴァンパ「ですが。肉眼で捉えられない細さなのは、間違いない」 
ヴァンパ「そして。人間離れした跳躍力」
ヴァンパ「あれは魔力を流しこんだ糸を天井に張りつけ、操っていたのでしょう?」 
僧侶「……どうでしょうね?」
ヴァンパ「今さらとぼけても無駄ですーー」
 僧侶の目からは、ヴァンパイアは突然消えたようにしか見えなかった。
 不意に腹部を強い衝撃が襲った。
 蹴られたという認識が追いついたときには、僧侶は背中を壁に打ちつけていた。
ヴァンパ「やはり、謎は謎のままのほうが面白いですね」 
 いつの間にかヴァンパイアが、僧侶を見下ろしてた。
 敵は僧侶の両手首を片手でつかむと、そのまま壁に叩きつける。
僧侶「……っ」
ヴァンパ「手を封じてしまえば、糸は使えませんよね?」

96 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)01:38:09 ID:Ont
ヴァンパ「実はですね、私は前からあなたには興味があったのですよ」
僧侶「……私は……あなたに興味、ありません……けど」
ヴァンパ「でしょうね。しかし、あなたの意思はどうでもいいんです」
ヴァンパ「……あなたの経歴、魔物使いに調べさせました」
僧侶「……」
ヴァンパ「生まれ故郷を魔物によって滅ぼされたそうですね」
ヴァンパ「そして、故郷を滅ぼされたとき、両親も失っているんだとか」
僧侶「……だったら、なんだというのですか?」
ヴァンパ「興味深いのはそのあとです。あなたは故郷は滅ぼされたあと『赤勇会』に入っている」
ヴァンパ「『赤勇会』は魔物による被害地の人々を支援する団体」
ヴァンパ「これだけなら、あなたは魔物による被害者を助けようとする健気な人です」
ヴァンパ「しかし。考え方を変えれば、ちがう一面が見えてくる」
ヴァンパ「魔物による被害地を訪れる。つまり、魔物との交戦が高確率で起こる」
ヴァンパ「言い換えれば、『赤勇会』に所属していれば、魔物を殺せるということです」

97 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)01:44:03 ID:Ont
ヴァンパ「さらに、あなたが今回参加している旅」
ヴァンパ「この旅では確実に魔物と戦う。これもまた魔物を殺せるということにつながります」
ヴァンパ「なにより、あなたの術の性質」
ヴァンパ「これ、癒しの術以外にも使えますよね?」
ヴァンパ「たとえば、魔物の体内に毒を直接流すとか、ね」
僧侶「なにが、言いたいのですか……?」
ヴァンパ「あなたのすべては、魔物を殺すということに結びついている」
ヴァンパ「あなた、本当は魔物が憎くて仕方ないのでしょう?」
僧侶「……」
ヴァンパ「故郷を奪い、両親を奪った存在を殺したくて仕方がない」
ヴァンパ「気持ち悪いぐらいに、あなたは一貫しているんですよ」
ヴァンパ「あなたは本当は直情的な人間なのでは。そしてそんな自分を必死に偽っている」
ヴァンパ「その冷静さを装った仮面の下では、魔物への憎悪が渦巻いてる」
ヴァンパ「……ちがいますか?」

98 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)03:24:48 ID:Ont
僧侶「……否定はしません」
ヴァンパ「意外と素直ですね」
僧侶「事実を否定するのは、これまでの自分を否定することになりますから」
ヴァンパ「これまでの自分、ですか」
僧侶「……あなたは、逆に全然一貫性がありませんね」
僧侶「あなたの行動はすべてが中途半端で、気持ち悪いです」
僧侶「盗めたはずの『勇者の剣』は、結局盗まず」
僧侶「『柔らかい街』を襲撃したときも、ただ見ているだけ」
僧侶「今も私を殺さず、こんなふうに話をしている」
僧侶「それに。あなたは気づいていたのでは?」
ヴァンパ「なんのことですか?」
僧侶「魔法使い様が捕らえられたとき、彼女を調べたのはあなただったと聞きました」
僧侶「魔法使い様の腕に施された魔法陣に、本当に気づかなかったのですか?」

99 :名無しさん@おーぷん :2014/12/13(土)03:25:31 ID:Ont
僧侶「あなたは行動から立ち位置まで、すべてが中途半端です」
僧侶「なにが目的なのですか?」
ヴァンパ「目的? そんなものはありませんよ」
僧侶「だったら、あなたはなんのために?」
ヴァンパ「……仮に、あなたが私を殺すことに成功したとしましょう」
ヴァンパ「しかし、あなたはそのあとに地面につまずいて頭を打って死ぬ」
ヴァンパ「ありえない話ではないですよね?」
僧侶「……」
ヴァンパ「そう考えると、必死に生きてることがくだらないって思えませんか?」
ヴァンパ「この地上の生物はどう生きようが、崇高なる偶然に振り回される」
ヴァンパ「そう、あの魔王さまでさえね」
僧侶「……生きてることに意味がないと、そう言いたいのですか?」
ヴァンパ「そのとおりです。まして、あなたのような生き方なんかはね」
僧侶「……言いたいことは、それで終わりですか?」