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勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
Part27


56 :◆N80NZAMxZY :2014/12/11(木)07:27:19 ID:w49

部下「あのグレムリン、すごい勢いで逃げてきましたね」
女騎士「はやさしか取り柄がないからな。だが、また戻ってくるだろう」
女騎士「……時間的にはそろそろか」
部下「お腹すいたんですか?」
女騎士「こんな状況で、私が食事のことを気にすることでも?」
部下「先輩、わりと空気を読まずにそういう発言するじゃないですか」
女騎士「空気よりも戦況を読むほうが重要だ。それより、一時的とはいえ敵をしりぞけた」
女騎士「今のうちになんとしても『勇者の剣』を見つけ出し、回収するぞ」
部下「了解っ」
女騎士「……あと、魔物はできるかぎり殺すな」
部下「え?」

57 :◆N80NZAMxZY :2014/12/11(木)07:29:02 ID:w49
女騎士「その顔やめろ。姫殿下の希望だ」
部下「だって、魔物ってだけで容赦しない先輩が……」
女騎士「……情報収集のためでもある。というか、軽口叩いてる場合じゃないっ!」
部下「なにカリカリしてるんですか」
女騎士「うるさいっ。いいから働け」
女騎士(今ごろ勇者たちは、魔王城に侵入しているはず)
女騎士(期間の問題とスパイ対策。魔物たちにこちらの動向を察知されないため)
女騎士(必要最低限の人員しか駆り出されていない)
部下「先輩、あの場所!」
女騎士「光ってるな。……剣か? 
    なにがあるかわからん。瓦礫の撤去は慎重にやるぞ」
女騎士(負けるなよ、勇者たち)

58 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)07:30:24 ID:w49

魔法使い(閉じていた魔方陣を開いて、私たちは魔王城へ侵入した)
魔法使い(大丈夫。今回は失敗なんてしてない。そう思ったのにーー)
サキュ「ひさしぶり」
魔法使い「っ!?」
魔法使い(目の前に例のサキュバスがいた。でも、みんなはいない)
サキュ「びっくりしすぎ」
サキュ「あたしもこんなに早く来ると思ってなかったら、かなり驚いたけど」
魔法使い「……もしかして、ここって魔王城じゃない?」
サキュ「そこは安心して。ようこそ、ここは魔王城でーす」
魔法使い「……なんとなく状況が読めた。私の魔方陣になにかしたでしょ?」
サキュ「正解。ヤったのはあたしじゃないけどね」
サキュ「ていうか。あたしは魔方陣が展開された床を壊せばいいって思ってたけど」
サキュ「あれって空間そのものに張りつくんだね」
魔法使い「当然。『空間魔術』の一種なんだもん」

59 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)07:31:34 ID:w49
サキュ「まっ、なんでもいいけど。どうせヤルことは変わんないし」
魔法使い(どうしよう……。一人で戦うことは、もちろん想定はしてたけど)
魔法使い(それに。もし、例の装置を使われたら……)
サキュ「そういえば、あなたって魔術師なのよねえ」
魔法使い「見ればわかるでしょ」
サキュ「じゃあ、魔術を封じちゃえばどうなるかなあ?」
魔法使い「魔術を封じる装置のことなら、やってみれば?」
魔法使い「ただし、あなたも得意の術を使えなくなると思うけどね」
サキュ「でも、単純な力ならあたしのほうが上」
魔法使い「でも、私がこの城から脱出した方法は知ってるよね?」
サキュ「……そうなんだよねえ。まっ、面倒だし装置なしでいこっかな」
魔法使い「それこそ、後悔するかもよ」
サキュ「大丈夫。術が使えることを後悔するのはーーそっちだから」
魔法使い(最初の関門はクリア。勝負はここから)

60 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)07:33:30 ID:w49

戦士「今回は、会場は間違えなかったようだけど」
戦士「いきなりキミと鉢合わせするのは、想像してなかったよ」
リザード「俺もお前と最初に会うことなんて、微塵も想像してなかったぜ」
リザード「どうせ誰が来たところで、俺には関係ねえからな」
戦士「自意識過剰も甚だしいね」
リザード「事実だ。テメエは俺には勝てねえよ」
戦士(このリザードマン。単なる自意識過剰の馬鹿じゃないから、厄介なんだよな)
リザード「勇者と戦えるチャンス、ムダにはできねえ」
リザード「テメエには悪いが、さっさとあがらせてもうらぜ」
戦士「今回も勇者に夢中ってわけね。目の前にいるボクじゃなくて」
リザード「当たり前だ。テメエは俺からしたら、ただの安牌だ」
戦士「安牌、ね。言ってくれるじゃん」
リザード「『リーチ一発ドラドラ』か、そうだな」
リザード「『純チャン三色一盃口』あたりで決めてやるよ」

61 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)07:35:13 ID:w49
戦士「ーーボクをなめんなよ」
戦士(先手必勝。まずは魔術でーー)
リザード「どうした? 早く術を使ってみろよ? ん?」
戦士「……なるほどね。この空間じゃ術は使えないってわけだ」
リザード「ああ。ちょこまかと術を使われるのは面倒だからな」
リザード「言ったろ、テメエは安牌だって」
戦士「で、キミの横にある巨大な斧。それ、ボクのために用意してくれたの?」
リザード「雑魚を始末するのには、これが一番手っ取り早い」
リザード「安心しな。あの世に逝くのはテメエだけじゃねえからよ」
戦士「ボクら勇者パーティーは、みんな同じような状況にあるってわけね」
リザード「そういうことだ。テメエも、テメエの仲間も俺たちには勝てねえんだよ」
戦士(しょっぱなから最悪の展開だ、こりゃ)

62 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)07:37:47 ID:w49

?「あなた方が魔方陣を使って、城に侵入することはわかっていました」
?「なかなか上手く魔法陣は隠蔽されていました。ですが、あの狭い空間です」
?「魔法陣はすぐに見つかりました」
?「最も望ましい展開は、もちろん、魔方陣を消滅させることでした」
?「しかし、我々の魔術に関する知識ではそれは不可能」
?「そこで次善の策として、あなた方を混乱させるために、魔法陣を弄らせてもらいました」
?「その結果、あなた方はバラバラの状態で城に侵入することになった」
?「さらに我々は、勇者パーティーが真っ先に魔王城に侵入するとわかっていた」
?「魔法使い様の魔法陣は不安定ゆえ、転移をミスする可能性があった」
?「これらの要素から考えれば、あなた方が最初に移動してくることを読むのは難しいことではない」
?「そして、実際想定したとおりになりました。説明は以上です」
僧侶「ずいぶん、長いひとり言でしたね」
?「私はあなたに話しているつもりだったのですが」

63 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)07:39:15 ID:w49
僧侶「聞いてもないことをペラペラ話されても、聞く気になれません」
?「これは申し訳ない。状況を理解されてないようでしたので」
?「老婆心ながら説明させていただきました」
僧侶「……魔法使い様が移送できる人数には、限りがあります」
僧侶「つまり。最初から城に入るのは、私たちだけだったのです」
?「ほう。私の考えすぎでしたか」
僧侶「敵の心配より、味方の心配をしたほうがよろしいかと」
?「その言葉、そっくりそのままお返しします」
?「あなた方は沈みゆく泥船に乗りこんだんですよ、自分から進んでね」
僧侶「……ひとつあなたに教えてあげましょう」
?「ほう?」
僧侶「泥で船は作れませんから」
?「……あなた。ユーモアのセンス、ゼロですね」
僧侶「ひそかに気にしてることを……」

64 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/11(木)07:39:41 ID:w49
つづく

65 :名無しさん@おーぷん :2014/12/11(木)09:32:10 ID:Tl6
乙!
これはカッコいい会話だ

69 :はい◆N80NZAMxZY :2014/12/12(金)03:11:06 ID:hxg

勇者「……」
 魔法陣を抜けた先にあったのは、広大な空間だった。
 そして、その空間の最奥に静かに佇む影。
魔王「……」
 目の前に魔王がいるというのに、自分でも不思議なぐらい落ち着いていた。
 まるでこうなることがわかっていたかのように。
 魔王も自分と同じなのかもしれない。
 悠然と構える姿には、焦りも驚きも感じられない。
女騎士『勇者。貴様の使命は魔王をたおすことだ、ちがうか?』
 いつか女騎士が勇者に問いかけた疑問。今ならそれに、はっきりと答えられる。
 勇者としての使命は、それで正しい。
 勇者と魔王には明確な因縁がある。
 だから自分は、当たり前のように剣を抜いている。闘おうとしている。

70 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:12:53 ID:hxg
 だが。そう考える一方で、疑問に思う自分がいた。
 勇者と魔王としてではなく、一人の人間と魔物としてだったらどうなのか、と。
 いや、そんな疑問に意味はないのだろう。
 どの道、戦うことに変わりはない。
 魔王を目の前にして、勇者は改めて自分たちの戦いの本質を理解した。
 言ってしまえば、自分たちの争いは原始的なものなのだ。
 異なる生物どうしの、単なる生き残りをかけた戦いにすぎないのだ。
 この戦いに善悪なんて概念は存在しない。掲げるべき大義名分も。
 だから魔王を目の前にしても、勇者は口を開こうとは思わなかった。
 これから始まる戦いに会話は必要ない。ただ戦うだけだ。
 魔王も自分と同じことを考えている。
 魔王とは一度も言葉をかわしてない。だが、勇者にはわかってしまう。
 それは勇者と魔王の因縁のなせる業なのか。あるいは。
 
 本能が危険だと告げた。魔王が大きく一歩を踏み出す。
 それが戦いの始まりの合図となった。

71 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:14:25 ID:hxg

リザード「どうしたどうした!? ああっ!?」
戦士「……っ!」
 防戦一方だった。
 戦闘が始まってから、戦士は一度も敵に攻撃をすることができないでいた。
 魔術が使えない。しかも彼我の実力差はあまりにも大きい。
リザード「おらあぁっ!」
 巨大な斧が戦士の頭上を横切る。
 一瞬でも避けるのが遅れていれば、と想像する間もなくリザードマンが蹴りを繰り出してくる。
 これもなんとかやりすごす。だが、すでに戦士の体力は限界に近づいていた。
リザード「ちょこまかとうぜえんだよっ!」
 敵が斧を大きく振り上げる。
戦士(振りがデカイ。これならーー)
 戦士はすぐに自分の考えが安易だったと気づいた。
 これはこちらの攻撃を誘い出すためのエサだ。

72 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:16:09 ID:hxg
 攻撃に気をとられたことで隙が生まれた。
 リザードマンの拳が戦士のみぞおちに食いこむ。
 声すら出せず、受身をとることもできず、戦士は無様に地面を転がった。
リザード「やっぱ弱えな、テメエ。俺の敵にはなれねえな」
戦士「ぐっ……!」 
リザード「ずいぶんと時間を食っちまったな。まっ、雑魚にしちゃあよく粘ったほうだ」
 呼吸がうまくできない。剣を握る手に力が入らない。
 立ち上がることすらかなわない。
 このままでは確実に殺される。
戦士(……なんとか……なんとか、しないとっ……!)
戦士「……あのさ」
リザード「あ? 命乞いなら聞かねえぞ」
戦士「いや、やられる前に、聞いておきたいことが……あってね……」
リザード「……どうせ今からじゃあ、勇者は間に合わねえか」
リザード「いいだろ。言ってみろ」
戦士「……礼を言うよ」

73 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:19:27 ID:hxg
戦士「これ、又聞きなんだけどさ。魔王って平和を目指してるんでしょ?」
リザード「それがどうした?」
戦士「キミって平和を目指してるの?」
戦士「ボクの印象では、とてもそんなふうには見えないんだよね」
リザード「ああ。平和なんざ、どうでもいい」
リザード「俺は俺の血を流せる戦場が欲しいだけだ」
戦士「だったら、どうして魔王に仕える?」
リザード「簡単な話だ。魔王さまの側にいりゃ、強い奴と戦える」
戦士「……じゃあ、魔王が目指す世界が完成したらどうするのさ?」
戦士「争いのない世界に、キミの居場所があるとは思えない」
リザード「死ぬ」
戦士「……は?」
リザード「魔王さまが目指す理想世界。それが完成するなら、テメエの言うとおりだ」
リザード「生きてる意味はねえ。だから死ぬ」

74 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:21:01 ID:hxg
戦士「……ぶっとんでるね、キミ」
リザード「ぶっとんでる? 俺にとってはこれが普通だ」
リザード「ひたすら鍛え、ひらすら戦う。そうすりゃ、おのずと強くなれる」
リザード「強くなれば、たおしてえ奴をたおせるっ!」
戦士「……ひたすら鍛え、ひたすら戦う……」
リザード「そうだ。鍛えまくりゃ、強くなれるっ……!」
戦士「……ふふっ、ふふふ……」
リザード「……あ? なに笑ってやがる?」
戦士「いや。昔の自分を見てるようでね」
戦士「……ずっと昔の話だ。ボクはとあるキャンプで、あるヤツに勝負を挑んだんだ」
リザード「おい、聞いてねえ話を勝手にすんな」
戦士「いいから聞いてよ。どうせ、やられるんだからさ」
リザード「……」

75 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:22:02 ID:hxg
戦士「昔のボクは自分に才能があるって、信じて疑わなかったんだ」
戦士「だからその人見知りのヤツに打ち負かされたとき。本気で悔しくてさ」
リザード「……なんでローブを脱ぐ? いや、それより……」
戦士「なかなかいいカラダしてるだろ、ボク。鍛えまくった結果だ」
リザード「……気持ちわりぃ。顔と肉体が別人みてえだ」
戦士「……一時期は冗談抜きで、筋トレしかしてないときがあってね」
戦士「トレーニングって、やりすぎると中毒になるんだよ」
戦士「ボクはまさにそれだ。やらないと気がすまない。旅の最中でさえ」
リザード「それで、そのカラダってわけか」
戦士「そう。だけど、ボク個人としては筋肉まみれのカラダはイヤなんだ。女の子にモテないし」
戦士「だから普段は、だぼだぼのローブを羽織ってる」
リザード「で? テメエは俺になにが言いてえんだ?」
戦士「ムカついてるんだよ、自分に」

76 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:23:09 ID:hxg
リザード「あ?」
戦士「魔物のことなんて全く理解できない」
戦士「そんなことをほざいていた自分が、魔物とまんま同じことをしてたんだ」
戦士「恥ずかしいよ、赤面しちゃうね」
リザード「はっ。青アザだらけの顔で、なに言ってやがんだ」
リザード「つーか、話が長い。もう終わりでいいだろ」
戦士「そうだね、終わらせようか」
リザード「まだ足掻くつもりか? しかも剣を放るとか、正気か?」
戦士「勘違いさせたようだね。やられるのはーーキミだよ」
リザード「口だけは達者だなあっ!」
戦士(ーー来る!)
 やはりリザードマンのスピードは、人間である戦士を凌駕している。
 自分にもたおしたいヤツがいる。
 ソイツに勝つまでは、なにがなんでも負けるわけにはいかない。

77 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:24:49 ID:hxg
 迫ってくる斧を飛ぶようにかわし、敵の外側へと回りこむ。
戦士(『柔らかい街』で魔物使いが言っていたことを思い出せ)
魔物使い『リザードマンって、見た目はトカゲに似てるじゃないっすか?』
魔物使い『でも実は肉体の構造なんかは、限りなく人間に近いんすよ』
魔物使い『しっぽっていう明確な違いはあるんすけどね』
魔物使い『リザードマンの攻略については、人体の構造を調べるのが一番手っ取り早いっす』
リザード「また逃げるだけかっ!?」
 こちらが外側へ動いた以上、敵も同じようにして動きを追う必要がある。
 人間のからだは、外側への動作に対して内側のそれは、わずかに遅れる。
 そしてそれは、人間に限りなく近い肉体構造であるリザードマンにも当てはまる。
戦士(人間に限りなく近い、か)
 今度こそはっきりとした隙が生まれた。
 魔力を溜めた拳を、敵の肉体にぶつける。
リザード「っ……!」
戦士「まずは一発」

78 :名無しさん@おーぷん :2014/12/12(金)03:26:36 ID:hxg
 再び斧が迫ってくる。これも同じ要領でかわして素早く拳を打ちこむ。
リザード「調子に乗んなよっ!」
 一瞬のミスで死ぬという状況で、戦士はギリギリで敵にダメージを与えていた。
 敵は完全に自分を格下だと思っている。
 いや、実際にそれは間違った認識ではない。
 事実、リザードマンが重量のある斧を武器として選択していなければ、戦士はとっくにやられていた。
 巨大な武器を扱うことで、攻撃による隙が大きくなったこと。
 戦士が思い切って剣を使わず、拳で挑んだこと。
 さらに武器を使わないという選択が、リザードマンの頭に血をのぼらせたこと。
 これらの些細な要素が、戦士をなんとか生かしていた。それだけにすぎない。
戦士「ーーぐぁっ!?」
 リザードマンの蹴りが肩に当たり、戦士はあっさりと吹っ飛んだ。
 いくら弱点をついても、実力の差が消えるわけではない。だが。
戦士(勝てない相手じゃない)