勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part26
33 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:24:39 ID:
rmH
勇者「それが、魔王が言ってたことなんですね」
姫「ええ。でも、戦いは避けられないわよね」
勇者「絶対に不可能です」
姫「……勇者がそんなふうに断言するなんて、意外ね」
勇者「一度、戦ってるからわかるんです。魔王はなにがなんでも俺を殺しに来ます」
姫「あなたはどうするの?」
勇者「……戦います。戦わきゃ、なにも始まりませんから」
女騎士「失礼します」
勇者「うわっ、騎士」
女騎士「うわっ、とはなんだ? 殿下を迎えにきたのだ」
勇者「……そうか」
姫「もう、そんな時間? けっこう話していたのね」
34 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:25:28 ID:
rmH
◆
勇者(姫様は女騎士の仲間に連れられて部屋をあとにした)
勇者(別れ際、姫様は俺にこう言った)
姫『あなたに頼まれたことは、大丈夫、まかせて』
姫『私は私のやるべきことを全力でやります』
勇者(俺には俺の戦いがあるように。姫様には姫様の戦いがある)
女騎士「勇者」
勇者「うわっ! まだいたのか?」
女騎士「貴様、さっきもまったく同じことを言わなかったか?」
勇者「あー、そ、そうだっけ?」
勇者「ていうか……行かなくて、いいのか?」
女騎士「この街を離れる前に、貴様に聞いておきたいことがあったのだ」
女騎士「いや、聞いておきたいこと、ではないな。愚痴だ、これは」
勇者「愚痴?」
35 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:26:26 ID:
rmH
女騎士「魔物使いの言葉を聞いて、うまく言えないが、たぶん私は迷っている」
勇者「へぇ」
女騎士「なんだその顔は?」
勇者「いや、迷うこと、あるんだなって」
女騎士「私だって人間だ。考えるし、迷うこともある」
女騎士「……私は今まで、魔物を駆逐することで平和な世界を築けると、そう思っていた」
女騎士「それが正しいことだって信じてきた」
勇者(騎士の横顔は、いつになく曇っているように見えた)
女騎士「ある救出任務で、両親を魔物に殺された少女がいた」
女騎士「その子の泣き叫ぶ声が、今でも耳にこびりついて離れないんだ」
勇者「……」
女騎士「ある意味、私を突き動かしているのは、その子の声なのかもしれない」
女騎士「少しでも多く、魔物を排除しようと思ったのもそのときからだ」
女騎士「魔物に命乞いされたことがあった。そのときでさえ、私は容赦なく奴らを斬った」
36 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:27:23 ID:
rmH
女騎士「自分のやってることが本当に正しいのか。疑問に思わなかったわけじゃない」
女騎士「だが、その疑問の声でさえ、その子の声がかき消すんだ」
勇者「……でも、今回はちがうってことだろ?」
女騎士「ああ。魔物使いの言葉が、ずっと引っかかってる」
女騎士「魔物がいなくなれば世界は平和になる。そんな考えは奴の言ったとおり、思考停止なのだろうな」
勇者(そういえば、再会したとき。騎士と魔王を滅ぼす云々の話をしたことがあったな)
女騎士「ああ……そうだ。私は迷ってる、怖いんだ。変わってしまう自分が」
勇者「……ダメなの?」
女騎士「え?」
勇者「変わることは、ダメなのか?」
女騎士「変わる、というか。今の自分はふらついてるように思えて……」
勇者「そうか」
女騎士「そうか、とはなんだ。まったく……」
37 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:29:23 ID:
rmH
勇者「……あのさ。すこし前に話したよな?」
女騎士「なにをだ? きちんと内容を明確にしろ」
勇者「魔物をたおすことについて話しただろ、俺とお前で」
女騎士「話したな。結局、あのときの答えは聞けずじまいだったが」
勇者「俺は魔王と戦う。戦って、この戦いを終わらせる」
女騎士「……」
勇者「それがあのときの答えだ」
女騎士「答えになってない気がするんだが」
勇者「そうかも」
女騎士「……貴様は、すこし変わったのかもな」
勇者「変わらないヤツなんていない。姫様だって、誘拐される前と後じゃ、ちがってた」
女騎士「変わってもいい、か。まあ、そのとおりなのかも」
女騎士「どんなに変わったって、ここまできたのは他の誰でもない。私自身なんだからな」
38 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:31:46 ID:
rmH
女騎士「勇者。ありがとう、私の話を聞いてくれて」
勇者「……!」
女騎士「貴様は考えてることが顔からだだ漏れなんだ」
勇者「いや、だって」
女騎士「ふんっ。私が貴様に礼を言うのは、これが最初で最後だ。素直に受け取っておけ」
勇者「……そうか」
女騎士「では、私はそろそろ行く」
勇者「……騎士」
女騎士「なんだ?」
勇者「騎士には色々と世話になった……ありがとう」
女騎士「……!」
勇者「……騎士も顔に出やすくないか、考えてること」
女騎士「う、うるさいっ。まさかお前から礼を言われるとは、夢にも思ってなかったんだ!」
勇者(ひどい言い草だと思った。でも、そのとおりだとも思った)
勇者(そう。みんなが言うように、俺もまた少しずつ変わっているんだろう)
39 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)01:37:06 ID:a94
女騎士ちゃん可愛すぎだろ
40 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)02:33:49 ID:
rmH
◆
魔王「つまり、勇者たちはこの城に侵入できる、と?」
?「ええ。以前、姫を軟禁していた部屋に施された魔方陣。これを使えば」
サキュ「杖もなしに魔方陣が作れるって、どういうことよ」
?「残念ながら手段は不明です」
?「ですが、仮に杖の代わりに媒体になるものがあるなら、魔方陣は展開できます」
サキュ「どうやって? あの部屋には魔術封じの装置があったでしょ?」
?「あの装置は、あくまで魔力が空間に放出するのを防ぐもの」
?「つまり。媒体から直接、壁や床に魔力を流せば、魔方陣を描くことは可能なのです」
リザード「あの短時間で装置の欠陥に気づくなんて、大したもんだ」
サキュ「感心してる場合じゃないでしょ、このアホトカゲ」
サキュ「ていうか、まずは魔方陣を消さないと」
?「不可能です。なにせ、我々にはそれだけの技術がない」
サキュ「でも。協力者が……」
リザード「魔物使いはパクられたよな。ほかの協力者は?」
41 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)02:34:53 ID:
rmH
?「……姫様はなかなか強引な手に出たようです」
魔王「どういうことだ?」
?「空間転移の術を扱える者を、全員王都に帰還させたんです」
サキュ「裏切り者がいることを見越して、魔方陣の解除を防ぐために?」
?「ええ。自分の立場を最大限に利用して、強硬手段に出たようですね」
リザード「はーん。ってことは、いよいよ戦いは避けられねえってことだな」
?「アンタね……」
魔王「……リザードの言うとおりだな。決戦のときはそこまで来ている」
?「それから。現在、フェイクの城のほうにグレムリンの小隊を向かわせています」
サキュ「なんでよ?」
?「グレムリンの証言が確かならば『勇者の剣』はそこに眠っているはずですから」
?「もっとも。現地の軍との衝突は避けてはとおれないでしょう」
サキュ「それって人間側も『勇者の剣』を回収できてないってこと?」
?「そうなりますね」
42 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)02:36:36 ID:
rmH
リザード「剣をこっちが手に入れりゃ、こっちが有利ってわけか」
?「話は戻りますが、魔方陣を無効化することは、我々の技術では不可能です」
?「しかし、多少細工することなら可能です」
魔王「魔方陣については卿にまかせる」
サキュ「……まっ、とにかく。近いうちにあたしらは勇者たちと戦うわけね」
リザード「すげえ憂鬱そうだな」
サキュ「憂鬱っていうか、そうね。コワイ、のかな?」
魔王「……なぜだ? なぜそう思う?」
サキュ「死ぬのがコワイ、っていうか。なんだろ」
サキュ「負けたら、あたしたちがこれまでやってきたこと、全部水の泡になるんですよね」
魔王「……」
43 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)02:37:40 ID:
rmH
リザード「だったら負けなきゃいいだろ」
サキュ「そういう問題じゃないっつーの、バカ」
魔王「いや、リザードの言うことも一理ある。突き詰めれば、そういうことなのだろう」
サキュ「それは、まあ、そうなんでしょうけど」
?「どちらにしても、勇者たちとの対決はこれが最後でしょうね」
魔王「余は……否、我々は勝たねばならんのだ」
魔王「我ら魔族の未来のため。世界に生きるすべてのもののため」
魔王「今まで犠牲になってきた魂たちに報いるため」
リザード「……難しいことはわかんねえ。けどよ、勝ちゃいいんだ。なっ?」
サキュ「じゃあさ」
リザード「なんだよ?」
サキュ「勇者たちとの戦いが終わったら、なんかご馳走してよね」
リザード「べつにいいぜ。勝ったあとの飯のウマさは、半端ねえからな」
リザード「それから、魔王さまよ。アンタ、負けんなよ」
サキュ「ま、魔王さまになんて口の利き方してんの!?」
44 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)02:38:43 ID:
rmH
リザード「やっぱり俺には、あんな堅苦しい喋り方は似合ってねえ」
リザード「言葉を考えてるうちに、舌を噛んじまいそうになる」
魔王「……余は負けん。卿こそ、大丈夫なのか?」
リザード「安心しろ。俺は自分で引きちぎった尻尾に誓ったんだ」
リザード「アンタに勝つまでは、ほかの誰にも負けねえってな」
サキュ「やっぱりアンタってバカね」
リザード「うるせえ。テメエこそウジウジと、しっかりしろよ」
サキュ「ちょっとナーバスになってただけよ。あたしだって、負けないんだから」
?「まあ。なんだかんだ普段どおりな感じですし、大丈夫じゃないですか」
サキュ「アンタもけっこうテキトーよね」
?「お二人ほどではないですがね」
リザード「めずらしいな、テメエが悪態をつくなんてよ」
?「こういうのも、たまにはいいでしょう?」
45 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)02:40:49 ID:
rmH
サキュ「まっ、なんだかんだ最後に勝つのはあたしらよ」
サキュ「そうですよね、魔王さま?」
魔王「……余とて、まったく不安を覚えんわけではない」
サキュ「魔王さま?」
魔王「だが、そんなことは些細なことだ」
魔王「我々は戦い、そして勝つ。それだけのこと」
魔王「屍を並べねば歩けぬような世界は、もはや必要ない」
サキュ「はいっ。それを聞いて安心しました」
リザード「とにかく俺たちは勝つ! 絶対に!」
魔王(勇者、来い。必ず貴様はこの手でーー)
46 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)03:43:01 ID:
rmH
◆数日後
魔法使い「いよいよ、だね」
勇者(俺たちは、今日、魔王城に突入する)
勇者(魔法使いが残してくれた魔方陣、それを使って侵入する)
戦士「この質問さあ、何回もしたけどもう一回聞かせてもらうよ」
戦士「『勇者の剣』なしで、本当に突貫していいのかい?」
勇者「……もう決めたことだから」
僧侶「勇者様が剣をもっていないことは、おそらく敵も把握している」
僧侶「だから。魔物たちは剣が見つかるまでは、攻めこんでこないと高を括っているはず」
僧侶「そこで、あえて意表をついて剣なしで突入する。……でしたよね?」
勇者(俺はうなずいた。この策に出ようと思ったのは、魔物使いの証言が理由でもあった)
勇者(魔物使いは、魔王城の居場所を把握していた)
勇者(どうしてアイツが、俺たちに城の場所を教えたのか。その理由はわからないけど)
勇者(城の場所が把握できてる上に、城内には魔方陣がある)
勇者(つまり、外からでも中からでも攻めることができる)
勇者(なにより。時間が経過すればするほど、敵の魔方陣の解析が進む可能性がある)
47 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)03:44:31 ID:
rmH
僧侶「すでに別の部隊は現地で待機しています」
勇者(俺たちと同じく、魔方陣から侵入する部隊もすでに別の場所で待機している)
戦士「この待機してる間に『勇者の剣』が見つかる、なんてことはないんだろうね」
魔法使い「たぶんね。あー、ていうか、すっごいドキドキしてる」
戦士「おどすわけじゃないけど、今回は失敗は許されないよ」
魔法使い「わかってるってば。ここ数日は転移の術は失敗してないし、大丈夫だよ」
僧侶「勇者様、お手洗いは大丈夫ですか?」
僧侶「城の中は広いですし、トイレを見つけるのは困難だと思われます」
勇者「……大丈夫」
僧侶「そうですか、よかったです」
勇者(これはひょっとして、ボケて俺をリラックスさせようとしてる?)
勇者(そういえば。以前とはちがってイヤな予感はしない。むしろ落ち着いてる)
勇者(あのとき。俺はなにかを言おうとして、結局なにも言えなかった)
勇者(これが最後の戦いになるなら。俺はーー)
48 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)03:45:26 ID:
rmH
勇者「……みんな」
戦士「ん?」
勇者「その……俺は、今でも後悔してることがある」
魔法使い「……」
僧侶「……」
勇者「猫のことだ。俺たちは結果としてアイツに裏切られた」
勇者「いや。アイツの言い分では、はじめから仲間じゃなかった、か」
勇者「アイツが本心ではどう思ってたのか、それはもうわかることはない」
勇者「だけど、思うんだ」
勇者「あの城に入る前に。猫ともっときちんと話しておけば、なにか変わったかもしれないって」
勇者「こんなことを考えたって。今さらで。手遅れで」
勇者「もうアイツと話すことはできないけど。だからこそ、今みんなと……」
戦士「……みんなと?」
49 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)03:46:28 ID:
rmH
勇者「……ごめん。なにが言いたいか、わからなくなった」
戦士「なんだそれっ」
魔法使い「……私は少しわかるかも。勇者の言いたいこと」
僧侶「魔法使い様……」
魔法使い「あの城でのことはショックだった。でも、それって私の思いこみだったんだよね」
魔法使い「猫ちゃんの気持ちも考えずに」
魔法使い「一方的に仲間になれたって、そう思ってただけなのかも」
魔法使い「本当の意味で仲間になろうとするなら、もっと歩み寄らなきゃダメだったんだよね」
戦士「まったく。相手は猫の姿をしていたとはいえ、魔物だった」
戦士「ボクらの認識が単に誤っていただけ……って言いたいところだけど」
戦士「まっ、不思議と憎めないんだよね、あの猫。殺されかけたっていうのに」
僧侶「……そうですね」
50 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)03:48:11 ID:
rmH
勇者「もう、あんな後悔はしたくない」
勇者「俺は、その、みんなを……仲間だって、思ってるから」
僧侶「なにを今さら。私たちは勇者パーティーです。今までも。そして、これからも」
戦士「ホントだよ。ボクらは最高のパーティーだ」
魔法使い「うんっ、そのとおり!」
戦士「さてとっ! そろそろ突入の時間だ。ボクらも行こうか」
勇者「……うん」
戦士「前回はパーティー会場を間違えるなんて、ドジしちゃったからね」
魔法使い「大丈夫。今度は間違えないよ」
戦士「さあ、パーティーの続きと行くよ! みんな準備はオッケー!?」
僧侶「いつでも!」
魔法使い「どこでも!」
勇者「なんなりと!」
勇者(魔王。勝負だーー!)
51 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/10(水)03:48:45 ID:
rmH
つづく
52 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)04:12:54 ID:058
読み返すと勇者の成長が凄まじいな
展開も熱すぎる
53 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)09:43:58 ID:RDX
乙!
いよいよ最終決戦か
54 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)12:17:24 ID:2gt
何か勇者たちにも勝ってほしいし魔王たちにも負けて欲しくないという複雑な気持ち
55 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/10(水)14:07:57 ID:heE
オープンでやってるSSで一番面白いと思うわ