勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part23
929 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/07(日)01:55:13 ID:
Z4A
?「この部屋のどこかに隠れている、というのが一番望ましいのですが」
サキュ「隠れるような場所はこの部屋にはない」
?「と、なると。転移の魔術でここから脱出した、という線が濃厚でしょうね」
サキュ「ありえない、って否定したいわあ」
?「残念ながら目の前で起きたことは事実です。……おや?」
サキュ「なに? なにかあったの?」
?「……失礼、気のせいだったようです」
サキュ「ああんもうっ。期待させないでよ」
サキュ「ていうか。さすがにこれは、魔王さまに報告しないと……!」
?「ええ、まずいでしょうね」
サキュ「とりあえず行ってくる。アンタも来てよね」
?「すこし遅れます。念のため、部屋のチェックをしておきたいので」
930 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)01:57:12 ID:
Z4A
◆二十分前
姫『魔法使い、その腕はいったい!?』
魔法使い『細かい説明をすると、長くなってしまうから簡単に説明すると』
魔法使い『この部屋は現在、ほとんどの魔術は使うことができません』
魔法使い『なぜか。魔力が肉体の外から放出されること、それ自体が封じられてるから』
魔法使い『だけど抜け道はあります。たとえば、転移の魔術』
魔法使い『この術に魔法陣が必須なのは、言うまでもありませよね?』
姫『……それであなたは腕にあらかじめ、魔法陣を仕込んでおいた、と』
魔法使い『はい。これなら魔力が外に放出されることもありませんから』
姫『魔術の使用には媒体が必要。だから自分の腕を媒体にした。そういうことね?』
魔法使い『はい。刺青の要領で、僧侶ちゃんに魔術式を施してもらいました』
姫『それ、きっと痛いでしょう?』
魔法使『魔力を流すと、ちょっとだけ。でも、これで脱出ができます』
931 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:00:32 ID:
Z4A
姫『それで私は城に戻り、私が為すべきことを為す』
魔法使い『私はなんとかして、みんなと合流します』
魔法使い『時間がないです。もしかしたら、また私にチェックが入るかもしれません』
姫『そうね。急がないと』
魔法使い『実家で転移の術の練習はしてたんで、魔法陣は残ってます』
姫『あなたの家は王都にあったわね』
魔法使い『ええ。姫様を私の家に。私は『柔らかい街』に飛びます』
魔法使い『私の両親にこれまでのいきさつを話せば、あとはスムーズに行くと思います』
姫『……』
魔法使い『姫様?』
姫『すこし、魔王のことが気になって。ごめんなさい、今はそれどころじゃないわね』
魔法使い『いえ……じゃあ、先に姫様からどうぞ』
932 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:05:26 ID:
Z4A
◆
姫(そして私は、魔法使いの魔方陣によって転送された)
姫(まずは彼女の両親に事情を話して……って、あれ?)
サイクロプス「今なんっつった!?」
男性「だからテメエの占いは当たらねえんだよっ! このひとつ目野郎がっ!」
サイクロプス「二つ目があったって豪快にハズすお前よりはマシだっ!」
男性「ああ!?」
サイクロプス「あああっ!?」
ハーピー「この前もらった入浴剤なんだけど、アレまだある?」
女性「また欲しくなった?」
ハーピー「もちろん、タダじゃない。例の洞窟についてってあげる」
女性「仕方ない。それで手を打ちましょうか」
姫(魔族と人間が……ここはどこなの?)
933 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:11:13 ID:
Z4A
姫(もしかして、魔法使いの術がなんらかの形で妨害された?)
姫(と、とにかく落ち着いて。そう、こういうときは教会に……)
オーク「どこ見てんだ、おい」姫「え? あっ……」
オーク「あっ、じゃないなんだよ嬢ちゃん」
姫「そ、その……私は……」
オーク「いきなりぶつかっておいて謝罪もなしか。あー、痛いなあ」
姫「ご、ごめんなさい。私の不注意で……」
オーク「おせえよ。んなことより、今退屈してんだよなあ。なあ?」
オーク「この街の人間じゃないだろ? 案内ついでに『イイコト』しようぜ」
姫「あ、あの……」
ゴブリン「やめておきな。そのお嬢さん、怯えているだろ」
オーク「……ゴブリンかよ」
934 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:12:09 ID:bjD
支援
935 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:12:44 ID:dkp
良スレあげ
936 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:16:27 ID:Zfa
キターーー!!!
待ってました!!!
937 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:29:17 ID:
Z4A
オーク「俺はただこの嬢ちゃんに、街の魅力を知ってもらおうと思っただけだぜ?」
ゴブリン「それなら、まずはその手をはなしたらどうだ?」
オーク「……チッ、人間に媚び売って楽しいのか?」
ゴブリン「なんとでも言え」
オーク「クソが」
姫(それだけ言い残すと、オークは去っていった)
ゴブリン「お嬢さん。怪我はしてないか?」
姫「あ、はい。その……ありがとう、ございました」
姫(ど、どうしよう。頭が混乱してる……)
姉「だいじょーぶ。この人は顔はコワイけど、とっても優しいから」
姉(今度はゴブリンの背後から、女の人が出てきた)
姫「え? あ、はい」
ゴブリン「お前なあ。……ところでお嬢さん。困ってることがあるなら力になろう」
938 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:30:52 ID:
Z4A
◆
姫(いまだに混乱した状態のまま、私は宿へとお邪魔した)
姉「もしよかったら、どうぞ」
姫「チーズスープ……」
姉「お口に合うかはわからないけど」
ゴブリン「ワシにもくれるか」
姉「あなた、出かける前にも食べたわよ?」
ゴブリン「ダメか?」
姉「まさか。食べてくれる人がいなきゃ、作りがいがないもの」
姫(この二人は……)
姫「……いただきます」
ゴブリン「どうだい? スープの味は?」
姫「おいしい……」
ゴブリン「だろ? うちのチーズスープは、どこのチーズスープよりもうまいんだ」
姫「はい。本当においしいです……!」
940 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:31:48 ID:
Z4A
姉「よかった。だいぶ顔色もよくなってきたわね」
姫「その、助けてもらったうえに、お食事まで……」
ゴブリン「なに、困ってるときはお互い様だ」
姫「……あの、一つ質問してもよろしいですか?」
姉「ええ、どうぞ」
姫「この宿はお二人で営んでいるのですか?」
姉「ええ。なんだかんだ二人でやってきて、もう何年になるかしら」
姫「あるのね。本当に、この世界には」
ゴブリン「ん?」
姫「……ごめんなさい、なんでもありません」
姉「……あら、目が覚めたのね。おはよう」
姫(あの人は……)
944 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:34:31 ID:
Z4A
◆三日後
神父「まもなく、この街に本部専属の癒し手が到着するはずです」
勇者「あ、はい」
神父「しかし勇者様。また傷も癒えてないのに、ここ数日ずっと街の外へ行かれているようですが」
勇者「あ、はい」
神父「今日もまた街の外へ?」
勇者「あ、はい」
神父「……他にこちらに報告しておくことは?」
勇者「あ、はい。……って、そうじゃなくて」
勇者「診断書、あの、三日前に提出した……。あれ、本部に届いてますよね?」
神父「はい、それは間違いなく」
勇者「それから……ボクが一人で行動していることは?」
神父「そちらも報告には抜かりありません」
勇者「……では、今回の報告はこれで」
神父「了解しました。勇者様に神のご加護があらんことを」
945 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:34:35 ID:CIn
神スレ
946 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:36:20 ID:
Z4A
◆
勇者(そういえば。教会への報告って、旅をはじめてから一度もしてなかったな)
勇者(旅に出る前も、報告書の提出だけして神父様とは話さなかったし)
勇者(みんなにまかせっぱなしだったな、ほとんど)
勇者(……さて、とりあえず街を出るか)
◆
勇者「今日もいい天気だーそしてこれから隣の街にいくぞー」
勇者「森の中を歩くのはイヤだけどガンバるぞー」
勇者(こんな感じでいいか)
◆
勇者「あーひとりで森の中にいると孤独をひしひしと感じてしまうなあ」
勇者「誰か俺とおしゃべりしてくれる人いないかなあ」
魔物「してやろうか、勇者さんよお?」
勇者「……誰?」
魔物「俺か? 知りたいのなら教えてやる。俺は魔王さまに仕えし魔族」
魔物「グレムリン。グレムリン・ジョー・ジェンガ・ジェイフォンだ」
947 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:40:47 ID:
Z4A
魔物=グレムリン「口数はすくないって聞いてたが」
グレム「ずいぶんひとり言が多いな、お前」
グレム「クソチキン野郎なんだろ。まともに口がきけないんだってな?」
勇者「……」
グレム「人間の男は愚図しかいねえな、やっぱり」
グレム「傑作だぜ。こんな奴が魔王さまに挑もうとするなんてーーよ!」
風が裂ける音が聞こえたときには、すでに勇者の腹は蹴り飛ばされていた。
威力は決して強くはないが、はやい。
単純な速度なら、今まで勇者が戦ってきたどの魔物よりも。
グレム「なんだよ。からだがボロボロのまんまってマジなのかよ」
勇者「……」
グレム「今テメエが一人なのは、スパイを警戒してるからだろ?」
グレム「だから治癒の術も受けてねえ。そしてこの状況だ」
グレム「ハッ、勇者。魔王さまにかわって、俺がテメエを排除してやるよ」
948 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:45:43 ID:
Z4A
勇者「……ああ、ようやくわかった。お前、そっくりだな」
グレム「あ?」
勇者「どっかの猫に、だよ」
グレム「ワケのわかん……って、おいっ! 逃げんのかよっ!」
すでに勇者はグレムリンに背を向けて駆け出していた。
ここ連日、足を運んでいたおかげで、森の大まかな地形は把握できていた。
グレム「どこの勇者が敵に背中を見せんだよっ!」
もちろん敵の罵倒には答えず、とにかく逃げる。
だが、なかなか敵を引き離すことができない。
もともと素早さでは敵に分があるうえ、こちらが満身創痍のせいもあるのだろう。
グレム「なんだよ。もう逃げるのも無理か」
あっさりと勇者はグレムリンに追いつかれた。
グレム「俺はな、人間が死ぬほど嫌いなんだ。まして勇者なんていうのはな」
グレム「というわけでーー」
949 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:47:22 ID:
Z4A
勇者が身構えるよりも先にグレムリンは跳躍していた。
グレム「ーー死ね」
女騎士「お前がな」
鈍く光る爪甲が、勇者を引き裂くことはなかった。
生い茂る木々から躍り出た影が、グレムリンを容赦なく殴り飛ばす。
完全な不意打ちだった。グレムリンは受身も取れず、地面に投げ出される。
グレム「なっ……なんだ!?」
女騎士「人間だ。貴様が憎み、軽蔑している」
勇者「……助かった」
女騎士「ふんっ。……こんな単純な手に引っかかるとはな」
グレム「伏兵がいたか」
女騎士「本来ならば、私は別の街へ移動しているはずだった」
グレム「命令を無視して、この街に残っていたのか」
女騎士「ああ。同僚や部下を言いくるめるのは、なかなか面倒だったがな」
勇者(俺からの提案だった。女騎士は渋々だが承諾してくれた)
950 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:49:57 ID:
Z4A
グレム「クソが。この俺がノロマな人間ごときに」
女騎士「身軽さには自身があるようだが。頭の中まで軽いとはな」
グレム「何…だと…?」
女騎士「エサを与えればすぐ食いつく。魔物、貴様と獣とのちがいはなんだ?」
グレム「……久々に本気で殺してえと思ったぞ、人間」
女騎士「そう思うなら、かかってこい」
グレム「…………いや、やめておく」
勇者(やらないんかいっ。いや、そのほうがいいんだけど)
グレム「で? わざわざこんなリスクを負ったのは、俺から情報を引き出すためか?」
勇者「そうだ。お前が知っていること、洗いざらい吐いてもらう」
グレム「ことわる。言っただろ、俺は人間が死ぬほど嫌いなんだ」
グレム「死んだほうがマシだ、人間の言いなりになるぐらいならな」
951 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:52:20 ID:
Z4A
勇者「どうして?」
グレム「あ?」
勇者「なんでお前は人間を嫌う? 理由があるのか?」
グレム「決まってる。テメエら人間のせいで、恋人を失ったからだ」
勇者「……」
女騎士「人間に殺されのか?」
グレム「……ちげえよ」
勇者「じゃあ、いったい」
グレム「フラれたんだよ! いちいち言わせんなっ!」
女騎士「は?」
グレム「いいところ見せようと思って、恋人の前で人間にケンカ売ったんだよ!」
グレム「ボコボコにされたわ! そのあとフラれたわっ!」
グレム「『人間に勝てないようなダサい野郎は嫌い』ってなあっ!」
女騎士「完全に自業自得だな」
グレム「黙れぇ! 俺は悪くねえっ! 俺は悪くねえっ!」
952 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:54:08 ID:
Z4A
勇者「……」
グレム「その目はなんだ。『勇者でモテモテな自分にはわからねえな』的なアレか!?」
勇者「生まれてこの方、俺には恋人なんていない」
グレム「……マジか」
勇者「それどころか友達もいない」
グレム「嘘だろ?」
勇者「嘘であってほしいよ、俺も」
グレム「情けねえツラのわりに、鋼の精神力だな……すげえわ、尊敬するわ」
女騎士「……いつまでこのやりとりを続ける気だ? 目的を忘れたのか?」
勇者「わかってる。さて、今度こそ話してもらうぞ」
グレム「……俺はフラれたかわりに、ある答えを見つけられた」
女騎士「なんの話だ?」
953 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)02:57:52 ID:7Zu
コミュ障ぼっちだったな勇者
954 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)03:05:59 ID:
Z4A
グレム「醜態をさらしたから、俺は愛する女にフラれた」
グレム「だから、俺は死に物狂いで修行した。そして身につけた。すべてはダサい姿を見せないため」
女騎士「立ち向かってくるか? それもよかろう」
グレム「自分より強えヤツからは逃げる」
女騎士「は?」
グレム「そうすりゃ俺はダサくねえ! あばよっ!」
女騎士「なっ!? 待てっ!」
勇者(なんてすばやい。ていうか、身につけたのは逃げ足のはやさかよ)
女騎士「追うぞ、と言いたいところだが。とんだ土産を置いてったな」
魔物「……」
勇者「コイツら。『柔らかい街』のときと同じ……」
女騎士「正体不明の魔物か。しかし、なんて数だ」
955 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)04:18:08 ID:
Z4A
女騎士「勇者。そのからだで戦えるのか?」
勇者「……こういう場合、戦えなくても戦わないといけない」
女騎士「ごもっともだ」
勇者(だけど今の状態では、騎士の足手まといにしかならない)
勇者(さらに、この数。どうすればーー)
女騎士「来るぞ」
魔物「ぐあああぁっ!」
勇者(考えてる暇はない。とにかく今は戦うしかない)
「友達はいない、か。寂しいことを言ってくれるね、勇者」
勇者(すっかり聞き慣れた声が聞こえてきたときには、魔物は宙を舞っていた)
勇者(魔物を吹っ飛ばしたのは、地面から飛び出した突起だった)
戦士「まっ、友達かどうかはともかく、ボクらは仲間だろ。勇者」
勇者「戦士……」
956 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/07(日)04:19:08 ID:
Z4A
つづく
次スレに行くのは確定っぽい
だけどストーリー的には八割は消化している
あとすこしお付き合いよろしく
957 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)08:05:47 ID:24F
乙!
グレムリン・・・泣かせるぜwww
958 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)10:21:32 ID:x1H
>>957そのあとに友達すらいないって言い返す勇者はもっと泣ける
959 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/07(日)15:11:32 ID:6Ih
全員キャラがしっかりしてて感心する
数もそんなに多くないからこんな奴いたっけ?ともならん