勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part22
896 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:44:07 ID:
h64
?「あの場所から見つかったのは、魔術師一人だけだったのですよ」
?「しかも驚くことに。重傷を負ってはいるものの、命に別状はない状態です」
リザード「罠にはハマっても、そう簡単にはくたばらなかったか」
サキュ「……ほかの連中は?」
?「ご存知のとおり、痕跡の発見すら困難なのが現状です」
?「ですが、とらえた魔術師からある程度の情報は得られるかと」
サキュ「重傷なんでしょ? 拷問にかけるには厳しくない?」
?「ええ。ですから、サキュ様の水晶が大変役に立ちました」
サキュ「深手を負わせた今だからこそ、アレが役に立ったってことね。それで?」
?「転移の術を使って、ほかの三名は逃がしたそうです」
サキュ「じゃあ、痕跡すら見つからないって……」
?「ええ、見つからないでしょうね。飛ばされてしまったのですから」
サキュ「……先に言いなさいよ」
897 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:45:31 ID:
h64
リザード「勇者は生きてるってことか。いいねえ」
サキュ「喜ぶなっつーの、もうっ」
サキュ「勇者たちがどこへ飛ばされたか、その情報は引き出せたわけ?」
?「それが、把握してないようです。術者本人も彼らをどこへ飛ばしたのかは」
?「ですがご安心を。すでにグレムリンが動いています」
リザード「で? その魔術師はどうするんだ?」
?「そうですね。まだまだ利用価値は……」
姫「その魔術師の方に会わせて」
サキュ「……今まで口を閉ざしてたと思ったら。急になに?」
サキュ「あたしらが姫様の言うことを聞くと思って?」
姫「頼みを聞き入れてくれないなら、死にます」
サキュ「……は?」
898 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:47:26 ID:
h64
姫「外の世界を知らない私だけど、死出の旅路につく覚悟ならあるわ」
サキュ「あっさりと言ってくれるけどさ、姫様」
サキュ「自分の言ってることの意味、わかってるの?」
姫「箱入り娘の戯言だと思っているのでしょう? 私の能力よ」
姫「いかなる状況にあろうと、死を迎え入れることができる。自分の意思で」
サキュ(意思だけで死ぬことができる能力。あたしたちも知ってはいた)
?「なるほど。あなたの能力が、第三者に悪用されないための措置ですか」
サキュ「……能力、ね。それって、意思がなければ死ねないってことでしょ?」
姫「私に死を選ぶ覚悟がないとでも?」
サキュ(まさしく箱入り娘の戯言。以前のように一笑に付せばいいだけのこと。なのに)
サキュ(あたしたち三人の魔族は、笑い飛ばすことはできなかった)
899 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:49:43 ID:
h64
?「……いいでしょう。あなたに死なれては困りますからね」
姫「それから。きちんとした手当も」
リザード「おいおい。俺らはテメエの小間使いじゃねえ、わかってんのか」
姫「はい。でも、おねがいします」
リザード「頭を下げられてもな。そんな雑用にゃ、どうせ俺は関わらねえ」
サキュ「……ワガママっぷりがずいぶん板についてきたのね、姫様」
姫「箱入り娘は、おとなしく箱に収まっていろ。私にそう言ったのはあなたよ」
姫「だから、箱の中でせいぜい羽を伸ばさせていただきます」
サキュ「……あっそ」
サキュ(それだけ言って、あたしらは姫様の個室を出た)
900 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:57:02 ID:
h64
リザード「そういえば。あれから魔王さまはどうしてんだ?」
サキュ「わかんない。一人にしてくれって言われたから、あたしも」
リザード「猫のことか」
サキュ「かもね。……全然話ちがうけど、アンタって妹とかいる?」
リザード「いねえけど。それがどうかしたか?」
サキュ「ふと思いついただけよ」
サキュ(そう、素直にムカついた。だけど、不思議な気持ち)
サキュ(反抗期の妹がいたら、こんな気持ちになるのかしら)
リザード「……なにニヤニヤしてんだ?」
サキュ「ニヤニヤ? あたしが?」
リザード「ああ。気持ちわるいぞ」
サキュ「……はじめて言われた」
リザード「あ?」
サキュ「気持ちいい、しか言われたことないから」
901 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:58:18 ID:
h64
◆
魔法使い「ーーし、新記録っ!」
姫「きゃっ!?」
魔法使い「……あ、あれ?」
姫「……」
魔法使い「……」
姫「えっと……目は覚めたようですね?」
魔法使い「ひ、姫様!? え!? ど、どうして姫様が!?」
魔法使い「私、自分の部屋で辞典ドミノをやってたはずなのに……!」
姫「あの、それはたぶん、夢よ?」
魔法使い「脳みそがシェイクされたみたいで、混乱してる……」
魔法使い(こんがらがった頭の中を整理するのには、すこし時間がかかった)
902 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)10:59:52 ID:
h64
姫「あなたは勇者たちを逃がしたのね。転移の術を使って」
魔法使い「でも。成功したって確証はないし、勇者たちの安否も不明です」
姫「大丈夫。勇者は無事よ」
魔法使い「え?」
姫「私たち王族には、特殊な能力が宿ること。あなたは知ってるわね?」
魔法使い「は、はい。細かいことについては、存じてませんけど」
姫「人と心を通わせる能力があるの、私には」
魔法使い「……」
姫「……やっぱり信じられない?」
魔法使い「そ、そんなことはないですっ。ただ……」
姫(唐突すぎて、困るってところかしら?)
魔法使い(はい、そうです。……え?)
魔法使い「ええぇっ!?」
903 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)11:01:25 ID:
h64
姫「能力を実際に使用してみました。口で言っても伝わらないでしょうし」
魔法使い「ご、ごめんなさい。私、さっきから驚いてばっかりで」
姫「気にしないで。私も不慣れな説明しかできないし」
魔法使い「つまり、こういうことですね?」
魔法使い「姫様は今の能力を用いて、勇者と心で話して生死を確認した」
姫「ええ。でも、確認できたのは生きてることだけ。会話はできなかった」
魔法使い「ひょっとして、今の能力にはなんらかの制限があったりしますか?」
姫「そのとおり。いくつかの条件がそろって、はじめて心の会話ができるの」
魔法使い「……でも、よかったです」
姫「魔法使い?」
魔法使い「私、コワくて。一歩間違えてたら、勇者たちを死なせてたから……」
魔法使い「すみません、泣いちゃったりして……ひ、姫様!?」
姫「ごめん、なさ、いぃ……もらい泣き……。今まで、ずっと一人で……」
姫「心細かった、から……親交のある、あなたが来てくれて……よかった……」
904 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)11:02:33 ID:
h64
姫「……ぐすっ、泣いてる場合じゃないわね。魔法使い」
魔法使い「はいっ!」
姫「これまであったできごと。あなたの知ってる範囲で、もう一度教えてください」
魔法使い「あ、その前に確認したいことが。よろしいですか?」
姫「どうぞ」
魔法使い(杖はない。魔術も……使えなくなってる。『柔らかい街』のときと同じ)
魔法使い(そして。この部屋から出ることも……できない)
魔法使い「お待たせしました。それでは、話しても大丈夫ですか?」
姫「ええ、おねがい」
魔法使い(できるかぎりコンパクトにして、私は姫様に旅であったことを話した)
905 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)11:03:35 ID:
h64
姫「私たち人間側に、魔族の息のかかった者がいる」
魔法使い「はい。そのせいで先手を取られっぱなしで……」
姫「……」
魔法使い「姫様?」
姫「 」
魔法使い(唐突に、姫様は一人の名前を挙げた)
姫「その人がスパイです。おそらく、間違いないはずです」
魔法使い「……今の話でわかっちゃったんですか、犯人?」
姫「ええ。だって……」
魔法使い(姫様の説明は短かった。その短い説明で十分だった)
魔法使い「こんな簡単なことに気づけなかったなんて……」
姫「そんなに落ちこまなくても。私が気づけたのはたまたまよ」
魔法使い「……ホント、私ってダメだなあ」
姫「魔法使い?」
906 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)11:06:13 ID:
h64
魔法使い「ここのところ失敗ばかりで。みんなに助けてもらう一方で」
魔法使い「愚痴ってる場合じゃないって、わかってはいるんですけど」
姫「でも、あなたは今ここにいる」
魔法使い「……」
姫「命を賭けて勇者たちをまもったから。そうでしょ?」
姫「むしろ、なにもできてないのは私」
魔法使い「姫様……」
姫「だけど、ウジウジしていたってなにも始まらない」
姫「なにもできない私だけど、やってみようと思います。できることから」
魔法使い「……そうだよ。私だって決めたんだから……!」
魔法使い「姫様。協力してください、おねがいします」
姫「はいっ。私にできることなら、なんでも」
魔法使い(私たちは、次になにをすればいいのか。それはーー)
907 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)11:28:12 ID:
h64
◆
勇者(朝起きて、真っ先に目に入ってくるのは丸まった猫だった)
勇者(その次に、俺より先に起きている僧侶と朝の挨拶をして)
勇者(戦士は俺と同じぐらいに目を覚ますことが多かったかな)
勇者(魔法使いが目覚めるのは、決まっていつも最後だった)
勇者(でも、今は俺一人。あるのは硬いベッドの感触だけ)
勇者(仲間をいなくなった。みんなは生きていのか。わからない)
勇者(そう。俺は今、一人ぼっちなんだ)
女騎士「勇者。からだの調子はどうだ?」
勇者「……」
勇者(訂正。一人、知り合いがいる)
908 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/02(火)11:28:32 ID:
h64
つづく
夜にも更新予定
909 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)12:29:09 ID:4Gg
乙!
はよ続き読みたい
910 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/02(火)16:15:08 ID:6ki
>>900
サキュ「気持ちいい、しか言われたことないから」の返しに不覚にもやられたわww
911 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/03(水)03:36:26 ID:
CB5
◆
勇者(魔法使いの転移の術によって、再び『夜の街』へと戻ってしまった)
勇者(重傷だった俺を、偶然見つけたのが女騎士だった)
女騎士「教会には、貴様のことは伝えていない。そう貴様が望んだからだ」
女騎士「だが、そろそろ事情を話してもらいたんだが」
勇者「まだ話せない」
女騎士「またそれか。貴様と再開して、今日で四日目だぞ」
勇者「……とりあえず道具屋に行ってくる」
女騎士「道具屋? なぜ?」
勇者「……」
女騎士「おい、私の質問に答えろ」
勇者「えっと、あとで答えるから。ついてくるな」
女騎士「待て。だいたい誰がこの宿を教えたとーー」
912 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:37:09 ID:
CB5
◆
店主「どうですか? こちらの剣なんかは、なかなかのものだと思うのですが」
勇者「あー……」
店主「不満なようで。では、こちらのほうが?」
勇者「いやあ……」
店主「これなんか、月の下で振ると素晴らしいきらめきが拝めますよ?」
勇者「いや、その。そういうことでは……」
店主「じゃあ、これですね。作った人間はいい仕事をしている」
勇者「うーん……」
勇者(城が爆発する直前。俺は『勇者の剣』を使って、魔力を吸収した)
勇者(そして、爆発の瞬間に合わせて、魔力を放ち爆発を相殺した)
勇者(だが。ここに転送されたときには、俺の手に剣はなかった)
913 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:38:09 ID:
CB5
店主「あのね、お客さん。聞けるワガママには限度があるんだよ」
勇者「す、すんません」
勇者(道具を選ぶときに店員と話すなんて、したことがない)
勇者(旅の最中は、道具選びは魔法使いにまかせてたからな)
店主「時は金なり。こっちの時間をとったんだ、物で返してほしいね」
勇者「えっ? それは……」
勇者(なんて理不尽。さすがアナーキー街)
勇者(……猫がこの状況を見たら、また俺を馬鹿にするんだろうな)
女騎士「道具屋になにしに行ったのかと思って、来てみれば」
勇者「……騎士。ついてきたのか」
店主「ふんっ。国の忠犬が来るような場所じゃないよ、ここは」
女騎士「言われるまでもない」
女騎士「それに。この男に剣を握らせたいのなら、もっとデキのいいものを揃えるんだな」
店主「じゃあ、他所に行きな」
914 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:38:58 ID:
CB5
勇者「武器、買えなかった」
女騎士「そんなことより、さっきの話の続きだ。今度こそ話してもらうぞ」
勇者「トイレに行きたい」
女騎士「話をそらすな」
勇者「……」
女騎士「目をそらすな」
勇者「んー……」
女騎士「腰をそらすな。というか早く話せっ!」
勇者(今の俺には武器がない。しかも満身創痍。始末するには絶好の機会)
勇者(俺と騎士の再開から四日。騎士がスパイだとしたら、とっくに俺はーー)
勇者「……わかった。がんばって話す」
女騎士「普通に話せ。
まあいい、立ち話もなんだ。どこか適当な店に入るぞ」
915 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:39:36 ID:
CB5
◆
女騎士「身内に敵がひそんでいる、か」
勇者(女騎士に事情を話すのには苦労した。時間もかかった)
勇者(説明を戦士がしていたら、時間は十分の一に短縮されただろう)
女騎士「それで。私が敵である可能性を考慮して、事情を話さなかった、と」
勇者「まあ、そうなる」
女騎士「こういう感覚は久々だ、腸が煮えくり返りそうだ」
勇者「……」
女騎士「この私が魔物の手先? たわ言もたいがいにしろ」
女騎士「奴らは人類にとっての敵、悪だ。この地上から駆逐しなければいけない存在だ」
勇者「……なんで?」
女騎士「なんで、だと?」
勇者(しまった。思わず聞いてしまった)
916 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:40:25 ID:
CB5
女騎士「魔物によって、どれだけの人間が苦しんだと思っている?」
女騎士「魔物が人々に残した傷跡、その深さは貴様も知っているだろう?」
勇者「……」
勇者(俺は旅の中で様々な世界を見てきた。そして、それは騎士も同じ)
勇者(だから、騎士が言ってることは決して間違ってはいない)
女騎士「勇者。貴様の使命は魔王をたおすことだ、ちがうか?」
女騎士「あと一歩のところまで来ている。あとは、魔王を抹殺するだけ」
勇者「……でも魔物たちは、人間のせいで追いつめられている」
女騎士「当たり前だ、追いつめているのだからな」
勇者(なんで俺は苦手なコイツと話そうとしてるんだ? そもそも、なにを……)
女騎士「……さっきから、なにが言いたい?」
勇者「いや、だから俺は……」
917 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:41:03 ID:
CB5
勇者(そういえば、戦士に言われたことがあったな)
勇者(勇者は言葉が出てこないくせに、話しかけられたら、慌てて返答しようとするって)
勇者(コミュニケーションが苦手な人間は、やりがちらしい)
女騎士「また黙りか」
勇者「……すこし、待ってほしい」
女騎士「……?」
勇者「……俺は言葉を引き出すのが下手だ。ダメなんだ」
勇者「時間をかけないと。会話ができない。だから……」
女騎士「……かまわない」
勇者「え?」
女騎士「貴様が話下手なのは、戦士から聞いている。待ってやる、話せ」
勇者(しかし、話せと言われても。自分でも言おうとしてることが、見えてこないし)
勇者(……たしか魔法使いは、人の顔や目を見て話せとか言ってたな)
918 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:42:40 ID:
CB5
勇者(女騎士は口調こそアレだけど、見た感じは意外と落ち着いてるな)
女騎士「……むぅ」
勇者(あっ、ちょっと眉毛が動いた。すこし機嫌が悪くなったか?)
勇者(これが僧侶だったら、全然表情の変化とか読めないんだろうな)
女騎士「まだか? さすがに長いぞ」
勇者(思考がまとまらない。ていうか、無意識にアイツらのことを考えて……)
勇者「……ああ、そうか。そういうことか」
女騎士「答えが出たようだな」
勇者「考えた。考えたけど、考えがまとまらない」
女騎士「……人を待たせて、出た結論がそれか」
勇者「でも、おかげで見つけた。次にやるべきことをーー教会に行く」
女騎士「お、おい。またお前は話の途中で……!」
勇者(そうだ。立ち止まってる場合じゃない。動け、無理してでも)
919 :
名無しさん@おーぷん :2014/12/03(水)03:43:40 ID:
CB5
◆
サキュ「……」
?「……」
サキュ「……どういうことよ、これ? あたしの目、おかしくなった」
?「だとしたら、私の目も心配ですね」
サキュ「冗談言ってる場合じゃないっつーの。どういうこと、これ!?」
?「見てのとおりです。姫様と魔術師が部屋から消えてます」
サキュ「魔術封じの装置は使ってたんでしょ!?」
?「ええ。ついでに言えば、この部屋の扉には監視用の兵もつけておりました」
サキュ「だーもうっ! じゃあ、あの二人どこに言ったのよ!?」
920 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/12/03(水)03:43:51 ID:
CB5
つづく