勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part20
828 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)05:56:39 ID:
Vxf
僧侶「あの魔物、私が引き摺りおろします」
魔物「ーーっ!?」
魔法使い(突然魔物が、重力に引き寄せられるように落ちてくる。僧侶ちゃんの術?)
女騎士「よくやってくれた」
魔法使い(あとは一瞬だった。落ちてくる魔物を、騎士さんは容赦なくたたき伏せた)
戦士「お見事。だけど僧侶ちゃん。どうしてキミだけは術を使えるの?」
僧侶「わかりません、試してみたら普通に使えたので。それより」
魔法使い「そうだよ! 早くゴブリンさんたちのところへ行かないと!」
魔物使い「それなら大丈夫っすよ!」
女騎士「魔物使い、無事だったか。
……お前がおぶってるのは勇者か?」
魔物使い「そうっす。それから、ゴブリンさんたちなら無事っす。騎士さんの仲間が駆けつけてくれました」
829 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)05:58:23 ID:
Vxf
魔物使い「ついでに。オレってば大活躍だったんすよ。なんてたって……」
戦士「キミの話はまた今度だ。勇者がまた気絶してるのはどうして?」
魔物使い「詳しくは知らないっす。合流したときには、すでにバテバテでしたし」
僧侶「おそらく、大量の魔物を一人で相手するために相当の無茶をしたのかと」
女騎士「一人で? なぜそんなことを?」
魔法使い「私たち、頼まれたんです。ゴブリンさんたちを護るため、私たちには宿に向かってくれって」
女騎士「宿のゴブリンは、勇者とは懇意の間柄だったか」
戦士「それで盛大にムチャしたわけだ、大切な存在のために」
女騎士「……この男にも、そんな一面があるんだな」
戦士「オッケー、状況はわかった。勇者が一肌脱いだんだ、ボクもがんばらせてもらうよ」
女騎士「ああ。残りの魔物も始末するぞ」
魔法使い(みんな、がんばってる。なのに私は……)
830 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)06:53:43 ID:
Vxf
◆
勇者(物心着くころには俺は勇者だった)
勇者(自覚があったわけじゃない)
勇者(ただ流されるまま、俺は勇者をやっていた)
勇者(子どものころは、師と仰ぐべき人間と様々な場所を転々としていった)
勇者(すべては強くなるため。強くなって魔王をたおすため)
勇者(強くなって。強くなって魔王をたおして、そのあとはーー)
勇者「……んっ」
猫「ようやくお目覚めか、勇者」
勇者「からだ中が痛いうえに頭がぼうっとしてる」
勇者「ていうか待て。状況がわからない、説明してくれ」
勇者(猫の説明を聞いてるうちに、俺の記憶はゆっくりと蘇ってきた)
勇者(俺が気絶してから、すでに一日以上が経過していること)
勇者(街に現れた魔物は全員たおし、怪我人もほとんど出なかったそうだ)
831 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)06:55:11 ID:
Vxf
勇者「そうか、ゴブリンも姉さんも無事か」
猫「あれだけの騒ぎがあったのに、何事もなかったようにやってる店まである」
猫「この宿もそうだ。いつもどおりだにゃん」
勇者「病院だと思ってたけど。思いっきり宿だな、ここ」
猫「なんでもありの街だにゃん、本当に」
勇者「お前の言うとおり、メチャクチャな場所だ。でも、いい街だろ?」
猫「よくわからん」
魔物使い『勇者さーん、入るっすよー」
勇者(ノックと同時にドアを開けんな。ノックの意味がないだろうが)
魔物使い「なんだ、起きてるなら返事してほしいっすよ」
勇者「……ノックの音で目が覚めたもんで」
魔物使い「図らずとも心のノック」
勇者(……なに言ってんだコイツ)
832 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)06:56:00 ID:
Vxf
勇者(俺は魔物使いから診察のようなものを受けた)
勇者(アホっぽい口調のせいで忘れがちだが、コイツはエリートなんだった)
魔物使い「ぶったおれたときはどうしようかと思ったんすよ、マジで」
魔物使い「でも、よかったすねえ。オレのおかげで勇者さん、助かったんすから」
勇者(それについては感謝する。ただ自分で言うな、自分で)
勇者「……そういえば、みんなは?」
魔物使い「……その前に、話しておきたいことがあるっす」
勇者(なんだ?)
魔物使い「えっと、いい話と悪い話の両方があるんすよ。どっちから聞きたいっすか?」
勇者「悪い話」
魔物使い「おかしいっすよ! 普通、こういうのはいい話から聞くもんっすよ!」
勇者(じゃあ普通に話せよ)
833 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)07:10:39 ID:
Vxf
勇者「……じゃあ、先にいい話のほうを」
魔物使い「よくぞ聞いてくれました。なんと、見つかったんすよ」
勇者(なにが?)
魔物使い「魔王城っす」
勇者「魔王城が……!?」
魔物使い「まあ落ち着いてくださいよ、悪い話のほうがまだっす」
勇者「悪い話のほうは?」
魔物使い「魔王城を見つけた部隊、それが全滅したっす」
勇者「……」
834 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/11/27(木)07:11:10 ID:
Vxf
つづく
更新が全然できなくて申し訳ない
今日の夜もできたらする
835 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)09:32:11 ID:WpK
乙!
やっぱり僧侶ちゃんがなんか怪しい・・・?
話の続き読めて嬉しいし、ありがたいけど自分のしなければならないことを優先してくれよ
836 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)12:11:38 ID:y5X
流石エリートや
ブラックジョークもお手の物や!
837 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)15:44:11 ID:U82
乙
僧侶は敵なのか?
838 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)20:54:23 ID:Xud
気になるなあ
840 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/28(金)06:10:28 ID:8mb
たぶん一時的に記憶を消されているから
勇者の仲間だと思いこんでいるが
実は
841 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/28(金)07:52:13 ID:U7u
こういうのは一番妖しくないメンバーが怪しいんだぜたぶん
844 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/11/29(土)00:21:58 ID:
Wqh
◆
戦士「魔王城から魔物の群れが出てきたのを、偵察用のワイバーンが確認した。教会からの情報だ」
戦士「断言はできないけど、こちらに向かっている可能性は濃厚だよ」
勇者「……」
戦士「『マジかよ』って顔に書いてあるね。マジだよ」
勇者(俺が眠っているあいだに、状況はとんでもないことになっていた)
戦士「敵は攻めこまれる前にこちらを潰すつもりだ」
女騎士「現在、集められる限りの市警やギルドの人間で対策を講じている」
女騎士「だが。その善後策が焼け石に水なのは明らかだ」
戦士「正規の部隊を編成するには、まだまだ時間がかかるだろうしね」
女騎士「しかもここ数日、各地で魔物が暴れていたからな」
女騎士「けっこうな人数を制圧に駆り出したせいで、より部隊編成に手間取っている」
勇者「……オレたちは?」
戦士「本部もボクらの扱いについては、考えあぐねているのが現状だよ」
845 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:23:36 ID:
Wqh
女騎士「現時点で決まっているのは、私の部隊がこの街に残ることだけだ」
戦士「のんきに構えてはいられない状況だけど、かと言って下手に動くのもマズイ」
勇者「……そういえば、あの二人は?」
戦士「魔法使いと僧侶ちゃんは、二人でなにやら話し合ってるよ」
魔法使い「お待たせ」
戦士「うわさをしたらなんとやらだ。なにしてたの?」
魔法使い「魔術が使えなくなった件について、話してたの」
戦士「そうだった、今は普通に魔術が使えるんだよねえ」
僧侶「敵は『この装置は使える』的なことを口にしました」
戦士「あのあと、魔物使いのゴーレムと一緒に街中を捜索したんだよね」
戦士「結局、それらしい手がかりは見つからなかったけど」
勇者(戦力にならない魔物使いは、すでに本部に呼び戻されて街を出ている)
846 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:24:55 ID:
Wqh
魔物使い『ひどいっすよ! たしかに、戦いに関してはてんでダメっすよ?』
魔物使い『でも、オレは頭脳派なんで。そのうち大活躍する予定っす』
魔物使い『次の登場では、きっとみなさんビックリするっすよ!』
勇者(……みたいな感じで、あの暑苦しい野郎とはわかれた)
戦士「で、なにかわかったのかい?」
魔法使い「制限されない魔術があるのは間違いないと思う」
魔法使い「たぶん、制限できる魔術はオーソドックスなもの」
戦士「つまり、武器や人体の一部を媒介にして発動するものってこと?」
魔法使い「より正確に言うと、媒介にしたものから魔力を放出するものだね」
女騎士「なるほど。私のような剣に魔力を流しこむだけのものは制約されない、そういうことだな?」
魔法使い「ええ。まだ予想の範疇を超えないけど」
女騎士「その考えに至った根拠を知りたい」
僧侶「あのとき、私の術だけは使用できたからです」
勇者(そういえば、僧侶の術の仕掛けって謎のまんまだな)
847 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:26:15 ID:
Wqh
僧侶「私の術は、媒介から空間へ放出されることはありませんから」
女騎士「おかしいな。私の知る癒しの術とは、魔力を対象にぶつけるものだ」
女騎士「正確な術のタネを知りたいんだが」
僧侶「私の術については、お答えしかねます」
女騎士「なんだと?」
戦士「落ち着きなよ。僧侶ちゃんの癒し手としての腕は、国のお墨付きだ」
戦士「そうやすやすと教えられることでもないでしょ」
女騎士「……そのとおりかもしれん。すまなかったな」
僧侶「いえ、こちらこそ。申し訳ありません」
女騎士「私は部隊の方へ戻る。指揮系統の編成にもまだ不備があるからな」
勇者(数年前の女騎士なら、この場で剣を抜いてたかもしれない。いや、ないか)
848 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:27:36 ID:y5E
来たか!
849 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:28:05 ID:
Wqh
勇者(騎士が去って、四人だけが残った)
戦士「ボクが一番気にしてるのは、勇者。キミのことだ」
勇者「俺のこと?」
戦士「猫から聞いたよ。『勇者の剣』の大まかな能力。そして、それを使ったこと」
戦士「魔王のための切り札なのに、魔王と戦うために使っちゃったんだってね」
勇者「それは……」
魔法使い「敵が攻めて来ようとしてるのは、剣の魔力を使い切ったからかも」
僧侶「魔王への対抗手段が意味をなさない状況、敵にとっては願ってもない機会です」
勇者「……」
戦士「ヤバイね。これから魔王城に突貫するっていうのに」
勇者「は?」
850 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:43:28 ID:
Wqh
戦士「だから。ボクらで魔王城へ突撃するんだよ、これから」
勇者「だ、だけど」
戦士「敵に情報が漏れてる、でしょ。それを逆手に取る」
魔法使い「偽の情報を捕まえさせて、敵をかく乱するってワケ」
僧侶「そして。作った混乱の隙をついて、魔王を確実に叩く」
戦士「最悪、魔王をたおせなくても姫様は取り戻す。そういう筋書きだ」
勇者(俺が盛大に気絶してるあいだに、そこまでの段取りを?)
戦士「こちらに向かってる魔物の群れの規模は、中隊レベル」
戦士「これは、魔王軍の半分以上が駆り出されてると考えていい」
魔法使い「さらに各地で暴れていた魔物も含めれば。もうわかるよね?」
勇者「魔王城は手薄ってことか」
戦士「そっ。大チャンス」
勇者「でも、俺が言うのもなんだけど……剣の魔力、カラだよ?」
851 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:44:16 ID:
Wqh
戦士「把握してるよ。勇者が後先考えずに剣を使った結果だ」
勇者「……すんません」
戦士「でも、キミがそうした理由はキライじゃない。むしろ好感度はあがったよ」
勇者「はぁ」
魔法使い「剣のことだけどね。実はちょっと実験したの」
魔法使い「『勇者の剣』って、ようは勇者の魔力を溜めてるんだよね?」
魔法使い「だから、試しに私の魔力を剣に流してみた。どうなったと思う?」
勇者「溜めれたの?」
魔法使い「うん」
僧侶「私たちの魔力。それから騎士様や部隊の方々にも協力してもらいました」
勇者「……本当だ。魔力の蓄積、できてる」
戦士「問題はその魔力が魔王に効くのか、だけど。イケそう?」
勇者(俺はうなずいた。大丈夫なはずだ、この剣が媒介になっているのなら)
852 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)00:46:45 ID:
Wqh
戦士「オッケー、ここまでの風向きは決して悪くない。朗報は続くよ」
戦士「全滅した部隊の生き残りに魔術師がいるんだ」
戦士「その人が魔王城付近に魔法陣を展開してくれた。もちろん、隠蔽はしてある」
魔法使い「少し距離があるから、猫ちゃんは連れてく必要があるみたい」
僧侶「今の私たちは、ピンチとチャンスの狭間にいます」
戦士「運には見放されていない。でも、事態は切迫してる」
魔法使い「私たちがお腹の中で飼ってるスパイも、まだ割れてないしね」
戦士「まっ、以上のことを踏まえた上で。ボクら三人は魔王城への侵入を決めた」
勇者「……あとは俺次第か」
戦士「うん。勇者、キミはどう思う?」
勇者(少し考えた。そして、俺は戦士の質問に答えた)
853 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)01:19:56 ID:
Wqh
◆
サキュ「小隊008、009が人間たちによって制圧されたと報告が入りました」
魔王「……また、同胞が逝ったか」
サキュ「……」
魔王「理解はしている。この犠牲無くして、悲願は達成されないと」
サキュ「魔王さま、すこし休まれた方がよろしいのでは?」
サキュ「勇者による傷もいまだに癒えてません。それに、先の戦いで体力の方も」
魔王「問題ない。なによりこの感情の昂ぶり。心もからだも休まろうとはしていない」
サキュ「……成功するでしょうか、あたしたちの策略は」
魔王「させなければならん。我らが悲願のため、犠牲になった命のためにも」
サキュ(……いつになく魔王さまの口数が多い。でも、それも当然ね)
サキュ(計算と修正を重ねに重ね、練った策略。でも、これはある種の賭け)
サキュ(あたしたちが賭けに勝てばーー勇者は確実に殺せる)
854 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)01:30:05 ID:Ae8
なんだと?
855 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)02:39:32 ID:
Wqh
◆
勇者(街の住民の避難はスムーズにこそいかなかったが、それでも進んではいた)
勇者(俺はギリギリまで安静ってことで、一旦宿に戻ってきていた)
猫「本気で魔王さまに挑む気なんだな、お前たちは」
勇者「そう決めたからな」
猫「今ならしっぽを振れば、魔王さまも許してくれるかも知れないにゃん」
勇者「振るしっぽがない」
猫「……」
勇者「あとはやるだけだ、やるべきことをな」
魔法使い「勇者! 報告が入ったよ!」
勇者「なんて?」
魔法使い「教会からの命令は『この街に待機して、魔物を迎撃すること』」
魔法使い「運がいいよ、私たち。これなら教会に嘘を流す必要ないし」
勇者(たしかに。黙って街を去るだけでいい)
856 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)02:41:41 ID:
Wqh
魔法使い「そうと決まればこっそりと……」
勇者「だ、大丈夫?」
勇者(よろけた魔法使いを、とっさに俺は受け止めた)
魔法使い「ご、ごめんね。ちょっと疲れてる感じかも」
勇者「そう、ですか」
勇者(よく見てみるまでもなく魔法使いの顔色は悪かった)
勇者(そういえば、ゴブリンと別れ際にした会話ーー)
ゴブリン『ボウズ、お前にはいろいろ教えておきたいことがあるんだがな』
ゴブリン『また帰ってくるんだろ? そのときは旨酒を酌み交わそう』
ゴブリン『話したいことがある。ああ、だがこれだけは今言っておく』
ゴブリン『魔法使いのお嬢ちゃん。あの子、意気消沈してるだろ?』
ゴブリン『わからない? ……お前もオトコだろ?』
ゴブリン『困ってる女がいたら助けてやれ。
……理由? そんなもんいるか、クソ食らえだ』
857 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/29(土)02:42:42 ID:
Wqh
勇者(正直、俺にはよくわからないんだよな。でも)
勇者「あの、もしかして……落ちこんでる?」
魔法使い「へ? な、なんで?」
勇者「えっと、言ってた……その、ゴブリンが」
魔法使い「……なにそれ、ゴブリンさんに言われたから気づいたってこと?」
勇者「そう、なりますね。はい」
魔法使い「まあ、そうだよね。それでこそ勇者だよ」
勇者「あ、どうも」
魔法使い「ほめてない」
魔法使い「……私、前の戦いでまったく役に立たなかったでしょ? それで……」
勇者(なるほど、それで落ちこんでたのか)
勇者(……それで。こういうとき、どんな言葉をかけたらいいんだ?)