勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
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Part19
776 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/18(火)23:25:21 ID:
RTXIuDwGN
魔王「余が目指すものを、その目で確かめようというのか」
姫「そうよ。自分の目で見たいの、確かめたいの」
魔王「それは、つまり……」
姫「?」
魔王「そなたは余のやろうとしていることが正しいのか、見極めたいということだな?」
姫「いいえ、ちがうわ」
魔王「解せんな。では、なんのために?」
姫「誰かの出した答えの、答え合わせがしたいんじゃない」
姫「見つけたいの。自分で、自分なりの答えを」
魔王「自分なりの答え……」
778 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/18(火)23:38:52 ID:
RTXIuDwGN
魔王「だがその答えの行き着く先が、余と同じ道だとしたら?」
魔王「そなたはどうする? 迎合するのか? 結論を捻じ曲げるのか?」
姫「それも考えた。けど、わからないわ」
姫「だって少なくとも、あなたは勇者をたおそうとするのでしょう?」
魔王「余の目的において、勇者は最大の障がいのひとつ。片づけねばならん」
姫(そう、それだけは阻止しなければならない、必ず)
魔王「……見つめられても、その、困る」
姫「私の癖なの。言葉に詰まったとき、ついつい人の目を見てしまう」
魔王「……」
姫「あなたは逆ね。目があうと、必ず視線が泳ぐ」
779 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/18(火)23:41:55 ID:xCn9tp7ol
魔王に凄く親近感わくなあ
780 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/18(火)23:51:24 ID:
RTXIuDwGN
魔王「そなたが言ったとおり、目は雄弁に語る。迂闊に視線を合わせるのは危険だ」
姫「目があうと緊張するだけでしょ」
魔王「断じてちがう」
姫「今さら強がっても。って、今は目線の話は置いておくとして」
姫「私に見せてください。あなたの目指す世界の、ほんの断片でもいいから」
魔王「……」
姫(魔王は一瞬だけ視線をそらしかけて、でも最後には私と目線をあわせた)
魔王「いいだろう」
姫「本当に?」
魔王「なぜそこまで驚く?」
姫「いえ、だって。こんなあっさりと承諾してくれるなんて、思わなかったもの」
魔王「……。だが条件がある。
勇者のことを、なんでもいい。余に話せ」
781 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)00:02:47 ID:
LvYN0BBSj
姫「私、彼についてはそれほど詳しくはないわよ?」
魔王「知っている。だからなんでもいいと言っている」
姫「……あなたに似ている」
魔王「魔王である余と勇者が?」
姫「人見知りなところや、口下手なところ」
姫「もっとも彼は、あなた以上にコミュニケーションが苦手だけど」
魔王「いや、もっと他にないのか?」
姫「そんなことを言われても」
魔王「勇者に似ていると言われるのは、いささか以上に不快だ」
姫(同族嫌悪、とは言わない方がよさそう)
姫「……そうね。これは私の勝手な予想、勇者にはあなたのような意思はないのかも」
784 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)00:28:14 ID:
LvYN0BBSj
姫「魔王。あなたは自分たちの世界を、よい方向へ導こうとしてる」
姫「勇者は勇者で、あなたをたおそうと命懸けで戦ってる」
姫「でも、それだけ。自分の役割は魔王をたおすことのみ。その先は知らないって」
魔王「勇者の発言とは思えんな」
姫「それに、彼はこんなことも言ってた」
姫「まだ完全には決まってないけど、やりたいことがあるって」
魔王「その内容は知らないのか?」
姫「聞いたけれど、恥ずかしかったのかしら。答えてはくれなかった」
魔王「……さっぱりわからんな、勇者というのは」
姫「あなたにはあるの? やりたいって思うこと」
魔王「考えたことすらない。目指した世界のその向こう側、その先の自分など」
785 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)00:30:50 ID:
LvYN0BBSj
姫「すこし、似てるのかしら」
魔王「どちらなんだ? 勇者と余は結局、似てるのか似てないのか」
姫「今のは勇者のことじゃなくて。似てるって思ったのは……私のこと」
魔王「姫、と?」
サキュ「魔王さま。失礼します」
魔王「……卿が来たということは、奴らは来たのだな?」
サキュ「はっ。すでに準備は整っております」
魔王「わかった」
姫「どこへ行くの?」
魔王「決まっている。戦いだ」
786 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)00:35:31 ID:JX07PruuV
いよいよか
787 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)00:38:29 ID:
LvYN0BBSj
姫(あっという間に魔王は出て行ってしまった)
姫(広い空間に残ったのは、サキュバスと私だけ)
サキュ「姫さま。あまり長い間、ここにはいないほうがいいよー」
姫「待って。あなたたちはどこへ?」
サキュ「魔王さまが言ってたでしょ、戦いだって」
姫「戦いって……」
サキュ「そう。人間と私たち魔族の闘い」
サキュ「魔王さまが目指してるのはさ、ある種の人間と魔族の共存だけど」
サキュ「魔族と人間だもの。どうやったって争いは避けられないよねえ」
姫「……」
サキュ「じゃあね、姫さま。今夜は早く寝てちょうだいね」
788 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)00:44:41 ID:
LvYN0BBSj
◆
姫(あのやりとりから、数時間)
姫(いつもは魔物の気配であふれてるこの城も、凍ってしまったみたいに静か)
姫(もちろん、もぬけの殻ってことはないでしょうけど)
姫(戦い……まさか勇者と?)
姫(でも魔王の傷は、まだ癒えてはいないはず)
姫(ここまで慎重を期してきた魔王が、万全じゃない状態で挑むとは思えない)
姫(……)
789 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)01:15:05 ID:
LvYN0BBSj
◆
?「すばらしい。これが勇者さまの力」
猫(……これが、勇者?)
魔物がまた一匹、勇者によって振り下ろされた剣によって消滅した。
切り裂かれたなんて生易しいものではない。文字通り、消滅したのだ。
勇者「無駄だ」
勇者の言うとおりだった。
鳥の肉体に蛇の頭部をもった異形の魔物は勇者に飛びかかったが、触れることさえかなわない。
見えない壁に阻まれたように、魔物はあっさりと地面を転がった。
?「これが勇者の力。そして、『勇者の剣』の力……」
勇者が再び剣を振り抜く。それだけの動作だったのに。
波のように空気が揺らめきわずかに遅れて空間が爆ぜる。
魔物の群れが為すすべもなく、吹き飛ばされていく。
たったひとりのこの男によって。
790 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)01:24:24 ID:JX07PruuV
あれ?強すぎない?
791 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)01:40:07 ID:
LvYN0BBSj
猫(あれだけの数が……)
魅せられていたのか、自分は。
失せかけていた時間の感覚がようやく蘇ったときには、すでに魔物は全滅していた。
猫(そうだ、これが勇者なんだ)
これまでの旅で生まれた疑問は、今、氷解した。
なぜこの勇者が魔王と渡り合えたのか。単純な話だ。強いのだ、勇者は。
この勇者の力はーーたしかに魔王の敵となる。
?「本気の勇者さまには役不足でしたね、この程度の魔物たちでは」
勇者「まだやるのか」
?「いいえ、さすがにもう駒は尽きてしまいました。
それに。勇者様のおかげで片づけは済みましたので」
?「ですが、不思議ですね。どうしてあなたは、今までも本気を出さなかったのでしょうか?」
勇者「……」
792 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)01:52:13 ID:
LvYN0BBSj
?「そして、もうひとつ疑問が」
?「なぜ勇者さまは、今すぐに私に襲いかからないのでしょうか?」
猫(たしかに。こんなやりとりの前に、勇者なら行動不能にすることぐらい……)
?「まあ、いいでしょう。あなたをたおす役目は私じゃない」
?「機会があればまたお会いしましょう、勇者さま」
猫(魔法陣が再び光る。ヤツは溶けるようにあっさりと消えてしまった)
勇者「……ぷはぁっ!」
猫「うわっ! なんで急に座りだすにゃん?」
勇者「バテてる場合じゃないな、さっさとゴブリンたちのとこへ行かないと」
猫「わけがわからん。今のお前の強さはいったい?」
勇者「今のは俺の力であって、俺の力じゃない」
猫「わかるように説明してくれにゃん」
793 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)01:56:24 ID:JX07PruuV
うん?
794 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)02:06:58 ID:
LvYN0BBSj
勇者「……まあ、いいか。走りながら説明する」
勇者「普段から俺は本気だ。イレギュラーなのは、今回の俺のほうだ」
猫「『勇者の剣』が関係してるってことか?」
勇者「そう。この剣、簡単に言うと自分の魔力を溜めることができるんだよ」
勇者「普段からすこしずつ、自分の魔力を溜めておく」
猫「で、ここぞって場面でぶっぱなすわけか、その魔力を」
勇者「極端に簡単に説明すると、そんな感じ」
猫(極端に簡潔に説明してるのは、剣の秘密を守るためだろうにゃあ)
勇者「だけど、おそらく今度ので剣に注いでおいた魔力はゼロになった」
勇者「さっきの戦いや魔王戦のときの俺は、言ってみればある種の奇跡だ」
勇者「ったく、焦りすぎた。冷静じゃなかった」
795 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)02:17:58 ID:
LvYN0BBSj
勇者「そのうえ、魔術が使えなかった原因はわかっていない」
猫「しかも、その剣にたよると体力的にも追いこまれるみたいだにゃあ」
勇者「魔力の負荷が極端にかかるからな。からだがついてこない」
魔物「ぐるあああぁっ!」
猫「さらにタイミング悪いことに、新手だにゃん」
勇者「この状況で!」
猫(さっきまでの強さが嘘みたいだ。誰が見ても、フラフラの状態)
猫「もう一度、似たようなことはできないのか?」
勇者「それができるなら、今までだって『勇者の剣』は大活躍だよ」
796 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)02:54:47 ID:
LvYN0BBSj
猫(この状況。俺様はどうするべきか)
魔物使い「ならっ! ここはオレの出番っすね!」
勇者「魔物使い!?」
魔物使い「勇者さんのピンチにかけつけるオレ、マジでグッタイミング!」
勇者「えっと……」
魔物使い「大丈夫っすよ。自慢じゃないけど、オレ自身は戦えないんすよ」
猫(なにしに来たんだコイツ)
魔物使い「オレには最高の相棒がいるんでーーゴーレム!」
魔物「がはっーー」
猫(突如空から降ってきた人間サイズの土人形が、魔物にのしかかった)
797 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)03:10:36 ID:
LvYN0BBSj
勇者「これって……」
魔物使い「どうです、強いでしょう? オレの相棒のゴーレムっす!」
魔物使い「生物に限りなく近い、人工生命体。土の戦士っす」
猫(ぱっと見は人間の形をした泥人形だが、そこそこ強いみたいだな)
魔物使い「ていうか聞いてくださいよ」
魔物使い「戦士さんと女騎士さんに、役立たず呼ばわりされたんすよ」
魔物使い「悔しすぎて、宿に隠していたコイツを連れてきちゃいました」
魔物使い「いやあ。しかし、ひとりで魔物だらけの街を歩くの、めっちゃ怖かったっすよ」
勇者「……待った。宿に行ったの?」
魔物使い「そうっすよ。あっ、二人のことなら大丈夫っすよ!」
魔物使い「用意したゴーレム、実は三体いたんで宿にも置いてきたっす」
猫(どこに隠してたんだよ、このゴーレム)
798 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)03:15:51 ID:
LvYN0BBSj
勇者「じゃあ、あの二人は……」
魔物使い「大丈夫っすよ。騎士さんの仲間も来てましたし」
魔物使い「ていうか、なんで勇者さんは一人でいるんすか?」
勇者「ああ、それは……」
猫(そこから先を、なぜか勇者は口に出さない)
魔物使い「ゆ、勇者さん!? し、しっかり!」
猫「これは……」
勇者「……」
猫(『勇者の剣』を使ったせいなのか。それともべつの理由なのか)
猫(勇者はそのまま気絶してしまった)
799 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/11/19(水)03:16:03 ID:
LvYN0BBSj
つづく
800 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)07:54:55 ID:RfqDltRbG
魔王との戦闘の前に貯めてたパワー使ってしまったとか大丈夫か
801 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)09:00:06 ID:2dVqldpbh
役不足→力不足
続きまた楽しみにしてる
802 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)09:59:42 ID:kxPUkzJai
>>801
勇者に対する魔物たちの役が不足してるってことだから合ってるような気がするが
力不足でもあるけど
803 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)10:09:12 ID:IwBwqyxui
この場合は正しいよ。
力不足のほうが変。
私の力不足ですみません、とか言う場合に使うよね。
要するに?は魔物に対して同等じゃなく上の立場だから力不足じゃ変。
この場合役者不足なら誤用だけど。
って一々表現に対して突っ込む上に間違うのも無粋なら、わざわざ指摘するのも無粋だからこの辺で。
804 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)10:11:54 ID:IwBwqyxui
文章の前後から役者不足でも意味通じるから勇者にとってなら役不足、魔物にとってなら役者不足。
この辺でとか言っといて追記失礼。
805 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)12:48:17 ID:lPTqLOPaL
力不足だと魔物が強い意味になるから間違いだな
姫様には頑張ってほしいな
806 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/19(水)15:53:38 ID:noSSsCSEt
永遠に続いて欲しいな
終わりになんてしないで番外編とかもお願いします!
824 :
はい◆N80NZAMxZY :2014/11/27(木)05:38:19 ID:
Vxf
◆
魔法使い「さすが僧侶ちゃん! また魔物をやっつけちゃった」
僧侶「魔法使い様。ひどいことを申し上げてもよろしいですか?」
魔法使い「なあに?」
僧侶「けっこうジャマです、いい意味で」
魔法使い「……ですよねえ。魔術を使えない私なんて」
僧侶「隠れていてください。なるべく早く終わらしますから」
魔法使い「……ごめんなさい」
魔法使い(魔物が突然動きをとめた。私の術とちがって、僧侶ちゃんのは発動してる)
魔法使い(それだけじゃない。身のこなしも私なんかより全然軽い、魔物を次々とたおしていく)
魔法使い(それに比べて私ったら。足を引っ張ることしかできない)
魔物「ううぅ……」
僧侶「キリがないですね、これでは」
825 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)05:42:10 ID:
Vxf
魔法使い(これじゃあ宿にたどり着く前にやられちゃう。どうすれば)
戦士「芳しくないようだね、二人とも」
女騎士「あれだけ捌いたのに、まだ湧いてくるのか」
魔法使い「戦士! 女騎士さんも!」
戦士「僧侶ちゃん。キミはすこし休んでいていいよ」
僧侶「だいたいの状況は把握されてるようですね」
戦士「もちろん。ボクらも魔術が使えなくなって、あたふたしてたからね」
戦士「魔法使いは術を使えなくて、お手上げ状態ってとこかな」
魔法使い「……そうだけど」
戦士「まかせてよ。ここはボクと女騎士が片づけておくよ」
魔法使い「だけど、術が使えないんじゃあ……」
戦士「術が使えなくても剣がある。剣が折れたら拳を。拳が砕けたら足を」
戦士「まあ見てなよ、このボクの活躍をねーーいこうか」
女騎士「貴様に言われるまでもない」
827 :
名無しさん@おーぷん :2014/11/27(木)05:54:46 ID:
Vxf
女騎士「貴様ら魔物の存在はこの街にとって害悪だ。容赦はしない」
魔法使い(なんて素早い! でも、空を飛ぶ魔物に剣だけで挑むなんて……あっ!)
魔法使い(突き立てた剣を足場に。さらに足を絡めて魔物を地面に叩き落してーーもう一本の剣で仕留めた!)
戦士「久々に見たけどキミの戦い方はすごいね。マネできないよ」
女騎士「鍛えたからな。あの男に徹底的に打ちのめされたのを機に」
女騎士「そういう貴様こそ。魔術の訓練は相当したようだな」
戦士「そうかい? 昔からボクの腕はピカイチだよ」
魔法使い(戦士は戦士で魔術なしでも、魔物を圧倒してるし)
戦士「最後はあのグリフォンもどきか。けど、ここからじゃ届かないな」
女騎士「魔物め、臆病風に吹かれたか」
戦士「おっかない女が下で待機してるからね」
女騎士「おっかない? 二人とも、そんなふうには見えないが)
戦士「……キミってときどきボケるよね」