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勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」
Part14


575 :はい◆N80NZAMxZY :2014/11/04(火)01:10:21 ID:rel6Cv8jK

魔王「これですこしは満足できたか?」
リザード「……っ」
魔王「余の言いつけを無視しあまつさえ、勝手に勇者と交戦したこと」
魔王「今回だけは不問に付す。だが、次はないと思え」
リザード「はっ!」
姫(呼び出されて魔王の間に入ったら、リザードマンが床に膝をついていた)
姫(広間が滅茶苦茶になってる。戦いらしきものがあったのは、あきらかね)
魔王「サキュバス、卿は残れ」
サキュ「了解しました」
姫「呼び出されたから来たけど、いったいなにが……」
魔王「気にすることはない。こちらの問題だ」

576 :はい◆N80NZAMxZY :2014/11/04(火)01:11:04 ID:rel6Cv8jK
姫「それで? ここに私を呼び出して、なんの用ですか?」
魔王「これから話す。しばし待て」
サキュ「お冷になります、魔王さま」
魔王「うむ」
姫(魔王がひたいをぬぐって、水を飲んでる……今の戦闘がこたえたのかしら?)
サキュ「すごい汗ですわ。いまだに緊張なさるんですか?」
魔王「むぅ、いつもこれだ。リザードマン相手だとつい暴力ですましてしまう」
魔王「こういうとき、緊張して回らなくなる自分の舌が嫌になる」
サキュ「口下手なのは今に始まったことじゃないですよ、魔王さま」
姫(その冷や汗は戦いが原因じゃなくて、人見知りが原因なのね)

577 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:12:12 ID:rel6Cv8jK
魔王「姫よ。この世界、五つにわけられることを知っているか」
姫「ええ、いちおうは」
姫「第一の世界。人間たちの世界」
姫「第二の世界。魔物たちの世界」
姫「第三の世界。人間と魔物が共存する世界」
姫「第四の世界。エルフやヴァンパイアといった、存在自体が珍しい魔物の世界」
姫「そして第五の世界。いわゆる未開拓地、フロンティア」
姫「もっとも第三世界はごくわずかしか存在してない」
姫「第四世界に関しては住民も含めて存在自体があやしい」
姫「第五世界も、まだ残っているのかは定かではない」
魔王「そのとおりだ」

578 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:13:01 ID:rel6Cv8jK
魔王「いつか余が言った言葉、おぼえているか?」
姫「もしかして『手伝ってほしい』のこと?」
魔王「おぼえていたか」
姫「あのときは聞けなかったけど手伝ってほしいって、なにを?」
魔王「そなたの術だ。余が築く世界のためにその力、使わせてほしい」
姫「本気で言ってるの? 理解できない、私の術は……」
魔王「インプリンティング。
   対象にした生物の思考に、無意識レベルの刷りこみができる」
姫「……前にも疑問に思ったわ。どうして私の力を知ってるの?」
魔王「答えるつもりはない。だがそなたの能力の使い道、それには答えよう」
魔王「簡単な話だ、新たなる世界の住人たちの思考を書き換えるためだ」

579 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:13:34 ID:rel6Cv8jK
姫「……あなたのねらい、だいたい理解できたわ」
魔王「余が築く世界において、人間は魔族の支配下に置かれる」
魔王「だがこれまでの歴史において、人間と魔族は常に対立してきた」
魔王「それどころか近年では、魔族の世界は人間の手に落ちようとしている」
姫「人間を支配下に置いたとしても難しいでしょうね、私たちを服従させるのは」
魔王「宗教や教育で人々の思想を操るにも限界がある」
魔王「だからだ。そなたの術で、人間の意識を塗り替えるのだ」
姫「……私が従うとでも思って?」
魔王「逆に聞こう。させられないとでも?」

580 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:14:24 ID:rel6Cv8jK
姫(私の力はインプリンティングのほかに、もう二つある)
姫(それすらも彼は把握しているのか。聞き出すべき?)
魔王「どちらにしても、そなたの能力が必要になってくるのは先のこと」
姫「……」
魔王「サキュよ、姫を部屋にまで連れていけ」
サキュ「かしこまりました」
姫(私はそれ以上、言うべき言葉を見つけられなかった)
姫(魔王の顔を見ても、私には彼の表情の変化すら読み取れなかった)

581 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:15:23 ID:rel6Cv8jK

サキュ「あーん、やっぱり姫さまのベッドやわらかーい」
姫「……」
サキュ「あら、お姫様。かわいい顔がこわーい」
姫「……魔王が言ってたこと、あれは本当なの?」
サキュ「あたしは聞いたことない、魔王さまの口から出たジョークなんて」
サキュ「ていうか今日の魔王さま、すごく流暢に話してたと思わない?」
姫「そうかも、しれません」
サキュ「ずっと練習してたのよ、姫様とお話するために」
姫「魔王が?」
サキュ「そう。あなたと話すために、あたしといっしょにねー」
姫「しゃべることを練習する魔王、なんだか不思議ね」

582 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:16:08 ID:rel6Cv8jK
サキュ「滑稽だと思わない?」
姫「え?」
サキュ「魔王さまはあたしたちにとって、唯一無二の存在なの」
サキュ「そんな存在が、一人の人間のためにおしゃべりの練習をしてたの」
姫「……」
サキュ「あの方は口下手だし、考えてることも全然読めない」
サキュ「だけどはっきりとした意志がある」
サキュ「それだけじゃない。あなたたち人間さえも、可能な限り救おうとしてるの」
姫「私にあなたたちの味方をするなんて……無理です」
サキュ「どうして?」
姫「それは……」

583 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:16:50 ID:rel6Cv8jK
サキュ「こんなこと、あたしが言うのもなんだけど」
サキュ「あなたって今までの人生で、自分で決めた選択肢ってあるの?」
姫「あ、あなたこそ! ただ魔王に従ってるだけでしょ!?」
サキュ「あたしはそうよ。魔王さまの命に従うだけ」
サキュ「でもそれは、あたしが決めたこと。あたしがそうしたいから、そうするの」
姫「……どうして? どうして魔王に?」
サキュ「命を救われたの、あの方に」
姫「……だから従うの?」
サキュ「……そうね、あなたにだけ。特別に教えてあげる」
サキュ「あたしね、もともとは人間だったの」

584 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)01:16:59 ID:rel6Cv8jK
つづく

586 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)09:33:05 ID:S73RtJTn4
えっ!サキュバスねーさん人間だったのか!

587 :名無しさん@おーぷん :2014/11/04(火)12:28:30 ID:VshyqgAV0
姫様の能力地味にすごいな

590 :はい◆N80NZAMxZY :2014/11/05(水)00:26:24 ID:hFCJ8xQuC
姫(限りなく人間に近い容姿をしている、とは思っていた。でも……)
サキュ「あー、うん。だいたい予想通りの顔してる」
姫「突然、魔物が自分は人間だったって言ってきたのよ。驚かないほうが無理よ」
サキュ「でーも、事実だもん」
姫「信じられないわ」
サキュ「まあね。でもさ、魔族の研究って年々進んでるじゃない?」
サキュ「今では魔族を操ることができる人間もいるんでしょ?」
姫「詳しくは知りませんが。近年になってそういう職業が生まれたことは耳にしています」
サキュ「そして魔族は、人間以上に魔族の研究を進めてきた」
サキュ「特に人間を支配下に置いていた時代、人間と魔族の研究が同時に行われていた」

591 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)00:27:23 ID:hFCJ8xQuC
サキュ「あたしはその研究の副産物ってわけ」
サキュ「物心つくころには、両親も頼れる親戚もいなかった。そのうえ、戦争孤児」
サキュ「で、その戦争で死にかけたあたしを拾ってくれたのが、魔王さまだった」
姫「……あなたはそれで、魔物になったっていうの?」
サキュ「そっ。あたしは人間から淫魔に生まれ変わっちゃってわけ」
姫「……」
サキュ「でもね、あたしには選択肢がふたつあったの」
サキュ「魔族に成り代わって、あらたな人生を歩む。
    治療してもらって、人間のまま今までどおりに生きる」
姫「そしてあなたは……」
サキュ「うん、あたしは魔族になることを選んだ」

592 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)00:28:20 ID:hFCJ8xQuC
姫「理解できないわ。あなたは人間だったのでしょう? どうして?」
サキュ「あのとき、考えたのよ。自分が仮に戦争で負傷しなかったらって」
サキュ「おそらく、ひどい目にあうってことは容易に想像がついた」
サキュ「戦争の渦中に放り投げられた天涯孤独の幼い子ども」
サキュ「どのみち、長くは生きられなかったでしょうね」
サキュ「生き残ったとしても、そのために必要な犠牲を考えたら、ね」
姫「……あなたは後悔してないの?」
サキュ「ここまで来るのに色々あったけど、うん」
サキュ「後悔はしてないーーだって、自分で選んだ道だもん」
姫(本人が言ったとおり。サキュバスの笑顔には、一片の後悔も見えなかった)

593 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)00:32:56 ID:hFCJ8xQuC

?「お食事の時間になりました、姫様」
姫「……」
?「お昼の食事にも手をつけていませんでしたが。食べてもらわないと、困るんですがね」
姫「……私の父は、私を生むのをためらったらしいの」
?「なんのことでしょうか?」
姫「父上は様々な土地をめぐり、たくさんの人々と交流したの」
姫「民の上に立つ以上、民を知らなければならない。これが父上の口癖だった」
姫「だけど、後継ぎの子どもが生まれれば政務に拘束されることになれる」
姫「もっとも、周りに促されて私を生むことになったけど。父上は私にいつもこう言ってた」
姫「『お前にも、少しでも早く世界を知ってほしい』って」

594 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)00:38:05 ID:hFCJ8xQuC
姫「だけど、幼い私を外の世界へと連れ出すことを、周囲は反対した」
?「大事な後継者です、万が一があってはならないでしょう」
姫「……私はなにも知らないまま、ここまで生きてきてしまった」
?「焦る必要はないでしょう。あなたの人生はまだこれからなんですから」
姫「ええ、私もずっとそう思ってた。将来のために学問も学んできた」
姫「だけど……」
サキュ『あなたの意思、それってホントにあなたの意思?』
サキュ『あなたって今までの人生で、自分で決めた選択肢ってあるの?』
サキュ『後悔はしてないーーだって、自分で選んだ道だもん』
姫(私は……私は……)
姫「ーーあああああああああああああああああああああああああああ!」

595 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)00:40:02 ID:hFCJ8xQuC
?「……姫様?」
姫「……頭の中がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなくなったら、天井に向かって叫べばいいって」
姫「ある人が、そう教えてくれたの」
?「はぁ、そうですか。
  ……姫様、どこへ行くつもりでしょうか?」
姫「魔王のところよ」
?「……」
姫(正直、まだ頭の中はぐちゃぐちゃで、なにがなんだかわからない)
姫(でも、もうじっとなんてしてられない!)

596 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)00:45:56 ID:Lwr309u2E
?は誰なんだ気になる

597 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)01:32:47 ID:hFCJ8xQuC

魔法使い「あのぉ……その、ほんと、すみませんでした……」
勇者「……」
戦士「……」
猫「……」
魔法使い「ううぅっ、みんな冷たいよお! ツララみたいだよぅ、僧侶ちゃん……」
僧侶「私もなんて言ったらいいか……」
戦士「そりゃあね、文句も言いたくなるよ」
戦士「見知らぬ場所に連れてかれた挙句、一日中さまようことになったらね」
魔法使い「ううぅ……」
勇者(いったいなにがあったのか、簡潔に説明しよう)

598 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)01:33:38 ID:hFCJ8xQuC
勇者(魔法使いが空間転移魔術の練習をしようと言い出したのが、事の始まりだった)
魔法使い『空間系魔術、その中でも転移系の魔術の練習をしたいんだよね』
魔法使い『転移の魔術は、基本的に魔法陣がふたついるの』
魔法使い『どうしてかって? その魔法陣を行き来するのが転移系の術だから』
魔法使い『まあ魔法陣ひとつでも、できないことはないんだけどね』
魔法使い『ただ、どこに飛ぶかわかんないんだよね、魔法陣がひとつだけだと』
魔法使い『厄介な敵をどこかへ送り届けちゃう、なんて使い道はあるけどね』
魔法使い『とりあえず時間がもったいないし、さっさと練習しちゃおっ』
勇者(冷静に考えると、この術の練習に俺が付きあう必要なかったよなあ)
勇者(しかも病室を抜け出した戦士と、猫まで練習の場にいた)
勇者(練習の場所は病院の屋上。魔法陣は屋上と、病院の入口に施したらしい)

599 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)01:34:29 ID:hFCJ8xQuC
勇者(で、魔法使いが空間転移の術をやった結果)
勇者(俺たちは見知らぬ場所にいた。荒れ果てた荒野のような場所だった)
勇者(丸一日さまよっても、町や村にもたどりつかず、人にすら遭遇しなかった)
勇者(結局魔法使いが何度も術のトライをして、ようやく病院に帰ってこれた)
戦士「とにかく。今後、空間系魔術の使用は禁止だからね」
魔法使い「えー……」
戦士「『えー』じゃないっ」
戦士「そもそも、こっちとら病人なんだよ。今回の件で入院が長引いちゃったし」
魔法使い「……ごめんなさい」

600 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)01:35:56 ID:hFCJ8xQuC
猫「ったく、俺様の足が棒になりそうだったにゃん」
勇者(お前はほとんど俺の肩に乗ってて、歩いてないだろうが)
僧侶「この話はここまでにしませんか? 魔法使い様も反省していますし」
魔法使い「うん、私ってばすごく反省してるよっ!」
戦士「……」
勇者「……」
魔法使い「……ごめん。これからもっと反省します」
戦士「まあ、過ぎたことに拘泥するのはよくない。今度からは気をつけてね」
魔法使い「はい! 『……次の転移系術の練習場所と方法を考えなきゃなあ』」
勇者(こいつ、反省する部分を間違えてるぞ)

601 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)01:47:15 ID:hFCJ8xQuC
戦士「まあ、かわいいナースにお世話になれると思えば、それほど悪いことでもないかもね」
勇者(こうしてる間にも姫様は……って考えたら、そんなこと言ってられないけどな)
勇者(戦士いわく、人質だから殺されることはないそうだけど、心配だ)
コンコン
勇者(ノック……ナースか?)
戦士「はいはい、どうぞ勝手に入ってー」
女騎士「失礼する」
魔法使い「あっ、あのときの騎士さん」
戦士「おや、まさかキミがボクのお見舞いに来てくれるなんてね」
女騎士「見舞いに来たのではない。用件があってきたんだ」

602 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)01:59:37 ID:hFCJ8xQuC
戦士「用件ね、デートのお誘い?」
女騎士「私も暇ではないんでな。手短に話すぞ」
戦士「つれないなあ」
女騎士「おそらくお前たちは、すでに次の行き先を決めていることだろう」
魔法使い「はい、もう教会にも伝えてます」
女騎士「その行き先、変更してほしい」
戦士「それは、上からの命令ってことでいいのかな?」
女騎士「ああ。次にお前たちが行くのは、『柔らかい街』だ」

603 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)02:00:16 ID:hFCJ8xQuC
魔法使い「柔らかい街? 変な名前……。
     ていうか、どこ?」
女騎士「あとで説明する。それから私ともうひとり、お前たちに同行させてもらう」
僧侶「勇者様、なんだか変な顔になっていますよ」
勇者「……」
勇者(そりゃあ、変な顔にもなる。俺はこの女騎士がすごい苦手だった)
勇者(それに。柔らかい街は、俺にとって非常に思い出深い街でもある)
勇者(柔らかい街。そこは、数少ない魔物と人間が共存する場所だった)

604 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)02:00:28 ID:hFCJ8xQuC
つづく

605 :名無しさん@おーぷん :2014/11/05(水)03:28:18 ID:N28oyBnZI
魔法使いやらかしてんな