Part51
352 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:05:19.70 ID:ItGBpRpK0
メイ「埒が明かないわねっ、もうっ!」
クルル「あの中に、アルスは、いるの?」
九尾「そうだ。同化の度合いが過ぎて、今はああなっているだけだ」
ケンゴ「その同化ってのを止めさせるにゃどうしたらいいんだ」
九尾「……ははっ」
困ったように九尾は笑った。だがそれは同時に楽しそうな笑みにも見えた。
九尾「それをこれから探すのだ。とりあえず、ぶん殴り続けていればなんとかなるだろう!」
リンカ「そんなんでいいの?」
メイ「うわ、脳筋! でもアタシ嫌いじゃないかも!」
クルル「わかった。殺さない程度に……殺す」
光の矢の展開。そして放たれるインドラ。
四肢しか残らずともアルスはそこから復活できる。復活。復活、復活、復活。治癒でも蘇生でもなく、復活。流石に手足それぞれから本体が生えて計四体とはならないまでも、大同小異、脅威には変わりない。
353 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:05:56.31 ID:ItGBpRpK0
アルス「ご都合主義だって言ってんだろぉがあああああっ!」
刃の形をした瘴気をアルスはまき散らす。即座に九尾とセント、グローテが障壁を展開、嵐のようなそれらを弾き飛ばす。相手が立ち止まったその隙をついて接近、対象はセント。
アストロンで鋼鉄化したセントの腕を、けれどアルスは容易く切り裂いた。骨が見えるほどに深く切りつけられて地面に赤い花が咲く。
クルル「インドラ」
またも雷がアルスの体を食らった。それでもアルスは止まらない。すぐさま復活するその加護を最大限に利用してメイへと躍り掛かった。
触れるだけで蒸発する雷の鎚を防御することは叶わない。削り取られていくアルスの体と、同時に再生もするそれ。刀剣、砲弾、魅了で攻め立てるが……しかしそれらはどれも、嘗てメイが見たことある攻撃だ。
メイ「二番煎じなんて、アタシにゃ効かないっ!」
アルス「これならどうだよっ!」
鋭い瘴気が剣山のようにメイを襲う。
メイ「とろくって欠伸が出るわ!」
354 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:12:27.44 ID:ItGBpRpK0
大きくトールハンマーを振って一回、返す刀でもう一回、軌道上にある全ての瘴気を蒸発させて、メイは開けた空間に飛び込んだ。
アルスの顔が露骨に歪む。痛みはないが、いくら復活してもそのたびに消滅していくようじゃ埒が明かなかった。進んだ距離の分消滅していくのだからたまらない。
背後からの火球を察知して回避。着地点から冷気が吹き出し、地面と彼の足をまとめて氷漬けにしようとしたので、行きつく暇もなく再度地を蹴った。その先には九尾が待ち構えている。
同時に翳る進行方向。光の矢が、背後から!
アルス「ちくしょ、ちくしょう! ちっくしょおおおおっ!」
体を穴だらけに消し飛ばされながら、アルスはーー否、魔王の意思は呪詛を吐く。
アルス「くそ、ふざけんな! 多勢に無勢! 劣勢を何度もひっくり返して、俺がその上から叩き潰そうとしても、さらになんとかしやがる!」
アルス「なんでだ! なんでこうなった! くそ、結局こうか、結局そういうことかよ、あぁふざけんな! 運か! 運なのか!」
戦闘能力においては互角だった。もしくはこの人数差を加味してもなお彼の方が上かもしれない。
だが、事実、追い込まれているのは自分の方だ。
355 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:15:23.58 ID:ItGBpRpK0
なにせこいつらときたら倒しても倒しても起き上がってきやがる。腕はもげ、体中血塗れで、魔力だって枯渇寸前。けれどそんなあいつらの下にはどんどん新しい仲間がやってきて、自分を打ち倒そうと立ちふさがる。
だからあんな顔もできる。あんな希望に満ち溢れた顔も。
信じられない。何かが絶望的に間違っている気がした。そして、もし間違っているのだとすれば、それは自分ではなくあちらなのだ。こちらは一人で戦っている。あちらは大勢。運が良すぎる。ずるいくらいに。
神は自分のことを見捨てたのだろうかと彼は思った。魔王が神に祈るだなんておかしいかもしれない。けれど、いまだに彼は一片たりとも自分のことを疑ってはいなかった。
アルスの絶望に救う彼は、その憎悪だけを身に纏っているから。
アルス「俺は、俺が世界を救うんだ! この世界をぶっ壊して!」
アルス「偶然に味方されてきたてめぇらとは違う!」
356 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:15:55.98 ID:ItGBpRpK0
九尾「この大阿呆がっ!」
横から突っ込んできた九尾がアルスの顔面を華麗に蹴り飛ばす。首の骨の折れる音が聞こえたが、アルスにはなんてことはない。受け身を取りながら体勢を立て直した。
アルス「……殺すっ」
突っ込もうとしたアルスの肩を、セントが掴んでいる。
セント「きみは何を言っているのだ?」
静かな声音に怒気を孕ませ、セントは言った。
鋼鉄化した拳がアルスの顔面にめり込む。
体勢を崩した身体を氷塊が空中で磔にする。手足の先端が氷の中に呑みこまれ、微塵も動かすことができない。
リンカ「こんな簡単なこともわからないなんて、可哀そうだわ!」
リンカが吐き捨てる。血に塗れた彼女の顔は、それでもどこか満足げだ。
砲弾をリンカに放つが、それは割り込んできたケンゴによって受け流される。彼の手の中で彎刀の刃がぎらりと光った。
ケンゴ「本当にな。あんたの敵は俺たちじゃねぇってのに!」
357 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:16:24.83 ID:ItGBpRpK0
もう一度砲弾であの小娘をーーアルスは一瞬考えたが、そんな暇などとうに失していることに、眼前を見て気が付いた。
早く逃げなければ。アルスの全身を焦燥が包む。
早くあの太陽から逃げなければ!
グローテ「ご都合主義? 運? 偶然じゃと?」
グローテ「やはりお前は何もわかってはおらなんだ! 全て必然よ!」
太陽がアルスに激突する。瘴気が暴れ、飲み込まれ、焼けていく。復活した箇所からまた焼け、一向に全身が戻る気配はない。
激痛の中での唯一の幸運は太陽の熱で氷の緊縛が解けたことだ。体の半分が焼け落ちながらもアルスはいったん距離を置いて、太陽に対してメイルストロムを放った。威力を弱め、方向を歪める。
アルス「くっ、必然だと、また九尾、お前か!」
アルス「お前が仕組んだことなのかっ!」
メイ「違うに決まってんでしょ、このばか!」
クルル「頭でわからないなら、体にわからせるだけ」
358 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:16:51.87 ID:ItGBpRpK0
二人が神速で走り出す。雷をその身に新たに宿した二人の速度はまさに電光石火。紫電に勝るとも劣らない、疾風の動き。
前後から同時に迫る二人に対し、アルスは横っ飛びでひとまず離れようとするが、脚の復活が追いついていない。間に合わない。
メイ「あんたは言った! 手を取れって! 幸せにしてやるって! 忘れたわけじゃあないでしょ、そうでしょアルス!」
クルル「アルスは言った。強く在るって。絶対助けに来てくれるって。忘れたわけじゃないでしょ、そうでしょ、アルス」
メイ「みんなアンタのことが好きなんだ! アタシだけじゃない、クルルさんだけじゃない! だからこれは、アタシたちが今ここにいるのは、偶然なんかじゃない!」
クルル「アルスは今まで誰かのために頑張ってくれた。だから今、みんながアルスのために頑張ってくれてる」
359 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:17:37.68 ID:ItGBpRpK0
ケンゴ「アルス」
リンカ「アルス」
セント「アルス」
グローテ「アルス」
九尾「あぁわかったとも、名前を読んでやるさ!」
九尾「アルス!」
メイ「聞こえるアルス!? みんなの声が!」
クルル「魔王。あなたはアルスに負けたんだ」
メイ「いつまで寝てんのよ! この寝坊助!」
クルル「アルスの努力が、世界を救う」
光が満ちる。
彼の前からはメイがトールハンマーを持って。
彼の後ろからはクルルがインドラを構えて。
アルス「ーーーー」
魔王が何かを叫んだ。しかし、その言葉は、二人の少女の絶叫によってかき消される。
「「これで、終わりだ!」」
二つの雷がアルスを貫いた。
瘴気が大きく揺らいで、瞬いて、散っていく。
360 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/05(月) 12:18:25.56 ID:ItGBpRpK0
メイ「一緒に帰ろう」
クルル「今度こそ、世界を平和にしよう」
「おうよ」
そう言って、アルス・ブレイバはにこりと笑い、倒れた。
空がどこまでも晴れていた。
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363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/05(月) 12:50:39.51 ID:DSQqHl64o
九尾さんの解説頼もしすぎる
364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/05(月) 13:16:02.28 ID:TFL5lQuAO
なにこれ鳥肌がヤバい
展開がアツすぎる
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/05(月) 21:54:07.10 ID:29SRUMMuo
乙としか言いようがない
366 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:04:17.01 ID:my85F8W40
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「ありがとうございました」
俺は二人ーークルル・アーチとメイ・スレッジの二人に頭を下げた。二人ははにかみながら「どういたしまして」と言って、お互いの顔を見合わせる。そして、笑った。
花の咲いたような笑顔だった。
彎刀の柄を握り締める。確かめるように。そこに親父が宿っているのじゃないかと思ったからだ。そうでなければ、俺がこの戦いを生き延びられた理由など、どこにも見つけられない気がした。
「ありがとう」
もう一度呟いた。二人はアルス、老婆と既に合流して、俺の言葉は聞こえていないようだった。
二人は知っているのだろうか。俺のありがとうが、単なるありがとうではないことに。
アルスにまつわるそれだけではないことに。
俺の命を助けてくれてありがとう。
数年を経ての再開。勿論彼女たちはそんなこと覚えてやしないだろうけど。
大きく息を吸い込んだ。
焦げの臭いがする。
強くならなくては。
「行くか」
「そうだね」
リンカは地平線へとぼんやり視線を投げ、まるで何も気にしていない風を装って、そう言った。
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367 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:10:52.55 ID:my85F8W40
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さぁ、どうしたものだろうか。地平線を見ながらわたしは思う。
視線を遮るものは何もない。わたしの行く末を遮るものも、また。
アカデミーに戻ろうか。世界を救っていただなんて先生に言ったらなんて顔をするだろう。驚いて、すぐに病院にぶち込まれるに違いない。本当のことなのに。
それでも、もっと他にやるべきことがあるような気がした。こんな世界を知ってしまった今、わたしはもう単なる一学生なんてやっていられない。アルスの気に中てられたのかもしれない。
どのみちまだ時間はある。ケンゴと二人、探していても問題はあるまい。
ホリィとエドもきっちり弔わなければ。
グローテさん、セントさん、九尾……ちゃん? に弟子入りも申し込んだけれど、そっけなく振られてしまった。一人は「柄じゃないから」と。一人は「魔法使いと神父は違うから」と。一人は「人間は嫌いだ」と。
まったく、うまくいかない世の中ですなぁ。
うまくいかない、世の中だ。本当に。
ほんとに。
なんで人は死んでしまうんだろう。
「ケンゴはどうするの、これから」
「とりあえず旅は続けるかな」
想像通りの答えが返ってきた。
「じゃあさ、一つ提案があるんだけど」
「ん?」
「アカデミー、見学に来ない?」
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368 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:14:09.83 ID:my85F8W40
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「若いっていいねぇ」
去りゆく人々の背中を追っかけながら、呟いた。いや、自然と声が出てしまったというべきだろう。
アルスには一緒に来ないかと誘われたけれど、残念ながら私は既に神父と言う役目を背負っていて、おいそれと教会を留守にできる立場ではない。今回だって無断外出なのだ。
もしかしたら、帰れば私の席に誰か別の聖職者が座っているかもしれない。それほど今回の私の行動はアレだ。
……そうすれば、もっとずっとアルスと一緒にいられるのだけれど。
今の彼にはちゃんと恋人がいて、彼は気づいていないかもしれないが、愛人もいるようだ。ここで私がでしゃばってもぎすぎすするだけだろう。ここは大人として、一歩引くのが礼儀と言うものだ。
あーあ。死んでた間に振られちゃった。
とはいえこれは赦してもらわないと。だって私は世界を救う片棒を担いでいたのだ。信じられなくたってそうなのだ。司祭様に力説しよう。もげた腕の痕でも見せてやれば信じざるを得まい。ふはは。
ごしごしと顔を袖で拭う。言葉の上では騙せても、心は騙せない。
ホリィ、ごめんよ。
困っている人を見捨てては置けない、聖職者として。私はそうで、ホリィもそうだ。だけれどその信念がホリィを殺したのだ。余計なことに首を突っ込んで、死ななくてもいい命を死なせてしまった。
それに関してはグローテさんが頭を下げた。下げるのは私にではないはずだけれど、当の本人が既に亡き者だから、仕方がない。くそ。
「ちり紙でも貸してやろうか?」
隣で金色の幼女がぶっきらぼうに言った。
「いらない」
だって私はまだ二本の足で歩くことができるから。
「ありがとう」
九尾の狐はやはりぶっきらぼうに「別に」と言った。
私は帰路につく。帰ったら、山ほどの仕事を消化しないと。
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369 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:19:28.41 ID:my85F8W40
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これでいいのだと思った。此度の全ては、とまではいかないが、大部分は彼女が作った原因に起因している。だから、彼女はこれでいいのだと思った。
責任を取るということはそういうことだ。
そもそもこれまでがおかしいのである。人妖が入り乱れて共同戦線を張るなんて考えられないことだ。これまでがおかしくて、これからが普通。だから九尾の狐はアルスの後を追わなかったし、グローテの手も取らなかった。
もう一つ「だから」を重ねて、九尾は口元の血を拭う。
「だから、九尾はここで死のう」
死ぬかどうかはわからないけれど、その覚悟でことに挑もう。
残る尻尾は四本。ヴァネッサから得た魔力を加味すれば、流石にできるはずだ。
目の前には一個師団の姿が広がっている。
魔法的な措置によってその姿は今まで隠されていたのだろう。紋章を見れば、それはアルスたちの国ーー核を落とした張本人たちであるらしい。
魔王の存在を知って後派遣されたか、それとも別の任務があるのかはわからない。ただ、その師団一万人が、九尾を素通りするつもりがないのは明白だった。
九尾の心に怒りはない。ただただ湖面のように穏やかだ。一個師団の存在など、波風を立てる微風にすらなりはしない。
九尾にとっての人間とは、そんな有象無象なのである。
九尾を殺しに来たのか。アルスを殺しに来たのか。他に目的があるのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ、九尾は、国と言うものに報復しなければならない。
その上で死のう。
国も彼女自身も罰されなければならないと、彼女は考えていた。
師団の先頭の騎士が、細身の剣を抜き、天に向けた。
それを振り下ろす。
先には九尾がいる。
「人間を人間と思わん貴様らが、まさか人間として死ねるとは思わんことだ!」
彼女は跳んだ。いまだに心の水面は穏やかだった。
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370 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:20:35.06 ID:my85F8W40
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物音がしたような気がして、儂は振り返った。空気が揺らめいている。一瞬陽炎かとも思ったが、どうやら違うらしい。そもそもこの季節にこの地域でそんな現象起こるはずもない。
なんとなく嫌な予感がした。九尾が儂らについてこないのは仕方がないとして、それ以上の何かをあいつは抱いていたような気がしてならない。
思わず踵を返しそうになるのをぐっとこらえた。既に儂らは袂を別った。情けをかけられるのをあいつは望まないだろう。例えそれがなんであったとしても。
「どうしたのさ、おばあちゃん」
メイが覗き込んでくる。なんでもないよと返事をして、ローブのフードを目深に下した。表情を悟られるのは困る。が、少しわざとらしかったか?
……気づかれていないようだ。
アルスとメイ、クルルはそれまでの欠けた時間を取り戻すかのように雑談に興じている。今後の方針はとにかく後だ。とり急ぐこともあるわけではない。
「アルス」
「なんだ、ばあさん」
「まだ世界を平和にしたいか?」
「それよりみんなを幸せにしてぇな。難しいとは思うけど、無理とは思わない。死にそうなやつを助けられるなら、俺は率先して助けたい」
「そうか。そうだよな」
それだけ聞けて十分だ。
やはり、アルス、お前は儂の生きる指針らしい。齢六十を超えて、まさか青年を見習うとは思ってもいなかった。
儂は大きく息を吸い込んだ。
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371 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:21:39.48 ID:my85F8W40
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やばいやばい超やばい超これってマジやばい超マジこれマジ超。
顔が!
にやける!
なんだアタシの表情筋、なんだこれ、なんだ、これ、本当、これ、これぇ!
「どうした?」
「は、どうもするわけないし! ばっかじゃないの!」
格好つけて出てきたときは戦いのさなかだったから全然だったけど、今こうしてアルスの声を聴くと、もう、心の奥底がぽかぽかして、地に足がつかない。
思わず手にも力が入るってもんよ!
アルスと離れていたこの数年間はまさに流浪だった。なんで生き返ったのかもわからず、ひたすらアルスとおばあちゃんを追う日々。クルルさんもアタシも一度は死んだ身だから、とにかく日陰を歩き続けたのだった。
その中で、おばあちゃんと九尾がーー偽名を使っていたけれど、あれで騙せると思っていたのだろうか?ーー人助けをして歩いているという話を耳にした。そしたら目標がまた一つ増えた。
全ては今この瞬間のためにあったのだ。
「終わったな」
アルスが言った。アタシはけれど、ううんと首を横に振る。
「これから始まるのよ」
そうだ。紆余曲折あったけれど、ここが、今からが、スタートだ。リスタートだ。
世界を平和にしよう。アルスとならばなんだってできる気がした。
「アルス」
「ん?」
大好きだよ。
「なーんでもない」
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372 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:22:33.96 ID:my85F8W40
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明らかにメイが嬉しそうで、私はちょっとだけ心がささくれる想いをしたけれど、寛大に今日くらいは許してやろうと思う。今日くらいは。
あの核と称される魔法によって、周囲の森、村、民家が消失してしまったことはグローテのおばあちゃんから聞いた。それでアルスが魔王に呑みこまれてしまったことも。
王国は許せない。ただ、私たちがこれからどうするかはアルスが決めることであって、私はアルスが決めたそれには口出しをするつもりはなかった。
人はそれを思考停止と呼ぶかもしれないが、違うと思う。なぜならアルスと私たちは目的を一にしているからだ。そしてアルスはぶれない。だから私たちも安心してアルスに身を委ねていられる。
……メイとアルスの会話が長いので、アルスの腕に抱きついた。
慌てるアルスはかわいい。メイが一瞬むっとした表情をしたのを私は見逃さなかったけど、正妻は私なのだから、ここはちょっとばかし譲れないところだ。
「アルス、私たちに子供ができたら、やっぱり死なないのかな」
「こ、子供?」
やっぱり、慌てるアルスはかわいい。ぎゅっとより強く抱きしめれば、より強くアルスのにおいが鼻をくすぐって、より幸せな気持ちになれる。
メイがアルスの左腕を見て、私にちらりと視線を向けた。
私とメイで二人。アルスの腕は、当然二本。
……はぁ。あーあ、仕方がないなぁ。
こちらの機微を察したのだろう、メイもまた力一杯にアルスの腕を抱きしめる。彼女の全力だとアルスの腕が折れないか心配だ。
やっぱりちょっとだけ、ほんのちょっとだけいらっとしたので、私はアルスの顔を覗き込む。
「ん?」
そうして、口づけをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
373 :
◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:23:27.13 ID:my85F8W40
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、どうしたものか。
空は青い。晴れ渡っている。すべきことは山積みだ。これ以上ない出発の日和だろう。何より、今は一人じゃあない。
当面の目標は核にまつわる諸々。あんなものを放置しておくわけにはいかない、可及的速やかにどうにかしなければ。
とはいえ国家に牙を剥くには力が圧倒的に足りないし、そんな血で血を洗うような真似だけは絶対に避けたいのもまた事実。では他の方法はと問われれば、残念ながら俺の頭では思い浮かばない。
どうやったら世界が平和になるだろうか。
まぁこういうときは自分より頭のいいやつに聞けば大抵何とかなるものだ。例えば、ばあさんとか。
それにしても、色々な人が俺を助けてくれたものだ。支えあいと言う言葉をこれほど実感したこともない。クルルやメイはそれを俺が善行を積んだ結果だと言っていたけれど、自覚のあまりない俺には、なんだかこそばゆいのである。
セント。ケンゴ。リンカ。彼らの行く先が幸福であることを祈っている。
エド。ホリィ。ヴァネッサ。彼らの行く先が天国であることを祈っている。
生きている人たちを幸せにするように生きていかなければならないし、死んでしまった人たちの分まで生きていかなければならないと思うのだ、俺は。
今日も世界はこんなに平和だ。
明日をもっと平和にしよう。
「ーーそんな薄情な真似ができるかよっ!」
唐突にばあさんが叫んで、踵を返す。何があったかはわからないが、何かがあったことは明白だ。
俺とクルル、メイはすぐさま顔を見合わせて、頷く。
俺たちも走り出した。
374 : ◆yufVJNsZ3s :2013/08/07(水) 14:30:22.77 ID:my85F8W40
今回の更新はここまでとなります。
また、彼らの物語もここまでとなります。
思えば遠くまで来たものです。一年以上続くとは思っていませんでした。一年以上付き合ってくれる読者がいるとも。
月並みな言葉ですが、これまでありがとうございました。
恐らく、次回作はオリジナルで超能力バトルものになると思います。
少女「有言実行、しましょうか」というタイトルを考えてまして、もし機会があればご覧ください。
重ね重ね、長いおつきあいをありがとうございます。
それではまたどこかで会いましょう。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/07(水) 14:46:00.01 ID:TmageSl7o
乙
もう一回読み返してくる
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/07(水) 14:56:21.22 ID:VeWs/ROso
完乙!
楽しかったよ、次作も期待してる
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/07(水) 18:37:26.30 ID:T08s0m5ko
おつおつ
こんなにのめり込めたSSは初めてかもしれない
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/07(水) 19:22:05.66 ID:tY0w0JzXo
とてもよかった
乙
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/07(水) 20:22:20.57 ID:E8EtRvfIO
最高だった
SSが終わってしまうことがここまで切ないのは久しぶりだ
次回作も楽しみにしてる