Part36
886 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:41:09.83 ID:7cRQjCOC0
電撃を流して九尾ごと地面に倒れこむ。マウントポジションを取ろうともんどり打って、強か体を打ちつけながら、九尾と転がりあった。
九尾「くそ、離れろ、離れろっ、邪魔だ貴様!」
腹部が何度も爆ぜる。そのたびに体が浮かび上がり、激痛が走り、内臓が口からそっくりそのまま飛び出してしまいそうになる。だが、痛みなどはどうだっていいのだ。どうせ癒えるものはどうだっていいのだ。
どうにもならないものが問題なのだ。
命とか。
九尾はついに転移魔法を使用していったん距離を取る。俺は九尾との距離があることを確認し、周囲を見回す。
戻ってきた視界ではクレイアさんが老婆に治癒魔法をかけていた。陣地構築を基とする、回復の魔方陣だ。
九尾「勇者ァ……お前に蘇生の加護をくれてやったのはこの九尾ぞ! その分際で刃向うというのか!」
アルス「そりゃ感謝だ。だけど、だめだ。お前の未来は次善だ」
アルス「俺が犠牲になるだけなら喜んでなってやる。ただ、お前に食わせてやれる人間は一人としていない」
887 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:42:53.11 ID:7cRQjCOC0
アルス「俺は我儘なんだ。だから、目的のために手段を選ぶ」
九尾「老婆、こいつらを殺すぞ! 手伝え! どうせ勇者は復活する! 他の奴らは殺しても構わん!」
アルス「うるせぇ! 黙れ! 殺す!」
クレイア「アルスさん、これを」
クレイアさんが懐から剣をーー否、刀を取り出した。鞘に包まれた彎刀。随分と使い込まれていて、それでもなお柄から鞘まで輝きに包まれている。
クレイア「ダイゴ隊長の遺品です」
俺は一瞬息を呑んで、丁寧に、しかし迅速にそれを受け取った。鞘を抜いて背負う。投げ捨てるだなんて真似は出来なかった。
跳ぶ。彎刀はずしりと手に重い。その重さが逆に安心できもする。それは命を預けるに足る重さだった。
俺は今ならわかる。ダイゴ隊長とルニ参謀のふるまいが。その真意が。二人は根っからの兵士で、軍人で、だから死んだ。常に死んでもいいと思っていたに違いない。国のためなら全てを犠牲にできていたのだ。
888 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:44:28.66 ID:7cRQjCOC0
俺はその生き方を否定しない。ただ、もっと理想を抱いてもいいのではないかと、希望を持ってもいいのではないかと思う。
きっと、いつか、なんとかなる。もっとうまくいく方法がある。そう思えないものだろうか? それとも俺が理想主義なだけなのだろうか?
きっとばあさんもそうなのだ。個人と国の関係性。国があるから個人があるのだと、彼らは、彼女らは、おおよそ信じきっている。信じきってはいなくとも、そのために命を擲てる。
それはつまり命の軽視だ。全体主義的で、国家の形さえ成していれば他に何もいらないという、ある種の狂信だ。
だけど人間の精神がそれに耐えられるものだろうか。罪悪感に。
いや、誤魔化すのはよくない。素直に言おう。俺の生き様も相似なのだ。俺は世界が平和であれば他に何もいらないという狂信を胸に抱いている。そして、一度は精神が耐えられなかった。
手を差し伸べてくれたのはクルル。俺は世界を平和にするためでなくて、彼女の世界を平和にするためにやっているのだ。そうやって目標を意識的に矮小化しているのだ。
889 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:44:57.26 ID:7cRQjCOC0
九尾が言ったのは、きっとそういうことなのだと思う。国のために個人を殺し続けてきたばあさんは、今更後戻りできない。小のために大を犠牲にする選択肢をとれない。
苦しんでいるのは明らかだ。ならば俺に何ができる? 俺は何をすればいい?
簡単だ。
俺がその選択肢を代わりに選んでやればいい。
どんな罰だって受けてやるから。
神様。
俺の仲間に、安寧を!
特攻ーー爆裂で腹が吹き飛ぶ。反射的に、さらに強く地面を踏みしめ、体幹をぶらさずにそのまま走り抜け!
火炎弾の連打。喰らえばひとたまりもない。しかし今更速度も落とせない。大丈夫、ウェパルの驟雨よりは密度は薄い。何より今の俺には刀がある。
帯電させ、九尾までの最短距離を行く。火炎弾は切り落とし、真っ直ぐ、ひたすらに真っ直ぐ。
光の束が横から火炎弾を全て打ち落とした。それで一気に視界が開ける。
クルル「アルス! あとは!」
890 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:45:28.98 ID:7cRQjCOC0
俺はにやりと笑って返事を返す。
九尾の姿が消える。転移か、それとも高速移動か。
考えて、途中でどうでもいいと思考を打ち切った。余計な思考に割くリソースなど存在しない。
僅かにずれた位置に九尾。手をこちらに向けて呪文を詠唱しているーー呪文の詠唱。九尾のレベルで?
九尾「地の怒り、終わりなき鼓動、打ち倒す者の屍。十五里を行き、広がるは死肉ばかり。招く亡者の手を払うことは何人たりとも許されない」
九尾「流転。震動。隆起し、歓喜せよ。滂沱の涙と忘我の涙を具し、我が名を諳んじ賜え」
九尾「奉れ! 死の顕現こそ足元にあり!」
九尾「ジゴスパーク!」
クレイア「マホカンターーッ!」
急いでクレイアさんが反射結界を張る。が、九尾から放たれる圧力はそれすらものともせず、急激に世界がそちらへ引っ張られていく。
黒い、帯電する球体。それは絶え間なく雷撃を放ち、しかもその雷撃の一つ一つが、俺の全力よりも遥かに強い。
打ち砕く。
打ち砕く。
打ち砕き続ける。
891 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:46:20.57 ID:7cRQjCOC0
空気が振動して髪の毛がなびく。
早く九尾を倒さなければ!
反射結界が割れた。
発せられた極太の放電。白い光線としてしか捉えられないそれは、俺をきっちり呑み込めるほどに巨大で、俺は蒸発を覚悟する。
だけど、それでも。
アルス「俺はっ!」
脚を、止めない!
メイ「退きなさい!」
むんずと俺の襟を掴んで、メイが放り投げる。ぐんと体が浮いて、俺はそのまま地面に落下した。
俺とメイは入れ替わる形でーーつまり射線上にメイが、
言葉は出ない。涙は出る。それでも確かに、俺は九尾のそばに辿り着いた。
アルス「うぉおおおおああああああっ!」
刀を握る。握らずに敵が殺せるか。
九尾「温すぎるわっ!」
九尾が斬撃を掻い潜って俺の懐に飛び込んでくる。ぞっとするほど冷たい九尾の瞳と、視線が合う。
速い。力も倍増している。九尾の拳が握り締められているのを、俺は確かに見た。
892 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:46:58.89 ID:7cRQjCOC0
腹部に衝撃。九尾の腕が肘まで突き刺さっていた。あまりの衝撃と激痛に眼を剥くが、しかし、俺の役目は忘れていない。
刀はすでに捨てている。その腕を掴んで、
九尾の背後、俺の視界の中に、こちらへ向かってくる煌めく数多が見えた。
同時に周囲に張り巡らされている結界も。
クルル「虹の弓と、光の矢ッ!」
クレイア「陣地構築、結界!」
アルス「俺の仲間をなめんじゃねぇええええええっ!」
九尾「貴様は死なない、九尾は死ぬ、そういう算段かっ! だが、しかし!」
九尾「まだ温いわっ!」
九尾の足元が急激に膨れ上がる。現れたのは大量の水の奔流だ。
それらは猛烈な勢いで渦を巻き、結界と光の矢すら飲み込み破壊し、部屋中を大渦に飲み込んだ。巨大なうねり、メイルシュトロムに太刀打ちできる体力など残っているはずもない。
壁に叩きつけられる。腹の大穴からは血液とともに内臓も飛び出し、見るに堪えない。呼吸すら怪しくなっているが、徐々に治癒して言っているのは、クレイアさんが部屋全体に構築してくれた治癒の陣地のおかげだろう。
全員が倒れている中、部屋の中央で九尾だけが立っている。
893 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:47:30.15 ID:7cRQjCOC0
俺は立ち上がった。立ち上がって、そして血を吐いた。
クルルも立ち上がった。左足が折れている。壁にもたれかからなければ立ち上がれない状況で、それでも。
メイもまた、なんとか上体だけを起こす。右手には依然としてミョルニルが握られていて、死んでも離すまいという意思が見て取れた。
九尾「まだやるか。いい加減あきらめたらどうだ」
アルス「まだ、まだだ……」
九尾は大きくため息をついた。こちらはほぼ全員満身創痍、しかし九尾は五体満足で、攻撃自体まともに喰らってはいないのだ。その時点で実力差は明白なのだが、俺たちには引けない理由がある。
自己満足と言ってしまえばそれまでだった。だがそんなことを言えば、この世はすべて自己満足と自己満足のぶつかりあいだ。
894 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:47:57.42 ID:7cRQjCOC0
九尾「それで、お前はどうするつもりだ、老婆」
九尾が唐突にばあさんに声をかける。俺は思わず九尾の視線の先を追った。
ばあさんが杖を九尾に向けていた。
二人の視線が交わっている。
は、と九尾はばあさんを嘲笑する。
九尾「結局お前はどちらにも与できん。邪魔だ。己の葛藤に押し潰されて死ね」
グローテ「儂は、誰にも死んでほしくはなかった。それが不可能だと気付いた時、次にとれたのは、一を切り捨て十を助けることだった」
九尾「誰もお前の話になんて興味はない」
火炎弾がばあさんに向かって飛ぶ。ばあさんは旋風を巻き起こし、火炎弾を拡散、無効化した。
グローテ「だが、わかった。わしは何も、信念を曲げる必要などないのだと」
グローテ「葛藤する必要などないのだと!」
895 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:48:24.91 ID:7cRQjCOC0
グローテ「クレイア!」
クレイア「はい! 準備は、できていますよぉっ!」
俺とクルル、メイの三人がいる地点のみが、淡く光り出した。それに伴って俺たちの体もまた発光しだす。
この体験は初めてではなかった。転移魔法を使う際の感覚とまるきり同じだ。
それはつまり、クレイアさんが転移魔法を俺たちに対して使用しているということの証左に他ならない。何のために? ーー考えるまでもない。俺たちをここから逃がすために。
自分たちだけで九尾と戦うために。
アルス「だめだっ! 二人だけじゃ!」
勝てるわけがない、と言おうとして、ふととある考えが脳裏をよぎる。まさか。
勝てない戦いを二人がするだろうか? 無駄死にを一番厭いそうな二人が、である。もし仮に勝機があるのだとして、その上で俺たちを逃がすのだとすれば、思い当たる可能性はただ一つ。
896 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:49:58.38 ID:7cRQjCOC0
体が粒子に溶けていく。
言葉を発したいのに、それが届かない。
メイとクルルも当然それに気づいたはずだ。眼が見開かれて、表情が引きつって、大きく口を開ける。しかし言葉は出ない。聞こえていないだけかもしれない。
グローテ「お前らと一緒の旅は、楽しかったよ」
だから、なんで過去形なんだよ!
ばあさん、あんたやっぱりーー
アルス「死ぬつもりなんだろう!?」
声が届いたのかどうか。
ばあさんは、グローテ・マギカは、困ったようににこりと笑った。
897 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:50:27.59 ID:7cRQjCOC0
光が収束していく。だめだ。転送される。そしてーーそして、ばあさんとクレイアさんが、死んでしまう。
気に食わない。それはだめだ。それは俺の専売特許だ。
犠牲になるのは、死んでも生き返るやつがやるべきなのだ。そうだろう?
しかし、これ以降どうすればいいというのか、まったく考えが浮かばない。このまま戦ったところで犬死だ。俺は復活するとして、四人を見殺しにはできない。
ばあさんたちが自らの命と引き換えに九尾を倒せるなら、それは現状では恐らく最良なのだ。俺の制止を恐らく彼女らは聞きもしないだろう。それだけの覚悟を秘めた顔がそこにはある。
アルス「……」
一つの恐ろしい考えが浮かぶ。それは、なんというか、考えてはいけない考えだ。
九尾と目が合う。九尾は口角をひきつらせ、眼を見開いて、こちらを見ていた。
あぁ、そうか、と思う。噂によれば彼女は心を読むことができるそうだ。もし彼女が今の俺の思考を読んでいたとするならば、当然そんな表情にもなるだろう。
898 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:51:04.57 ID:7cRQjCOC0
九尾「正気か? 頭がおかしいんじゃあないのか? 実行に移すかどうかというより、考えが至るだけで、狂っている」
アルス「思いついちまったんだから、しょうがねぇ、だろう」
唐突に会話を始めた俺たちを、周囲は黙って見ている。何が何だかわからないのだろう。それはそうだ。
クレイアさんは転移魔法を解いた。光は柔らかく散っていく。怪訝な表情だ。
九尾「勇者よ。本当にそれをーー世にも恐ろしいそれを実行に移すだけの気概が、お前にはあるのか?」
九尾「九尾は、心配をする立場ではない自覚はある。が、……お前は九尾の予想以上で、予想外だ。はっきり言って人外だ。気持ち悪いよ」
アルス「は、ご心配ありがとうよ。だけど、知るか。俺は世界を救いたい。俺は仲間に死んでほしくない。お前に人を喰わせるわけにもいかない。四方八方丸く収まる最適手、だろ」
九尾に向かって手を伸ばした。決して握手をしようなどと思っているのではない。
899 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:51:44.38 ID:7cRQjCOC0
アルス「九尾、俺を喰え」
900 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:52:25.68 ID:7cRQjCOC0
アルス「お前が人を喰いたくなったら、俺に言え。俺を殺して、喰え。どうせ復活するんだ。何度も殺されてやるさ」
メイ「なっ、ばっ!」
反射的にメイが罵倒の言葉を吐こうとする。しかし、あまりに想定外だったのか、それ以上の言葉は紡がれない。
グローテ「本気、なのか? 自分を喰わせると?」
クレイア「そんな! きみが犠牲になる必要はーー!」
アルス「あるんですよ。例え俺の自己満足だとしても」
クルル「……」
クルルは泣きそうな、困った顔でこちらを見ていた。彼女との付き合いは最も長い。言い出したら聞かないこともわかっているのだろう。
心配をかけて、悪いな。
クルル「……ばか」
アルス「悪い」
901 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:52:51.48 ID:7cRQjCOC0
アルス「九尾、お前はそれでいいのか。誰も喰うな。俺だけを喰え。それでお前は同意してくれるのか。誰も喰わないと誓えるのか」
九尾「ただ、やはりお前は愚かだ。九尾は男の骨ばった固い肉なんて喰いたくはない。お前を喰っても、九尾にはメリットがない」
九尾の目的が世界平和ーー何より人肉の供給にあるのだとすれば、その返事は予想してしかるべきであった。事実俺は九尾のその返事を予想はしていた。
九尾は俺たちに頼らなくとも人を浚い、喰える。安定供給の意味合いは僅かにここでは異なっている。
だが、俺には脅し文句があった。これ以上ない、人間ゆえの根性というものを、覚悟というものを、所詮魔族でしかないこいつに見せつけてやる文句が。
アルス「俺たちは立ち上がり続けるぞ」
902 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:53:34.68 ID:7cRQjCOC0
九尾「……」
アルス「お前がどんなに強かろうが、絶対、必ず、どこまでもお前に刃向って、逃げても追い続けて必ず殺す。俺たちは負けない。少なくとも精神は」
アルス「一生お前の邪魔をし続けてやる。人生をかけて、お前の人生をめちゃくちゃにしてやる」
アルス「それでもいいなら、人間を喰え。それが嫌なら、俺を喰え」
真っ直ぐ九尾を見据えて呪詛を吐く。脅し文句と言ったが、単なる脅しではなかった。本気の脅しだった。
今も俺たちが九尾への闘志を絶やさないように、今後も俺たちは九尾を宿敵とすることができる。
強さの差は限りない。それでも肉体の敗北は精神の勝利で上書きできる。俺たちは今まで何度も立ち上がってきた。
自称正義の味方の言うことかと思った。しかし、正義の味方だからこそ言えるセリフのような気も、またした。
903 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 10:54:00.90 ID:7cRQjCOC0
九尾は逡巡しているようだったが、ややあってから頷く。そして、嘆息。
九尾「わかった。この九尾、こんな形で収まるとは思っていなかった。正直、お前だけを喰うなぞ御免被りたいのだが……お前の気概に折れてやろう」
九尾「九尾の名に誓って証言しよう。九尾はお前だけしか喰わん」
九尾「しかし、逆に聞こう。お前は本当にそれでいいのだな? お前の加護は九尾が与えたものだ。血に刻まれた魔法は膨大だが、決して無尽蔵というわけではない。いつか復活できずに死ぬぞ」
アルス「人間、いつかは死ぬさ。俺は死にすぎたくらいだ。
九尾「違いない」
くつくつと笑った。強者の余裕が垣間見える。こちらははったりと気勢で何とか意識を保っているというのに。
904 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 11:00:44.61 ID:7cRQjCOC0
メイ「まったく……なに、考えてんのよ、ほんと……」
メイがクレイアさんに肩を借りる形で近づいてきていた。左腕は依然としてないが、血液の流出は止まっていて、顔色も少しずつだがよくなってきているようだ。
彼女はそのまま自立して、俺の肩を掴む。
なぜかメイは背伸びをして、俺と顔の高さを合わせようとしてくる。「んー、んー」と唸る姿は年相応に幼くて、俺は笑みがこぼれるのを抑えきれない。
そのままひざを折って高さを合わせる。
こつん、と、額と額がぶつかった。
近い。
気まずいくらいに、近い。
メイ「アンタが魔王になっても、アタシはアンタのそばに居続けるから。問題ないでしょ?」
アルス「……お手柔らかに」
905 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 11:01:11.46 ID:7cRQjCOC0
クルル「当然、私も」
俺の腕を抱きしめるクルル。俺の服も彼女の服も血まみれだが、最早気にしてなどいられない。
クルル「私、正妻だから。あなたは、側室。愛人」
メイ「は、はぁっ? 全然わけわかんないんだけどっ!」
クルル「っていうのは、ちょっとだけ嘘」
クルルは上目づかいにこちらを見てくる。だけれどその視線は至って真面目だ。
クルル「私は、ずっとアルスの味方。辛いことは、私となんとかしよう。楽しいことは、私としよう」
クルル「好きだよ」
アルス「お、おう」
なんだかドギマギしてしまう。
906 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 11:01:52.62 ID:7cRQjCOC0
だけど、そうなのだ。クルルの言う通りなのだ。納得はされていないかもしれないが、進むべき進路は決まった。大事なのはこれからなのだ。
魔王の役割。それをどうやって果たしていくのか、課題は山積みだ。
九尾「それについては九尾がサポートする」
アルス「……心を読むな」
九尾「お前ら三人は四天王ーー三人だから厳密には違うのだが、側近となってサポートしてやってほしい。そのためにあいつらをぶつけたのだ」
無視して話を進める九尾であった。
グローテ「やっぱりお前の差し金だったのか」
九尾「おいおい、これでも九尾は気を使ってやったのだぞ? 魔王になれば狙われる。そのためには身を守る武力が必要だ。あいつらに勝てないようなら、人間の軍勢にも勝てないさ」
それはつまり、裏を返せば、ウェパルやデュラハン、アルプが軍勢一つと同程度の実力を持っているということである。今思い返せば実に恐ろしい。
しかし、彼女らはそれに勝利してきたのだ。俺のそれは勝利とは決して言い難いが、彼女らのそれは恐らく紛うことのない勝利なのだろう。
クレイア「王国に具申しますか?」
グローテ「いや、どうだろう。あの王のことだ、きっと勇者を自国に引き込もうとするだろう。それはよくない」
907 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 11:02:18.74 ID:7cRQjCOC0
九尾「デュラハンも、アルプも死んだ。ウェパルも、最早こちらには興味がないだろう。さびしくないと言ったら、まぁ、嘘だな」
アルス「まぁ、何はともあれ、なんていうか」
息を吐く。心の底から。体の隅々から。
アルス「疲れたぁ……」
アルス「なぁ、そうだろ?」
メイとクルルを振り返る。
二人が死んでいた。
クルルは頭を潰されて。
メイは泡を吹き、白眼を剥いて。
アルス「なーー」
驚きの声は、それよりも大きな声にかき消される。
九尾のそれによって。
九尾「なんでお前らがいるっ!?」
九尾「デュラハン! アルプ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
908 :
◆yufVJNsZ3s :2013/02/16(土) 11:05:30.89 ID:7cRQjCOC0
今回はここまでとなります。
以下、2点だけ。
1.名称がころころ変わってすいません。ただ、構造的に不可避でした。
2.次スレ突入します。次回投稿後建てようと思います。
もう少しだけ、彼らの物語におつきあいくだされば光栄です。
909 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/16(土) 11:15:56.62 ID:z6is/7+Do
九尾強過ぎワロリーヌ
ここにきてようやく名前が出たか
終わり近いかと思ったらまだ続くのか期待
910 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/16(土) 11:22:45.30 ID:mxU4qSXIO
おおおおお
二回読み直したわ!おおお最後二度見しちまったぜええ乙
911 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/16(土) 14:13:38.89 ID:8tMNVyVqo
このss名前でたら死ぬよな
912 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/16(土) 21:02:44.56 ID:nTLekjszo
おつ!
最後・・グスン
913 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/18(月) 08:43:10.84 ID:VjBTWoIbo
最後の展開でまりもちゃん思い出したよ…
914 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/01(金) 00:41:39.61 ID:/DXUYhgpO
乙よかった更新されてた!
915 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/02(土) 01:09:27.36 ID:7bYBkThfo
ss速報歴はそんなに長くないんですが今まで読んだssの中で一番質が高いっす
916 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/04(月) 18:38:56.27 ID:KTUv0/8vo
固定名が付く=死亡フラグとは新しい…。