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勇者「王様が魔王との戦争の準備をしている?」
Part2


22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:32:23.32 ID:yFuxTM2h0
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 勇者が目を覚ますと、鬱蒼と茂った木の葉が見えた。
 ところどころから木漏れ日が差し込んでくるが、それにしたって薄暗い。
 気温から察するに夕方のようだ。
勇者「……あー、復活したか」
 首と顔を確かめながら呟く。加護はいまだ健在のようだ。
狩人「おはよう」
勇者「どれくらい寝てた? ここは?」
狩人「おばあさんの転移魔法で、森の中。四時間くらいかな、復活までには」
勇者「そっか」
狩人「大変だったんだから」
勇者「いっつも迷惑をかけるな」
狩人「女の子は吐きまくってグロッキーだったし、宿屋には泊まれないし」

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:33:09.81 ID:yFuxTM2h0
勇者「埋め合わせは、必ず」
狩人「別に、いいけど」プイッ
勇者「あの、狩人さん?」
狩人「なに」
勇者「腕を抱きしめてるのは、なぜ」
狩人「……」ギュッ
勇者「……なんだよ」
狩人「辛そうな顔してたから」
勇者「夢を見てた」
狩人「いっつもだね」
勇者「うん」

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:33:40.64 ID:yFuxTM2h0
勇者「夢の中で、俺の冒険を俯瞰してるんだ。どんどん仲間を使い捨ててきたよ」
狩人「大丈夫だから」ギュッ
勇者「お前もいつか死ぬだろ?」
狩人「死なない。逃げる」
勇者「……」
勇者「ていうか、あのばあさんとガキは?」
狩人「薪を集めにいった。慣れてるみたい、野営」
勇者「すげぇばあさんとガキだな」
狩人「うん……」ギュッ
勇者(あったけぇ……勃ちそう)

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:35:23.86 ID:yFuxTM2h0
狩人「楽したでしょ」
勇者「え?」
狩人「女の子と戦ったとき。死んだほうが早いって」
勇者「あれはダメだ、勝てない。逆立ちしても無理。負けイベントだな」
狩人「やっぱりそうだったの?」
勇者「対峙してわかった。ありゃ化けもんだ。手練れってレベルじゃない」
狩人「あの後、大変だった」
勇者「あぁ、村の人たち騒がせちゃったな」
狩人「そうじゃなくて、女の子」
勇者「そっちか。驚かせて悪かったとは思うけど」
狩人「そうでもなくて」
勇者「?」

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:36:28.58 ID:yFuxTM2h0
狩人「あのあとーー」
少女「本人のいないところでそういう話は感心しないなっ!」
 振り向けば、鎚を背中に背負った少女が立っている。手には大小の木の枝。
 恐らく焚火にするつもりなのだろう。
狩人「ごめん」
少女「いいですけど。……ふん、アンタは大した食わせもんだね。勇者っていったっけ」
勇者「だってお前強すぎるんだもん」
少女「ふんっ。そりゃそうだよ。だから魔王倒しに行けるんだし」
勇者「ていうか、バ……おばあさんは?」
老婆「ここにおるぞえ」サワリ
勇者「ギャーッ!」
 背後から節くれだった指が勇者の頬を撫でた。
 性的なにおいのする愛撫に、全身が鳥肌を立てて拒絶する。

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:37:07.70 ID:yFuxTM2h0
勇者「な、なにすんだ!」
老婆「ひゃひゃひゃ。たまには若い男に触らんと長生きできんのよ」
 老婆もまた枝葉を抱えていた。それをまるで重そうに狩人へと渡す。
狩人「ありがとうございます」
老婆「なに、そう大した手間でもない。若者も元気そうで何より」
老婆「で、若者。ひとつ聞きたいんじゃが……」
老婆「お前のその蘇生、一体全体、どういう理屈じゃ?」
 深い皺の刻まれた表情に一瞬だけ狂気の色があらわになる。
 老婆は目を剥いて、食い入るように勇者から視線を逸らさない。
老婆「蘇生魔法は遥か昔に失われておる。その加護、神代のにおいがするなぁ……?」
老婆「お前に目を付けたのはそれのためよ。なぁ、若者。実に興味深い」
勇者「あんまり顔を近づけないでくれ。加齢臭がやばい」
老婆「あまりつれないことを言うなよ」

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:37:57.70 ID:yFuxTM2h0
 指が勇者ののど元に突き付けられる。
 老婆の爪は、なぜかその一本、右手の人差し指だけが、やたらに長く鋭い。
 皮膚に爪が押し込まれる。血こそは出ないが、かなりの力だ。
 ぞわり、としたものを、勇者は背筋に感じた。
老婆「お前の腹を捌けばわかるかもねぇ?」
少女「おばあちゃん!」
 鋭い声。
 老婆が振り向くよりも早く、背中へと短刀の刃があてがわれる。
 狩人が持っていた木の枝が、ばらばらと音を立てて落ちた。
狩人「冗談だとしても笑えない」
 相も変わらずに朴訥な声で狩人は言った。底冷えのする眼光を伴って。
 少女はその時漸く、いけ好かないあの男と行動している女が、なるほど確かに狩人なのだと気が付かされた。

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:38:32.48 ID:yFuxTM2h0
 老婆は「ひゃひゃひゃ」と一転軽く笑って立ち上がる。
 そうして深々と下がる、彼女の頭。
老婆「いや、なに。すまなかった。悪ふざけが過ぎたようじゃ」
狩人「……そう」
 短刀を鞘に納めて狩人は息を吐く。それだけで幾分か空気が弛緩するようで。
少女「もうおばあちゃんなにやってんのっ!」
老婆「老い先短いババアの戯言だと思って、大目に見てくれ」
勇者「……とりあえず、ご飯食べない?」

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:40:10.75 ID:yFuxTM2h0
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 日もとっぷり暮れ、月影すらも見えない曇天が、群青と薄灰に空を染める。
 木の陰ではそれぞれが眠りに落ちている。
 老婆の転移魔法で毛布の類が手に入ったのは僥倖だった。
 これまで野営といえば地べたに横になるだけで、疲れがまったくとれなかったのだ。
 勇者は石に腰おろしながら独り、火の番をしている。
 火勢が弱くなれば木の枝を放り込む。三回やれば交代だ。
 行先は勇者に一任された。女性三人はこぞって経路に興味がないためである。
 それでいいのかと思ったが、いいと言う。ならば仕方がない。
 さてどうしたものかと彼が考えていると、思考を邪魔するかのようにぱちんと火の粉が弾け飛んだ。
 食事などを通して、老婆や少女との仲はだいぶ近づいた気がする。
 とはいえ先の老婆との件を考えると空恐ろしいものもあったのだが……。
 と、不意に遠くのほうで人の声がしたーー気がした。
 昼間の村からそう離れていないとはいえ、ここは魔物の出る森の中。村人がおいそれと入ってくるはずはない。

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:40:36.39 ID:yFuxTM2h0
 炎を見つけて近寄ってきた旅人だろうか。
 それとも。
勇者「……」
 唇を舐めて湿らせる。
 木々の隙間から、影が見えた。
 飛び出す。
 木のあるところで長剣など振り回していられない。短剣を腰から抜いて、弧を描きながら接近。
 相手がこちらに気が付くーー前に二、後ろに一……否、後方にもう一人いた。
??「誰だっ!?」
 野太い男の声だった。

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:41:20.05 ID:yFuxTM2h0
 無論答えるはずもなく、肉薄、前衛の脇をすり抜けて、中衛の喉笛へと刃を充てる。
勇者「それはこっちの台詞だ。夜盗か? 俺の前に姿を見せろ」
 人質はどうやら女のようである。質のいい鎧を身に着けているが、匂いと柔らかさが女のそれだ。
 鎧? 勇者は眉間にしわを寄せた。こんなものを拵えた夜盗などいるものか。
 しかも女は儀式杖を手にしている。これはもしかすると。
 暗がりから光源魔法が唱えられた。
 わずかにあたりが照らし出され、その場にいた人物の姿が浮かび上がる。
兵士1「そいつを離せ」
 屈強な兵士だった。鎧には王家の紋章が刻まれている。
兵士2「我々は王立軍の者だ。この紋章がその証」
勇者「知っている」
 嘗てともに旅をした騎士が持っていた武器防具にも、同じ紋章が刻まれていた。
 古い記憶だが忘れるはずもない。

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:41:58.05 ID:yFuxTM2h0
 誤解を招いても困る。勇者は女兵士の首からナイフを離し、解放してやる。
勇者「こちらはただの旅人だ。手荒な真似をしてすまなかった」
 非礼を詫び、短剣を鞘に戻す。
兵士1「いや、いいんだ」
勇者「王立軍がたった四人で夜の森を抜けるだなんて、何があった?」
兵士3「極秘事項だ。それを答えることは許可されていない」
勇者「じゃあ、代わりになんだが、この辺で魔物の噂を聞いたことはないか?」
兵士2「ないな」
女兵士「わたし、あります、ケド」ビクビク
女兵士「この森を西に抜けると、町があります。わたしの故郷、ですケド」ビクビク
女兵士「そのそばに小さな集落があって、洞窟があって、困ってる、みたいな」ビクビク
勇者「(完全に怯えてるな)……そうか、ありがとう」

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:42:30.51 ID:yFuxTM2h0
兵士3「では、我々はこれで失礼する。我々と会ったことはくれぐれも他言しないように」
 ざく、ざく、ざく。四人の兵士は土くれを巻き上げながら、夜の森を行進していく。
勇者「小さな集落、ねぇ」
少女「無茶するね」
 木にもたれかかる格好で少女が立っていた。肩に毛布を掛けている。
 右手に鎚を握っているところを見ると、もしや加勢に入ろうと思ったのだろうか。
少女「無礼を働いたってことで殺されたらどうするのよ」
勇者「生き返るからいいさ」
少女「もっと自分を大事にしたら? ひねないでさ」
勇者「そんなつもりはないんだけど」
 よもや五、六は離れている少女に言われるとは思わなかった。
少女「結構戦えるじゃんっ」
 少女は不満気味に、ぶっきらぼうにそう言った。
 そのしぐさがどうにも年相応だったので、笑いをこらえきれず、勇者は噴出してしまう。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:43:13.21 ID:yFuxTM2h0
少女「ちょっとちょっと、なんなのよっ」
 胸ぐらを掴み掛らん勢いで少女が勇者に迫る。
 この男がなぜか気に食わなかった。魔王を倒そうと息巻く癖にどうもひねているというか、厭世的なところが、特に。
 それか、逆か。
 厭世的でひねているくせに、魔王を倒そうとしていることが理解できないからか。
 少女は「ふん」と鼻を鳴らして、鎚を突き付けた。
少女「結果的に一緒に行くことになっちゃったけど、勝負、あれ、認めないから」
少女「魔王倒す足手まといにだけはならないでよねっ」
 それだけ言うと、肩を怒らせながら木の向こうに消えていく。
勇者「そうだ、悪かったな」
少女「なにが」
勇者「あー、なんだ。俺を、殺させて」
 少女の顔が引き攣った。
 反射的に少女が口元に手をやるが、体は止まらない。
少女「ーーーーッ!」

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:44:00.56 ID:yFuxTM2h0
 びちゃびちゃと耳障りな音を立てて、指と指、手と口の隙間から、得体の知れない液体が零れ落ちる。
 鼻を突く酢酸の臭い。
 少女はえずきながら頽れる。その間にも隙間から吐瀉物が零れ落ちていくのだった。
勇者「な、おい! 大丈夫か!」
 そんなわけはないのである。あまりにもわかりきったことしか言えないおのれに、勇者は心底腹が立つ。
 吐瀉物に塗れるのも構わず、勇者は少女に駆け寄った。
 が、しかし。
少女「大丈夫よ」
 あくまで毅然に少女は言った。汚れた口元を袖で拭い、手のひらは地面へこすり付ける。
 目には涙こそ浮かべているが、その瞳の鋭さと言ったら!

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 18:45:47.32 ID:yFuxTM2h0
 
 大丈夫だなどと、そんなわけがあるか、と勇者は思った。けれど同時に、少女もまた心の底からそんなわけがあるのだ、と思ってもいた。
 少女は何よりも目の前の男に心配されるのが殊の外業腹だったのだ。
 命を粗末にする人間は嫌いだった。
少女「みっともないとこ、見せたわね」
 唾を二回吐き出して、少女はようやく立ち上がる。
少女「寝るから。ついてこないで。おやすみ」
勇者「嫌われてる、なぁ」
 答えなどが降って落ちてくるわけもなく、ただ夜は過ぎていく。

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/07/11(水) 18:49:08.46 ID:UtySBwRO0
興味深い

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 19:23:08.20 ID:yFuxTM2h0
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 どすん、と地面を鳴らし、魔物が倒れた。
 凶暴に変化した大猿だ。二人のときは苦戦した敵も、人数が倍になればその限りではない。
 というよりも、老婆と少女があまりにも拾いものであった。
老婆「もう少し数が出てくれば本気の出し甲斐があるってもんだけどねぇ」
少女「アタシまで吹き飛ばさないでよ、おばあちゃん」
勇者「信じらんねぇなぁ」
 少女は服に返り血がついてしまったと嘆き、老婆は仕方ないという風に時間遡行の魔法をかけている。
 日常と死線の境界はもはや曖昧だ。
 そしてもう一人、マイペースな人間が。
狩人「……」ザクザク
 狩人は黙々と猿の毛皮を剥ぎ、肉を手ごろな大きさに切り取っていた。
 赤味の部分を一口噛み千切り、
狩人「筋が多くてだめかも」

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 19:23:46.56 ID:yFuxTM2h0
勇者「今日中には村だ。保存食はいいよ」
狩人「燻製……」
少女「なんか生き生きしてるね、狩人さん」
勇者「狩猟採集民族の血が騒ぐんだろ」
勇者「っていうか、老婆、あんたの転移魔法で村までいけないのか?」
老婆「行ったことのある地点にしか行けないんじゃよ」
勇者「思ったより使えないんだな」
老婆「」ペロン
 老婆の舌が勇者の頬を這いずる。
勇者「ーーーー!!!!!」
 ゆうしゃの わかさに 15の ダメージ !!

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 19:24:12.71 ID:yFuxTM2h0
老婆「そう、こんなことにしか使えないんじゃよ、うひゃひゃひゃひゃ」
勇者「老けた老けた俺今絶対老けた若さが! 童貞失った時より歳食った気分!」
狩人「何気に爆弾発言」
老婆「ほれ、立ち止まっていないでしゃきっと歩け」
勇者「誰のせいだよ、誰の……」
少女「でも、もうそろそろ着くころだよね、きっと」
狩人「たぶん。植生が変わってるから」
少女「植生? そんなのわかるんだ」
狩人「奥に行けばいくほど、葉っぱの大きい植物になるから」
老婆「この辺は手のひらサイズじゃし、ピクニックも終わりじゃな」
勇者「そんな気分だったのかよ」

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 19:25:09.15 ID:yFuxTM2h0
老婆「何よりも重要なのは精神じゃよ」
勇者「魔法使いの言うことはわかんねぇなぁ」
老婆「魔法使いじゃあなくて、賢者じゃ」
勇者「自分で賢者って名乗るのはどうなの?」
老婆「事実なんだからしょうがあるまい」
勇者「俺も魔法は使えるけど、重要なのは肉体じゃねぇの? 体は資本だし」
老婆「肉体など所詮精神の容器にすぎんよ」
勇者「健全な肉体にこそ健全な精神は宿るっていうぞ」
老婆「重要なのは何をするか、じゃ。健全な精神は健全な生を導く」
老婆「人生を左右するほどに心のありようというのは重要なのじゃよ」
勇者「わかったような、わからないような」
老婆「うひゃひゃ。いずれわかるときもくる」

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/07/11(水) 19:25:39.43 ID:yFuxTM2h0
 戦闘を歩いていた狩人が突然立ち止まる。後ろを歩いていた勇者は、当然彼女の背中に追突した。
勇者「どうした?」
狩人「……?」
 勇者の声が聞こえていないのか、狩人は無言で中空に死線を彷徨わせている。
 数度鼻をヒクつかせると、あらぬ方向を狩人が向いた。
勇者「どうした」
 勇者が声をかけるが、彼女の顔はあさってを向き、依然虚空を睨みつけている。
 応えを出さず、駆け出した。
狩人「早く!」
 木と木の間を華麗にすり抜け、森の奥、光のほうへと消えていく。