Part18
412 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:53:03.25 ID:KyMiL0240
狩人「そっか」
老婆「まったく……」
女二人は反応するが、必要以上に声を荒げることはなかった。この中で真っ先に声を上げるとしたら、それは勇者であるだろうと二人は思っていた。そしてその予想は当たった結果になる。
勇者「何があるかわからないなら、俺が行くのが安全だろ。死んでも生き返るし」
それは一面の事実であるが、勇者の偽りない本心ではない。
勇者はただ、もう自分の大事な仲間が危険な目に合うのは嫌なのだ。
全てを救うことはできない。であるならば、自分の目の届く範囲、手の届く範囲をちまちまと救っていくしかない。
逆説的にその誓いは目と手の届かない人々を見殺しにすることと同義である。いまだにその事実は彼を苛むが、彼は決めたのだ、強く在るのだと。
少なくとも今は、なのだと。
老婆「出発は」
勇者「今晩か、明日の夜明け前にでも出ようと思う。人の少ない時間帯を見計らってな」
狩人「私も行く」
勇者「いや、やめとけ」
狩人「どうして?」
真っ直ぐ勇者の顔を覗き込む狩人。そこに詰問の様子は見られない。
ただ単純に彼女は勇者の力になりたかっただけなのだろう。
413 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:53:40.80 ID:KyMiL0240
勇者「あのガキが捕まってるのは必死の塔とか言ってた。お前の弓は確かに凄いけど、建物の中じゃ限界があるだろ」
狩人「まぁ……いや、でも」
勇者「大丈夫。俺は必ず戻ってくる」
頭の上にぽんと手を乗せる。狩人は恥ずかしそうにはにかみつつも、その手を除けることは決してしなかった。
狩人「うへへ……」
勇者「キャラが変わってるぞ」
狩人「そんなことない」
老婆「あー、すまんが、二人とも」
直視するのも恥ずかしい様子で老婆が声をかける。
老婆「勇者よ、必死の塔の場所はわかるのか?」
勇者「いや、わかんねぇな。共和国連邦のそばだろ、そっちにゃ行ったことないんだ」
勇者「転移魔法で送ってもらえたりするのか?」
老婆「すまんが、儂もそちらには行ったことがない。移動するだけなら、最寄までは転移魔法で連れて行くこともできるんじゃがな」
414 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:54:40.24 ID:KyMiL0240
共和国連邦は、大森林を抜けた先、かつて焼打ちにされた町をさらに超えたところに国境がある。
基本的に「隣国」と言った場合、小都市の集合であるこちらよりも、より長い国境を接している隣の王国を指す。統治機構も、共和国連邦は各領主による分割統治が行われているが、この国と隣国は王政である。
老婆「大体の場所は予想がつくが……ここからだと二日。最寄からでも一日はかかるぞ」
勇者「待てよ。ここから二日かかるところにあいつはいるのか? まだ一日も経ってねぇぞ」
老婆「つまりはそういうことなのじゃろ」
そういうことーー高速移動か、瞬間転移か、またはそれらに準じた能力の持ち主が、少女を攫ったということ。イコールで、必死の塔にいるのは実力者に違いないということ。
塔の名称の由来から察してはいたが、やはりというところだろう。
勇者「とにかく、出発は今日の二時にする。中庭に出るから、悪いけどばあさん、転移魔法で連れて行ってくれ」
老婆「承知した」
狩人「私も見送りに行く」
勇者「あぁ。悪いな」
狩人「別に。勇者はいつも心配ばっかりかけるから」
415 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:55:34.31 ID:KyMiL0240
勇者「悪いとは思ってるんだけどなぁ」
老婆「各自解散としよう。勇者は準備をしてくれ。狩人もそれに付き添って」
老婆「儂は、少し情報を集めてくるよ」
勇者「ありがとう」
老婆は莞爾と笑って、
老婆「なぁに、いいってことよ。不肖の孫娘を代わりに救ってもらえるんじゃ」
老婆「深夜二時まで、それじゃあの」
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416 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:56:34.32 ID:KyMiL0240
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狩人の部屋で二人は見つめあっていた。いや、見つめあっていたという表現はロマンティックに過ぎる。かつ、恣意的に過ぎる。
正鵠を得る表現をするならば、こうだ。
二人は顔を突き合わせていた。
勇者「さて……どうしたもんかな」
狩人「私は勇者に従う。勇者が行くところに行くよ」
ぎゅっと勇者の手を握り締める狩人。
本来ならば良い雰囲気であってもおかしくはないのだろう。が、二人のそれは決して恋人のものではなく、冒険者のそれであった。
いや、二人は過去から現在に至るまで冒険者である。冒険者以外の何物でもなかった。少なくとも彼らは自分たちが王城に務めている兵士などとは思っていなかった。
彼らの目的は魔王を倒すこと。
そして世界を平和にすること。
それだけなのだから。
当面の目的は無論少女を必死の塔より救い出すことである。しかし、それですべてが終わるわけでは、当然ない。四天王はまだ健在。国の情勢も不安。戦争はすでに着火され、沈下などできそうにもない。
少女を救ったのち、どうするのか。
二人はそれを話し合っていた。
417 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:57:23.55 ID:KyMiL0240
否。話し合う必要など二人にはなかった。狩人が勇者の顔を確認する動作だけですべてのコミュニケーションは終わっていたからである。
狩人「難儀な性格してる」
勇者「ついてこなくっても、」
狩人「やだ」
勇者は苦笑した。彼が狩人をこうしたのか、狩人がこうであるからこうなっているのか、判断が付きかねた。
彼女の幸せを願うならば彼女こそ置いていくべきなのかもしれなかったが、勇者は結局そうしなかった。エゴイズムだと罵られても彼は彼女と一緒にいたかったのだ。
勇者「お前も随分難儀だよ」
狩人「かな。かもしれない」
勇者「ま、ばあさんには迷惑かけられねぇしな」
狩人は無言で首を振る。縦に。
彼らの決断は、旅人の外套を脱ぎ捨てて、兵士の鎧を着ることだった。
418 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 14:58:27.35 ID:KyMiL0240
勇者はわからなかった。どうしても、彼には理解できなかった。
なぜ人が人を殺すのか。
さんざん仲間を見殺しにしてきた自分が言うのは間違っていると知っている。それでも、こんなことは間違っていると思った。国同士が総力を挙げて水や、資源や、領土を奪い合おうとしているなど。
二人を助けるために一人を殺すことを勇者は否定しない。国だって恐らくそういうものなのだろう。
けれども、わからないものをわからないままにしておくのは、どうにも居心地が悪かった。
癪だったのだ。ーー何に? と尋ねられれば、恐らく二人は逡巡し、こう答えるだろう。
自分より遥かに巨大な何かに対して。
それは国か、政府か、あるいは運命という名前のものかもしれない。
とにかく、勇者は何がそうさせているのかをこの目で確かめたかったのだ。
いままで幾度も戦いに身を投じてなお、彼にはわからない。どんな原理が争いに導いているのか。生物を殺し合いに突き動かしているのか。
戦いではなく戦場でならばそれの正体にも判断が付くのではないか。
419 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:00:08.89 ID:KyMiL0240
魔王を倒すためにひたすら冒険してきた。殺し、殺され、殺してきた。が、世界は一向に平和になる気配がない。そもそもが見当違いであるかのように。
魔王を倒せばイコールで平和になるなんて状況ではない。ならばどうすれば世界は平和になるのか。
勇者はその方法を探そうというのだった。
なんとーー途方もない、ばからしい、夢物語。
だがしかし、それでこそ勇者である。身の程を知らない傾奇者。世界を変える権利を持つのは、やはり彼のような人物であるべきなのだ。
勇者「今晩あのガキを助けに行く。何日かかるかわからないけど、そうしたら、戦争にいこう」
勇者「一体何が人を殺すのか、見極めないと」
人を殺すのではなく、あくまで彼は戦争を止めにーー出来うる限り被害者を少なくするために戦場へ身を投じる覚悟であった。
一介の兵士に何ができよう。勇者自身そう思っていたが、それでもやらなければならない。
居ても立っても居られない。
420 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:00:59.46 ID:KyMiL0240
勇者「魔王退治から随分と離れちまったけどな……」
狩人「魔王退治は目的じゃなくて手段」
勇者「あぁ、そうだな。世界を平和にしないと」
彼の脳裏に去来するかつての仲間たち。
自分より若い者も、自分より老いた者も、皆等しく死んでいった。
勇者は、自分が生き残ったのは不死の奇跡のためだということをよく理解している。運命という言葉で華麗に装飾しようが、偶然という言葉で地べたに放り投げようが、本質は変わらない。
狩人「……」
そんな勇者を見て、狩人は複雑な表情を浮かべている。彼女は彼の仲間と面識がない。彼の思う大事な仲間を、彼女は知らない。
なんだか置いてきぼりを食らっている感覚なのだった。
勇者「どうした?」
狩人「なんでもない」
勇者「ほんとに?」
狩人「ほんと、ほんと」
勇者は黙った。これ以上言っても無駄だと悟ったからだ。
黙った勇者を見て、狩人もまた黙る。
421 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:01:54.60 ID:KyMiL0240
勇者「……」
狩人「……」
自然と二人の視線があった。ゆっくりと二人の唇が近づき、
そして、
唐突に部屋がノックされる。
二人「!」
思わず跳ね上がる二人だった。
消灯時間は過ぎている。勇者が狩人の部屋にいることが知られては、どちらも懲罰だ。勇者は慌ててベッドの陰に隠れる。
??「おーい、入るぞー」
入ってきたのは隊長であった。洞穴を探検していたのがつい一昨日のことだというのに、どうにも久しぶりの感を二人は感じた。
狩人「隊長? どうしたの」
隊長「どうしたっていうか……勇者いるべ? 出てきていいぞ、わかってるから」
勇者「?」
狩人「?」
422 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:02:51.82 ID:KyMiL0240
二人は不可思議な空気を感じ取った。部屋を抜け出した懲罰でもなければ、そもそも狩人を呼んでいるわけでもないのだ。なぜ彼は勇者がここにいることを知っているのか。
隊長「部屋に行ってもいないなら、ここにいるしかねぇだろ」
勇者「それで、どうかしたのか」
隊長「どうかっていうか……二人とも、ちょっと来てくれ」
隊長が手招きする。二人は首をかしげながらもついていくしかない。
部屋を出ようとしたところで隊長が振り返り、
隊長「二人とも、武器を持ってきてくれ」
なおさら怪しい。勇者は唾をごくりと飲み込んだ。
案内された先は儀式用の魔方陣が描かれている部屋で、すでにその中には老婆がおり、ほかに数名の兵士がいた。老婆と隊長、狩人と勇者を含めて十人。
勇者は老婆がひどくばつの悪い顔をしていることに気が付いた。不本意極まりないという表情である。
兵士の一人、暗い顔をした男が一歩歩み出る。
暗い顔の兵士「あなたたちが、噂の……」
暗い顔の兵士「初めまして。今回の作戦で参謀を務めることになりました。以後お見知りおきを」
423 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:03:36.29 ID:KyMiL0240
勇者「作戦?」
勇者は思わず尋ねた。そんな話は聞いていない。しかも今は深夜ではないか。
そこまで考え、急遽飛来した想像に、勇者は自らの思考を打ち消す。
勇者「まさか、夜襲か」
暗い顔の兵士ーー参謀は表情を変えずに頷いた。
参謀「えぇ、まぁそういうことになりますかねぇ……」
参謀「いやね、あんまり僕としても望んでないんですが、統括参謀殿から言われちゃどうしようもないんですよ、すいません。あぁ……死にたい」
勇者「どういうことだ」
隊長「これから俺たちは転移魔法で前線基地に移動する。そこからさらに移動し、宣戦布告、本隊の準備完了とタイミングを合わせ、敵の前線基地を可及的速やかに制圧する、だそうだ」
参謀「僕の仕事を取らないで下さいよ……もう」
鬱々とした様子で参謀は続ける。
参謀「死にたくなりますよ、本当に。急ピッチで軍備を整えている最中らしいんですが、その前に敵の補給の経路を断っておきたいそうで」
参謀「前線基地って言っても、まぁいわゆる食料庫ですね。兵站が詰まってます」
424 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:04:26.68 ID:KyMiL0240
勇者「……話を聞く限り、開戦の口火を切る大事な役目みたいだが」
参謀「はい。重要、かつ極秘の任務です。宣戦布告をしていない状況なので」
遍くところにルールは存在する。戦争もまた然りで、すべからくルールが存在する。
人殺しに規則を守る誠実さが求められるなど自家撞着も甚だしいが、それを順守しなければ戦争に勝利しても得られるものは何もない。正当な手続きを踏んだ勝利でなければ他国が許さないためである。
正当な手続きによって得た物のみが国家ないし個人の所有物となる。それは資本主義の大原則であるが、正当な手続きであるかどうかは客観的にしか判断できない。
ゆえに、誰もが違反を知らなければ、それは正当であり続けるのだ。
例え宣戦布告をせずに敵国を襲っても、である。
だからこその夜襲。だからこその少人数。
勇者「それに、なんで俺とか狩人とかが選ばれるんだ? もっといいやつがいるんじゃないか?」
なんだかんだ言っても二人はまだ新米兵士である。こんな重要な任務に赴任される謂れが彼には想像できなかった。
425 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:04:55.73 ID:KyMiL0240
参謀「隊長殿と、あとは僕もですが、独断ですね」
参謀「先日の鬼神討伐の一件、伺いました。僕らはたぶん、きみたちが思っている以上にきみたちを戦力として考えています」
参謀「奮励してください」
たった十人で敵の補給所を襲うこの作戦は、迅速かつ的確に行えるかが肝となる。余計な人数をかけられない分だけ一人一人の力量が求められるのだろう。
無論十人では継戦能力などないし、ゲリラ活動に身を窶せるわけもない。本隊とうまくタイミングを合わせる必要がある。
理想は作戦終了とほぼ同時に宣戦布告を開始、攻撃を始めること。
僅かばかりのフライングスタートだが、それが与える影響は存外重大である。
勇者「……拒否権はないんだろ」
参謀「拒否したいんですか?」
少女のことを言うかどうか、躊躇われた。
鬼神討伐について触れられているということは、当然少女の存在も知っているだろう。が、ここに少女はおらず、また少女の不在についての言及もされていない。
老婆がある程度事情を説明しているのだろうか。勇者はそこまで考え、結局言うのを辞めた。軍隊の中にあって少女の存在など歯牙にかける必要もないのだと思ったからだ。
426 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:06:03.81 ID:KyMiL0240
勇者は結局首をふるふると横に振った。参謀は細い目をわずかに歪めたが、あえて何も言わずに魔方陣の中心へと移動する。
参謀「さ、皆さん、乗ってください。転移魔法を起動します。……厄介な作戦に引きずり込んで、申し訳ないです」
老婆「準備はできたぞ」
参謀「そうですか。では、行きましょう」
魔方陣が起動する。空気が振動する音とともに光が部屋中に満ち、次の瞬間十人の姿が消えうせる。
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427 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:06:32.33 ID:KyMiL0240
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夜でも部屋の中は陣地構築のおかげで明るい。九尾も生物の宿命として食事や睡眠はとらねばならないが、ある程度は魔力で補える。今は寝る間も惜しかった。
アルプ「ただいまー」
九尾「おかえり」
アルプ「やっぱりガチで戦争始めるみたい。勇者くんたちは先遣隊で、ちょっかいかける役目だってさ」
九尾「あぁ、それは見ていた」
九尾「宣戦布告の前にアドバンテージを稼いでおきたいということなのだろう。浅ましいというかなんというか」
アルプ「今勇者くんたちは国境沿いの河川をずーっと下ってるね。あと二日か三日くらいで目的地に辿り着くかな」
九尾「本隊の準備はどれくらい進んでた?」
アルプ「練度の高い部隊はもう作戦の確認に移ってる。歩兵の一個大隊と儀仗兵の一個中隊。ただ、医療班がまだ揃ってない」
アルプ「国中から急いでかき集めてるみたいだけど、そこ待ちじゃない? あんまり急いでもほかの国に悟られちゃうし」
428 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:08:21.26 ID:KyMiL0240
かの国の戦法は極めてオーソドックスで、前衛に歩兵、後衛に儀仗兵を置き、圧倒的な物量で殲滅するというものだ。
歩兵の種類も騎馬をあまり用いず、軽歩兵を多用する。質より量、そして小回りの利く遊撃隊が別働で戦果をあげている。
対する隣国は重歩兵による密集戦法と、後方にいる儀仗兵からの魔法が強力とされている。また隣接している宗教国から派遣されている僧兵も侮れない。
九尾「気に食わないな。あの王、九尾の忠告を丸無視する気か」
アルプ「どうする? 数十人くらい殺してこようか?」
九尾「いや、最早戦争を止めるつもりはない。が……あんまり少女を拘束しておくのも厄介だな」
アルプ「あー、デュラハン? 厄介ってどういうこと」
九尾「戦争に出るべきか、助けるべきか、悩んでばかりいられるのも扱いづらい。方向性をはっきりさせてやらねばならん」
九尾「アルプ、やれるか?」
アルプ「うーん、できなかないと思うけどねー。どっちがいい?」
九尾「どうせ戦争と言っても些細なものだ。別段九尾は望んでいない」
アルプ「あいよ。じゃ、先にあの女の子助けに行かせるねー」
429 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:08:57.45 ID:KyMiL0240
九尾「待て」
踵を返して部屋を出ようとしたアルプの姿に、なんだか九尾は嫌な予感がして声をかける。
九尾「どうするつもりじゃ」
アルプ「え? 兵站基地の敵兵全員わたしがぶっ殺してくるよ。それでいいでしょ」
九尾「……」
返答に困った。確かにそれは一番手っ取り早い方法であるが……。
とはいえ、九尾が動くことはできない。九尾にはまだやることがたんまり残っていて、だからこそこの部屋に籠っているのだから。
自然と漏れる溜息を放置して、手をひらひらと振る。
九尾「あー、まぁそれでいい」
アルプ「うわ、適当な感じ!」
九尾「一応デュラハンにも声をかけておいてくれ。手練れがたくさんいるぞ、と」
アルプ「りょーかい」
今度こそアルプは扉から出て行こうとして、先ほどとは逆に、反転して九尾へ声をかけてくる。
アルプ「そういえばさ」
九尾「?」
430 :
◆yufVJNsZ3s :2012/09/28(金) 15:09:30.56 ID:KyMiL0240
アルプ「その血、どうにかしたほうがいいよ」
言われて自分の服を見る。流しの着物は本来薄い青であったが、前の部分が真っ赤に染まっていた。
部屋の隅に視線をずらす。そこには先ほどとった「食事」の残骸がまだ転がっている。陣地構築のおかげで死体が腐敗することはないにしろ、生肉を食わないアルプからしてみれば気になるのだろう。
九尾「と、言われてもな。誰かに会うわけでもなし。構わんよ」
アルプ「魔王様が生きてたらなんていうかな」
九尾「死んだやつのことなど、どうでもいい」
強がりであった。アルプは少し表情を歪めるも、それ以上は何も言わない。
アルプ「んじゃ、まぁ行ってきますにゃー」
九尾「おう。任せたぞ」
蝶番の軋む音すら立てず、アルプは部屋を後にする。
静寂が部屋を満たす。壁が光るこの部屋は、蝋燭のにおいも、ランプの炎が縮れる音も、何もない。ただ血流の微かな音だけが五感を刺激する。
もう一度九尾は部屋の隅の残骸に目をやった。人間であったもの。そのなれの果て。
目的をしっかりと確認し直し、また机に向かう。
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431 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/28(金) 20:12:01.44 ID:YAOFKQvso
乙
安定して面白いです
432 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/30(日) 12:08:30.21 ID:ohGQSauDO
来てたか乙