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勇者「王様が魔王との戦争の準備をしている?」
Part11


228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/01(水) 08:27:25.12 ID:HjpWLE040
 部屋の前についた。鍵はかかっていない。
 一般兵は二人部屋で、狩人の場合は少女と同室だった。部屋に入って扉を閉めると、暗闇の中で少女と狩人の二人分の寝息が聞こえてくる。
勇者「ほら、狩人。ベッドで寝ろ。部屋だ」
狩人「……」
 狩人は深い眠りに入っているのか、呼んでも揺さぶっても一向に起きる気配を見せない。それでも夢に魘されるよりはいいのだろうが、おぶっている勇者としては複雑である。
 ベッドに腰掛け、手を離した。首に回されている狩人の手をそろりそろりと外し、なんとかベッドに寝かせることに成功する。
勇者(子供かこいつ……ん?)
 立ち上がろうとして、立ち上がれない。心霊現象の類ではない。単に狩人が服の袖を掴んでいるだけだ。
 寧ろ心霊現象よりもたちが悪い。
勇者(いやいや、離してくださいよ狩人さん)
 きつく服が握りしめられている。
 勇者はなんだか頭が混乱してきた。自分の身に起きた事態を理解できない。
 なぜなら、恐らく狩人は起きているから。
 寝ながらこんな握力を誇るはずがない。大体彼の背中から降りようとしなかったこと自体がおかしいのだ。
 それが指し示す事実は一つだけ。
 しかし、彼女が起きているのはわかっても、対処法がわからなかった。なまじっか狩人の気持ちと真意を理解しているだけに、無下にもできない。
勇者「……ばれてるから」

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/01(水) 08:28:28.11 ID:HjpWLE040
 少しの間をおいて、狩人はむくりと起き上がった。
狩人「ばれてた」
勇者「ばればれだよ」
狩人「二人の仲だし」
勇者「お前、まだ酒に酔ってるだろ」
狩人「うん。だって、えへへ、こんな楽しいのは久しぶりなんだもん」
狩人「勇者が無事で、一緒にいられてうれしい。えへ」
 いつの間にか狩人の手が勇者の手と重なっていた。
 溶け合っているかの如く感覚が定まらない。輪郭も定まらない。
 肌と肌の境界線が曖昧だ。酒と空気の相乗効果は、ここに至って恐ろしい。
 手を跳ね除けようと思えばできるだろう。そして狩人はすぐに引き下がるだろう。わかっているのだそんなことは。
 けれど、彼だってそんなことはしたくないのだ。
 二人の顔が近づく。
 艶っぽい、熱を持った唇。うっすらと濡れた瞳と睫毛。
 微かにアルコール臭のする吐息が勇者の鼻先をくすぐる。
狩人「ね、勇者。お願いがあるの」
勇者「……」
 緊張ゆえの無言を狩人は肯定と受け取ったようで、娼婦の笑顔でこう言った。
狩人「わたしがピンチになったら、絶対助けに来てね」
勇者「!」

230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/01(水) 08:31:42.14 ID:HjpWLE040
 理性など最早無力だった。唇と唇が触れ合うほどの、限りなく零に近い二人の間の距離を零に至らしめたのは、勇者であった。
 貪るような口づけ。狩人から勇者に対してしたことは幾度かあれど、彼から積極的にしたことは、今までない。狩人の瞳が驚きに見開かれ、すぐに蕩けた顔になる。
狩人「積極的」
勇者「俺が悪いんじゃない」
狩人「そう、わたしが悪い。悪女。罪作りな女……ふふ」
 勝手に笑い始める狩人の肩を掴んで、正面から顔を見た。
 ただならぬ雰囲気を察して、狩人も真面目に勇者の瞳を覗き込む。
勇者「俺は、強く在ろうと思う」
狩人「……よかった」
 会話はそれだけでよかった。

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 17:50:44.97 ID:vSRjzYLw0
 強く在ることは強くなることとは一線を画す。後者は未来に希望を託すことだが、前者は生き方を変えることだ。
 打ちのめされても折れない、強靭な生き方を彼は目指したかった。
 もう一度口づけを交わす。口唇だけではなく、舌も絡めて全てを舐め、吸い尽くす。唾液はやはりアルコールの香りで、しかしそれだけではない。狩人のにおいと混じって寧ろ官能的ですらあった。
 髪の毛をくしゃりと握りつぶす形で抱く。先ほども触った柔らかな、絹のような髪の毛。何日も満足に風呂に入れない時もあるというのに、ここまでの髪質を保てるのが不思議だ。
 次第に狩人の顔が下がってくる。唇から顎、顎から首、首から鎖骨。舌といわず唇といわず、形容できない感触が皮膚の上を這って行く。
 背筋を突き抜ける快感。勇者も負けじと首筋へ舌を這わせる。
狩人「ふ、やぁ……あっ! だめっ……」
勇者「今更何言ってんだ……」
狩人「だって、こ、こんなの、んっ、ぁう……こんなの、知らない……」
 髪の毛を撫でていた手がふと耳にあたる。小ぶりな耳は、当然のごとく耳たぶも小ぶりだ。勇者は思わず耳に舌をやった。
狩人「あぅっ!」
 一際大きい声が漏れた。

235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 17:51:17.84 ID:vSRjzYLw0
勇者(性感帯、ってやつか?)
 丁寧にそこに舌をやり、唇で優しく食んでもみる。外耳の窪みを舐め、耳の奥を軽く、音を立てて吸う。
狩人「ふぁ、や、んあぅ! ゆう、ゆうしゃ、なにこれぇ」
狩人「ふぁ……きもひよすぎて、怖いよぉ、ゆうひゃぁ……」
 狩人は勇者の体を啄むのすらやめ、子供のように必死で彼にしがみつくばかりだ。
 これは少しやりすぎたかなと、勇者は耳から口を離して抱きしめる。
勇者「ごめん、ごめんよ、調子に乗った」
狩人「……」
 上気した顔の狩人は、焦点がいまいちあっていない目で勇者のことを見つめている。
 
狩人「んっ!」
 勢いに任せた口づけ。思わず歯と歯がぶつかり、音が鳴る。
 狩人は勇者の首の後ろに手を回し、そのままベッドに引っ張り倒した。
狩人「あ。あたってる」
 勇者の足の付け根が狩人の太腿に押し付けられていた。当然の生理現象とはいえ、勇者はなんだか恥ずかしくなって、思わず体を離そうとする。
 が、狩人はそんな彼のことを離してくれなかった。
狩人「逃げるな」
 そう言って勇者の股間を、服の上から擦りはじめる。

236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 17:51:55.39 ID:vSRjzYLw0
狩人「おっきい……おっきくなってる……」
勇者「そ、そりゃ男だからな」
狩人「舐める」
勇者「う……おう」
 言うが早いか狩人が勇者のズボンを膝まで一気に降ろしにかかる。鎧も付けていない室内着なので、腰のところはゴム紐である。容易くズボンは降りた。
 押しこめられていたものが弾けた。反動で屹立が狩人の眼前へ飛び出す。
狩人「凄い……熱い……」
狩人「え、男のひとって、こんなに熱くて大丈夫なの?」
勇者「大丈夫じゃないかも」
 いろいろな意味で。
狩人「はむっ」
 溜めをつくってから狩人が勇者のそれを口に咥えた。むっとした男の臭いに思わず咽そうになるが、すぐさま狡猾館へと変異、次第に脳髄を満たしていく。
 唾液が出てくる。狩人は自然な動作で勇者のものに眩し、口内全体を使って擦りあげる。
狩人「んっ、ちゅ、ぐちゅ、ん、ひもひーい? ぷちゅ、ちゅっ」
 気持ちいいどころの話ではなかった。ともすれば腰砕けになってしまいそうな快感の波が、絶えず勇者に叩きつけられる。
狩人「じゅる、ちゅぷ、ちゅ、いっぱひ、ん、んっ、きもひよくなっへえ? くちゅ、じゅ、じゅるるっ」
 一心不乱に勇者のものを口内で扱く狩人。彼女の視点は勇者を見ておらず、ただ扱くことに夢中になっているようだった。
狩人「ぷはっ」
 口から一回離し、啄むようなキスを繰り返す。顔全体と舌で擦るように、裏筋まで舌を這わす。
 どこで学んだのか全く疑問になるほどの性技である。

237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 18:12:35.47 ID:/JlUVHnk0
狩人「ぐぷ、じゅるるるっ! ん、おいひーよ、ゆうひゃ……ちゅ、じゅる、んっ!」
 快感の高まりの終着点が見えた。勇者は狩人を撫でていた手に力を入れ、申し訳ないとは思いつつも、己のものに押し付ける。
勇者「ごめん、出るっ!」
狩人「ーーーーっ!?」
 欲望の奔流が喉に向かって流し込まれる。
 長く、長い、射精。
 彼も一人でしたことがないわけではなかったが、それとは比べ物にならない量だった。二度、三度脈打っても、まだ止まらない。
 ようやく射精が止まり、彼は口からいまだ萎える気配のないそれを引き抜いた。
狩人「んっ」コクン
 間髪入れずに狩人が出されたものを嚥下する。そうして口の端に残ったものまで舌で掬い、飲んだ。
勇者「だ、大丈夫か」
狩人「うん。だって勇者のだもん」
狩人「ね。わたしにも、して欲しいな、って」
 狩人は自分の股間に手をやり、勇者に見せた。指先は何か液体で光っている。
 たまらず勇者は口づけをした。最早何が起こっても止められる気がしなかった。

238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 18:13:25.50 ID:/JlUVHnk0
 静まらないそれを、狩人に近づけていく。
 肌と肌が触れた。
狩人「熱い……」
勇者「お前だって、大概だ」
勇者「じゃ、行くぞ」
狩人「うん、うん」
 一気に狩人の奥へと入っていく。
 狩人の足が張り、肩に回されていた手が強く閉じられる。爪が肉に食い込んで多少の痛みはあったが、今彼女が感じている痛みはそんなものではないのだろう。
 半分ほどまで挿入し、そこで止めた。彼女の顔を見れば、痛みに耐えて笑顔をつくっている。
勇者「大丈夫か?」
狩人「大丈夫、だから。もっと……」
勇者「無理すんなよ」
 残り半分も狩人の中に埋めていく。
狩人「んっ!」
 狩人の中は火傷しそうなほど熱く、濡れ、勇者を閉じ込めてくる。抽送するたびに様々な部分に絡みつき、口内とは次元の違う快楽だった。
 どうやらそれは狩人も同じらしい。半開きの口からは涎が垂れている。痛みも残っているのかもしれないが、それより快楽のほうが勝っているのだろう。ぎゅっと勇者のことを抱きしめ続けている。
狩人「手、手ッ」
 狩人は朦朧としながらも手を開いた。勇者は合点がいって、そこに自分の手を合わせ、指が絡み合うように手を握る。
 その間も抽送は止めない。止められない。狩人のことを気にしていられるほど彼に余裕があるわけでもない。

239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 18:14:06.71 ID:/JlUVHnk0
狩人「勇者、ゆうひゃっ! 好き、好き、好きだからっ」
勇者「俺もだっ……」
 より強く手が握りしめられた。涙目、涙声になってくる狩人の姿を見て、彼女の限界が近いことを勇者は知る。そして、限界が近いのは彼もまた然り。本能に任せるかのように腰を打ち付けていく。
 染み出した愛液はすでにシーツを汚し、勇者の陰毛すらもべたべたにする。当然その感覚は不快ではない。
 勇者は己の限界を悟った。我慢できない射精感。
勇者「くっ……出るぞっ」
狩人「出して、出してえっ!」
 全身が脈動するほどの波が打ち寄せた。彼はもう一度、己の欲望を、今度は彼女の胎内へと流し込む。
 同時に狩人の全身がこわばった。口が開き、ピンク色の舌が見える。
 火照った頬。視線の定まらない瞳。
 たっぷり一秒ほど二人は絶頂を迎え、そして勇者は狩人に倒れこんだ。
狩人「ゆうしゃ……んっ、だめ、そこ」
 勇者が狩人の服を捲り上げ、胸に舌を這わせていた。褐色の肌とは異なる桜色のきれいな先端に舌を這わせ、時折優しく噛んでもみる。
狩人「んっ、だめ、またしたくなっちゃう……」
 二人の合わさる体を、窓から月が見ていた。
 そしてもう一人。
少女(ここでおっぱじめんじゃないわよっ! アタシのことすっかり忘れやがってぇっ!)
 夜は更けていく。
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240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 18:15:34.34 ID:/JlUVHnk0
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 翌朝。
 朝食は複数グループで順番にとっていくことになっていた。
 あくびをしながら廊下へ出た勇者は、ちょうど部屋から出てきた狩人と少女に出会う。
 三人は全員目の下にくまができていた。
勇者(腰が……)
狩人(痛い……)
少女(眠い……)
 ひょこひょこ歩く狩人を横目に、少女は苛立ちを誰にぶつければいいのか、困ったように憤慨している。
 結局太陽が空を照らし出すまで彼女は寝られなかったのだった。
少女「送り狼……」ボソ
勇者「?」
 食堂につく。長いテーブルに粗末な椅子。厨房に一声かければ、木製のプレートに乗った朝食が手渡される。
 今日の朝食はパンに野菜のスープ、ふかした芋だった。粗末と言えば粗末だが、野生動物を捕まえ焚火で炙って食べる生活と比べれば、どちらがより文明らしいかは一目瞭然だ。
 食堂にはおおよそ三十人が入る。三人が入った時点でそれなりに人の波は少なく、容易く席をとることができた。
少女「空いててラッキーだね」
勇者「そうだな、珍しいな。昨日の酒が残ってるやつもいるのかもしれん」
 いつもならば、満席とは言わないまでも、三人が揃って食事をとれるのは珍しいほどの混雑度を誇っているのだ。国王が義勇兵を募集したあの日以来兵士の数は徐々に膨れ上がり、誰かしら門を叩かない日はないという。それが一因でもあるのだろう。

241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 18:17:29.77 ID:/JlUVHnk0
 パンをかじる。ごく普通のライ麦パンだ。市販されているパンよりは酵母の風味が少なく、反対に麦の香りが強い。焼き立てでないのが残念だが、それは望みすぎというものだろう。
 冷めているとはいえ、噛めば噛むほど芳醇な香りが口に広がる。素朴な、田舎の風景が思い出される味だ。なんだかんだ言いつつも勇者はこの味が嫌いではなかった。
 ふかし芋もこれまたごく普通のふかし芋である。丸く、大きめで、でんぷん質の多い種類だ。芋と麦は合わせてこのあたりに一大農場群を形成している、立派なこの国の主要作物である。
 南下した国の外れでは稲も作っているようだが、勇者は今まで白米というものを食べたことがなかった。まだそれはこの国では奢侈品の類だ。
 ふかし芋をフォークで割ると、これはまだ熱が残っているのか、湯気が上った。きれいに四等分して口の中に放り込む。
 野性味の強い、だが僅かに甘みもある。二口目は塩を振って食べた。より甘みの引き立つ食べ方だ。
 芋の感触が残っていたので野菜スープで洗い落とす。滋味である。栄養が溶けだした琥珀色のスープは、体を心から健康にしてくれる気がした。
 中に入っている野菜の細切れは、大根、人参、セロリ、キャベツと言った具合。勇者はキュウリが食べられない。スープに入るような代物ではないのが救いだった。
 狩人と少女も、それぞれおいしそうに食べている。一汁一菜がほとんどの質素な食事ではあるが、しっかりと三食とれるのは大きい。
 三人揃ってごちそうさま。食器を配膳台に戻し、勇者は大きく伸びをした。

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 21:27:48.84 ID:LbZ1XUOu0
勇者「今日はどんな感じ?」
少女「このあと朝の訓練があるわね。そのあと昼食、訓練、で作戦会議」
 鬼神討伐の功によって勇者たちは上位兵と同様の立場についていた。そのため、勇者や狩人、少女は訓練内容や一日の予定に差がない状態だった。
勇者「作戦会議?」
少女「あんた御触れ見てないの? 鬼神があんなところに出張るのはおかしいってんで、遠征早まったんでしょうが」
 そう、老婆たち上層部が会議を行った結果、三体の鬼神はいかにも怪しいという結論に至ったのである。魔王軍の目的はわからないが、水面下で黙々と侵攻されるくらいならばいっそこちらから、ということだ。
 無論いきなり全軍を引き連れて「さぁ魔王城へ!」とはいかない。四天王の件もあり、その他幹部が陣取る砦もある。ある程度は腰を落ち着けてじっくりと侵略してかなければ。
狩人「……」
 狩人は険しい顔をして立ち止まった。
勇者「どうした?」
狩人「静かすぎる」
 鋭い狩人の言葉。勇者も耳を澄ませば、確かに静かだ。静かすぎると言っていいくらいに。
 朝食後のこの時間は、本来ならば他部隊では点呼があり、もしくは訓練を注げる点鐘があり、そうでなければ兵士たちの雑談が聞こえてくるはずである。
 本を運ぶ儀仗兵の姿も、シーツを取り換えてあたふたする従者の姿もいない。
 明らかに異常事態だった。
 と、曲がり角から兵士がゆっくりとした足取りでやってきた。
 ぞろぞろと。
勇者「!?」

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 21:30:00.77 ID:LbZ1XUOu0
 十人から二十人の兵士の集団が、抜身の剣を持って、うつむきがちに迫ってくる。その足取りは決して早くはないが、それゆえに圧迫感のある行進だ。
勇者「こ、これはっ!」
少女「操られてるよっ!」
 狩人が無言で腰の袋から鏃を取り出す。
 矢の先端だけを外したそれは、使い方によっては投擲武器にもなる。
勇者「殺すなよ」
狩人「がんばる。けど」
 鏃が放たれた。
 鋭く空気を切り裂く矢は、兵士の皮の鎧を貫通し、肩に深々と突き刺さる。しかし兵士は痛みを感じていないのか、その動きが止まることはない。
狩人「止まらない。痛みがないのかな」
少女「どーすんのよっ! アタシ、殺すなんてまっぴらだからねっ!」
勇者「俺だっていやだよ! ちっ、ひとまず逃げるぞ」
 三人は慌てて踵を返す。あちらの動きは遅い。撒くことは容易だろう。
 だが……。
勇者「くそ、こっちも!」
 数が段違いだった。行く先行く先で傀儡となった兵士たちの軍勢が行く手を阻む。一体どれだけの人数が操られているのか見当もつかない。
 もしかすると、それこそ三人以外の全員が、既に敵の術中に落ちているのかもしれない。
 術の範囲が王城だけならば、窓ガラスを破って外に出れば勝機はある。が、もしも城下町すらも術の範囲内であったら。
 勇者は己の予感が外れていないと確信していた。敵の戦力も正体も未知数だが、王城にも魔術的な障壁は恐幾重にも張り巡らされていたはずだ。それを突破できる程度の格を持った敵となれば、やはり城下町すらも掌握できると考えるのが安全である。
 ならば、敵は一体なんなのか。本命は魔物だが、隣国が騒乱の隙を狙った可能性も考えられる。

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 21:53:03.92 ID:NP2bXgEL0
 どのみち一国の危機であることには違いない。指揮系統は完全に麻痺し、軍備が己に牙をも向きかねないのだ。今は三人だけを狙っているが、それもいつまで続くだろうか。
 三人はひとまず場内を走り続ける。無駄に広いことに悪態をつく毎日だったが、このたびばかりはそれに救われた。なんとか出会うたびに回避を続け、逃げ惑う。
 しかしそれにも限界があった。追い込まれてしまったのだ。
 背中にはひんやりとした壁。周囲には樽や木箱が積まれている。恐らくは食料の備蓄場所なのだ。
少女「追い込まれちゃったじゃないっ!」
狩人「鏃ならある」
勇者「……俺たちも応戦するぞ」
少女「殺すの!? いやだってば!」
勇者「そうしないと襲われるんだぞ!」
少女「って言っても、どうせ剣もミョルニルもないんだよっ、どうやって対応するのさ!」
 そうなのだ。ここは城内で、しかも食後である。朝食に剣や鎚を担いでいく必要はないため、二人は今手ぶらなのだった。
 武器と呼べる武器は、辛うじて狩人の鏃程度。それも数に限りがあるため、戦い続けるのは現実的でない。
 勇者は舌打ちをして、早口で詠唱を行う。文言を唱え終わると放電現象が起こり、勇者の両手が淡く光る。
勇者「しょうがない、俺は魔法でいく。少女は……ま、腕力で何とかなるだろ」

245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 21:53:32.82 ID:NP2bXgEL0
狩人「でも、ここから逃げてどうするの?」
 それは城下町もこのような状態の住民で埋め尽くされている、ということを指しているのではない。狩人の心配は、単純に逃走が事態の解決にならない事実を指摘している。
 どのような原理で人々が操られているのかはわからない。が、少なくとも術者を倒さない限り、この状況に終わりは見いだせないだろう。逃げるよりもまず術者を探し出す、炙り出すところから始めなければ。
 狩人は兵士の軍勢へ目をやりながらそのようなことを言った。
 そばまで寄ってきた兵士を、勇者が雷魔法で吹き飛ばす。兵士は後続の兵士を巻き込んで倒れるが、立ち上がり、何事もなかったかのようにこちらへ向かってくる。
勇者「確かに、埒があかないな」
少女「もう!」
 少女は力に任せて壁を叩いた。大きな音がして、壁に大穴が空く。
少女「非常事態だから許してもらうもんっ! 行くよ! 逃げながら今後の方針を考えないと!」
 穴に飛び込んでいく少女。隣は穀物蔵になっているようで、小麦やライ麦の入った袋が所狭しと並んでいた。
 扉には目をくれず、少女はさらに反対側の扉も叩き壊してずんずん進んでいく。
 廊下に出ないのは、出ればいつ傀儡と鉢合わせになるかわからないためだ。道なき道を進んでいけば出会うこともない。
 倉庫の並びを貫いていくと、部屋の趣が変わる。客間だ。
 客間は王城の中心から見て北西にある。食堂があるのは南西なので、北上していたらしい。

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/07(火) 21:54:15.58 ID:NP2bXgEL0
 壁に空けた穴から勇者と狩人が姿を現した。後ろを覗き込むが、兵士の姿は見えない。足音も聞こえない。狩人にはもしかすると聞こえているのかもしれなかったが。
少女「とりあえず、一安心かな?」
勇者「しかし、術者を叩くったって、範囲が広くちゃ話にならないぞ」
 城内にいるのか、それとも都市内にいるのか、それとももっと離れたところでほくそえんでいるのか。もし遠く離れたところにいるならば手の打ちようがない。お手上げだ。
 ベッドに腰を下ろしても、勇者は落ち着けなかった。追手が大した脅威ではないとはいえ、追われているという事実そのものが重圧だ。
 狩人と少女は考え込んでいるようだった。どうしたらよいか。目的を見つけなければ対処はできない。
狩人「ちょっと見てくる」
 狩人は壁に空いた穴に歩み寄る。彼女の耳に届く足音は次第に近づいてこそいるけれど、すぐさまの脅威であるとは言えないほど遠い。あと二、三分は体を休められるだろう。
狩人「……?」
 違和感があった。しかしその正体がわからない。
 そろそろ行こう、と彼女が二人に声をかけようと振り向くと、部屋には誰もいなかった。
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251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/08/09(木) 23:30:34.27 ID:s+mPglMj0
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??「勇! いさむーっ! アンタいつまで寝てんのよ、起きなさいってば!」
 俺を呼ぶ声が聞こえる。きんきんと頭に響く金切声だ。正直勘弁してほしい。
 がしかし、なんだかんだ言っても幼馴染。邪険に扱うことはできない。起こしに来るのだって十割の善意からなのだし。
 俺の両親は現在地方巡業で家を空けている。二人そろって舞台人なのだ。
??「田中勇ッ! 早く起きなさい!」
 布団がはぎとられ、カーテンが開かれる。朝日が直接俺の顔にあたっている。たまらず目を覚ました。
勇「女川、少し静かにしてくれ」
 ツインテールで小柄な少女が、セーラー服を身に纏って眉根を寄せていた。
 女川祥子。俺の幼馴染兼、両親の不在の間の我が家を任された存在でもある。両親はこいつに「息子をよろしくね」と言いやがり、挙句の果てには丁寧に合鍵すらも渡して旅立った。まったくいい迷惑だ。
勇「あと五分だけ……」
 とりあえずテンプレから入る。するとこれもまたテンプレ通りに、女川のぶん投げたスクールバッグが俺の顔面へ飛んでくる。
 慣れた状況である。俺は枕でそれを受け止めた。
女川「アタシまであんたの遅刻に巻き込まないでほしいのっ」
勇「先に行け、先に」
女川「そんなことしたらご両親に顔向けできないでしょっ! ご飯はおにぎりだから、食べながら行くよっ!」