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魔王「死に逝くものこそ美しい」女勇者「その通りだ」
Part8


279 :>>1 :2014/05/18(日) 15:04:43.93 ID:D7H/ACUmo
勇者「この星の全ての生き物が、神の思い通りに動いているなんて本当にそう思っているの?」
魔王「……事実、我はその思惑の通り創られた、戯れに数え切れぬほどの生命を滅ぼした」
魔王「そうすることで満足を得た。迫り来る勇者共に立ち塞がり、それに打倒されるべく創られた」
勇者「では何故貴方は今こうして生きているの?」
魔王「力至らぬ勇者は勇者では無い。神が望む物語の主人公足りえぬのだ、我に勝てぬ勇者など滅びて当然である」
勇者「違うわ、貴方は生きていたかった、それだけよ」
魔王「馬鹿な、何を根拠に」
勇者「貴方はこの一年間、私や他の生命に歩み寄ろうとしたじゃないか」

280 :>>1 :2014/05/18(日) 15:06:18.29 ID:D7H/ACUmo
魔王「我は、少し面白いと、そう思っただけだ」
勇者「それが全てじゃないか、『役割』とは別の感情だ、貴方は歩み寄りたかったのよ」
魔王「こじつけに過ぎぬ」
勇者「違う、そんなことは無いわ……ずっと貴方に謝らないといけないと思っていた」
魔王「なんだと?」
勇者「私は貴方の事を『生きていることから逃げている』『歩み寄る勇気が無い』と言った」
魔王「…………」
勇者「役割』を押し付けられようとも必死に生きようとしているのに、次々と殺しにかかる人達を殺してでも必死に生きようとしているのに、私は貴方を侮辱してしまった」

281 :>>1 :2014/05/18(日) 15:07:11.97 ID:D7H/ACUmo
勇者「やがて貴方は私の畑を見て、巡る生命の営みを知った。それに歩み寄ろうとした」
勇者「だから、私と食卓を共にした、皆と祭りをした、愛する人達に惹かれた」
魔王「それがどうしたと言うのだ」
勇者「貴方だって、巡る命の一員に……」
魔王「出来るはずがあるまい」
勇者「そんなことは無い」
魔王「それこそ根拠なき妄言である、人間よ、一つ良いことを教えてやろう」

282 :>>1 :2014/05/18(日) 15:09:09.80 ID:D7H/ACUmo
勇者「…………」
魔王「愉悦や、恨み嫉みの末に他者を虐殺する者は、貴様等人間と、この……」
魔王「この、我のみであるのだ……」
勇者「誰だってそうなる。動物だって自分を傷つけた相手に報復を……」
魔王「そうせねば自己が滅ぼされる故な、それは愉悦でも恨みでもあるまい、防衛本能である」
勇者「各界の王だって自然から産まれ出た存在よ、けどあの人達だって人間を恨んでいる」
魔王「その通りだ」
勇者「だったら」
魔王「それは我がこの星に存在しているからだ」
勇者「……え?」

283 :>>1 :2014/05/18(日) 15:11:21.63 ID:D7H/ACUmo
魔王「我が滅べばあれらに巣食う恨みも嫉みも無くなる。『そのようになっている』のだ、それがこの世界なのだ」
勇者「……相変わらず貴方の言うことは良くわからない」
魔王「『そうであるもの』と『そうでないもの』の羅列を見ればわかるのだ。一つ上の世界のことならば、貴様に理解が及ばぬは仕方なし」
勇者「以前言っていた、世界の有り様の話?」
魔王「そうだ、そして結末は二つしか用意されておらぬ」
魔王「貴様等人間の繁栄か」
魔王「全ての滅びか」

284 :>>1 :2014/05/18(日) 15:12:50.82 ID:D7H/ACUmo
勇者「……貴方はそれで良いの?」
魔王「良いも悪いも、我はそのように創られている。貴様もな」
勇者「そうかもしれない」
魔王「ならば」
勇者「けど」
魔王「…………」
勇者「私は、世界は『はい』か『いいえ』で割り切れるような単純なものじゃないと思っている」
魔王「そうか」
勇者「そう、だから貴方が戦いたくても戦ってあげない」
魔王「好きにせよ」

285 :>>1 :2014/05/18(日) 15:14:25.50 ID:D7H/ACUmo
それだけ言い、冷め切ったコーヒーを飲み干す。冷えていても中々に飲める味である。
夏には冷え切ったそれを一息に飲み下してみたいものである、それが心残りである。
勇者「用件はそれだけ?」
魔王「もう一つある」
勇者「なんだろうか」
魔王「しばらくヨミを預かってくれ、我はしばらく忙しくなる故な、その世話を託したい」
勇者「願っても無いこと」
魔王「頼んだぞ」
勇者「………………」
魔王「ではさらばだ…………勇者よ」

286 :>>1 :2014/05/18(日) 15:17:11.47 ID:D7H/ACUmo
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《 菌糸の領域 》
菌糸王「「「成程、こうなりましたか……」」」
菌糸王「「「致し方有りません、今更、貴方様の決定に逆らってどうなりましょうや」」」
菌糸王「「「海魔が既に滅んだことは存じております、あそこには我等の眷属もおりますれば」」」
菌糸王「「「海魔は地上のほとんどを統べる種族であるというのに、貴方様相手となっては為す術もありませなんだか、私もまた同じように散り逝くのでしょう」」」
菌糸王「「「完全に滅びてしまうのでしょう」」」
菌糸王「「「さにあらば、私は王として、生命在る者として」」」
菌糸王「「「全霊を以って貴方を殺すまでです」」」

287 :>>1 :2014/05/18(日) 15:18:46.60 ID:D7H/ACUmo
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《 魔獣の領域 》
獣王「待っていたぞ」
獣王「こうなるのではないかと思っていた、いや、恐れていたが正しいか」
獣王「貴公はこの星でただ一人の巡らぬ命」
獣王「人も、魔も、憎くて仕方が無かったのであろう」
獣王「翼魔共や海魔、菌糸を滅ぼしたのだな、なれば全ての生命ある者は穏やかになるであろう、後は無機物共と曖昧な妖精共か」
獣王「貴公が敗れたとしても、その後の我等もやがて言葉を失い、肉として人に食われ、飼いならされる未来を迎えるのであろう」
獣王「しかし」
獣王「我等は最後の一体となっても抗い、戦い往くまで」

288 :>>1 :2014/05/18(日) 15:22:14.99 ID:D7H/ACUmo
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《 ゴーレムの領域 》
機械王「貴方ノ思考ハ合理的ダ」
機械王「我等、ゴーレム族ハ貴方ガ滅ボシタ有機生物ト違イ、世代ヲ受ケ継グ事ヲ知ラナイ」
機械王「ダガ有機生物共ハ皆、遺伝子ノ奴隷トナッテイル事ニ気付イテイナイ」
機械王「我等ニ感知デキルノハ、個ノ意識ノミ、ソレハ我等モ有機生物共モ変ワラナイ」
機械王「貴方ノ愉悦ヤ、或イハ別ノ感情ノ為ニ今回ノ結末ニナッタノデアッテモ私ハ責メナイ」
機械王「重要ナノハ『個』トシテ在ル事ダカラダ」
機械王「ナラバ私モソノ『個』ヲ守ル為、戦オウ」

289 :>>1 :2014/05/18(日) 15:25:18.46 ID:D7H/ACUmo
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《 妖精の領域 》
妖精王「こんちはー」
妖精王「アタシ達で最後?人間は?あ、そう、殺して無いんだ」
妖精王「なんなら人間共がおっ死んだ後にしてくれたら良かったのに」
妖精王「うん、知ってる、アタシ等はそもそも恨んだりとか無縁の生き物だし、魔王様がいるからこーなるんでしょ?」
妖精王「でもねー案外悪くないんだよ?てーか、アンタだって知ってるでしょ?」
妖精王「自分にとって胸糞悪いヤツがもだえ苦しむとすげースカッとすんの」
妖精王「ほんとに……気持ち悪いよねー、事実だけどねー、どうしようもないけどねー」
妖精王「……そうだね、あの祭りも、本当はすっごい楽しかった」
妖精王「んーん、アンタの事、アタシはけっこー好きだよ、いや、大好きかも」
妖精王「だからせめて……なるたけアンタにとって胸糞悪いヤツになって死にたいな」
妖精王「けどね、最後まで抵抗はさせてもらうよ?それが生命ってもんさ」
妖精王「じゃあ」
妖精王「くたばりやがれ、糞野郎」

290 :>>1 :2014/05/18(日) 15:26:13.99 ID:D7H/ACUmo
キリです。また戻ってきます。

291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 15:27:18.42 ID:xoqMxnpe0
全てを終わらせてるのか

292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 16:08:31.11 ID:WmF3sSaDO
うわあああ乙…

293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 20:29:42.96 ID:LX1Xdt0V0
終わるのか悲しい
まったり続いていってほしかった

294 :>>1 :2014/05/18(日) 21:29:47.78 ID:D7H/ACUmo
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《 魔王城 》
魔王「…………」
従者「魔王様、なにか余興を設けましょうか?」
魔王「…………」
従者「……私は魔王様がどのような結末を望まれようともお側に仕えます」
魔王「では、命令である」
従者「……は」
魔王「この城より去ねよ、今すぐに、である」
従者「ハッ、さにあらば、城門にて……」
魔王「殺すぞ?冗談は好かぬ」
従者「如何様にも……」
魔王「……勝手にせよ」

295 :>>1 :2014/05/18(日) 21:31:07.02 ID:D7H/ACUmo
従者「では魔王様、その……」
魔王「なんだ?」
従者「プリンなど……いかがでしょうか?」
魔王「…………フン」
従者「ハッ!直ちに用意いたします!」
魔王「………………否、やはり去ねよ」
従者「は?いかがなされましたか?」
魔王「従者」
従者「は……」

296 :>>1 :2014/05/18(日) 21:32:07.26 ID:D7H/ACUmo
魔王「役目、大儀であった」
従者「ッ!?魔王様!?」
魔王「また心残りが増えた、貴様は魔王の心に楔を打ったのだ、誇るが良い」
従者「仰る意味がわかりかねます!何をっ!」
魔王「さらばだ」
従者「まお……」
言葉を待たず、従者を転移させる。
時が来た。

297 :>>1 :2014/05/18(日) 21:33:47.18 ID:D7H/ACUmo
今この時、我と彼奴は城にて一対一にて会わねばならぬ。
全く難儀な『役割』である。
こうして城にて待たねば、ロクに争うことも叶わぬのだ。
魔王「……プリンは持ってきたのであろうな?」
開かれた扉の先にそう問う。
しかし言葉は無い、もはや我以外の誰もが失せた城内の奥より靴音のみがこだまし、それの到来を知らせるのみ。
勇者「…………」
やはりというか、当然というか、待ち望んでいたというか、現れたのは一人の女。
歩を進める先より生えては枯れる草花、神より受けた恩恵は『生命』。

298 :>>1 :2014/05/18(日) 21:36:13.59 ID:D7H/ACUmo
勇者「貴方が食べにくれば良かった」
その足元より散り逝く花びら、枯れ逝く葉、飛散する黄金の種子。それが道となり、まるで死の洪水を引き連れているかのような威容。
陽光の如く輝く髪、銀月の如く浮き出る肌、眼に猛る決意の炎。
来た、勇者が。
誰の期待も受けず、誰に掲げられることもなく、誰に愛されることもなく、強制された『役割』の為でもない。
自己の為に、全てを乗り越えんとする、真の勇者が。

299 :>>1 :2014/05/18(日) 21:37:55.94 ID:D7H/ACUmo
魔王「冗談である」
勇者「貴方の冗談なんて初めて聞いた……それに」
勇者「冗談は嫌いではないの?」
魔王「その通りである」
勇者「じゃあ……この様は、冗談ではないのね?」
魔王「……その通りである」
勇者「次はどうするの?」
魔王「知れたこと」

300 :>>1 :2014/05/18(日) 21:39:46.91 ID:D7H/ACUmo
魔王「……貴様等人間共を皆殺しにする」
勇者「そう」
魔王「そうだ」
勇者「それで?次は?」
魔王「この星を吹き飛ばす」
勇者「そう」
魔王「そうだ」
勇者「……私も?」
魔王「……当然だ」
勇者「……ヨミも?」
魔王「……例外は……無い」
勇者「そう」

301 :>>1 :2014/05/18(日) 21:40:51.46 ID:D7H/ACUmo
魔王「降りかかる火の粉は払う。そうではないか?」
転移の術にて、勇者の眼前に降り立つ。
知っている、この勇者は自分からは絶対に仕掛けない。
闘りあった事は無い、しかしこの女はそうなのだ。なれば我はこうせねばならない。
魔王「さて、一つ言っておかねばならないことがある」
勇者「なんだろうか?」
魔王「通例というヤツでな」
勇者「……聞こう」

302 :>>1 :2014/05/18(日) 21:42:19.08 ID:D7H/ACUmo
魔王「……勇者よ、何ゆえもがき生きるのか?」
勇者「…………」
魔王「『死に逝くものこそ美しい』、そうは思わんか?」
勇者「……『その通りだ』」

303 :>>1 :2014/05/18(日) 21:44:05.08 ID:D7H/ACUmo
魔王「……ふん、まるであの時のようであるな」
勇者「いいえ、あの時とは違う」
魔王「否である、我は何も変わらない」
勇者「嘘、貴方だって良く知っているはずだ」
魔王「…………否、である、滅びこそが我が望み、他者であっても」
魔王「……自己であっても」
勇者「そう」
勇者「…………残念だ」
その言葉と同時に不可視の衝撃が我の胴体を吹き飛ばした。

304 :>>1 :2014/05/18(日) 21:46:27.31 ID:D7H/ACUmo
貼り付けられたように玉座へとしたたか叩き付けられたが、当然この程度では我が動くに仔細は無し。しかし、我の体は止まったままであった。
それは我にとって埒外の光景が目の前にあった故。
勇者「……ふう」
相変わらずロクな魔力を感じない。
相変わらずまともな装備をつけていない。
我を吹き飛ばした術の名残か、拳を握り固め、単純に殴りぬいたような体勢。
つまり……
魔王「……貴様、戦士系であったか」
この勇者は己の五体とその恩恵のみで我を駆逐する気であるのだ。

305 :>>1 :2014/05/18(日) 21:48:12.31 ID:D7H/ACUmo
皆様いつもレスありがとう。乙だけでも本当に嬉しいです。
一旦キリです。もしかした本日は終わりかも。

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 21:51:28.00 ID:c/I7tmTeo

うおおぉ……いろんな意味で寂しい

307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 21:56:07.76 ID:xoqMxnpe0
拳で戦うやつだったのか

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 22:06:20.07 ID:/ehjKul80


309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/18(日) 22:09:59.58 ID:awdL16w0o

終わりが近づくと寂しいものだ

314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/19(月) 15:56:32.84 ID:Sxk/xWJd0
追いついた
素晴らしい作品だ
季節の一巡りを経ての終わりへの入り方、すごい好きだ
完結を楽しみにしてる

315 :>>1 :2014/05/20(火) 00:52:51.17 ID:JDL4GBzuo
……暗くも快楽的な感情が腹の底より湧きあがる。
長く味わうことのなかったこの感覚、上位の神が創造した勇者を滅した時でさえこのような感覚はなかった。
あらゆるものにとって、我にとってですら得難き存在、それの崩壊する瞬間が直ぐそばまで来ている。
愉快である。
そうとも、これが、この有り様こそが我が我たる所以である。
魔王「…………目が覚めた」
勇者「そしてこれから眠ることになる」
これからこれを滅ぼすのだ、絶望を与えるのだ。
如何様にして殺してやろうか。

316 :>>1 :2014/05/20(火) 00:54:35.21 ID:JDL4GBzuo
ゆっくり殺そう、会話をしながら、弄りながら、そうとも我は魔王である。これが我である。
犯しながら、おおよそ雌にとって屈辱の極みを味わわせて殺そうか。
生きたまま磔にして世界が滅びゆく様を見せ付けながら殺そうか。
勇者だ、待ち焦がれた、流石は生きとし生ける者全ての希望。魔王たる我にして希望であるか。
魔王「滅ぼすのが楽しみだ」
我はこのように創られた。
我こそ魔王である。
滅びを望む者である。