魔王「死に逝くものこそ美しい」女勇者「その通りだ」
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Part5
153 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:13:14.23 ID:VsO8fh/no
機械王「コレゾ多重弦楽器、私自身、何ヲ持チ演奏スルカ思イ悩ンデオリマシタトコロ……」
………………
勇者『腕がたくさんあれば全部演奏できるじゃないか』
………………
機械王「……ト、コノヨウニ」
魔王「そのままではないか」
機械王「ソノ瞬間、私ニ電流ガ走リマシタ、ア、 過負荷 シタ訳デナク」
魔王「もう良い……勇者め、よもや全ての王に演奏をさせる気か……」
妖精王「いんやー全部じゃないみたいだよ?」
.
154 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:14:43.03 ID:VsO8fh/no
魔王「妖精王、貴様もか」
妖精王「そーだねー、こんなの初めてだからさー」
妖精王「……この際どこが最も優れた種族かハッキリさせておこうと思って……」
魔王「貴様は笛か」
妖精王「そだよん、いやー懐かしいねーコレ吹くのは、腕が鳴るってモンさ」
魔王「他は誰がいる?」
獣王「私だ」
魔王「獣王、貴様が出るとは」
獣王「意外であったか?」
魔王「心底な、貴様は我が配下にあってこういう他と群れることを最も嫌う者と思っていた」
155 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:17:21.85 ID:VsO8fh/no
獣王「心外である、魔王様。このような者共と一緒にされてはな……」
機械王「ア"……?」
妖精王「……やんのかコラ?」
獣王「ふん、止すが良い、品性が知れるぞ」
魔王「…………」
この者共はわかっているのであろうか、あの勇者がこれから何を歌うのかを。
あの女が歌うのは『死を称える歌』、それが我との約束である。
盛況の場でそのようなことをすれば不興を買うは日を見るより明らか。
しかしこれだけの面子が楽士となるのであれば、他の眷属より吊るし上げられることも早々あるまい。それが狙いであったのか。
そしてそのことに少なからず安堵する我がいるのは事実である。
156 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:20:09.42 ID:VsO8fh/no
勇者「みんな、こんばんは」
獣王・妖精王・機械王「「「おお(オオ)」」」
魔王「…………」
勇者「魔界の王様がコレだけ揃うと壮観ね」
獣王「そうかも知れん、だが魔王様と私を除き他は有象無象だ、訂正せよ人の子よ
勇者「獣の人、今日はありがとう、貴方のケーナに期待をしているわ」
獣王「任せるが良い、魔獣の王の力、遍く伝えてやる」
妖精王「やあやあ人間、相変わらずおっぱい小さいね、揉んで大っきくしてあげよーか?」
勇者「死ね」
妖精王「な、なんだとぅ!?」
157 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:21:54.79 ID:VsO8fh/no
勇者「機械の人……本当に腕を増やしたの?」
機械王「アノ瞬間、私ニ電流ガ走ッタ、ア、 漏電シタ訳デナク」
勇者「そ、そう……期待している」
妖精王「おい!アタシを無視するな!」
勇者「妖精の人、貴方は下品だけど」
妖精王「なんだとぅ!?テメーのシーツに豚の血ぶちまけるぞ!?」
勇者「笛の音は見事と言う他無い、よろしく」
妖精王「お、おう……最初からそう言えばいーんだよ」
勇者「下品だけど」
妖精王「な、なんだとぅ!?」
158 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:23:32.69 ID:VsO8fh/no
勇者「そして……また久しぶり、やっぱり少し痩せた?」
魔王「おらぬ、我は貴様等のように不気味に身体が延び縮みしない」
勇者「元気そう、じゃあ」
勇者「始めよう」
魔王「…………」
気に入らぬ。
.
159 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:25:43.38 ID:VsO8fh/no
気に入らぬ。我の預かり知らぬ場で人と和合する魔が。
気に入らぬ。容易く我等の領域に飛び込んでくる貴様が。
気に入らぬ。理由など無い、無いに決まっている。
気が変わった、我は安堵などしておらぬ。
不興を買うことがあればその時は覚悟するが良い。
この我が、手ずから、貴様等まとめて宴の供物としてやる。
勇者「…………」
魔王「……なんだ、人間」
勇者「…………見てて」
魔王「…………フン」
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160 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:28:19.52 ID:VsO8fh/no
*************
数多の魔族が一つの集団を半円に囲む。それは襲撃でも私刑でも無い。その一団がこれより供する楽歌を聴こうというのだ。
その一団の前に立つ女、勇者は見慣れぬ異国の装束に身を包んでいた、白と紅、上衣と下衣に二つに分かれたそれは奇妙なほどに裾が長い。
勇者は目と閉じ、その時が来るのを待つ。それは戦いの鐘がなるのを待つ戦士の佇まいを思わせた。
やがて観客のざわめきは止み、静謐が場を支配し、高まる緊張感の中
勇者の眼が爛と開いた。
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161 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:31:48.10 ID:VsO8fh/no
突如、獣王の持つケーナが甲高い旋律を奏で、それを追従するように他の楽器も鳴る。
妖精王の笛。
機械王の多重弦楽器。
それらを主に他の眷属もそれぞれの楽器で併せる。
これは-----牧歌、囃子、どちらとも取れるような旋律。
全ての楽器が出揃った時、勇者がその声を響かせた。
勇者「-----ッ!♪-----ッ!♪」
聴く者に郷愁を感じさせ、それでいて魂の底を突き上げるような旋律、体を突き動かさずにはいられない旋律。
しかしその中にあってこの女の口から放たれる詞は、
完全に『死を称えていた』。
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162 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:33:29.69 ID:VsO8fh/no
日の光を失い枯れる大地、
頬に撫でつく冷気とともに訪れる冬、
勇者「-----…♪-----…♪」
そしてその冬ですらいずれ消え逝き、記憶にも残らず、
そこに住まう者の思いと共に色褪せる様。
それはどのような存在にも疑いようもなく訪れる死の詩であった。
だというのに、
勇者「-----ッ♪-----ッ♪」
見よ、この観衆の魂が抜けるが如き様を、これが魔王軍の精鋭である。
見よ、その眼に映るのが誰かを、これらは魔の者にあって『勇者』に心を奪われている。
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163 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:37:22.08 ID:VsO8fh/no
その大地の脈動を余さず伝えんとする力強さに、
その中に生きる全ての生命に対する深い慕情に、
黄金の太陽の如き光を放ち振り乱される髪に、銀の月の如く浮き出る白き肌に、それに浮かぶ、命在る者のみが放つ赤熱めいた美しさに。
勇者「-----ッ!♪-----ッ!♪」
わかる。この者が何を唄わんとしているかが。我等に何を伝えんとしているかが。
この大地に散った戦士達に、勇者達に何を伝えんかとしているかが。
訪れる春に咲きほこる花々も、やがて朽ちていくを待つのみ、
しかし種は空を飛び、海を越え、また大地に根付くのだ。
勇者「---------------ッ!♪」
『滅びでは無い』、と。
164 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:40:34.45 ID:VsO8fh/no
『死』だ。それ即ち『生』だ、と。
『そして命は巡るのだ』、と。
堪えきれず。
全ての楽器が勇者の声に併せ最高潮に達する。思い思いに、自分が想い馳せる『生』と『死』を称える。
生まれる往く新たな命に祝福を、死に逝く戦士達へ鎮魂を。
堪え切れなかったのは楽師たちだけでない。
観客に甘んじて、泉よりその様子を眺めていたローレライ、大樹で羽を休めるセイレーン、その本質的に日夜、歌を奏でる者達が一斉にコーラスをあげる。
限り有る生を称えよと、我等はやがて訪れる死を堂々たる様で迎え入れよう、その覚悟を今ぞ聴けと言わんばかりに。
165 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:43:48.07 ID:VsO8fh/no
まだいる。
「※※※※※※※-----ッ」
火の、水の、風の、土の精霊共が群れを成し渦を巻き会場を覆う。
溢れる生を感知してか、人から見れば地獄絵図に違いないこの異常事態を感知してか、別属性とは共通意識を持たぬ精霊には有り得ない連帯感で飛び回る。
勇者「※※※※※※※-----ッ!♪※※※※※※※-----ッ!♪」
精霊言語。
失われて久しい、単なる生物と、一にして全なる精霊が交信の為、人間のみが発声しえた古の言語。
この女はその言語で歌を唄っている。
飛び交う精霊たちに呼応するように唄い続ける。
最早、楽士も、観衆も無い。狂宴ではない、誰もが統一された意図の下、死の祝詞を放った。
166 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:47:32.66 ID:VsO8fh/no
見よ、この命の限り、瑞々しいばかりの生命賛歌を唄わんとする様を、これが魔王軍の精鋭ぞ。
見よ、魔族も、魔獣も、海魔も、心持たぬゴーレムも、何にも属さぬ精霊ですら、誰を渦中としているかを、これらは人間に心を奪われている。
死を称え、生を唄う、死の巫女に。
戦うことを厭わぬ、四肢が千切れても往き続ける、生きとし生ける者の希望そのもの。
『勇者』に心を奪われている。
勇者「-----ッ!♪-----ッ!♪」
その輪の中で歌を重ねる者共の想いを汲むように、歌はいまだ終わる気配は無かった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
167 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:48:31.89 ID:VsO8fh/no
今日はここまで。
歌の文章表現なんて初めてで……なんかごめんなさい。
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/09(金) 01:05:03.91 ID:rRI9aLW30
良かった
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/05/09(金) 01:08:03.94 ID:ukjROXWa0
乙
良いと思うよ
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/10(土) 13:29:57.00 ID:OYRYCm6n0
実に興味深い
175 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:47:27.03 ID:IeGMu48Go
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謀られたわ。
《制約》の術式の類か、呪文を用いず、媒体を直接体内に投じることによって発動するとは。
手が止まらぬ。
このソースは酒精の抜けた果実酒を元にしたものか、しかしこの複雑な味はそれだけではあるまい、甘味と辛味を同時に併せ持つとはなんたる矛盾めいた味。
この舌に残る風味と鼻腔を抜ける臭気は……オニオン、にんにく、生姜、ふむ、毒とはえてして旨いものと相場は決まっている。
176 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:48:37.54 ID:IeGMu48Go
半生の肉自体が香草の匂いを放つのはどういうからくりか……
噛み砕く先からから肉汁とともにソースが絡み合い、香草が食欲を加速させる、なんと豊かな味わいか……なんと、思考制御まで重ねておるか。
しかし、詰めが甘いというもの。
魔王「……よもや貴様等がこのように姑息な手を使うとはな」
獣王「何!?どういうことだ王よ、我等の供物が至らなかったと言うのか!?」
177 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:49:58.88 ID:IeGMu48Go
魔王「吐くがいい、貴様等は我を謀殺せんとしたのであろう」
獣王「王よ、どうか聴いてくれ、我等はそのような卑劣な真似はしない」
勇者「獣の人、気にしなくて良い、この人は素直においしいと言えないだけよ」
魔王「単一の行動に制限する呪いとは中々に巧緻な術式であったが所詮、我に枷をつけようなどと大それた謀事であったな……この通り我は健在である」
勇者「単に貴方がお皿を空にしただけ、ちゃんと『ごちそうさま』を言いなさい」
魔王「む……満足である馳走であった」
勇者「……まあ、それでいい」
獣王「おお……なによりだ、我等が王よ」
178 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:51:15.05 ID:IeGMu48Go
獣王「皆の者!我等の供物が王自らよりお褒めを賜ったぞぉっ!!」
魔獣の群れ「「「「「ウオオオオォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」
魔王「女、今の料理はなんだ?獣が食す肉とは随分違うものであったようだが」
勇者「ローストビーフね、オーブンに入れる際、香草と一緒に入れると肉の奥までその香りが移る」
魔王「あの妙な匂いの元はそれか」
勇者「妙ではない、ニンニクやオニオンと併せ食欲を促す知恵よ。感謝するべき、獣の人たちにとってあの香草の匂いはきつすぎるはず」
魔王「どういうことであるか?」
勇者「私達や他の人達が食べやすいようにしてくれたという事、そう歩み寄り、事実、貴方も気に入ったはず」
179 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:53:01.82 ID:IeGMu48Go
魔王「……貴様はどうなのだ?我の皿の上に空の皿が2枚、数が合わんな?」
勇者「……肉は貴重、仕方が無いことよ」
魔王「そういうものか」
勇者「では妖精の人のところに行こう。あそこは外せない」
魔王「貴様にしてそこまで言わせるか、よかろう、供を許す」
勇者「本当に素直じゃない」
魔王「しかし、妖精の食い物で腹が膨れるのか?他にもあるではないか」
勇者「甘いものらしい」
魔王「案内せよ、疾く、案内せよ」
180 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:54:29.04 ID:IeGMu48Go
*************
勇者「妖精の人、遅くなった」
妖精王「おー、魔王様、楽しんでる?それと人間」
魔王「我は供物を求めておる、疾く、差し出すが良い」
妖精王「えぇ!?」
勇者「この人は甘い物が好きみたい」
魔王「早くせよ、我は気が長くは無いぞ」
妖精王「なにこの王様、可愛い」
魔王「消し炭になりたいか貴様」
181 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:55:33.18 ID:IeGMu48Go
妖精王「ジョーダンだよ!で、甘いものってもウチのは全部アメーしな……」
勇者「出来ればこの機会ならではのものが良いと思う」
妖精王「珍しいモノってこと?ああ、それなら……コレは?」
勇者「これは……なに?」
魔王「貴様も知らぬか」
妖精王「なんでも最果ての国のお菓子らしーよ、でもさ、見た目がグロくて誰も食べねーの」
勇者「ぱっと見ではわからないけど……」
魔王「確かに食指が進む色合いでは無いな、焼き菓子……にしては大きくあるな、重みもある」
妖精王「中に秘密があるんだよね、ささっ!食べてみてよ!」
182 :
>>1 :2014/05/10(土) 23:56:51.24 ID:IeGMu48Go
魔王・勇者「「『いただきます』」」
魔王「む……!」
勇者「これは……!」
抵抗なく租借されるその柔らかさはプリンとはまた別のもの、表面のみ硬くあり、それでいて食感は柔らかくある。ある種パンに近いがこの香ばしさはまた別のもの。
そしてなんだこの甘味は。
甘さ自体は決して高くない、にもかかわらずこの重厚な味わい。
勇者「これは、まさか……小豆?それを砂糖で煮詰めたもの」
妖精王「そだよん。生地には卵入ってるからアタシら食べれないんだけどさ、どうよ?美味い?」
勇者「正直、これは……!」
183 :
>>1 :2014/05/11(日) 00:03:00.12 ID:4WmrJOXno
飽きが来ぬ。
中身のみ食しても全く問題なし。
察するにこの中身の黒きものは何かの実すり潰したものか、ほのかに残る粒の具合が舌に触りそれもまた趣がある。
勇者「……美味しかった、けど」
そして……
勇者「なんて後味のよさ、甘さが控えめなので幾つでも食べられそう」
妖精王「そーなん?まあ、満足したなら良かったさ」
勇者「ご馳走様、素晴らしい味だった。なんというお菓子なの?」
妖精王「『オーバンヤキ』っていう型にはめて焼くお菓子で、最果ての国では魚の型に流し込むのが……」
魔王「まだ、あるであろう、供出せよ」
184 :
>>1 :2014/05/11(日) 00:04:20.65 ID:4WmrJOXno
妖精王「え?」
魔王「流石に魔族の中でも特に魔法に長ける者、媒体を消滅させて尚、効果を残すとはな」
勇者「気にしないで良い、病気のようなもの」
魔王「斯様に黒い色合いのモノが甘いはずも無し、我を白痴と侮ったか」
妖精王「意訳、美味しかった、また食べたい?」
勇者「そう、それもとても」
妖精王「なにこの王様、可愛い」
魔王「消滅したいか貴様」
勇者「私の予想ではこの小豆の砂糖煮は牛乳ととても合うはず」
魔王「貴様のものでよい、出せ」
勇者「死ね」
185 :
>>1 :2014/05/11(日) 00:05:37.62 ID:4WmrJOXno
>>168〜>>174 本当にありがとう。布団にくるまって「ぬわああああ!」ってなってた。
短いけど今日はここまで。
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/11(日) 00:06:25.77 ID:zqy3uR9F0
乙
相変わらず面白いよ