魔王「死に逝くものこそ美しい」女勇者「その通りだ」
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Part4
108 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:35:34.70 ID:C5eP5V/ro
………………
勇者『フフッ……おいしい』
………………
魔王「…………」
何故、あの女勇者の顔が浮かぶのか、我は呪いでもかけられたのであろうか、それともあの者より供された食事にやはり毒が?
否、魔王たる我に万の呪い、毒が効くはずもなし。
なれば我も知らぬ呪いの類やも知れぬと、我の足は自然、その手の事に詳しい者の下へと向かうのだった。
109 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:36:24.29 ID:C5eP5V/ro
**************
《 妖精の領域 》
妖精王「はあ、そんな呪いは聞いたこともないねー」
魔王「誠か?されど現に我は」
妖精王「具体的に誰の顔が浮かぶんよ?」
魔王「…………言いたくない」
妖精王「えー……まあ《魅了》とか《制約》が魔王様に効くわけもねーし、相手はどうでも良いか」
魔王「そうか、ならば」
妖精王「でもわからねーのは変わらんよ?」
魔王「そうか……」
110 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:37:21.89 ID:C5eP5V/ro
妖精王「おー、珍しく弱ってんね?今回の勇者は強かった?」
魔王「つまらなかった、最後に創られた勇者だったらしいが期待はずれだ」
妖精王「あ、そう。でもさ、魔王様がそんな顔してたらダメだよ?」
魔王「ほう、何故だ」
妖精王「どっかの腹に一物抱えた輩がチャンスだー……って、言う、かな……って」
魔王「心当たりがあるのか?申せ、領域ごと灰にしてやる」
妖精王「ジョ、ジョークだって魔王様、ほら、アタシ妖精だし」
魔王「とぼけまいぞ、貴様。聞いたところによると貴様の眷属は人と馴れ合っているそうではないか」
111 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:38:16.11 ID:C5eP5V/ro
妖精王「お?妖精は基本的に人間が嫌いだけどなー」
魔王「虫けら共はどうか、あれも貴様等の管轄であろう」
妖精王「ああ、確かに」
魔王「白状したか、あの虫けらは人にとってなくてはならぬものと聞いた」
妖精王「あー、蜂とかかな?」
魔王「そうだ」
妖精王「なんか蜜以外にも蝋とか取るらしいね、それが色んな秘薬の下になるんだってさ」
魔王「ほう、少し面白い、続けよ」
妖精王「それから蝋燭とか化粧品とか色んなものが出来るんだって」
魔王「なるほど、『豊かさ』に直結するものだな?」
112 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:39:14.78 ID:C5eP5V/ro
妖精王「その『豊かさ』がなんなのかは知らないけど、そうらしいよ?」
魔王「ふむ……それで?やはり人と馴れ合っているではないか」
妖精王「あいつら天敵が同じ蜂だからさ、人間がそれから守ってくれるから丁度良いんだって」
魔王「なんと、人の庇護下にあると申すか」
妖精王「まあねえ、流石にアタシもどっちかの蜂を贔屓するわけにもいかないからさ、あいつ等の好きなようにさせてるわけ」
魔王「ふむ……」
妖精王「お望みとあらば、ぜーんぶ殺人蜂に挿げ替えてみよっか?結構楽しい光景が見られると思うよ?」
113 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:40:39.71 ID:C5eP5V/ro
魔王「ふむ、悪くない、早速……待て、それでは蜂蜜は取れなくなるのではないか?」
妖精王「そりゃそうだよ、蜜だけでなく作物も不作になるだろうね?まあアタシ達は蓄えがあるからいいけど、人間はダメだろうね、多分かなりの人間が死ぬよ?」
確か、『アレ』の作成には行商人から色々仕入れねばならないとあの女は言っていた。ということは……
魔王「プリン……」
妖精王「え?なんだって?」
魔王「なんでもない。機会を見計らうぞ、あまり多用し飽いてもいかぬ」
妖精王「あ、そう。どっちでも良いけど」
魔王「それにしても、貴様も抜け目無い、いつの間にか人を依存させておったか」
妖精王「まあ、うちの連中も依存してるヤツがいるのは事実だけどねー、だからたまに人と仲良くする妖精なんてのがいるわけよ」
魔王「なるほど」
114 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:41:50.03 ID:C5eP5V/ro
妖精王「それより魔王様の『呪い』はどうしようかねー」
魔王「む……そうだ、忘れておった、呪いを打ち消すのではなくとも上書きするなり何とかならぬか?」
妖精王「呪いの正体がわからない以上はなんとも……その頭に浮かぶ人ってのは現実にいる人なんでしょ?」
魔王「その通りだ」
妖精王「顔が浮かぶのが嫌なら関わらなければ?」
魔王「なんだと?貴様、魔王である我に背を向けよと申すか」
妖精王「別にそんなことは言って無いでしょ?面倒なら関わらなければいいだけ、わからないものを無理にわかる必要なんて無いんじゃない?死ぬわけでもないんだし」
魔王「…………ふむ、一理ある、か?」
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115 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:44:02.01 ID:C5eP5V/ro
**************
あの女の農場から足が遠のいた。妖精王の進言通り、関わらぬようにしたのだ。
しかしこれはどういうことか、日に日に呪いは我を侵食してるようで、口は寂しく、食事を求むる。
何度か侍女に申し付け、食事を用意させた。
短時間の間に表情が赤くなったり青くなったりする侍女は謎であったが、初めのうちはその料理は満足のいくものであった、しかし何かが足りない。
我の心中を察してか、忠実なる我が僕、ヨミが度々我にその身を擦り付ける。そうすると僅かに楽になる。
やがて、あの女の顔が頻繁に浮かぶようになった。
《 数ヵ月後 魔王城 》
魔王「つまらない」
従者「は、それではなにか余興を……」
116 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:47:01.77 ID:C5eP5V/ro
勇者だーっ!勇者が来たぞーっ!!
従者「なんと、勇者は既に死に絶えたはずでは……」
魔王「……まさか」
『生命』の恩恵を受けた証か、足をつけた先から生えては枯れる草花。
目に宿る『勇気』。
月光のような金髪、そしてこの一年ですっかり大人びた容貌。
いつかのように大扉を抜けて眼前に立ったのは予想通りというか、それはあの女勇者であった。
勇者「こんにちは」
魔王「……久しいな、勇者よ」
勇者「久しぶり……少し痩せた?」
117 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:48:18.98 ID:C5eP5V/ro
従者「貴様!魔王様に向かって無礼であろう!」
魔王「黙れ、下がりおれ」
従者「ッ!?……は」
勇者「ちゃんと食べてるの?」
魔王「食事など我には必要ない」
勇者「プリンを作ってきた……後で食べると良い」
魔王「む……」
従者「貴様、魔王様を毒殺しようてか、勇者ともあろう者があまりにも臆病、稚拙、このようなもの私が……」
魔王「 従 者 ッ !! 」
従者「ハハッ!」
118 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:49:24.16 ID:C5eP5V/ro
魔王「……下がりおれ、と言った」
従者「は……」
魔王「それとも我が斯様な小娘に遅れを取るとでも?」
従者「いえ、決してそのようなことは……」
魔王「ならば下がれ」
従者「は……」
**************
勇者「あまり怒ってはかわいそう」
魔王「用件を言え」
勇者「許可をもらいに来た」
魔王「許可?なんのだ?好きにすればよいと言ったはずだ」
119 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:50:22.09 ID:C5eP5V/ro
勇者「そういうわけにはいかない、聞けば貴方は人間の生活に関わる魔族たちを尽く詰問しているらしいじゃないか」
魔王「む……誰から聞いた?」
勇者「みんなから聞いた。みんな命の循環の中で生きていると言ったはず、貴方の都合で無理を言うものではない」
魔王「それは皆の話を聞いて理解した。故に誰も滅ぼしてはおらぬ」
勇者「ならいい」
なんと、この女いつの間に他の魔族と交流をしていたのか、それも中々に親密そうな様子。ゴーレム共は聞いていたが、それにしても……
魔王「それで?なんの許可だ?察するに我等に関係することか?」
120 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:55:57.60 ID:C5eP5V/ro
勇者「『祭り』の許可をもらいたい」
魔王「『祭り』だと?なんだそれは?」
勇者「収穫の時期が終わり、その年の収穫物を持ち寄ってみんなで祝うもの」
魔王「作物を持ち寄り食べるのか?その『祭り』とやらは一人では出来ぬと申すか」
勇者「そう、できない。私もここの人達にはずいぶんと世話になった。だからそのお礼も兼ねて」
魔王「貴様が料理を振舞うか」
勇者「そう、他のみんなもそれぞれ振舞う。あと出来れば、歌ったり踊ったりする」
魔王「ふむ……それを他の魔族は了承したというのか」
勇者「ええ、『種族の沽券に関わる』と大分乗り気だった。後は貴方の許可があれば……」
121 :
>>1 :2014/05/06(火) 23:56:37.29 ID:C5eP5V/ro
キリが悪いけれど本日はここまで。
お休みなさい。
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/07(水) 00:05:35.08 ID:sL2bOdBt0
おつー!
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/07(水) 00:09:19.76 ID:qFUpHxVu0
おやすめー乙
131 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:48:57.52 ID:7mGi8WVLo
魔王「解せんな、何故祝う必要がある?」
勇者「『いただきます』の後は『ごちそうさま』、それと同じこと。実りを得る季節を越えたなら、全てに感謝と礼儀を以って報いる」
魔王「む……」
そう言われたらばこちらも分が悪い、なにせ我は領域の眷属全てに『いただきます』をするよう申し伝えているからだ。この話を断れば少なからず見くびられることになるであろう……別に気にはせんが。
勇者「……どう?」
魔王「むう……」
132 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:51:34.54 ID:7mGi8WVLo
却下する理由など無い、しかしこれは魔王の血がそうさせるのか、何故だ?
『我は何故かこの女の困る顔が見たい』
先程まで、この者の顔を思い浮かべていたというのに、我はどうしたというのか。
勇者「……甘いモノもたくさん出る」
魔王「よかろう」
左様、断る理由など無い。しかし断じて我は餌付けられたわけではない。断じてである。
何故なら、我はこの女の困る顔を見ることが出来、同時に甘味を……否、同時に眷属共を納得させる選択肢を見つけたからである。
魔王「ただし」
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133 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:52:59.58 ID:7mGi8WVLo
勇者「この季節ならサツマイモを使ったスイートポテトや……」
魔王「それはいかなる……そうではないっ!」
思わず問い詰めそうになる自分を振り切る意味でもそう言い放つ。
勇者「今日の貴方は大きな声をよく出す、いつものほうが良いと思う」
魔王「そうか……ではない。条件がある」
勇者「ではアップルパイはどうだろうか」
魔王「もうよい、食から離れよ。出来れば歌と舞踊をしたいとのことらしいな?」
勇者「そうね、出来ればしたい。あれは祭りの華」
魔王「それを必ずやるのだ、我に対し余興を設けよ」
134 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:54:41.35 ID:7mGi8WVLo
勇者「……いいの?私だけではそれは出来ない。貴方の配下達、あの人達にも手伝ってもらうことになる」
魔王「構わぬ、あれ等は面子を保つためなら貴様の要求如き容易に応えよう」
勇者「……ありがとう」
魔王「そこでだ」
さあ……
魔王「その際……『死』を称える歌を唄え……」
どんな表情を見せる……?
勇者「……『死』を、称える?」
魔王「そうだ、『死』を称えよ」
135 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:56:13.28 ID:7mGi8WVLo
勇者「それは何故?」
魔王「ここで初めて会った時の事を覚えているか?」
勇者「覚えているわ。貴方は私が戦いに来たわけでないと知り、拍子抜けしていた」
魔王「そして人に疎んじられ追放された貴様にこう言った」
何ゆえもがき生きるのか?
死に逝くものこそ美しい、そうは思わんか?
魔王「……どうだ?そして貴様はなんと言った?」
勇者「……『その通りだ』、そう言った」
魔王「その言葉が我の興味を引き、貴様はこうして生きている、ならばそれをその場で示すのだ」
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/07(水) 21:56:20.60 ID:DILhvuBi0
魔王タソカワユス
137 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:57:24.50 ID:7mGi8WVLo
勇者「その前に許可はもらって……」
魔王「なんでもよい、するか、止めるか」
さあ、絶望に暮れるか、憤怒に燃えるか、我の眼前に立った勇者はみなそうした。貴様もその中に列挙されるのだ。取るに足らない我の獲物の中の一つに。
その時、我の中に渦巻く貴様の幻影は消え去るに違いあるまい。
魔王「さあ、勇者殿?いかに……」
しかし、女の目に燃えるのは、
勇者「…………わかった」
何度見ても忌々しいあの炎。
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138 :
>>1 :2014/05/07(水) 21:59:28.60 ID:7mGi8WVLo
戦うことを厭わない。生きることを諦めない。万難を乗り越えてみせると決めた覚悟の炎。
勇者「唄って見せよう……」
女の足元を覆う草花が花開き、城内の僅かな光を反射し金箔のように光り花粉を撒き散らす。
それが決意表明であるかのように。
全ての勇者達が、戦士たちが、そしてこの女がこれまでそうしてきたように、
『たたかう』ことを選んだのだ。
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139 :
>>1 :2014/05/07(水) 22:01:24.19 ID:7mGi8WVLo
*************
祭り ー 神仏・祖先をまつること。また、その儀式。特定の日を選んで、身を清め、供物をささげて祈願・感謝・慰霊などを行う。
書にはそうある。慰霊の目的もあるが、今回の祭りはそうではない。感謝の祭りである。
その際に『死』を称えるというのか。
あの女は眷属から吊るし上げられるであろうか。
祭りの意図を告げておきながら自身が唄う歌はその真逆であれば、それに興じた他の眷属が怒るのは当然である。
魔王「……馬鹿な」
我は後悔しているというのか。
あの者の表情が歪むのを見たいが為に、あの者をそのような境遇に追いやったことに。
140 :
>>1 :2014/05/07(水) 22:03:42.10 ID:7mGi8WVLo
にゃーん……
魔王「……貴様は目聡いな、ヨミよ」
この僕は数多有る我の配下にあって誰よりも我の心中に通じている、油断のならない者である。
そういった存在は危険なのだ、平素であれば閉じ込めておくべき心情の吐露を事も無げにこやつ等は吸い出してしまう。
我自身、何度こやつに重いを告げたことか。
いわばこやつ等は相手の弱点を晒し出してしまう存在なのである。そして得てしてそういった奴腹は、単純な暴虐から身をかわす術に長けているのだ。
魔王「あのような事を言うべきでは無かった……」
我はどうしてしまったというのか。
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141 :
>>1 :2014/05/07(水) 22:06:33.96 ID:7mGi8WVLo
>>140
我自身、何度こやつに重いを告げたことか。→×
我自身、何度こやつに思いを告げたことか。→○
ですね。地の文多めの上、短いですが今日はこれにて。
今日で終わらせたかったけれど、あまり急いていい加減になるのもアレなのでよければお付き合いください。
いつもレスありがとうございます。
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/07(水) 22:17:29.82 ID:GTDP7QNio
乙
149 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:06:25.31 ID:VsO8fh/no
投下します。今回、地の文が多いです。
変だったらごめんなさい。
150 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:08:58.52 ID:VsO8fh/no
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《 勇者の住まい付近 泉にて 》
祭りの開始を告げる宴の刻限も近い。
勇者の提案である『祭り』なるものの会場とされた泉付近は実に盛況としている。
それぞれが少数にしろ、全種の魔族が集っているのだ、当然の事である。
海から遠く離れたこの近辺ではまず見かけぬ海魔や、ほとんど山から降りて来ることが無い翼魔まで、それもそれぞれが上位の者に違いあるまい。
『祭り』なるものの意図は勇者の女より告げられているはずである。しかしここに集う者は誰も額面どおりに受け取っていまい。
誰もが隙をみて己の優位を示そうとするであろう。魔族とはそういうものだ。
151 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:10:29.69 ID:VsO8fh/no
月が天上で輝く時にあって付近は昼のように明るい。
ゴーレム族より供された明かりとなる魔石や、四方八方で焚かれた篝火によるものである。
魔王「機械王よ、貴様のその珍妙な装備はなんだ?武器か?」
機械王「コレハ魔王様、コレハ楽器デゴザイマス」
魔王「楽器……それでか?いや、それよりも貴様、楽士として出るのか?一族の王である貴様が?」
機械王「王ナレバコソデゴザイマス。此度ノ祭リハ他ノ魔族モ出ルトノコト、ナレバ手ヲ抜クワケニハ参リマセヌ」
魔王「なるほど、貴様等は基本的に殺し合いをするような関係であったな」
機械王「魔王様アッテノ統治デゴザイマス」
152 :
>>1 :2014/05/09(金) 00:11:38.09 ID:VsO8fh/no
魔王「それにしても……何故、多数の楽器、それもよく見れば弦楽器ではないか、なにゆえそれを一度に持ち歩いておる?部族に配るものか」
機械王「イイエ、コレラハ全テ私ガ演奏シマス」
魔王「……痴れ者め、腕が足らぬではないか」
機械王「アタッチメント展開、マルチハンドデバイス始動……」
言うや早いか、あっという間に機械王より12本もの腕が生える。動作確認かなんだかはわからぬが、手指をわきわきとうごめかす様が不快である。
魔王「……なんだと?」