魔王「死に逝くものこそ美しい」女勇者「その通りだ」
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Part13
463 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:42:39.06 ID:sLqpJOqRo
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謁見の間の大扉を抜け悠然と歩いてくる女を認め、自分の眼が見開かれるのを自覚する。魔王たる自分が、童の如く待ちわびていたその姿が眼前にある。
悠久とも思える時を過ごし、その時が遂に来た。
相変わらず、剣すら佩いていない。
だが知っているぞ、その拳は万を叩き伏せることを。
相変わらず、腕の一振りで周囲を更地にしかねぬ武威もない。
だが知っているぞ、一度『たたかう』ことを選択すれば、更地は愚か消滅することを。
相変わらず、魔力も感じられない。
だが知っているぞ、精霊を従える者にそんなものが必要ないことを。
相変わらず、絆を証明する供はいない。
だが知っているぞ、貴様は誰よりもこの世界と深い絆を持っていることを。
魔王「……こんにちは、勇者殿、私がこの城の主だ」
我はこの者が勇者だと知っている。
464 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:55:38.14 ID:sLqpJOqRo
そして、遠き昔のあの時を繰り返す、そうしてこそ、あの時に戻れるのだ。
陽光の如く光を放つ金の髪。
月光の如く浮き出る肌。
神が与えた『生命』の恩恵の下、足元で無限の生と死を繰り返す数多の草花。
勇者「……こんにちは」
そして、何度見ても我の心を捉えて離さぬ、眼に宿り揺らめく美しき黄金の炎。
敵は無く、四肢が朽ちようと歩み寄ることを、理解することを選んだ者の瞳。
『英雄』でなく、『勇者』であるその本質。そしてだからこそ。
魔王「会いたかった……」
465 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:56:29.62 ID:sLqpJOqRo
勇者「いきなりね」
魔王「……『貴様の前』にきた勇者に恋焦がれておってな、それが貴様に似ていたのだ」
そう、だがコヤツはあの女ではない。
我が創りなおした、一巡した世界の、また別の誰かである。
即ちこの言葉が出たのは、我がいかに未熟であるかを知らしめるものであった。
勇者「…………」
魔王「……?何故赤くなる?」
勇者「…………なんでもない、そんなことより」
魔王「なんだ?」
466 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:57:09.84 ID:sLqpJOqRo
勇者「魔王様は女だと思っていた」
魔王「…………」
従者「…………グッ!」
ハッハッハッハッ……
にゃーん……
おのれ、ヨミまでも、いつの間に帰ってきおったか。
魔王「そんなにその伝承は有名なのか」
勇者「そうね、お祭りもあるくらい」
魔王「ほう、少し面白い」
勇者「…………」
魔王「……?何故笑う?」
467 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:57:36.13 ID:sLqpJOqRo
勇者「…………なんでもない、この世界の産みの親である魔王様を」
魔王「待て、その魔王様というのを止めよ」
勇者「何故だろうか?」
魔王「むずがゆくてかなわん」
勇者「この伝承は本当の事なの?」
魔王「……屈辱ではあるが、大まかにはその通りである」
従者「…………グッ!ブフッ!」
ハッハッハッハッ……
にゃーん……
貴様等、後で覚えておくが良い。
468 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:58:36.52 ID:sLqpJOqRo
勇者「そう、ともかく私達のところでは、貴方は始原の神として崇拝される、それを盛大に称える祭りがあるわ」
勇者「それを『魔王祭』と言う」
魔王「なんだその禍々しい祭りの名は……どのように祝うのだ」
勇者「世界中であらゆる料理が振舞われる……そして人々は、意中の相手に料理を送る、そうしてカップルが生まれる」
魔王「なんだと?」
勇者「『胃袋を掴んだもの勝ち』、この話にはそういう陰の教訓がある」
魔王「う、嘘を申すな」
勇者「嘘ではない。私もたくさんもらった。ちなみに元々はプリンを送る日だった。おいしかった」
魔王「なんだと……では、貴様はそれに応えたのか?」
勇者「…………ミルク粥だったらやばかったかもしれない」
469 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:59:12.75 ID:sLqpJOqRo
魔王「なんだと?」
勇者「なんでもない、私は応えていない。この使命もあったし」
魔王「む……やはり貴様も刺客として放たれたか?」
勇者「そうね、王様と神様はこの豊かな土地をどうしても手に入れたいみたい」
勇者「けど民衆も教会も貴方を崇拝している。だから私達が暗殺者となって送り込まれているの」
魔王「繁栄を求めるは生物の性である。罪ではない」
勇者「そうね、でもそれで破滅を呼び込むのは無知による罪、あの人たちはそれがわかっていない」
魔王「では、何ゆえ貴様はここにいる、我を殺すために来たのではないのか?」
470 :
>>1 :2014/05/25(日) 23:59:48.06 ID:sLqpJOqRo
勇者「…………された」
魔王「なんだと?」
勇者「……追放されたのよ」
魔王「……なんだと?」
勇者「……フフッ」
魔王「何故笑う?」
勇者「貴方、さっきからそればっかり」
魔王「馬鹿者、笑い事ではない、何故追放された?話の流れを聴けば、貴様が追放されるような話では無いではないか」
勇者「殴っちゃった」
魔王「…………は?」
勇者「殴っちゃった、王様も神様も、でもあの人たちでは私は殺せない。それで追放された」
魔王「…………」
471 :
>>1 :2014/05/26(月) 00:00:54.88 ID:b0/aJeEao
一旦休憩。
472 :
>>1 :2014/05/26(月) 00:01:59.56 ID:b0/aJeEao
ごめんなさい。今日はここまでとします。
一気にエピローグといきたいですが、後日談まで書いてたら多分終わらないので、また明日にでも。
473 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/26(月) 00:03:14.55 ID:lvAKrVf1O
乙
474 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/05/26(月) 00:09:39.95 ID:Oaeb8AlAO
乙です
賞讃の言葉は完結まで取っておきます
484 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:21:17.49 ID:b0/aJeEao
お待たせた!!投下しますッ!
485 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:22:52.53 ID:b0/aJeEao
勇者「……正確に言うと、命を狙われている。刺客の人を返り討ちにするのは忍びないので逃げてきた」
魔王「大馬鹿者が、何故そんなことをした」
勇者「この侵攻の理由は土地が足りないからではない」
魔王「ほう、何故か?」
勇者「人間の領域は荒れている。無計画な森林伐採、無秩序な工業生産、全部自業自得」
勇者「神様も神様、それで自分を崇める人間がいずれ滅びるかもしれないからといって、自分の産みの親を殺そうとするだなんて許せない」
魔王「だから殴ったのか?」
勇者「殴った、しこたま」
魔王「無計画で無秩序なのは貴様であろうが」
486 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:24:13.24 ID:b0/aJeEao
勇者「どうしても許せなかった」
魔王「……それは何故だ」
勇者「……私の知る貴方はこの世界にいないと諦めていたけど」
魔王「…………何?」
勇者「貴方が出した回答を継いだ人を傷つけるなんて、私には見過ごせない。そう思ったの」
魔王「…………貴様、何故」
勇者「……本当に、本当に、久しぶり」
魔王「馬鹿な、何故、記憶が」
勇者「少し……痩せた?」
魔王「………………」
487 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:25:28.58 ID:b0/aJeEao
勇者「本当に、世界を創りなおしたのね……」
魔王「……そうだ、今、この時が、再び訪れるよう、戦い続けたのだ」
勇者「つらくなかった?」
魔王「……もう時を数えるのも億劫である。四十億年だぞ?」
勇者「それでも戦い続けた」
魔王「ヨミも、従者も、ハナもだ」
勇者「みんなあの時のまま」
魔王「体だけはな、存在は既に高次のモノだ。我に付き合ってくれると、本当に無理をさせた……」
勇者「皆、久しぶり」
従者「……息災のようでなによりだ」
ワンッ!ワンッ!クゥーン!クゥーン!
にゃー……
488 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:26:26.68 ID:b0/aJeEao
魔王「コヤツ等は最早、神の領域である、ヨミとハナなど、獣王共に崇められている」
勇者「そう……みんな、変わったのね」
魔王「貴様は……何故変わっていない?」
勇者「よくわからない、けど……こうして産まれた」
魔王「何?」
勇者「魔界で過ごした記憶と、経験したこと、その記憶だけ引き継いで最初からやり直していた」
魔王「…………」
489 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:27:41.03 ID:b0/aJeEao
勇者「でも、世界も、周りで起こったことも少しずつ違っていて、ここは私の知る、貴方がいる世界では無いと思っていた」
魔王「……何故だ?」
勇者「魔王様の伝説。そしてその伝説では魔王は女。この世界に貴方はいないものと思っていた」
魔王「む……」
勇者「もしかして、私達は未だにあの世界を壊した神様の……」
魔王「……ふむ、少し面白い」
勇者「え……?」
魔王「『あの』神共がどうこうしたとは考えづらい。最早、この世界は外の神より放たれている。我が創りなおした故な」
勇者「でも、こんなこと、神様以外じゃ」
魔王「つまり……我は、しくじったらしい」
490 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:28:41.24 ID:b0/aJeEao
勇者「……どういうこと?」
魔王「我は貴様の誕生を待ち、巡る命の中で再びまみえようとしていた、それがあるべき姿であると」
勇者「……否定しないわ」
魔王「……そっくりそのまま、再生させてしまったらしい」
勇者「…………え?」
魔王「つまりだな、その、我の中で貴様は、その容姿では無く、有り様であるとか、我との出来事であるとか、その記憶を下に……」
勇者「よくわからない、ハッキリと言って欲しい」
魔王「つまりだ……貴様は新たに生まれたのでなく、有体に言えば……」
勇者「?」
491 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:29:47.72 ID:b0/aJeEao
従者「察しの悪い女だ、つまり魔王様は貴様に会いたくて貴様の体を復元させてみたら、うっかり記憶まで……」
魔王「 従 者 ッ !! 」
従者「ハハッ!」
魔王「控えるならばそのニヤケ顔を止めよ、貴様、本当に良い性格になったな」
勇者「で……そんなことが出来るの?」
魔王「…………出来る」
勇者「…………どうして?」
魔王「我を創った神はひねくれ者だったらしい、『役割』が終わった途端、我に不可能なことは無くなった」
勇者「…………」
魔王「…………」
492 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:30:47.86 ID:b0/aJeEao
勇者「…………フフッ」
魔王「……笑うが良い、滑稽であろう」
勇者「いいえ、可愛くなったと」
魔王「何を言うか」
勇者「そういえば最初から可愛かったかもしれない」
魔王「何を言うか」
勇者「なにせ女の魔王として伝わるくらい」
魔王「それを言うならば貴様は男として描かれているわけであるが」
勇者「……きっと貴方が女々しいから、とって変わることに」
魔王「その貧相な胸が男と捉えられたのでは」
勇者「死ね」
魔王「死なぬ」
493 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:31:58.66 ID:b0/aJeEao
勇者「ずるい……これでは私はいずれ貴方達を置いて死んでしまう」
魔王「今、この時より違う」
勇者「…………え?」
魔王「良いな?ヨミ、従者、ハナよ」
従者「魔王様の決定に逆らうはずもございません」
ワンッ!
にゃーん……
魔王「良きかな、では……11101010110001100……」
勇者「……え?」
対象は我等、術式は呪い。
《堕天》
494 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:32:41.69 ID:b0/aJeEao
勇者「なにをしたの?」
魔王「……これで我等も巡る生命である、下僕共は元の鞘に納まったわけであるが」
勇者「どういうこと?」
魔王「これから緩やかに老いていくのだ」
勇者「どうしてそんな事を……」
魔王「決まっているであろう」
勇者「…………」
魔王「死に逝くものこそ美しいからである」
勇者「…………っ」
495 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:34:49.77 ID:b0/aJeEao
勇者「…………っ」
魔王「何を泣くことがある」
勇者「貴方は、変わったと、思っていた……」
魔王「…………」
勇者「けど、何も変わっていなかった……それがっ、嬉しくて、とても美しいと……」
魔王「…………さて」
勇者「…………え?」
魔王「一つ言っておかねばならないことがある」
勇者「……聴くわ」
魔王「通例でな?」
勇者「そう……」
496 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:36:19.82 ID:b0/aJeEao
魔王「……勇者よ、何ゆえもがき生きるのか?」
勇者「……貴方と出会って、貴方と生きるため」
魔王「っ……滅びこそが我が喜び、死に逝くものこそ美しい」
勇者「……いずれ来るその時に、貴方と共に死ねるならそれこそが私の喜び、そして……その通り、その通りだ」
魔王「…………」
勇者「私は……貴方の腕の中で息絶えたい」
魔王「…………」
勇者「…………」
497 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:37:59.94 ID:b0/aJeEao
ハッハッハッハッハッハッハッハッハ……
にゃーん……
従者「貴様、魔王様の言葉を遮るなど無礼であろう!」
魔王「よい、従者よ、下がりおれ」
従者「魔王様はこの言葉を考えるのに文字通り悠久の時を費やし……」
魔王「だから下がりおれと言った!」
勇者「フフッ」
魔王「貴様も何がおかしい、そんなに我が滑稽であるか?」
勇者「今日の貴方はいつもと同じ、相変わらず素直じゃない、そして少し変……けど」
魔王「…………」
勇者「その方が良いと思う」
魔王「そうか……」
498 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:40:39.96 ID:b0/aJeEao
………………
むかし、むかし せかいがまだおわりをくりかえしていたころ。
ひとのはいれない ふかいもり で わるい まおう と さいご の ゆうしゃ が であいました。
ゆうしゃ の はなしに まおう は むちゅうに なりました。
「いのち は めぐるんだよ」
「すこし おもしろい つづけろ」
………………
499 :
>>1 :2014/05/26(月) 23:41:57.88 ID:b0/aJeEao
………………
「くさ を むし が たべて、 むし を どうぶつ が たべて、 そして その したい が くさ になるんだ」
「すこし おもしろい つづけろ」
まおう は すこしずつ この せかい の いのち について、しりました。
………………
勇者「ところで」
魔王「なんだ?」
勇者「最後のあの時、なんでも叶えてくれると言って叶えてもらってないことがあった」