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魔王「なぜ私がこんな人間じみた容姿をしてると思う?」
Part6


263 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)00:56:43 ID:iHLS8U6AM
勇者「……自分の意思で行動、か」
勇者「お前は魔物さえも、自分の意思で生きていないっていうのか?」
魔王「以前も言ったけど、魔物は存在そのものが奇妙」
魔王「人類の脅威と呼びながら、国は彼らを駆逐しようとしない」
魔王「仮に彼らが脅威だとしたら、人間の街はとうの昔に崩壊してるはずよ」
魔王「数でも、膂力でも魔物のほうが人間にまさってるんだし」
勇者「聖水を使ってる可能性は?」
魔王「聖水やその類が使われてる可能性も、人体への影響から考えると低い」
魔王「道具の開発の進行に対して、彼らに関する論文は極端に少ない」
魔王「魔物に関して、この国がなにかを隠してる可能性は十分にあるわ」
勇者「……」

264 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)00:58:45 ID:fHLTBy8gs
暴いて欲しい

265 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:03:04 ID:iHLS8U6AM
魔王「もっとも。証拠がない以上、現段階では私の妄想にすぎないけどね」
勇者「妄想を語るな」
魔王「転がらない疑問を転がすのが好きなの、私は」
魔王「ついでに。誰も考えないようなことを考えて、
   時間を無駄にするのもね」
勇者「……僕はお前のことを理解できそうにない」
魔王「なら、私があなたを理解してあげる」
勇者「……は?」
魔王「あなたのことを、私に教えてほしい」
勇者「教える? なにを?」
魔王「なんでもいい。あなたって人について、私に教えて」

267 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:07:02 ID:iHLS8U6AM
勇者(自分について語る)
勇者(そんな経験は、僕にはほとんどなかった)
勇者(人に聞かせるようなことなんて、僕にあるのだろうか)
勇者「……」
魔王「そんなに答えるのがイヤ?」
勇者「いや……」
魔王「そう、ずいぶんと嫌われたものね」
勇者「いや、というのはそういう意味じゃない」
魔王「?」
勇者「答えられることがなにもないんだ」
勇者「僕は魔王をたおすことしか知らない」

269 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:11:38 ID:iHLS8U6AM
勇者「そうだ。つまらないヤツなんだ、僕は」
魔王「じゃあ、つまらないあなたについて教えて」
勇者「……」
魔王「ダメ?」
勇者「……えっと、猫」
魔王「ねこ?」
勇者「むかし、猫を飼っていたことがある」
魔王「続けて」
勇者「間違えて、外に出したまま一日放置してしまった」
魔王「……そう」

271 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:16:21 ID:iHLS8U6AM
勇者「猫はいなくなっていた」
勇者「でも、また一日したら帰ってきてくれた」
魔王「……おわり?」
勇者「……それが、嬉しかった」
魔王「そう、今度こそおわり?」
勇者「うん」
魔王「……あなたって、話すのが極端に下手なのね」
勇者「……」
魔王「でも、ありがとう。私に話をしてくれて」
勇者「べつに」

273 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:23:38 ID:9NNF3wKil
勇者カワイイ

274 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:29:08 ID:iHLS8U6AM
勇者(『僕の話を聞いてくれてありがとう』)
勇者(なぜかそんな言葉が、ぼんやりと浮かびあがった)
勇者(そう言ったら、目の前のこいつはどんな顔をするだろう)
勇者(本当にわずかだけど、気になった)
勇者(だが、それより考えるべきことがある)
勇者(魔王をたおす期限は決められている)
勇者(それも今の僕には関係ない)
勇者「これから、僕はどうするか」
魔王「……魔王をたおしにいくのは?」
勇者「冗談を言ってるのか?」
魔王「冗談は得意じゃないの、あなたよりはマシだろうけど」

275 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:32:04 ID:iHLS8U6AM
魔王「魔王は私。でも、魔王城にもうひとり魔王はいる」
勇者「お前も知っているはずだ」
勇者「魔王と勇者は、この世にひとりずつしか存在しないことぐらい」
魔王「でも、魔王城に魔王はいる」
勇者「……」
魔王「行けば、私の言葉の意味はわかるはずよ」
勇者「……」
魔王「いっしょに行きましょう、勇者」
勇者(そう言って魔王は、僕へと手を差し伸べた)
勇者(無論、僕は彼女の手をとろうとはしない)
勇者(だが、ほかに選択肢も思いつかなかった)

276 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:32:41 ID:ipn12vpuf
久しぶりの良作

277 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:33:26 ID:fHLTBy8gs
いい展開よ

278 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:33:43 ID:iHLS8U6AM
勇者(結局僕は、彼女の提案にのることにした)
勇者(この会話から三日後)
勇者(僕と魔王は、魔王城へと足を踏み入れることになる)

279 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:34:35 ID:iHLS8U6AM
つづく
次回の更新でこのssは終わり

280 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:35:43 ID:9NNF3wKil
頼む!勇者と魔王幸せになってくれ!

281 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:39:17 ID:fHLTBy8gs
終わりが近づくのはさみしい
待とう

282 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:55:24 ID:MFRBdSlIp
おつ!
早く続きを!

283 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)01:55:25 ID:XG1nCny5M

久々にオチが読めんSS来たな

284 :名無しさん@おーぷん :2014/07/14(月)09:02:23 ID:jP1Lol5IU
魔王の容姿からここまで話膨らませるのは見事

296 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:04:17 ID:8XLssYqPO

勇者「この魔法陣で、魔王城までいけるんだな」
魔王「本来、魔法陣は時間をかけて構成するものだから、
   私のは、せいぜいもって一日」
魔王「それより、あなたは大丈夫なの?」
勇者「なにが?」
魔王「この二日間、ひとりにしてくれっていうから、
   あなたの言うとおりにしたけど」
勇者「どうしても、ひとりで考えたいことがあった」
勇者「それだけだ」
魔王「あなたって、人恋しいって思ったことがなさそう」
勇者「お前はあるのか?」
魔王「ないと思う?」
勇者「聞いてるのは僕だ」
魔王「先に聞いたのは私」
勇者「……」

299 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:09:13 ID:8XLssYqPO
魔王「ひとりではもう耐えられない、そう思うことは誰にでもある」
勇者「魔王でも、そんな感情を抱くんだな」
魔王「人間じみてるのは容姿だけじゃないのか」
魔王「そう言いたいんでしょ?」
勇者「……よくわかったな」
魔王「顔に出しすぎなのよ。そして、ハズレ」
魔王「ひとりで生きていけないのは、
   命あるもの、すべてに当てはまること」
魔王「誰かにそばにいてほしい」
魔王「そんな夜が訪れることもあるでしょ、猫の飼い主さん?」
勇者「……」

300 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:13:03 ID:8XLssYqPO
魔王「……まあ、無駄話はこれぐらいにしておきましょう」
勇者(魔王がそう言うと、魔法陣が真っ白にかがやいた)
勇者(光に飲みこまれたと思ったときには)
勇者(すでに景色は変わっていた)
勇者「……ここが魔王城?」
魔王「『魔王城』なんてものは名称でしかない」
魔王「建物の性質的には宮殿といったほうが正しい」
勇者「この魔王城、いつごろつくられたんだ?」
魔王「私が生まれるよりはるか前、ってことしか知らないわ」

301 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:14:34 ID:QW2wxxyDe
ドキドキする

302 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:16:16 ID:8XLssYqPO
勇者「それぐらいは僕でもわかる」
魔王「そんな、怒って言わなくてもいいでしょ」
勇者「……怒ってはいない」
魔王「魔王城が建造されるようになったのは、
   魔王と人間につながりが生まれてから」
勇者「馬鹿でかい城だ。なんでこんなものを」
魔王「大量の魔物を抱える場所でもあるからね」
勇者「……息苦しい。それになんだか、からだが重い」
魔王「この建物全体に、魔力が張り巡らされてるのよ」

303 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:19:14 ID:8XLssYqPO
勇者「もうひとりの魔王はどこだ」
魔王「その扉の向こうにいる」
勇者「この先に……」
勇者「ーーっ!」
勇者(天井にまで届きそうな扉を開いた先には、巨大な空間が広がっていた)
勇者(腐敗した魔物や人間の死体が、大量に転がっている)
勇者(嗅覚を失った僕には、この空間の死臭はわからないけど)
勇者(そして。最奥で『魔王』が、小さな椅子に腰かけていた)

304 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:23:02 ID:1RR6zkf3E
小さいんだな

305 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:23:06 ID:8XLssYqPO
勇者(『魔王』は、僕の隣にいる魔王にそっくりだった)
勇者(ただし、顔立ちだけだ)
勇者(よく見れば、その容姿は魔王よりもずいぶんとおさない)
勇者(焼けただれた赤黒い肌は、ところどころ腐敗している)
勇者(猛禽類を思わす巨大な翼も、血まみれになっていた)
勇者(手足も人間のそれじゃない)
勇者(少女は、人間とも魔物ともいえないすがたをしていた)

306 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:27:01 ID:8XLssYqPO
勇者「なんなんだ、この場所は」
勇者「それに、あの椅子に座っているのは……」
魔王「構えなくても大丈夫よ」
魔王「深い眠りについてる。すぐには起きない」
勇者「この死体たちは?」
魔王「おそらく、彼女に挑んで返り討ちにあったんでしょうね」
勇者「これがお前が言っていた『もうひとりの魔王』か」
魔王「そう。つくったのよ、私が」
勇者「つくった?」

307 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:27:49 ID:1RR6zkf3E
闇が深いぞよ

308 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:31:30 ID:8XLssYqPO
魔王「母を失った私が、次に考えたのが復讐だった」
勇者「だけど、それは……」
魔王「そう。話したとおり、魔物たちにそっぽ向かれて頓挫した」
魔王「私はひとりぼっちだった」
魔王「子どもだった私は、次にどうしたと思う?」
魔王『ひとりではもう耐えられない。そう思うことは誰にもある』
勇者「……つくろうとしたんだな、自分の仲間を」
魔王「正解」
勇者「だけど、これって……」
魔王「ええ。私の思惑は成功にはいたらなかった」

309 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:33:28 ID:8XLssYqPO
魔王「魔王城へと、続く道は一般人は立ち入り禁止されてる」
魔王「それでもね、人がこの城に紛れこむことはある」
魔王「もちろん、彼らは一瞬で魔物たちに殺される」
魔王「私はその死体を使ってね」
魔王「自分と同じ存在をつくることを思いついた」
魔王「死体に私の魔力を流しこむと、
   どういうわけか、私そっくりのからだが生まれるのよ」
魔王「結局は成功しなかったけど」
魔王「私の魔力を注がれた肉体は、三日もしないうちに、
   もとの形を保てなくなってしまう」
魔王「魔物を使うキメラ的方法もためした」
魔王「でも、死体がいたずらに増えるだけ」
魔王「あの子の肉体が崩れていくのを見て、ようやく無駄だと悟った」

310 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:35:03 ID:Z2dweZ0PX
もう勇者魔王抱いてやれよ

311 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:37:33 ID:8XLssYqPO
勇者「こいつからは、お前と同様、すさまじい魔力を感じる」
勇者「こんなのが城の外に出たら……」
魔王「彼女は、ここから出られないの」
魔王「一定以上の魔力を絶えず供給されていないと、
   形を保つことができないから」
勇者「不完全な存在ってことか」
魔王「そう。不完全な私がつくった、不完全な子」
魔王「おさない私が、ひとりぼっちの世界を壊そうとした結果」
少女「……ぅ」
勇者「!」

312 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:39:11 ID:1RR6zkf3E
こわ

313 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:42:14 ID:8XLssYqPO
魔王「大丈夫。勇者はなにもしなくていい」
少女「ぁ……ぁあ……」
魔王「ごめんね」
魔王「私のわがままで勝手に生んで」
魔王「私のわがままで、勝手に殺すことになって」
少女「ぁぁぁ……」
勇者(魔王が頬に触れる)
勇者(そうしてから、ずいぶん長い時間がたったように思える)
勇者(不意に少女の輪郭を淡い光が包んだ)
勇者(やがて抜け落ちるように、彼女のすがたはあっさりと消えてしまった)

315 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:47:50 ID:8XLssYqPO
勇者「終わったのか?」
魔王「そう、終わったのよ」
勇者「……今、ひとつ思いついたことがある」
魔王「なに?」
勇者「お前は言ったな」
勇者「魔物は人類の脅威でありながら、
   人間にとって都合がよすぎる存在だと」
勇者「実は魔物のほとんどは、とっくに人間の手に落ちてる」
勇者「それどころか、魔物の中には人間によって生み出されたものも、
   数多くいるのかもしれない」
勇者「お前がやったように」

316 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:51:16 ID:8XLssYqPO
魔王「言ったはずよ。証拠はどこにもないって」
魔王「だけど。今後のあなたの行動しだいで、真実は顔を出すかもね」
勇者「……そのとおりかもしれない」
魔王「『魔王』はもう城にはいない」
魔王「この先。あなたはどうするの、勇者」
勇者「なにを言ってる?」
魔王「え?」
勇者「まだ僕は魔王をたおしていない」
勇者(一瞬だった)
勇者(僕の剣は、魔王の腹を容赦なく突き破った)
勇者(大量の赤い血が石畳の床を濡らす)

317 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:52:27 ID:1RR6zkf3E
え…

318 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:53:32 ID:Z2dweZ0PX
この流れでウソだろ…

319 :名無しさん@おーぷん :2014/07/15(火)22:55:11 ID:SC4fmUDaU
予想外過ぎて固まってしまった