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魔王「なぜ私がこんな人間じみた容姿をしてると思う?」
Part2


60 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:36:43 ID:AcnlhiuKt

店主「うちで扱ってる道具は、ここの物ですべてだ」
店主「購入する品が決まったら、声かけてくれ」
勇者「ありがとうございます」
尼僧「なるほど。勇者様はその右腕の刺青で、
   自分が勇者であると証明するんですね」
勇者「ええ。この刺青は、魔力によって彫られた特別なものなんです」
尼僧「そして、ここが勇者一行しか入れない場所」
尼僧「回復薬の類だけでも、様々なものがありますね」
尼僧「……ここの薬で魔法使い様の傷を、癒すことはできないのですか?」
勇者「この手の薬には、副作用があって。
   しかもその副作用が、完全には判明してないんです」
尼僧「つまり、重症を負ってる魔法使い様には使うわけにはいかない、と」

61 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:38:55 ID:AcnlhiuKt
尼僧「へえ。これは魔物を寄せつけなくする聖水」
尼僧「こっちは、逆に魔物を引き寄せる香水」
勇者「魔物を引きよせるものについては、正直使いどきがわかりません」
尼僧「……おどろきました」
勇者「え?」
尼僧「すでに魔物の対策として、ここまでのものが開発されてるなんて」
勇者「魔物の研究も年々進んでますし、
   おどろくことでもないと思いますけど」
尼僧「……魔物とはいったいなんなのでしょうね」
勇者「?」

62 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:39:49 ID:H9gZlZVij
うむ

63 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:41:07 ID:AcnlhiuKt
尼僧「疑問に思ったことはありませんか?」
勇者「なにを?」
尼僧「魔物という存在についてです」
尼僧「犬や猫といった動物でもなければ、虫でもない。まして人間でもない」
尼僧「彼らはいったいなんなのか」
勇者「僕に聞かれても困ります」
尼僧「勇者様は魔物をどういう存在だと、とらえてますか?」
勇者「人類の脅威です」
尼僧「即答ですね」
勇者「当然です。人々にとっての共通認識ですから」

64 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:45:13 ID:AcnlhiuKt
尼僧「じゃあ逆に、魔物にとっての人類は?」
勇者「……知りません」
尼僧「すこしは考えてくださいよ」
勇者「余計なことを考えてる時間はないんです、僕たちには」
尼僧「なるほど。勇者様はそういう感じの人なんですね」
勇者「……なんですか、その目は」
尼僧「勇者様がどういう人か、ちょっとわかってきました」
勇者「あなたのことも、あなたの考えてることも、僕にはよくわかりません」
尼僧「あらまあ、それは残念」

65 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:46:48 ID:apMwdhljr
勇者マジメすぎだぞ

66 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:47:26 ID:AcnlhiuKt
尼僧「ところで」
尼僧「この聖水を用いれば、魔物に遭遇することなく旅ができるのでは?」
勇者「もちろん、不可能ではありません」
勇者「でも、聖水は魔物を寄せつけない強力な薬品です」
勇者「使用者である僕たちも、それ相応の影響を受けてしまいます」
尼僧「便利な道具にも一長一短があるわけですね。ふうむ」
勇者「ずいぶんと熱心に道具を見てますけど、なにか気になることでも?」
尼僧「……ああ、ごめんなさい」
尼僧「はじめて見るものに、すぐ夢中になってしまうんです」
尼僧「私の悪い癖です」

67 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:48:48 ID:Dd51F6VU1
右京さんかよ

68 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:50:38 ID:AcnlhiuKt
尼僧「その顔は、あまり共感してもらえてないようですね」
勇者「……今は考えられないんです、魔王をたおすことしか」
尼僧「勇者様って真面目だってよく言われません?」
勇者「急になんですか」
尼僧「思ったことを口にしただけです」
勇者「真面目というか。
   つまらないヤツだとはよく言われます」
尼僧「ああ、たしかに。
   って、ごめんなさい。ついうっかり」
勇者「べつにかまいません」
勇者「面白みのない人間だって自覚はあります」

69 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:52:19 ID:AcnlhiuKt

尼僧「次へ向かう場所は決まってるのですか?」
勇者「この街を抜けて、山を下って迂回したとこに集落があります」
勇者「まずはそこを目指します」
尼僧「ずっと気になってたんですけど」
尼僧「勇者様は、魔王の根城がどこにあるかを把握されてるのですか?」
勇者「えっと……これを見てください。国から特別に支給されたものです」
尼僧「地図帳ですね。中身を拝見してもよろしいですか?」
勇者「どうぞ」
尼僧「……すごい。ここまで精密な地図があるなんて」

70 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:55:22 ID:AcnlhiuKt
尼僧「魔物の生息地、街から街への最短ルートなど、事細かに記載されてますね」
勇者「この地図のおかげで、ここまではどうにかたどり着くことができたんです」
尼僧「つまり、言ってみれば。
   この地図は先代の勇者たちの、旅の足あとってわけですね」
勇者「まあ、そういうことでしょうね」
尼僧「だったら、賢者様と戦士様の死は回避できたのでは?」
勇者「それは……」
尼僧「わざわざ危険な魔物が潜む場所へ、おもむいたのですか?」
勇者「危険をおかしてでも、手に入れる必要があったんです」
尼僧「なにを?」
勇者「魔王をたおすための『勇者の剣』です」

71 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:57:50 ID:TRHjXzFSr
わざわざ地図まで用意してくれるとかいい国だな
でも普通に考えたら魔王倒しに行けって命令しといてお小遣い程度の金しか寄越さない
王様のがおかしいか

72 :名無しさん@おーぷん :2014/07/09(水)23:59:47 ID:AcnlhiuKt
尼僧「……『勇者の剣』?」
勇者「詳細は僕も知りません」
勇者「言い伝えでは、剣でありながら剣の形状をしてないそうです」
勇者「勇者の力を持つもの意外が触れれば、牙をむく危険な代物」
勇者「僕が知らされているのは、この情報と剣がある場所だけです」
尼僧「……それは、どこにあるのですか?」
勇者「この街から数キロ離れた洞窟です」
尼僧「その剣は絶対に必要なのですか?」
勇者「記録が正しければ、すべての勇者がその剣をたずさえて魔王へ挑んでます」
勇者「そして例外なく、その剣と勇者の前に魔王は殺されている」

73 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:02:00 ID:6AEuIWvlx
勇者「そう、本来なら剣は手に入れなければならない」
尼僧「……また洞窟に挑むのですか? 『勇者の剣』のために」
勇者「……」
尼僧「私は他の手段を考えるべきだと思います」
尼僧「今の状態では、無意味に同じことをくりかえすだけです」
勇者「……そう、ですね」
勇者「『勇者の剣』についてはいったん保留にします」
尼僧「魔法使い様のことも、考えなければいけませんしね」
勇者「……魔法使いは、教会に送ったほうがいいかもしれません」
尼僧「どうしたのですか、やぶから棒に」
勇者「……」

75 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:06:39 ID:6AEuIWvlx
勇者「僕とあなただけで、魔王に勝てるわけがない」
勇者「まして、剣が手に入らないならなおさらだ」
尼僧「だから魔法使い様を殺す、と」
勇者「……自分でも最低だと思います」
勇者「でも。これしか手段が浮かばないんです……!」
尼僧「魔王討滅のパーティーに参加するには、国王の許可がいる……」
尼僧「今から新たな人員を補充しようとすると、
   時間がかかりすぎるってことですね」
勇者「そういうことです」

76 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:11:12 ID:6AEuIWvlx
尼僧「空間転移の魔術などがあれば、またちがってくるのに」
勇者「あの術は使えませんよ」
勇者「時空移動の術は、大賢者クラスでようやく会得できるもの」
勇者「戦争の様相すら一変させる危険な術です」
尼僧「たしか、その術も国宝陛下の許可がいるのでしたっけ」
勇者「そうです」
尼僧「魔王をたおすのにも、様々な制約がついてまわるのですね」
勇者「国の、いや、人類の命運がかかってるんだから仕方がありません」
尼僧「しかし、そうなるとやはり魔法使い様を……」
勇者「……」

80 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:27:49 ID:6AEuIWvlx
尼僧「また顔色が悪くなってません?」
勇者「気にしなくていいです」
尼僧「気になるから指摘したんですよ」
尼僧「魔法使い様よりも先に、勇者様が教会送りにされたりして」
勇者「……」
尼僧「そういえば、教会ってあれですよね?」
尼僧「なんだか人だかりのようなものが、できてますけど」
勇者「ひょっとすると、洗礼式かもしれません」
尼僧「幼児洗礼ですか」

81 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:28:20 ID:FGLk5OhsF


82 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:45:50 ID:6AEuIWvlx
尼僧「洗礼、ね」
勇者「どうかしましたか?」
尼僧「洗礼式を見るのはそういえば、はじめてだなって」
勇者「でも、洗礼そのものは確実に受けてるはずです」
勇者「洗礼を受けるのは、国民の義務のひとつになってますし」
尼僧「……勇者様、がんばらないといけませんね」
勇者「なにがですか?」
尼僧「だって、がんばらないと」
尼僧「あの教会で受洗した子どもたちの未来も守れませんよ?_」
勇者「未来を、守る……」

83 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:46:41 ID:FGLk5OhsF
そらしたのか

84 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:48:08 ID:C9CzexCnk
そうか魔王だから洗練なんて受けてないんだな

85 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:49:15 ID:FGLk5OhsF
俺らは魔王サイドで話を見てるのか

86 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)00:54:34 ID:6AEuIWvlx
尼僧「なにか私、へんなこと言いました?」
勇者「え?」
尼僧「勇者様、なんだかキョトンとしてます」
勇者「そうじゃないんです」
勇者「魔王をたおすことは人々の未来を守ることにも、つながるんだって」
勇者「あなたに言われて、今気づきました」
尼僧「……勇者様って、魔王をたおすことしか考えてないんですか?」
勇者「勇者の存在意義は魔王をたおすことだって、僕は考えてたので」
尼僧「じゃあ聞きますけど、勇者様は魔王をたおしたらどうするんですか?」

88 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:11:26 ID:6AEuIWvlx
勇者「……」
尼僧「……まさか、まったく考えがないんですか?」
勇者「その、まあ」
尼僧「呆れて物も言えないわ」
尼僧「真面目をとおりこして、ただの思考停止じゃない」
勇者「この旅をはじめるまでは、
   魔王をたおしたその先について考えたことあります」
勇者「でも、今は魔王をたおしたその先のことなんて……」
尼僧「……」
勇者「それに、魔王をたおしたあとの勇者については、
   記録を探っても見つからないんです」
尼僧「冒険の書にも魔王をたおすまでのことしか述べられてませんね、そういえば」

89 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:12:07 ID:FGLk5OhsF
おお

90 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:20:35 ID:6AEuIWvlx
尼僧「でも自分のことなんだから、他人のことなんて関係ないじゃない」
勇者「あなたの言うとおりです」
勇者「でも、勇者である僕の使命は魔王をたおすことだ」
勇者「与えられた役割も果たせない存在が、
   未来のことについて考えるなんて、虫がよすぎます」
尼僧「それは本気で言ってるの?」
勇者「冗談は苦手です」
尼僧「……そう」
勇者「……あの、どこへ行くんですか?」
尼僧「ちょっとひとりにさせてください」

91 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:21:44 ID:FGLk5OhsF
ぶつかってるなおい

92 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:22:51 ID:51qGuAnkX
これはこの女じゃなくてもイラっとするわな

93 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:25:13 ID:BDoUrWeNn
生真面目過ぎて使命にがんじがらめにされてるな

94 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:30:50 ID:6AEuIWvlx

勇者(そうして、尼僧との邂逅から二日が経過した)
勇者(このあいだに彼女は、街を回っていたみたいだが)
勇者(体調を崩して眠れもしないのに、ベッドで眠っていた僕は)
勇者(彼女がなにをしていたのか、なにも知らない)
勇者(そして今日、唐突に彼女が僕の腕を引っ張って街を飛び出した)
勇者(街道をぬけ、森の奥へと進むと尼僧はおもむろに取り出した)
勇者(魔物を引きよせる香水を)

95 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:31:41 ID:FGLk5OhsF
ん?

96 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:32:24 ID:BDoUrWeNn
!?

97 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:41:50 ID:6AEuIWvlx
勇者「なにをやってる……?」
尼僧「ああ、もう演技する必要もないと思ってね」
勇者「答えになってない! なんでそんなものを!?」
尼僧「証明するためよ」
尼僧「私があなたの宿敵である魔王だってことをね」
勇者(目の前の女がなにを言ってるのか、理解できない)
勇者(そして困惑する僕を、気づけば大量の魔物たちが囲んでいた)
尼僧「一瞬よ、きちんと見てなさい」
勇者(尼僧の宣言どおりだった)
勇者(突如地面から現れた氷の突起が、一瞬で魔物たちを串刺しにしていた)

98 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:48:10 ID:FGLk5OhsF
おん?

99 :名無しさん@おーぷん :2014/07/10(木)01:48:33 ID:FGLk5OhsF
魔王でも呼び出しには道具がいるんだな