Part9
282:
1:2012/07/11 23:19:54.90 ID:OBtHn8iAO
魔法使い「」ペタペタ
魔法使い(下半身は変わっていない…上半身だけ?)
僧侶「魔法使いさん?」
魔法使い「あ、いや、なんでもない」
僧侶「ともかく、わたしが助かったのは魔法使いさんと剣士さんのおかげです」
僧侶「ありがとうございました」ペコ
魔法使い「そんな畏まって言わないでもいいのに」
ガチャ
剣士「いいじゃねえか。あと、好意は受け取っておけよ」
魔法使い「…すごい自然に入ってきたな」
285:
1:2012/07/12 15:30:58.66 ID:oTGGV0DAO
魔法使い(まてよ……戦士が私のことについて何か言ってるんじゃ…)
剣士「それで、魔法使い」
魔法使い「な、なんだ?」
剣士「そんな身構えるなよ。なにか聞きたいことは?」
魔法使い「……やっぱり、戦士のことだな」
僧侶「……」
魔法使い「あ、悪い――僧侶にとっては、気分の良くない話題か」
僧侶「いいえ。罪を憎んで人を憎まず、そう教わっていますから」
魔法使い「強いな」
僧侶「魔法使いさんほどではないですよ」
剣士「話していいか?――下手すると、僧侶より酷いことになっちまった」
魔法使い「酷いこと?」
286:
1:2012/07/12 15:39:38.57 ID:oTGGV0DAO
剣士「気が…狂っちまったんだよ。話しすら通らない」
魔法使い「は?」
剣士「戦で生きる人間がああなるんだ。恐ろしいモノをみたんじゃないかって話だ」
剣士「憲兵隊によるとあたりの木がなぎ倒されたりしていたらしいからな」
魔法使い「……」
剣士「何があったんだ?」
魔法使い「さあ…私は、なにも覚えていなくてな」
僧侶「記憶が抜けているみたいなんです」
剣士「本当か!?僧侶、記憶を呼び起こすことは?」
僧侶「いいえ…まだそのような技術は出来ていないんです」
287:
1:2012/07/12 15:44:23.85 ID:oTGGV0DAO
剣士「そうか……どんなヤツだったんだろうな、そいつ」
魔法使い「……」
剣士「そばに魔物も死んでいたんだと。どうやら一撃らしい」
魔法使い「へぇ…」
僧侶「良かったですね、手を出されなくて…」
魔法使い「全くだ…その誰かさんが傷の手当してくれたのかな」
剣士「え、じゃあなんだ?こっちの味方か?――でも戦士があれだし…」
魔法使い「どうだろうな―――きっと気まぐれなやつなんだよ」
288:
1:2012/07/12 15:48:44.18 ID:oTGGV0DAO
魔法使い「それで、戦士は?」
剣士「先に城へ送還されたよ。――勇者たちもいっしょにな」
僧侶「……」
魔法使い「そうか…終わったんだな」
剣士「ああ」
魔法使い(あの老夫婦のことは…また後で行こう)
剣士「俺らも帰れとさ。こんなんじゃ――魔王以前の問題だ」
魔法使い「だな」
僧侶「みなさんは、また新しい“勇者”さまが現れたら…どうします?」
剣士「そうだなぁ…どうすっか」
僧侶「わたしはもう無理でしょうが…魔法使いさんは?」
魔法使い「私は…」
289:
1:2012/07/12 16:17:53.43 ID:oTGGV0DAO
『お前の一家をバラされたくないなら、勇者と旅に出ろ』
魔法使い「そうだな――」
『そして、勇者のために戦い、勇者を守り、そして――』
魔法使い「私、あそこの大臣が苦手だからあんまり会いたくないんだよ…」
『国の為に死ね、混血児』
魔法使い「ちょっと、旅に出ようかな…修行もかねてさ」
魔法使い(あの大臣にあったらどんな無茶ぶりされるか)
剣士「“勇者”パーティーには付いていかないと?」
魔法使い「ああ」
剣士「そのほうがいいかもな…疑心暗鬼になっちまいそうだ」
290:
1:2012/07/12 16:23:25.21 ID:oTGGV0DAO
僧侶「でも、一度国には戻りますよね?」
剣士「ああ。母ちゃんに会いたいしな」
魔法使い「私も…師匠に挨拶しないと」
剣士「じゃあ、一週間以内にはここを出るか。それでいいな?」
魔法使い「分かった」
僧侶「はい」
剣士「じゃ、魔法使いはちゃんと体力戻しておけよ」ガチャ
魔法使い「分かったよ」
剣士「腹減ったら下来い」バタム
魔法使い「持ってきてくれないんだ…」
僧侶「あはは…。でも意外ですね」
魔法使い「ん?」
僧侶「大臣さん、お嫌いですか。優しいと思うんですけど」
291:
1:2012/07/12 16:28:52.65 ID:oTGGV0DAO
魔法使い「ちょっとな…色々あって」
魔法使い(私の正体を何故か知っているし)
魔法使い(それをネタに脅されて討伐にでる羽目になったからな…)
魔法使い(まあ、いいか。これから先あの人から逃げていれば)
僧侶「ふぅん…性格の会う会わないは色々ありますからね」
魔法使い「そうだな」
僧侶「じゃあ、わたしもちょっと横になりますね」
魔法使い「ああ、無理をさせてしまったか…。ありがとうな」ニコ
僧侶「い、いえ!平気ですよ!では!」ガチャバタム
魔法使い「……?」
292:
1:2012/07/12 16:33:12.90 ID:oTGGV0DAO
青年「待ちくたびれたぞ」
魔法使い「だからいきなり現れるな。…ひとつふたつ聞きたいんだが」
青年「なんだ?」
魔法使い「なんで私は男性の身体になっている?」
青年「脱がされるのは分かっていたからな。ちょっと魔法をかけておいた」
魔法使い「あ、そうなんだ…てっきり悪ふざけだと」
鷹「魔王さまのお気遣いに感謝しろ小娘!」ザクッ
魔法使い「いっだぁ!?」
青年「明日には元に戻ってる。ま、胸のサイズに変わりはなさそうだがな」
魔法使い「ふざけんな、一応あるからな」
293:
1:2012/07/12 16:51:56.58 ID:oTGGV0DAO
青年「しかし良かったな。戦士とやらがお前の存在を脅かさなくて」
魔法使い「良かったのか悪かったのか…」
青年「どうしていた?もし戦士が正気で、べらべらと話していたなら」
魔法使い「その時は――その時、だよ。そうなったら考える」
青年「ふん。そうだ、仲間に感謝を述べるのもいいがこいつにも礼を言っとけ」
鷹「えっ、ま、魔王さま」
魔法使い「?」
青年「夜毎にこっそり具合を見に来ていたんだ。今はそんな親切微塵も見せてないがな」
鷹「いやいやいや魔王さまそれはあの」
294:
1:2012/07/12 16:55:02.42 ID:oTGGV0DAO
魔法使い「……」
鷹「恩人の娘ですし――」
魔法使い(恩人?)
鷹「あ、あと鷲一族の最後の生き残りですから」
魔法使い「――それでも、ありがとうございます」ペコ
鷹「う…」
青年「いやー側近が慌ててるなんてめったに見られないから楽しいな」ニヤニヤ
魔法使い「…悪趣味」
青年「よく言われる」
295:
1:2012/07/12 17:51:21.78 ID:oTGGV0DAO
青年「さ、では行くか」
鷹「はっ」
魔法使い「……帰るのか」
青年「仕事もたまには見ないとな」
魔法使い「ふぅん」
青年「また会える日を願って」
魔法使い「もう会いたくないけどな、私は」
青年「ふん。そんなに期待するな」
魔法使い「どこをどう勘違いしたらそうなる」
青年「じゃあな、魔法使い」シュンッ
魔法使い「……」
魔法使い「……変な奴だな」
302:
1:2012/07/12 20:29:08.52 ID:oTGGV0DAO
――数十日後、城
王「あの勇敢なるものが亡くなったのには、心を痛めておる」
王「しかし、おまえたちも様々な混乱にあっただろう」
王「今は身体を休め、心を休め――そして仲間の冥福を祈ってくれ」
王「“勇者”の剣は――再び握れるものが出るまで眠らせておこう」
王「……ご苦労であった」
303:
1:2012/07/12 20:33:26.70 ID:oTGGV0DAO
――城の門前
剣士「さて、ここでお別れだな」
魔法使い「そうだな」
僧侶「…なんだか、寂しいですね…」
剣士「気が向いたら、僧侶のいる教会に寄るよ」
剣士「…勇者と盗賊の墓参りにもな」
魔法使い「私も」
僧侶「ありがとうございます。待っていますね」ニコリ
僧侶「でも剣士さん、そろそろお嫁さんを見つけなければいけませんよ?」
剣士「……………ハイ」
魔法使い(うわあ、今のはキツい)
304:
1:2012/07/12 20:35:12.96 ID:oTGGV0DAO
剣士「じゃあ、な。元気で」
魔法使い「そっちこそ」
僧侶「またお会いできますよね?」
剣士「もちろん!」ヒラヒラ
魔法使い「……」
僧侶「……」
魔法使い「僧侶は、こっちだよな?私もなんだ」
僧侶「そうなんですか?では、しばらくご一緒に」
305:
1:2012/07/12 20:38:52.17 ID:oTGGV0DAO
魔法使い「……」
魔法使い「なあ、僧侶」
僧侶「はい」
魔法使い「勇者は…魔物が嫌いだったじゃないか」
僧侶「そう、ですね」
魔法使い「そして混血も。いなくなればいいと、言った」
僧侶「ええ」
魔法使い「僧侶はどうなんだ?魔物を、混血を、憎むのか?」
僧侶「そうですね…。全ての生命は神様から与えられたものです」
僧侶「それをわたしたち教会の人間がどうして憎めましょう?」
僧侶「…だから最初はあまり魔王討伐に行きたくはなかったのですが」
魔法使い「そうなのか…」
306:
1:2012/07/12 20:42:45.72 ID:oTGGV0DAO
僧侶「あ、もう近くですね。わたしの住むところまで」
魔法使い「じゃあここらでさよならか」
僧侶「あの」
魔法使い「ん?」
僧侶「いつか――魔法使いさんのこと、聞かせてくれませんか?」
魔法使い「……」
僧侶「わたしと同じ秘密が、あるように思えて」
魔法使い「意外だな。僧侶にも秘密があるのか」
僧侶「はい。――どうか、まあ会えたとき、話し合いましょう」
魔法使い「…私のことが嫌いになるかもしれないぞ?」
僧侶「いいえ、嫌いになりません。わたしは魔法使いさんが酷いひとだとは思いませんから」
307:
1:2012/07/12 20:44:42.70 ID:oTGGV0DAO
魔法使い「……」
僧侶「どうか、あなたの旅に困難がありませんように…」
魔法使い「ありがとう。きみのこれからに、災難がないように」
僧侶「それでは」
魔法使い「ああ」
僧侶・魔法使い「また、次の時に」
308:
1:2012/07/12 20:50:01.02 ID:oTGGV0DAO
――国外れの家
魔法使い「……」キョロキョロ
魔法使い「……」
魔法使い「師匠?」
師匠「後ろだ」フーッ
魔法使い「…なぜあなたはいつもいつもそんなことを」ビク
師匠「話は聞いた」
魔法使い「早いですね」
師匠「もっと誉めて」
魔法使い「……。…情けないです。仲間ひとり救えなかった」
師匠「迷うな。今のお前は、迷うと飲み込まれかねん」
魔法使い「力に、ですか」
師匠「そうだ。…封印が解けとるな。暴走したか」
魔法使い「…はい」
309:
1:2012/07/12 20:53:54.34 ID:oTGGV0DAO
師匠「こんなところに引きこもっては駄目だな。旅に出ろ」
魔法使い「……」
師匠「力の使い方を学べ。そして――世界を見ろ」
魔法使い「世界を」
師匠「こちらのことは心配せずともよい」
魔法使い「また師匠が女をたらしこまないか不安なのですが」
師匠「……。え、えっと――ああ、両親の墓参りにも行ったほうがよいな」
魔法使い「……」
師匠「娘の姿を見たいだろうからな」
310:
1:2012/07/12 21:04:15.23 ID:oTGGV0DAO
魔法使い「これといって成長はしていませんけどね…」
師匠「両親を失ってから30年あまり――人間なら50歳は越えているはずなのに」
師匠「お前は未だに、若々しい少女のままだな」
魔法使い「元々かなり成長は遅いですが。父の血が影響しているのでしょう」
師匠「それか、あの暴走以来魔物寄りになっているかもしれんな」
魔法使い「……」
師匠「ともあれ、よく帰ってきた。おかえり」ポンポン
魔法使い「ただいま帰りました」
311:
1:2012/07/12 21:59:56.23 ID:oTGGV0DAO
師匠「まぁしばらくはゆっくりしていけ」
魔法使い「はい、師匠」
師匠「肉はあったかの…」ゴソゴソ
魔法使い「私が作りましょうか、ご飯」
師匠「いや、座っとれ。いいな?間違えて毒キノコ放り込むなよ?」
魔法使い「三回しか入れたことないじゃないですか、毒キノコは。誤って」
師匠「だからじゃ!」
312:
1:2012/07/12 22:06:13.27 ID:oTGGV0DAO
……
師匠「」ザクザク
魔法使い「…師匠」
師匠「なんだ?」
魔法使い「私が魔王を倒さず帰ってきて、残念ですか?」
師匠「いんや。倒したとしてもお前が死んでいたら、残念だったが」
魔法使い「…そうですか」
師匠「魔王にも昔、少しだけ関わりがあったから正直心苦しかった」
魔法使い「魔王と…?」
師匠「ちょっとだけな。もう引退したから会うこともあるまい」
魔法使い「あの。師匠は人間と魔物、どちらの味方なんですか?」
師匠「ふむ…難しいな」ジャー
師匠「そうさなぁ、わしは愛するものの味方でいるよ」
魔法使い「……槍でもふるかな」
師匠「ひどっ!!」
313:
1:2012/07/12 22:18:24.89 ID:oTGGV0DAO
――魔王城
サキュバス「どうも〜しばらくお出かけしてたサキュバスちゃんで〜す☆」
サキュバス「あれれっ?今日は少ないね〜?」
魔王「……」
ゴブリン「帰れ」
人魚「帰んなさい」バシャ
魔大臣「グッバイ」
側近「失せろ」
サキュバス「ああ〜ん、言葉攻めは苦手なのあたし〜」
側近「なんのようだ」
サキュバス「魔王さまが帰ってきたから〜、ちょっと見に来たの〜」
314:
1:2012/07/12 22:23:36.47 ID:oTGGV0DAO
人魚「」イライラ
ゴブリン「おい水かけるなやめろ」
サキュバス「なんか調子悪そうじゃ〜ん☆どしたの?」スリスリ
人魚「」バッシャンバッシャン
ゴブリン「うわああああ濡れたああああ」
魔大臣「書類があああああ」
魔王「…なにか最近、調子おかしくてな」
側近「?」
人魚「病気ですか?」
魔王「ふむ。病気かもしれない」
魔王「とある人物を思うと、少しばかり体温があがり心拍数が増えなにやらいてもたってもいられなくなるんだ」
人魚「……えっと」
ゴブリン「……その」
魔大臣「……むむ」
側近「……あー」
サキュバス「ええ…病ね。かなり重症な」
全員「」コクコク
315:
1:2012/07/12 22:44:44.84 ID:oTGGV0DAO
人魚「こほん…それで、会議の内容ですけど」
人魚「南の海で人間によるあたしたち“人魚”の乱獲が酷いようです」
ゴブリン「“人魚”たちをどうしているとかは?」
人魚「さあ…でも、なにかされてはいるかもしれないわ」
魔大臣「これは少々痛い目をみせないといけないか」
ゴブリン「兵を攻めこませるか?」
人魚「防護力の強い“人魚”を乱獲よ?――普通の人間じゃないわ」
魔大臣「ゴーレムはだめか…トロールは強いが遅いしな」
ゴブリン「あと、まずは何が起きてるか調べないといけないな…」
316:
1:2012/07/12 22:51:28.74 ID:oTGGV0DAO
魔王「……おれがまた出かけたら怒るか?」
人魚「いえ?時折帰って来てくだされば」
魔王「じゃあ、そこに行ってくる。側近」
側近「はっ。――え?」
魔王「どんなやつがおれの国の民を捕まえて遊んでいるのか見てみたくてな」ツカツカ
魔大臣「そんな、魔王さま直々に」
魔王「手間が省けるだろ。用意してくる」ガチャ
全員「……」
サキュバス「もしかしてさ〜…誰かに会いたいのかな?」
ゴブリン「…多分」
人魚「きぃっ!誰よ!」
魔大臣「でも最近生き生きとしてるからいいんじゃないか…?」
側近「どうだろうな…」
317:
1:2012/07/12 22:56:27.32 ID:oTGGV0DAO
・
・
・
・
・
318:
1:2012/07/12 23:01:25.82 ID:oTGGV0DAO
??「“魔王”が倒されたらどうしようかとヒヤヒヤしていたが――よもや仲間割れとはな」
??「丁度いい。これでまた一歩、計画が前進する」
??「“勇者”の剣が手に入った」
??「魔力を増強させる薬は完成した」
??「そしてこの私の人を操る魔法――」
??「……あの混血がそばにいると色々厄介だが…対策をまた考えるか」
??「ふふ、まだだ。まだ計画は途中だ」
??「しかしなんだろう?この身体の震えは!ああ、楽しみすぎる!」
319:
1:2012/07/12 23:05:26.46 ID:oTGGV0DAO
??「さあおいで、可愛い可愛い完成品――」
コツリ コツリ
僧侶「」ペコ
??「普通の少女が薬を飲み、魔法を使えるようになる」
??「新しい時代が来る!そして私はその先頭に立つのだ!」
??「これから忙しくなるぞ――手伝ってくれ、僧侶」
僧侶「はい」
僧侶「分かりました――大臣さん」
320:
1:2012/07/12 23:06:08.22 ID:oTGGV0DAO
魔王「俺と手を組め」魔法使い「断る」
――了