Part8
236:
1:2012/07/06 22:17:05.97 ID:WRAvYm2AO
魔法使い(…仲間を傷つけていいものか?)
魔法使い(仲間を殺した男とはいえ、私がこの男を傷つける理由に――)
戦士「はぁっ!」ドガ
魔法使い「ぐぅっ」ズサァ
戦士「いってぇな…よくもやってくれたな」ヒュンヒュン
魔法使い(ちっ…少し、迷った)
戦士「これがなければ魔法使いクンはただの人間だぁな?」バキッ
魔法使い「あ、杖」
戦士「……なんだよ商売道具折られたのにその反応。使えなくなったんだぞ?」
魔法使い「…まあ、そうだな」
237:
1:2012/07/06 22:24:52.27 ID:WRAvYm2AO
戦士「余裕そうだな」ザクッ
魔法使い「ガッ……!?」
戦士「ほらほらどうした?まだ刺されただけじゃねえか」グサ
魔法使い(駄目だ…駄目なんだよ)
魔法使い(私がこれから先人間として生きるためには、使っちゃだめなんだ)
戦士「ん?なんだこれ…サラシ?」
魔法使い「あ…」
戦士「…お前、まさか、女だったのか?」
魔法使い「……」
戦士「なるほどな…同室に頑なだったのも男装がバレるからか」
魔法使い「……」
238:
1:2012/07/06 22:32:39.80 ID:WRAvYm2AO
戦士「まさか本当にいるとは思わなかったが」
戦士「勇者に同行してなにをするつもりだったんだよ?――“魔女”」
魔法使い「……」
戦士「さっきの威勢のよさはどうした?」
魔法使い(出血多量で死にそうなだけだよ)
戦士「そうか…全部“魔女”のせいにすれば事は済むのかな」
戦士「そんなら、証拠の首を貰うぜ。混血児」グッ
魔法使い「!」
魔法使い(私――死ぬ――殺される――殺される?)ドクンッ
魔法使い(な、力の、制御が、できない)
魔法使い(…――満月が近い?――強い力に共鳴?――魔王?――)
239:
1:2012/07/06 22:43:01.25 ID:WRAvYm2AO
戦士「?なんだよ、静かになって…」
魔法使い「う」
魔法使い「ぅぅぅぅあああああああああ!!」バサァッ
青年「おいおいおい。ちょっと離れていたらずいぶんと進展してるじゃねーか」
青年「仲間外れはよくないぜ。元から仲間じゃないけど」
鷹「……」
青年「側近、見とけよ。お前ら一族の苦しみの種は除かれたぜ」
鷹「そのようですね」
青年「さて、どうする?助けにいくか?」
鷹「…しばらく様子見で」
青年「ふん。そうしよう」
245:
1:2012/07/07 23:02:52.34 ID:MSdw/i1AO
―――
――
―
ぼたぼたと戦士に斬られ刺された箇所から血が溢れ出てくる。
だが、魔法使いは傷口に片手を添えるだけですぐさま止血には動かない。
魔法使いにとって、それを気にかけている場合ではないのだ。
魔法使い「いたい……」
刺されたときだって痛かったが、この背を焼くような痛みはもっと酷かった。
それは瞬間的なものではあったが、まだつづいているようにすら思えた。
彼女はよろりと立ち上がる。
戦士「つ、翼が……」
戦士の言う通り、魔法使いの背中から一対の大きな翼が生えていた。
246:
1:2012/07/07 23:13:10.35 ID:MSdw/i1AO
翼といえども幼児が思い描く、天使の背についているような白い翼ではない。
濃い茶色をした、シャープな形をした翼。
先端は他より長い羽により切れ込みがあるように見える。
戦士「な、なんだよ…どうなってんだよ…」
魔法使い「私も、聞きたい、ぐらいだ」
息も絶え絶えにあげる。容姿にもいくらか変化があった。
きついつり目となり、白眼の部分がうっすらと黄色に染まっている。
手首や足首、首もとには白い羽が薄く生えている。
247:
1:2012/07/07 23:20:34.87 ID:MSdw/i1AO
魔法使い「怖いよ…この姿になったら、私は……」
戦士「ち、近寄るな化物…」
ふらふらと助けを求めるように魔法使いは戦士のほうに歩いていく。
彼女の変化に腰が抜けた彼は、座ったままなんとか後退を試みた。
魔法使い「また…人を攻撃してしまうんだ…それが、怖いんだよ」
戦士「…くっそぉ!」
気力を振り絞り立ち上がった戦士は、力加減を忘れて思いっきり魔法使いの顔を殴った。
いや、殴ろうとした。
魔法使いが、あっさりと片手で受け止めた。
戦士「え、え、ええ…?」
魔法使い「化物になってしまったんだ…私は」
248:
1:2012/07/07 23:31:34.70 ID:MSdw/i1AO
戦士「筋力まで増加するのか…!」
魔法使い「違う。魔法を使っただけだ」
その回答に戦士が目を見開く。
戦士「嘘だ…だってお前、杖がないと魔法が…」
魔法使い「私は“魔法使い”じゃないんだよ。杖がなくても、使える」
魔法使い「戦士が言った通り――私は混血児、だ」
近くにあった木に拳を叩きつける。
一瞬木の幹に魔法陣が浮かんだ後、大きな音を立ててへし折れた。
魔法使い「どっかいってくれ。私たちの前から、消えてくれ」
戦士が後退りしたが、すぐに木にぶつかって止まった。
249:
1:2012/07/07 23:40:59.66 ID:MSdw/i1AO
戦士「う、うわ、わぁ……!」
喘ぎながら、戦士は目の前の少女から目が話せなかった。
魔法使い「じゃないと、私は思わず殺してしまう」
魔法使い「戦士は許されないことをしたし、許す、つもりはないけど――でも、仲間だったから」
ガタガタと震える男のすぐ前で立ち止まった。
いつの間にか魔法使いの血は止まっていた。
魔法使い「だめだな、この姿になると―――」
戦士の頭のすぐ上の木に手を当てた。
それだけで、さっきとおなじように木が倒れる。
魔法使い「―――人間が、殺したくなる、よ」
戦士「………ひぃぃ!!」
悲鳴をひとつのこすと、股間から生暖かい液体を漏らし戦士は気絶した。
253:
1:2012/07/08 23:15:27.21 ID:7VH3SxLAO
魔法使い「……」
倒れた戦士をしばらく無表情で見つめる。
脇腹に意識を向け、傷の程度を確認した。
血は止まっているとはいえ、重症。
内臓も傷ついただろうし、もしかしたら致命傷かもしれない。
医学にはあまり明るくないので推測するしかなかったが。
魔法使い「…本当に僧侶の治癒魔法を真似できたらなぁ…」
小さく呟いた時。
気が緩んでしまった時。
興奮状態がおさまり、受けた傷の痛みが強くなってきた、その時。
最悪のタイミングで、黒い影が襲いかかってきた。
254:
1:2012/07/08 23:25:55.79 ID:7VH3SxLAO
魔物A「ウガアァァァァ!!」
魔法使い「!?…こんな時に!」
空を切るように手を振る。
宙に魔法陣が現れ、それと同時に魔物が横に切れた。
ぶしゃっと血が飛び散る。
それで終わりではなかった。
後ろから二匹目の魔物が飛び出てくる。
魔法使い「……っ!」
痛みと疲労により足が縺れ、尻餅をついた。
猪のような形をしたそれは、魔法使いに一直線に突進してくる。
頭が真っ白になり、身体が動かない。
魔法使い(ここで――終わりか?)
突然目の前が暗くなった。
255:
1:2012/07/08 23:32:52.79 ID:7VH3SxLAO
魔法使い「…?」
痛みは襲ってこない。
撥ね飛ばされた気もしない。
目はしっかりと開いているはずなのだが。
まるで何かが覆い被さっているような。
それは羽毛、のようだった。
魔法使い「あなた、は…」
見上げると、見慣れない誰かがいた。
人間の形をして、それでいて鳥の形をしているもの。
聞いたことがある。
いや、知っている。
鳥人族。
側近「――同類が危機ならば、助けなければならないからな」
最近聞いたことのある声で、彼は言った。
256:
1:2012/07/08 23:40:59.44 ID:7VH3SxLAO
わずかに考えて、それがあの鷹だということに気づいた。
魔法使い「でも、私は――」
側近「混血だな。人間と魔物の」
魔法使い「半端者を――あなたは、今、守っているんですよ」
混血は異種間で産まれた汚れた存在だ。
人間にも魔物にも、忌まわしい存在として嫌われ、最悪殺される。
この状況は、どう考えても魔物から自分を守っている。
なぜなのか。
側近「駄目か」
魔法使い「そういう、わけじゃないです、が…私みたいな存在は、迫害されてて…」
257:
1:2012/07/08 23:53:02.82 ID:7VH3SxLAO
側近「誰もみていない」
魔法使い「…魔王は?」
側近「そちらで馬鹿どもを粛正している」
魔法使い「……」
そっと地面に寝かせられ、魔法使いには空しか見えなくなった。
不完全な丸い月。
魔法使い(満月に魔力は強まるんだったか)
なら、何故自分は今日いきなり魔力が強くなったのか。
いくつもの満月を越えたが、こんなことは前に一度きりだけだ。
痛みが強くなり、目がまわる。
視界に、角の生えた美しい男が入り込む。
魔王「よう、一日ぶり」
258:
1:2012/07/08 23:58:49.44 ID:7VH3SxLAO
魔法使い「…大変な時にいないな、あなたは」
魔王「タイミング悪いよな。仕事を片付けててな」
魔法使い「私が、混血だと気づいていたか?」
魔王「ふん、最初から薄々な。杖から魔力は感じられなかったから怪しんではいた」
魔法使い「…そうだったな」
魔王「で、普通は魔力を持ち得ない女だった。側近の話と統合すると、なんかの魔物と人間の愛の結晶だなと」
魔法使い「そうか…それで、魔王。私はどうなる?」
金色の目がきょとんとした。
魔王「どうなるとは?」
259:
1:2012/07/09 00:07:47.77 ID:Ovhua68AO
魔法使い「魔物と人間が、結ばれることは、禁忌だ。その子供も、然り」
痛みに顔を歪ませながら続ける。
魔法使い「王にとって、私の存在は――許せるのか?」
魔王「ふむ。なら言わせてもらおう」
魔王は手の甲を自らの爪で傷つけ、垂れてきた血を魔法使いの傷に注ぐ。
急速に傷が癒えていく。
魔王「歯向かう奴には容赦はしないし、助けを乞うものには手をさしのべる」
魔王「その逆もあるし、例外もある。気分にもよるし、厳格に行うときもある」
魔王「つまり、おれがルールだ」
魔法使い「……流石、魔王だな」
そして魔法使いの意識は途切れた。
260:
1:2012/07/09 00:12:15.47 ID:Ovhua68AO
魔王「…なるほど。そういうのを忌む奴もいたな」
側近「はい。そこの連中もそうでしょう」
翼で倒された魔物達を指す。
側近「一昨日あたりの生き残りですかね」
魔王「何故ここまではるばるときたのか不思議だな」
側近「そこの放出されるわずかな魔力を辿って来たのでしょう」
側近「混血の内臓は強い魔力を与えてくれるとも言いますし」
魔王「ほう。まだおれへ対抗する気だったか」
側近「…一時は大量生産や乱獲もあったそうですよ。美容にいいとか、なんとか」
261:
1:2012/07/09 00:19:54.95 ID:Ovhua68AO
魔王「ふん、くだらん。実際に効果は?」
側近「あるかどうかも不明です」
側近「それでも今だに裏取引をされているともっぱらの噂ですね」
魔王「なら、こいつはよほど運がいいやつなんだろうな」
側近「でしょうね。かなり恵まれているほうでしょう」
魔王「はん――とりあえず誰かに見つかる前に人間の姿にしといてやらないとな」
ごそごそやりはじめた魔王に側近が後ろから疑問を投げ掛ける。
側近「あの、魔王さま――その小娘のこと、気に入ったのですか?」
262:
1:2012/07/09 00:25:01.56 ID:Ovhua68AO
魔王「さぁな。――なんだろうな、放っておけないというのか」
側近「……」
魔王「この娘はなかなか面白いことをするから目が離せないというのか」
側近「……」
魔王「そっちの男に丁度刺されているところを見たとき、どうしてか不快だったが――」
側近「……」
魔王「おそらく気に入ったのだろうな。面白いから」
側近「……そうですか」
色々考えたあと、そうだこの人恋愛経験皆無なんだ、と側近はようやく気がついた。
273:
1:2012/07/10 23:39:11.64 ID:Pz9IWdPAO
側近「しかし」
魔王「ん?」
側近「今日は満月ではありません。ならなぜ、小娘の魔力があそこまで暴発したのか…」
力の扱いになれていないものが力を暴走させることは珍しくない。
魔法使いの場合、出来るだけ魔力を抑えていたから尚更だ。
魔王「…完全な魔物じゃないって意味なんじゃないか?」
魔王「新月でも三日月でも満月でもない、半端な月」
魔王「混血を表す――最高の皮肉だとおれは思っていたがな」
側近「……そうですね」
魔王「ま、そんな話は後だ。こいつらをどうするかが問題なわけだが」
274:
1:2012/07/10 23:48:59.27 ID:Pz9IWdPAO
側近「このまま放置してもよろしいのでは?小娘もいずれ目覚めるでしょう」
魔王「だとすると、そっちの戦士とやらが先に起きる可能性があるぞ」
魔王「今度こそ殺されかねん」
側近「なら殺してしまえばいいではないですか」
魔王「…同類傷つけた相手にはとことん厳しいよな、お前ら一族」
側近「どこも同じだと思いますが」
魔王「そんなもんか。――手っ取り早いのが誰かをここに連れてくることだが」
側近「事件のせいで外を歩く人間はほとんどいないでしょうね」
魔王「それなんだよな」
275:
1:2012/07/11 00:00:42.39 ID:OBtHn8iAO
側近「困りました」
魔王「困ったな」
側近「やっぱりそこの男を」
魔王「そうなると魔法使いに容疑がかかりそうだけどな」
側近「ううむ…。下手なことして小娘に恨みを買われるのも厄介ですね」
魔王「困ったな」
側近「困りましたね」
オーイ
魔王「おや。どうやら、ここで悩んでいた甲斐はあったみたいだな」
側近「あれは?」
魔王「憲兵隊みたいだな。ふん、ようやくご到着か」
側近「めんどくさくなる前に、退散しますか」
魔王「そうだな。行くぞ」シュンッ
278:
1:2012/07/11 22:58:21.84 ID:OBtHn8iAO
―――
――
―
魔法使い「……っ!!」ガバ
僧侶「きゃっ」
魔法使い「ゆ、夢か……」
僧侶「夢、ですか?」
魔法使い「ああ…勇者と盗賊が死んで、戦士が犯人で、僧侶の腕が大変なことになった夢を…」
僧侶「あの、それ…現実です」
魔法使い「……」
僧侶「現実です」
魔法使い「……現実か」
僧侶「残念ながら…」
279:
1:2012/07/11 23:04:42.78 ID:OBtHn8iAO
魔法使い「そうだ僧侶、腕は!腕はどうなったんだ!?」
僧侶「あぁ…この通り、欠けてしまいました」
魔法使い「そんな」
僧侶「離れたものは流石に、生やしようがありません…」
僧侶「でも、今までどおり治癒魔法は使えますよ。…あと、利き手じゃなくて、良かったです」
魔法使い「そういう問題じゃない!…私がもっと早く行けば…」
僧侶「やめて下さい。魔法使いさんが、取り乱してまでわたしを探したと聞いています」
僧侶「――わたしは、それで十分なんです。それにこうやって生きているんですから、ね」
魔法使い「……」
280:
1:2012/07/11 23:10:42.45 ID:OBtHn8iAO
僧侶「魔法使いさんこそ大丈夫なのですか?丸三日は眠っていましたよ」
魔法使い「え」
僧侶「怪我はないとはいえ、おびただしい血が魔法使いさんのローブや周りの地面を濡らしていたみたいです」
魔法使い「……」
僧侶「私が見た限り、うっすらと傷が塞がった後がありましたが…」
僧侶「誰かに治療をしてもらったのですか?お礼を言いにいかないと…」
魔法使い「……。さあ、どうだろう。記憶がなくて」
僧侶「記憶喪失ですか!?」ガタ
魔法使い「剣士と離れたあたりから全くな…」
魔法使い(言えないことが多すぎる)
281:
1:2012/07/11 23:16:35.47 ID:OBtHn8iAO
魔法使い「僧侶こそ、出血が酷かったんじゃ?」
僧侶「剣士さんがお医者さんに連れていってくれて、輸血をしてもらいましたので」
僧侶「かろうじてあった意識の中、止血をしていたのが良かったみたいです」
魔法使い「なるほどな…」
魔法使い「……」
魔法使い「あれ?私、裸……?」
僧侶「あ、すみません!背中の…魔法陣には触りませんでしたから」
僧侶「確かあれに触れると魔法を全て使えなくなるって聞きましたので…」
魔法使い(ごめんそれ大嘘)
魔法使い「ん?」ペタペタ
僧侶「どうしました?」
魔法使い(身体が男になっている…)