Part5
136:
1:2012/06/30 22:40:19.21 ID:t5yYcacAO
――魔法使いの宿部屋
「……さん…」
魔法使い「ん……」
僧侶「魔法使いさんっ!」
魔法使い「ッ!?」ハッ
僧侶「良かった…大丈夫ですか?」
魔法使い「あ、え、僧侶?」
僧侶「はい、僧侶ですが」
魔法使い「何で私の部屋に?」
僧侶「お手洗いに行こうとしたら魔法使いさんの部屋から唸り声が聞こえて…」
僧侶「それに、鍵がついていなかったのでつい……すみません」
魔法使い「謝ることはない。少し無防備だったな」
137:
1:2012/06/30 22:43:59.01 ID:t5yYcacAO
僧侶「そうですよ、自分のことも考えて下さい」プクッ
魔法使い「悪い。――それより、気分はどうだ?」
僧侶「…少しだけ落ち着きました。ごめんなさい、昨日は色々と」
魔法使い「困ったときはお互いさま、だろ?構わないさ」
僧侶「魔法使いさんは、優しいですね」
魔法使い「そんなことはないさ。放っておけないだけだ」
僧侶「それを優しいというんですよ」クス
138:
1:2012/06/30 22:47:38.80 ID:t5yYcacAO
魔法使い「そう言えば、今の時刻は?」
僧侶「五時前です。まだ朝は来ませんね」
魔法使い「そうか。じゃあ二度寝でも洒落込むかな」
僧侶「あ、あの」
魔法使い「ん?」
僧侶「さっき、悪い夢…みていたんですよね?」
魔法使い「……ああ」
僧侶「じゃあ、わたしが側についていてあげます。悪い夢を見ないように」
魔法使い「……んん?」
僧侶「い、いわゆる添い寝です」
魔法使い「…神は許してくれるのか?」
僧侶「さすがにそれぐらいは許して下さるでしょう…多分」
141:
1:2012/07/01 16:49:24.89 ID:t7AGZr+qAO
僧侶「」モゾモゾ
魔法使い(これ逆に寝れないぞ)
僧侶「あ、そうだ。手首……」
魔法使い「手首?……ああ、切ったところか」スッ
僧侶「あれ?治りかけていますね」
魔法使い「……。ちょっと僧侶の治癒魔法を真似してみたんだ」
僧侶「わあ、すごいですね」
魔法使い「いやいや。魔法は複雑だし、治りきらないし、僧侶は凄いと思ったよ」
僧侶「そ、そんなことないです。じゃあ最後まで治しますね」パァァ…
魔法使い「ありがとう」
142:
1:2012/07/01 16:55:29.23 ID:t7AGZr+qAO
僧侶「…なんだか、懐かしい感じがします」
魔法使い「そうなのか?」
僧侶「わたしは孤児だったから、教会で育てられたんです」
魔法使い「……」
僧侶「あ、他の同じ境遇の子と仲が良かったからあまり寂しくはなかったですよ?」
魔法使い「…へぇ」
僧侶「でもやっぱり、寂しくなるときはあって…」
僧侶「そういう時は年上のお姉さんの布団に侵入して寝てたんです」
魔法使い「何か言われなかったのか?」
僧侶「うーん…ちょっと迷惑そうでしたけど、何も」
143:
1:2012/07/01 17:04:16.70 ID:t7AGZr+qAO
僧侶「そのお姉さんは戦争が始まる前にどこかに行ってしまいました」
僧侶「今はもう二十歳を越えているでしょうね。子供、いるのかなぁ」
魔法使い「どうだろうなぁ」
僧侶「…なんかすみません、こんな話をして」
魔法使い「いいよ。誰にだってそういう気分になることがある」
僧侶「そうですね」
僧侶「…魔法使いさんはすごく強いですけど、いつぐらいから魔法の修行を?」
魔法使い「うーん…10歳ぐらいからかな」
僧侶「ええ!?じゃあまだ修行初めて10年もたってないんですか?」
魔法使い「んー……うん。師匠は厳しかったから上達せざるを得なかった」
144:
1:2012/07/01 17:15:58.64 ID:t7AGZr+qAO
僧侶「天才なんですね…」
魔法使い「師匠いわく素質というか力『だけ』はあったから」
僧侶「師匠はどんな人だったんですか?」
魔法使い「いやぁ厳しかった厳しかった。何度か殺されかけた」
僧侶「あはは」
魔法使い「でも色々お世話にはなったよ」
『それで終わりか?まだいけるだろう』
『お前どうやったらスープを毒物に変えられるのだ!?』
魔法使い「……」
『――お前の生き方だからな。反対はできんよ』
『行ってこい』
魔法使い「…きっとあれが師匠なりの優しさだったんだな」
魔法使い「僧侶?」
僧侶「……」スー
魔法使い「…寝たのか」
145:
1:2012/07/01 19:00:17.74 ID:t7AGZr+qAO
僧侶「……」スースー
魔法使い「むぅ」
青年「どうした」
魔法使い「何故彼女にはあって私にはないのだろうと熟考していた」
青年「考えようがないものはない。諦めろ」
魔法使い「……」
青年「……」
僧侶「……」スースー
魔法使い「お前、いつからそこに」
青年「今だ」
魔法使い「常識的に考えろ。寝ている人間の部屋に忍び込むな」
青年「なにを今更。それにその常識は人間の常識だろう?」
魔法使い「ああ…そっち魔物だもんな」
青年「しっかりしてくれ。だてに胸ではなく頭脳に栄養を回したわけではあるまいに」
魔法使い「殴られたいか」
146:
1:2012/07/01 19:06:27.50 ID:t7AGZr+qAO
青年「しかし驚いた。一切性別がバレる様子がないとは」
魔法使い「…サラシできつく巻いてるからな」
魔法使い「下半身はともかく、少し触られたぐらいではバレない」
青年「よかったじゃないか、元から小さくて」
魔法使い「黙れ。何事も控え目が一番いいんだ」
青年「必死だな」
魔法使い「…で?朝っぱらから何のようだ」
青年「なぁに。微妙に魔力を放出しているから見に来ただけだ」
魔法使い「…そうか?魔力を抑える魔法が弱まっていたか」
青年「むしろ逆だ。魔力が強くなっている」
147:
1:2012/07/01 19:10:44.43 ID:t7AGZr+qAO
魔法使い「強くなっている?」
青年「気づかないのか。まぁ、満月が近いしな」
魔法使い「?」
青年「満月の夜は魔力が少しばかし増えると言われている。それのせいかもな」
魔法使い「…初めて聞いたが。魔物限定じゃないか、それ」
青年「分からん。人間も同じようなものだと思っていたが」
魔法使い「ふぅん……なるほどな」
魔法使い(満月の日に魔王襲ってたらヤバかったな)
青年「そんなとこだ。そっちの少女が目覚めて騒がれてもこまるし、おれは戻る」
魔法使い「そうしろ」
青年「ふん、冷たいな」ヒュンッ
148:
1:2012/07/01 19:16:59.69 ID:t7AGZr+qAO
魔法使い「まったく……」
僧侶「……」スースー
魔法使い(…僧侶も実は寝れなかったんじゃないのか?)
魔法使い(怖いよな、犯人が側にいるかもしれないんだから)
魔法使い「……」ギュッ
魔法使い「温かいな、相変わらず」
149:
1:2012/07/01 19:30:34.42 ID:t7AGZr+qAO
――魔王城
人魚「上流から水が汚れていると意見が」パチャパチャ
ゴブリン「ええい跳ねるな跳ねるな。濡れる」
トロール「上流といったら巨人かもナ。ちょっと聞いてみル」
魔大臣「ふぁ…もう朝だ」
ミノタウロス「続きの会議は夜から――」
青年「ご苦労だな」シュンッ
人魚「え?あ、……魔王さま!!」バシャッ
ゴブリン「ギャーー!!」グッショリ
トロール「魔王さま、人間のお姿ですカ」
魔王「ああ忘れていた。これでいいか」
魔大臣「丁度良い時に。人間の街で一部の魔物が暴れていると――」
魔物「それさっき殲滅してきた」
魔大臣「わぁお」
人魚「すごい……」パチャパチャ
150:
1:2012/07/01 19:37:51.52 ID:t7AGZr+qAO
ゴブリン「わざわざ報告にこられたんですか?お疲れさまっす」
魔王「ついでに会議の様子もな」
魔王「おれがいなくとも回るとは思うが、ずっと放置というのもあれだし」
人魚「いいえ!魔王さまがいない会議なんてただのむさい集まりですわ!」バシャン
ゴブリン「おい」
魔大臣「即位してからずっと根詰めて働いてきたのですから、たまには休みませんと」
トロール「でモ、たまに帰ってきてくれないと困ル」
魔大臣「そういえば、側近は?」
側近「呼んだか」バサッ
魔大臣「おおう、いたいた。魔王さまの側にいるのならいいや」
魔王「おれの一人歩きはそんなに不安か」
153:
1:2012/07/01 20:25:09.21 ID:t7AGZr+qAO
ミノタウロス「遊びに慣れてない人がいきなり遊びに行くなんてそりゃ心配にもなりますって」
トロール「遊びすぎも毒ですガ、仕事だけというのも毒ですネ」
魔王「前代魔王は仕事ほったらかして遊び呆けていたな、そういえば……」
人魚「おかげで魔王さまは幼いうちから代理をされてましたね…」ポロポロ
ミノタウロス「涙――というか、真珠出てる真珠」
ゴブリン「怒り狂った人魚が前代魔王に破滅の唄を歌って三階の廊下が壊れたのはいい思い出だな」
ミノタウロス「すごかったな。それを退けた前代魔王さまもすごかったが」
ゴブリン「あれは後片付け大変だったな……」
トロール「うン」
154:
1:2012/07/01 20:29:25.09 ID:t7AGZr+qAO
人魚「だからしばらくは魔王さま、羽を伸ばしていいんですよ?」ポロポロ
ゴブリン「それ以上泣くな、また床が真珠だらけになる」
トロール「踏んだ瞬間滑って転ぶよネ」
ゴブリン「そうだ。最近勇者の気配を察知したのですが、突然消え失せまして」
ゴブリン「何かご存知ですか?」
魔大臣「まだ言ってなかったか。それは――」
魔王「勇者は死んだ」
人魚「え?」
トロール「なゼ?」
魔王「どうやら人間にやられたらしくな。今犯人を探している途中だ」
155:
1:2012/07/01 20:33:53.50 ID:t7AGZr+qAO
ミノタウロス「ん?魔王さま、勇者パーティーの付近にいるんですか?」
人魚「まあ」
魔王「そうだ。あれじゃおれの討伐には来れないな」
魔大臣「ふむ…人間に、ですか……」
トロール「人間、領地ぐらいで殺しあいするもんナ」
ゴブリン「広い土地を持て余してるくせにさらに広い土地を狙うんだもんな」
魔王「そのぐらいだ。何かあったら呼べ」
魔大臣・人魚・トロール・ゴブリン・ミノタウロス「畏まりました」
156:
1:2012/07/01 21:19:05.12 ID:t7AGZr+qAO
シュンッ
人魚「あう…行っちゃった…」
トロール「残念だったナ」
ゴブリン「魔王さまに惚れてるんだっけ?」
ミノタウロス「まずケバい化粧除かないと振り向いてくれないな」ニヤニヤ
人魚「なんですって!」
側近「……」
ミノタウロス「うお!?」
ゴブリン「あれ?魔王さまと転移したんじゃ」
側近「お前たちと話したいことがあったからな……先にいってもらった」
トロール「なんダ?」
157:
1:2012/07/01 21:27:26.55 ID:t7AGZr+qAO
側近「人間でも、魔物と同じように魔法を使うものがいるじゃないか」
ゴブリン「いわゆる“魔法使い”だな」
人魚「うんうん、それで?」
側近「なにか、“魔法使い”に制限かけられていたりするのか?」
ミノタウロス「制限?」
側近「なんでもいい。心当たりがあれば教えてくれ」
トロール「うーン?」
人魚「あ、そういや昔聞いたことあるわよ」
ミノタウロス「おお」
人魚「おばあちゃんが教えてくれたの」
側近「彼女は素晴らしい歌声だったな」
人魚「うん、あたしたちの誇り」
158:
1:2012/07/01 21:32:49.53 ID:t7AGZr+qAO
人魚「“魔法使い”はねー、男しかなれないんだってさ」
ゴブリン「どういうことだ?それは」
人魚「魔法を使える素質が絶対的に男しか持てないっていうやつみたい」
ミノタウロス「あるんだな、そういうの」
側近「……女は?」
人魚「ほぼいない。いたとしても“魔女”として燃やされるだとか」
トロール「それはまタ、なんでなんだろウ」
人魚「“魔女”は異質、というか歓迎されてないようね」
人魚「なんというか…あちらからすると汚い血が流れてるから、らしいよ?」
側近「それって」
人魚「うん、つまり――――」
159:
1:2012/07/01 21:52:45.43 ID:t7AGZr+qAO
――宿
魔法使い「魔物がぜんぶ倒されていた?」
剣士「そうだ。朝から生々しくて悪いが」
剣士「隣の隣の街で魔物の襲撃があったようなんだ。今朝、そいつらが倒されていた」
魔法使い「……」
剣士「これと勇者と盗賊の件は別物かはまだ不明だ」
魔法使い「別物っぽいがなぁ」
剣士「あ。もしかしたら、街を襲う前に勇者を襲ったとか」
魔法使い「ではなぜ盗賊も死んだ?」
剣士「ぐぬぬ……」
魔法使い「ペンダントや所持品が消えた理由も分からないぞ」
剣士「ぐぬぬぬ……」
160:
1:2012/07/01 21:59:57.33 ID:t7AGZr+qAO
剣士「だぁ!どうすればいいんだ!」
魔法使い「落ち着け」
剣士「むーむむ…勇者に恨みをもっていた魔物か人物…だめだ、盗賊とペンダント…」
魔法使い「魔物からは離れないんだな」
剣士「当たり前だろ?傷は剣によるものだったが、もしかしたら人間のフリして使ったかもしれないし」
魔法使い「剣ね…そういえば市場で中古の剣を売っていたな」
剣士「盗んだものかもしれんが…今日行って聞いてみるか」
魔法使い「ああ」
僧侶「おはようございます」
剣士「おはよう。珍しく遅いな」
僧侶「えへへ…寝すぎました」
161:
1:2012/07/01 22:21:49.02 ID:t7AGZr+qAO
魔法使い「戦士、遅いな」
剣士「いつものことだろ」
僧侶「呼んできますね」トントントン
剣士「……戦士も戦士で辛いだろうな」
魔法使い「勇者のことでか」
剣士「そうだ。二人とも夜遅くまで飲んでいた仲だし」
魔法使い「そうだったな」
剣士「ああでも…複雑でもあっただろうな。戦士、姫様が好きだったから」
魔法使い「そうなのか?」
剣士「一目惚れだと。どうしたって結婚出来ない相手に恋は辛いよな」ハァ
魔法使い「剣士…もしかして、僧侶が」
剣士「な、なんでそこに行き着く!?アホか!」
魔法使い(図星か)
162:
1:2012/07/01 22:26:50.16 ID:t7AGZr+qAO
トントントン
戦士「おふぁよう」
魔法使い「はいおはよう」
僧侶「朝ごはん頼んできますね」パタパタ
剣士「どうした?夜遅くまで起きていたか?」
戦士「落ち着かなくてな」
剣士「無神経なお前がか?」
戦士「うるせー」
戦士「それで?今日はどうするつもりなんだ」
魔法使い「私はまず第一発見者のところに行きたい」
剣士「そのあと、最近剣を買った人物がいないか聞きにいく」
戦士「そりゃまた、なんでだ?」
剣士「剣の使い方が力任せで未熟だったんだ」
魔法使い「だから、普段は剣を専門にしないやつだと思ってな」
戦士「ほお…昨日勇者たちの身体をみたんだったな」