Part31
188:
1:2012/09/07 22:23:03.56 ID:t4MUEh0AO
魔法使い「魔法…使えたんだ」
蝙蝠「イッタジャナイ!ボク、ツヨインダヨ!」
魔法使い「うん、強いよ」
魔王がずるずると魔法使いに手を伸ばす。
魔王「悪いな…おれの血をお前にやれればいいんだが、動けなくて」
魔法使い「いいよ。私だけ治っても、さ」
魔法使いからも手を伸ばし、それから固く繋いだ。
蝙蝠「ズットイッショダネ!」
魔王「ああ」
魔法使い「うん」
そして、瓦礫に沈んだ。
189:
1:2012/09/07 22:29:58.91 ID:t4MUEh0AO
――城門
僧侶「あ…処刑場が…」
剣士「崩れていく…」
僧侶「あ!魔法使いさんは!?」
側近「……」
魔大臣「転移、してこないな……」
側近「…そうだな」
ゴブリン「嘘だろ…」
国王「……奇跡が起こると思ったが、のう」
マスター「…どうしました?」
国王「奇跡が起きて…あの子らが『勇者』と認められるかと思ったが」
国王「無事にあそこから帰ることができると思ったが…」
側近「勝手に魔王さまを殺すな。それに――」
側近「『勇者の剣』が使えないのは、あの人たちらしいじゃないか」
190:
1:2012/09/07 22:32:21.24 ID:t4MUEh0AO
――どこかの宿場街
女将「……ん?」パチ
女将「嫌だね…こんな時間に起きちゃうなんて」ゴシゴシ
女将「……」
スタスタ ガラッ
女将「城でなにかあったのかな……?」
191:
1:2012/09/07 22:35:24.62 ID:t4MUEh0AO
――どこかの街
少女「おかーさん…」
少女母「あら…どうしたの?」
少女「怖い夢、みたの」
少女母「どんな?ほら、こっちにおいで」
少女「あたしを助けてくれた天使さんがね…地面に飲み込まれちゃうの」
少女母「まあ…」
少女「天使さん、大丈夫かなぁ」
少女母「大丈夫。きっとどこかで元気でいるわ」
192:
1:2012/09/07 22:38:14.93 ID:t4MUEh0AO
――魔王城
人魚「?」
サキュバス「どうしたの〜?トイレ近いの?」
人魚「うっさいわ!…こう、なんか胸騒ぎが…」
サキュバス「……」
人魚「きっと、大丈夫だと思うんだけど…心配だわ」
サキュバス「いいこと教えてあげる」
人魚「なによ?」
サキュバス「動悸がするなら多分それ更年期障 バシャッ!
201:
1:2012/09/08 22:22:27.08 ID:NmHZusgAO
――瓦礫周辺
剣士「城が全壊しなくて良かった、というべきか…」
僧侶「その可能性もあったと思うと寒気がしますね…」
側近「む…」
側近は空が明るいことに気づく。
夜明けだった。
側近「あ、一睡もしてない」
魔大臣「寝るなんてこと忘れていたよ」
トロール「数日は眠らなくても大丈夫ダ」
ミノタウロス「なんだか気が緩んだ瞬間にどばっと眠気くるわな」
ゴブリン「なんかすいやせん……」
師匠「そんなことより早くあの二人を見つけんと」
202:
1:2012/09/08 22:27:08.07 ID:NmHZusgAO
剣士「そうだった!おーい魔法使ーい!」
マスター「魔力とかで辿れないのか」
側近「魔王さまたちはかなり弱っているらしく、魔力が拾えない状態だ」
僧侶「そんな…!早くしないと!」パタパタ
剣士「ちょ、僧侶、お前ただでさえバランス取りにくいんだから」バタバタ
黒髪の男「……」
側近「先代魔王さま、分かりますか?」
黒髪の男「あっちらへんかな」ビシ
側近「そんな大雑把な!?」
ミノタウロス「魔王さまー!」
ワアワア
師匠「……おい、馬鹿息子」
203:
1:2012/09/08 22:32:45.93 ID:NmHZusgAO
黒髪の男「なんでしょうか」
師匠「正確な位置も分かっとるだろ」
黒髪の男「そういうあなたも」
師匠「……」
黒髪の男「……」
師匠「人間と魔物が共に協力して探しあっているからの」
師匠「争いもせずひとつのことだけを必死にやっておる」
黒髪の男「これが、お互いの大きな一歩となればいいのですが」
師匠「仲良しこよしになれとはいわんが、必要な時に手を組める仲になれればいいな」
黒髪の男「まったくです」
師匠「……」
黒髪の男「……」
師匠「…孫がそんな悠長なこと言ってられない状態だったらどうしよう…」
黒髪の男「……あいつの悪運に祈ります」
204:
1:2012/09/08 22:38:15.00 ID:NmHZusgAO
オーイオーイ
ドコダー
側近「魔王さまー!小娘ー!」
僧侶「魔法使いさぁーん!」
剣士「魔法使い!いたら三秒以内に返事しろ!さん、に、いち」
側近「アホやっとる場合かーー!!」ザク
剣士「ぎゃあああああ」
キラリ
僧侶「あれ?」
剣士「どうした?」ズキズキ
僧侶「あそこで何か光ったような…」
剣士「?」
側近「?」
スタスタ
205:
1:2012/09/08 22:41:37.95 ID:NmHZusgAO
僧侶「紐の切れた…真珠のペンダントですかね」
側近「なに!?」
剣士「知っているのか鷹さん!」
側近「これは……もしかしたら近くにいるかもしれない!」
ミノタウロス「本当か!」
魔大臣「ではここら辺を慎重に探さないと…」
僧侶「!」ピキン
側近「!」ピキン
剣士「な、なんだ。なにを受信モガモゴ」
僧侶「しっ……何か聞こえませんか?」
剣士「え?」
…-ン ココダ… キヅ…テ
側近「……そこか?」
ゴブリン「この大きな瓦礫の下に?」
206:
1:2012/09/08 22:46:58.48 ID:NmHZusgAO
側近「トロール!」
トロール「はいヨ。よっこいしョ!」ゴゴゴ
全員「!」
蝙蝠「シヌカトオモッタヨ…ヨクマリョクモッタヨネ…」
側近「蝙蝠!」
魔大臣「魔王さま!」
剣士「まほ」
僧侶「魔法使いさんっ!」
剣士「……」
服は裂け、血が滲み、怪我は酷い有り様だった。
しかし二人は穏やかに眠っていた。
魔王は腕で魔法使いの頭を守るように、魔法使いは翼で魔王を守るようにして。
207:
1:2012/09/08 22:51:22.41 ID:NmHZusgAO
魔大臣「……『気に入らないなら、すべて終わってから殺せ』と言われたが…」
側近「……」
魔大臣「殺せるか。こんなに、身をすり減らしてまで戦った彼女を」
ミノタウロス「そうだな…」
トロール「うン」
ゴブリン「ああ…えっ、女なの?」
僧侶「ち、治療!治療しないと!」
まずは血だらけの魔王から癒していく。
僧侶「肺を貫かれてますが…生きて、ますよね?」
黒髪の男「肺が一個潰れたぐらいで死にゃせんよ」ザッ
剣士「さ、さすが“魔王”…チートだ…」
208:
1:2012/09/08 22:55:48.44 ID:NmHZusgAO
肺から血を抜いた後に組織を繋いでいく。
僧侶の額には汗が浮いていた。
側近「手伝いの衛生兵を呼ぶか?」
僧侶「いいえ…怪我人の方を治療するのでいっぱいいっぱいでしょうから」
次は魔法使いを。
彼女は少しずつ自己再生をしていたおかげで早く終わった。
僧侶「ふぅ…」フラッ
剣士「僧侶!」ガシ
僧侶「えへへ…すみません、剣士さん」ニコ
剣士「!」カァア
ゴブリン「甘酸っぱいな…」
魔大臣「時場合場所を考えろやおまえら」
209:
1:2012/09/08 23:04:17.17 ID:NmHZusgAO
魔王「……う」
側近「魔王さま!」
魔大臣「魔王さま!」
魔王「なんだ…生きているのか?おれ」
ゴブリン「生きてますよ!」
魔王「なぜだか知らんが……死んだはずの父上が…」
黒髪の男「ちょっと待てお父ちゃんは死んでないぞ」
魔王「あ、祖父上。お久しぶりです」
師匠「おう」
黒髪の男「むきぃー!」
魔王「?傷が治ってる」
僧侶「わたしが治癒をかけさせて貰いました。違和感はありますか?」
魔王「いや、ない。また助けられたな」
僧侶「」パクパク
魔王「……だから礼を言ったぐらいで驚くなよ」
210:
1:2012/09/08 23:09:58.30 ID:NmHZusgAO
蝙蝠「ネー、マホウツカイハー?マホウツカイ、オキナイヨ?」
魔大臣「確かに…起きる素振りもない」
僧侶「わたし、何か至らないことが…」
師匠「いや」
魔法使いの傍に立ち、屈んでそっと髪を梳く。
師匠「まだ――もう少し眠りたいのだろう」
魔王「……」
師匠「お前もだが、この子も頑張った。少し休ませてやれ」
魔王「はい」
側近「あの、前々代魔王さまは小む…魔法使いと会ったことが?」
師匠「弟子じゃ」
全員「弟子!?」
黒髪の男「とんでもない師匠をもったもんだな…」
僧侶(そういえば弟子とかなんとか言ってましたね)
211:
1:2012/09/08 23:15:14.48 ID:NmHZusgAO
魔王「じゃ、一旦帰る」
剣士「そんな軽く!?」
魔王「安心しろ、ちゃんと直しにくる。今は体力が限界だ」
マスター「そうだな。こちらも少し休もう」
国王「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
剣士「国王さま!?こんな危ないところを!」
国王「こ、今回は助かった。礼を言う」
魔王「まあボロボロだけどな、あんたの城」
国王「それは…うん、まあ、仕方ないんじゃ、うん」
僧侶「国王さま…目が泳いでいますよ」
黒髪の男「直すってば」
212:
1:2012/09/08 23:19:50.71 ID:NmHZusgAO
魔王「側近、魔大臣。兵の撤退を」
側近「はっ」
魔大臣「畏まりました」
魔王「またな」ヒョイ
側近(小娘を姫抱っこした)
剣士「…ああ。魔法使いを頼む」
僧侶「起きたら顔を見せにきて欲しいと伝えて下さい」
魔王「どっちにしろこいつも駆り出すから顔は見せられるだろう」
側近(駆り出すんだ!?)
魔大臣(鬼だ!?)
魔王「緊張緩んで怪我とかすんなよ。魔法使いが悲しむから」
シュンッ
僧侶「一気に消えた…」
剣士「夢みたいだったな…」
マスター「この惨状も夢にしたいな」
剣士「寝るか」
マスター「寝よ寝よ」
213:
1:2012/09/08 23:30:13.20 ID:NmHZusgAO
・
・
・
・
・
214:
1:2012/09/08 23:31:18.18 ID:NmHZusgAO
――魔法使い家
母「ほら、起きて」ユサユサ
魔法使い「ふに?」
母「寝るならベッドで寝なさいな」
魔法使い「んー…このソファ寝やすいんだもん」
母「もう。風邪引くわよ?」
魔法使い「うっ…それは嫌だ。起きる」
母「紅茶入れるけど、飲む?」
魔法使い「うん」
母「何か夢でも見ていたの?けっこううなされていたけど」
魔法使い「あ、やっぱりうなされていたんだ」
母「お父さんが聞いていたら医者を呼ぶぐらいにね」
215:
1:2012/09/08 23:37:45.58 ID:NmHZusgAO
魔法使い「そんな大げさな――とは言いたいけど、あり得るね…」
母「あの人の親ばかには呆れるわ」コポコポ
魔法使い「まったくだよ。女らしいカッコしろとか、なんとか」
母「わたしは似合ってると思うけどね、そのままでも」コト
魔法使い「ありがとう」ズズッ
母「それで、魔法使い」
魔法使い「うん?」
母「どんな夢見ていたの?」
魔法使い「ああ…聞いてよ。すごく変な夢だったんだ」
魔法使い「まずね、勇者が死んで魔王と出会うんだ――」
216:
1:2012/09/08 23:42:18.59 ID:NmHZusgAO
母「波乱の幕開けね」
魔法使い「でしょ?それでね――」
母「人魚かぁ、会ってみたいわね」
魔法使い「私も会わなかったけど。夢なのに」
母「なに?わたしたち死んじゃってるの?」
魔法使い「う、うーん、そうみたい」
魔法使い「で――」
母「へぇ――」
魔法使い「大臣が――」
母「あらま、黒幕だったの――」
母「あなたバッタバッタ殺りすぎよ」
魔法使い「なんかすごい人数たおしてるよね……」
217:
1:2012/09/08 23:45:52.62 ID:NmHZusgAO
魔法使い「ってところで、おしまい!」
母「うたた寝なのに随分と長い夢だったのね」
魔法使い「不思議だね」
父「ただいま」ガチャ
魔法使い「お帰りなさい、おとうさん」
父「外はまだ冷える。母さん、温かいのくれ」
母「ちょっと待ってて」
魔法使い「おとうさん羽毛あるのに」
父「抜け毛の時期間違えたんだ…今抜けている…」
魔法使い「暖炉の前にずっといるからだよ…」
母「もしかしたら抜ける歳かもね」
父「!?」
魔法使い「おとうさんが幽体離脱を起こしたんだけど、おかあさん」
218:
1:2012/09/08 23:49:15.65 ID:NmHZusgAO
父「まだ禿げないからな!」
魔法使い「そんなムキにならなくでも。そもそも人間じゃないんだから」
母「皮膚病かもね」
父「!?」
魔法使い「ちょっと止めてあげてよおかあさん」
母「ほらあなた、お茶を入れたわよ。手作りクッキーもあるわ」
魔法使い「すごい顔で固まったままのおとうさんを無視したね」
母「冷めてしまうわ」
父「ありがとう母さん」ズズ
魔法使い「おとうさんは立ち直り早いなぁ…」
223:
1:2012/09/09 20:21:04.47 ID:xRvxQtXAO
父「しかし魔法使いもいつの間にか大きくなったな」
母「そうねぇ。ちょっと前は泣き虫だったのに」
魔法使い「いつまでも泣き虫じゃないよ」
母「そう?」ウフフ
魔法使い「……で、さ」
魔法使い「私、死んだの?」
父「ん?」
母「あらあら」
魔法使い「ここは、現実…じゃないよね」
魔法使い「私がこの十代後半の姿になる頃はおかあさんはもうお婆さんのはずだよね」
母「人間だからね」
魔法使い「でも若いよね」
母「あらあら、何も出てこないわよ」